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つまりこれあれですよね僕と子作りウェルカムって意味ですよねしかし生活基盤も定まっていないうちにそういうのはどうかと思うし弱っている所につけこ

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 冒険者証が発行され、ギルドを出た時には辺りはすっかり暗くなっていた。

「……先輩、大丈夫ですか?」
「うん……」

 社員証のように首から細い鎖で掛けられた冒険者証を手に取り、背後のガラス戸から漏れてくる光にかざす。岸尾春人、男性型、Ω。いつ撮られたものか印刷された写真は、確かに生気のない岸尾の顔である。
 この世界には「第二の性」、バースというものが存在する、らしい。そして岸尾や佐久間のような出自が外界の人の場合、この世界に来た時に自動的にその性が割り振られるそうだ。
 そしてオメガというのは——「人口の五%程度」「通常の性衝動以外に、数カ月に一回発情期が来る」「うなじを『アルファ』に噛まれると噛んだ相手としか性的行為ができなくなる」「その状態を『番』という」と説明されていた。「男性であっても妊娠・出産可能」とも。

「先輩、あの……とりあえず、宿行きましょうか。疲れましたよね、今日は」

 佐久間に手を引かれるままに道を歩く。佐久間の方は『アルファ』と言ってやはり割合が少ないタイプで、筋力や動体視力などがほかの種より優れているらしい。こちらには明確な発情期はなく、オメガの発情を感知して発情が誘発されると言っていた。
 もう一種類『ベータ』がいたような気がするが、オメガの衝撃が大きすぎて何だったか頭に残っていない。「その他有象無象」のような説明だったような気がする。
 ギルドの猫耳に「冒険者割引が効く」と教えてもらった宿屋に向かうと、「素泊まり三百G」と提示された。

「先輩、あの……」
「あ、じゃあそれで」

 無愛想な主人から鍵を受け取り、部屋に向かう。三階の階段横にある部屋は、アンティークな雰囲気であることを除けばほぼビジネスホテルと同じである。狭い部屋のほとんどを占める二つのベッドと、小さな机。電気の代わりに、机の上に拳大の光球が浮かんでいる。入り口に近い方のベッドに腰を下ろすと、困ったような顔をしたまま入り口で佐久間が立ち止まっていた。

「よかったんですか、先輩。一部屋で……」
「え? あ、ごめん、俺と同室は嫌か。何も考えてなかった……」
「そうじゃなくてですね、僕、ゲイなわけで、しかもさっきの説明だとアルファとやらで」
「うん……?」
「いや、先輩がいいんならいいですけど……あ、僕、外の屋台でなんか買ってきますね。苦手なものありますか? この状況だと避けられるかどうかもわからないですけど」
「それなら俺も……って、あれ、お金⁉」
「僕が持ってますよ。さっきも僕が払ってたでしょうが」

 そうだっけ、と手を見る岸尾にため息をつき、佐久間は手に持っていた巾着袋を軽く持ち上げた。中には、先ほど支度金という名目でギルドから借りてきたお金が入っている。装備費や生活費のない初心者にはこうやって貸付も行っているそうで、冒険者制度というのは救貧法的な側面もあるのかもしれない。
 ふ、と笑った佐久間に肩を押され、再びベッドに腰を下ろす。

「今日は一気に色々ありすぎましたよね。僕一人で行ってきますから、先輩は休んでてください」

 ゆっくりとした、落ち着いた声と共に宥めるように肩を撫でられる。顔を上げると想像より近くに優しく見つめてくる佐久間の瞳があり、どぎまぎしながら岸尾はまた俯いた。

「ごめん……そう、する」

 銀貨を数枚取った佐久間が階段を降りていく足音を聞きながら、ぱたりとベッドの上に倒れ込む。

(あ、頭がついていかない……)

 死んだと思ったら異世界にいて、オメガという特性が付与されていて、冒険者にもなってしまった。目が覚めてからの情報量が多すぎて完全にキャパオーバーになっているのが自分でも分かる。元々環境の変化や急な変更は苦手なのだ。悪い夢の中にいるようで現実感がないが、頬をつねってみても目が覚める気配はない。

(情けないにも程がある)

 岸尾のほうが年上なのに、今日はずっと佐久間に手を引かれてウロウロしていただけだ。今だって、岸尾がいっぱいいっぱいになってしまっているのを見抜いた佐久間に気づかわれている始末である。悔しいが、岸尾一人だったら今も最初の草原で途方に暮れているに違いない。
 本当は逆じゃなきゃいけないのに。頼れる先輩として、年上として。自分の不甲斐無さを見せつけられるのも、岸尾が佐久間が好きではない理由の一つだ。
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