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ねえ、なんで先輩棒の前で車に轢かれてんですかどうして息してないなんて嘘ですよね僕がもっと早くに気づいて止めてあげなくちゃいけなかったのになん
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「えっと……何だった、っけ……」
明かりが落ちて真っ暗になったオフィスの中、岸尾春人はパソコンの明るい画面を眺めていた。映し出されているのは作成中のLP——怪しげな健康食品の購入を促す、長い一枚物のWebページだ。
(確か……フォントが……フォントが……?)
字体の変更だったかサイズの変更だったか色の変更だったか。とにかくフォントについて修正依頼が来ていたのだが思い出せない。ぼうっとした頭で画面をスクロールさせ、「運動が苦手、でも体型を維持したい!」と書かれた該当部分にカーソルを合わせるが、記憶は朧気でハッキリとしない。
「……はぁ」
ちかちかとした画面を眺めながら、岸尾はため息をついた。どこかにメモしたはずなんだけど、と緩慢な動きで机の上を眺めるが手掛かりはない。PCの中だっけ、とメモ帳アプリを開くがそこも明日の打ち合わせ予定が書かれているだけだ。
「あ、あれ?」
そこに記されている時間が自分の思っていたものと違い、岸尾は小さく声を上げた。三時から四時だと思っていたのが、十三時からになっている。
「うわ、ダブルブッキングさせた……ここ二回目じゃん……」
もう片方は上長が同席するため、時間を変更したらバレてしまう。秘密裏に処理しようと反射的にポケットから出したスマホで取引先に電話を掛けそうになり、日付の変更も近いことに気づいて慌てて切る。ワンコールくらいしてしまっただろうか。向こうに誰もいないことを祈るばかりだ。
(あ、やばい、ていうか提出予定のモックアップ……あー)
そして明日の打ち合わせまでに準備すると言っていたWebサイトの完成イメージをまだ作っていないことに気づき、岸尾は頭を抱えた。それだけではない。もう一つの方の打ち合わせに出す初稿デザインもまだ未着手だし、昨日までと言われた企業ページの修正もまだだし、ダミー写真の差し替え依頼も来ていたはずだ。メールは数日分溜まっているし、事務のパートさんにエクセルの数式が消えたから何とかしてくれと言われた記憶もある。焦りなのか睡眠不足なのか、変な動悸がしてきて岸尾は胸を押さえた。息が苦しい。
どうしよう、とPCの画面を眺めているうちにふっと意識が遠のきそうになり、慌てて岸尾は立ち上がった。寝ている場合ではない。目覚ましになるような飲み物でも買ってこようと財布を手にし、オフィスビルの階段を降りる。裏口から出ると吹き付けてくる風は予想外に寒く、いつの間にか近づいている冬を感じて岸尾は身を竦めた。とはいえ、コンビニはすぐそこだし、眠気を覚ますにはこれぐらいがちょうどいいのかもしれない。道路の向こうに見える二十四時間の明かりに向かって横断歩道を渡る。
「先輩っ!」
不意に聞こえてきた大声に岸尾は顔を上げた。暗がりの中、横断歩道の向こう側から誰かが叫んでいるようだった。目を細めた瞬間、右側から刺すような光が顔を照らす。
誰かの叫び声と、ブレーキ音。続いてやって来た衝撃とともに、岸尾の意識は途切れた。
明かりが落ちて真っ暗になったオフィスの中、岸尾春人はパソコンの明るい画面を眺めていた。映し出されているのは作成中のLP——怪しげな健康食品の購入を促す、長い一枚物のWebページだ。
(確か……フォントが……フォントが……?)
字体の変更だったかサイズの変更だったか色の変更だったか。とにかくフォントについて修正依頼が来ていたのだが思い出せない。ぼうっとした頭で画面をスクロールさせ、「運動が苦手、でも体型を維持したい!」と書かれた該当部分にカーソルを合わせるが、記憶は朧気でハッキリとしない。
「……はぁ」
ちかちかとした画面を眺めながら、岸尾はため息をついた。どこかにメモしたはずなんだけど、と緩慢な動きで机の上を眺めるが手掛かりはない。PCの中だっけ、とメモ帳アプリを開くがそこも明日の打ち合わせ予定が書かれているだけだ。
「あ、あれ?」
そこに記されている時間が自分の思っていたものと違い、岸尾は小さく声を上げた。三時から四時だと思っていたのが、十三時からになっている。
「うわ、ダブルブッキングさせた……ここ二回目じゃん……」
もう片方は上長が同席するため、時間を変更したらバレてしまう。秘密裏に処理しようと反射的にポケットから出したスマホで取引先に電話を掛けそうになり、日付の変更も近いことに気づいて慌てて切る。ワンコールくらいしてしまっただろうか。向こうに誰もいないことを祈るばかりだ。
(あ、やばい、ていうか提出予定のモックアップ……あー)
そして明日の打ち合わせまでに準備すると言っていたWebサイトの完成イメージをまだ作っていないことに気づき、岸尾は頭を抱えた。それだけではない。もう一つの方の打ち合わせに出す初稿デザインもまだ未着手だし、昨日までと言われた企業ページの修正もまだだし、ダミー写真の差し替え依頼も来ていたはずだ。メールは数日分溜まっているし、事務のパートさんにエクセルの数式が消えたから何とかしてくれと言われた記憶もある。焦りなのか睡眠不足なのか、変な動悸がしてきて岸尾は胸を押さえた。息が苦しい。
どうしよう、とPCの画面を眺めているうちにふっと意識が遠のきそうになり、慌てて岸尾は立ち上がった。寝ている場合ではない。目覚ましになるような飲み物でも買ってこようと財布を手にし、オフィスビルの階段を降りる。裏口から出ると吹き付けてくる風は予想外に寒く、いつの間にか近づいている冬を感じて岸尾は身を竦めた。とはいえ、コンビニはすぐそこだし、眠気を覚ますにはこれぐらいがちょうどいいのかもしれない。道路の向こうに見える二十四時間の明かりに向かって横断歩道を渡る。
「先輩っ!」
不意に聞こえてきた大声に岸尾は顔を上げた。暗がりの中、横断歩道の向こう側から誰かが叫んでいるようだった。目を細めた瞬間、右側から刺すような光が顔を照らす。
誰かの叫び声と、ブレーキ音。続いてやって来た衝撃とともに、岸尾の意識は途切れた。
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