マルコシウスと滋ヶ崎

にっきょ

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滋ヶ崎、発情期を知らない

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「『第二の性別がΩの人間は、おおむね3か月に一度ヒートと呼ばれる発情期が来ます』……うんうん、ただ妊娠するだけじゃないわけだな。『※ヒートの周期には個人差があります。また、ストレスや体調などにより突発的にヒートになることもあります』。と。はいはいはい」

 村役場で渡された「『第二の性別』とは? ~α・β・Ω編~」の小冊子を広げながら滋ヶ崎は頷いた。今日の午前中に役場へ行き、やっと住民登録をした際にもらったものだ。
 ちなみに「住居を世話してもらう」点については、滋ヶ崎の家が一軒家であること、これまで不本意ながら2週間以上一緒に暮らしてしまったことを理由に「じゃあこれからも住まわせてあげればいいでしょう」の一言で却下された。出さなくて済む金は出さない、それが役所である。
 それでも国保には入れたし、保健センターでは予防注射用の補助チケットをもらえた。

「ところで俺は思うわけなんだが祝さんよ」
「なになに?」

 パンフレットを開いたまま、机の上に置いた滋ヶ崎は目の前の祝を見た。異界人を何だと思っているのか、今回も彼は手にきゅうりを握りしめている。

「こいつさあ、今来てない? その発情期とやら」

 滋ヶ崎は自分にしなだれかかってきているマルコシウスを見おろして言った。サイズの合わない滋ヶ崎のシャツを着た異世界人は、先程から無言で滋ヶ崎の右手を甘噛みしては切なげな吐息を漏らしている。

「来てるねえ」

 オークションから連れ帰ってきたあたりからおとなしくて、なんだか変だとは思ったのだ。前兆だったのだろうか。
 上目遣いの潤んだ目で「やすひろぉ」と甘く名前を呼んだマルコシウスは、胡坐をかいて座っていた膝の上に乗ってきた。互いの股間を合わせるように滋ヶ崎に抱きつき、腰を振り始める。服越しに、熱く硬いものが押し付けられるのを感じた。あっあっ、と上ずった声が耳をくすぐる。

「あーもー繁殖したくなっちゃってるじゃんよお。どうすりゃいいんだよこれ」

 ちなみにもう数ページ「『第二の性別』とは? ~α・β・Ω編~」を読めば抑制剤について書かれていたりもするのだが、滋ヶ崎は気づいていない。

「えー、交尾すればよくない?」
「やだよ、妊娠したらどうすんだよ。こいつ正気に戻ったら『バルバロイの子なぞ孕みとうなかった』って病むタイプだぞ、もう俺分かってんだからな」
「その時は僕が育てるから子供ちょうだいよ。ちゃんとお世話するから」
「馬鹿いえカブトムシじゃねーんだぞ」
「だって滋ヶ崎、人間だから僕より先に死んじゃうじゃん。子供くらい残してくれたって良くない? 大事にするからさあ」
「んんん」

 竜人は人間より長命だ。その気持ちも分からないでもない気がしたが、今それとこれとは別の話である。

「仕方ないな、きゅうりあげるよ」

 そう言って祝に差し出されたきゅうりを、とろりと不思議そうな目でマルコシウスは見た。「ほら」と手に握らされた物を数秒見下ろし、そのまま自分のズボンの中に差し込もうとする。

「はいはいはいはいきゅうりはそういう風に使うものじゃないからね! 食べ物で遊びません!」

 滋ヶ崎は慌ててきゅうりを回収し、小冊子の横に置いた。マルコシウスは不満そうに目を細めている……と思ったら、がぶりと左肩を噛まれた。

「いった! 噛むなよ!」
「そりゃ滋ヶ崎が相手しないし、代わりの物もダメって言うんだから怒るでしょ。噛まれても仕方ないよ」

 ねーマルちゃん、と滋ヶ崎の横に来た祝は小さく唸るマルコシウスの頭を撫でた。

「じゃあさマルコちゃん、僕はどう? 僕と交尾しない? へミペニスだからいっぱい気持ちよくしてあげられるし、かわいい竜人の子供も孕ませてあげるよ~。あ、ヘミペニ見せてあげよっか、絶対気に入るから!」
「帰ればかやろ」

 袴の紐をほどき始めた祝を蹴飛ばす。

「えー、じゃあ3P! 3Pしよ滋ヶ崎! それならいいでしょ」
「よくねえわクソ遅漏が。何がどういいんだよ。俺とこいつのケツ穴ぶっ壊すつもりか」
「みんな気持ちよくなれていいでしょ。この前だって滋ヶ崎」
「うるせえ帰れっつってんだろ」

 もう一度蹴飛ばすと、ちょうどよく祝のスマホが鳴った。

「え? なに? 失せもの探し? 1時間待っ……え、今から? なんで!? 5……いや10分待ってって伝えて! ……ごめん滋ヶ崎、仕事入ったから帰るわ。マルちゃん、かわいがってもらうんだよ~」

 通話を切り、すでに脱ぎ捨てていた袴をまた履きなおす祝。わしゃわしゃとマルコシウスの頭を撫で、さっさと帰っていく。

(自由人……)

 玄関ががらりと閉まる音を聞いてから、滋ヶ崎はすすり泣きながら腰を擦り付けてくるマルコシウスを見下ろした。

「……お前、そんなにやりたいの?」
「ん……」

 首筋に押し付けられた頭が小さく上下するのを確認する。はあ、とため息をついた滋ヶ崎は、マルコシウスの細く小さい体に手を回した。そのまま体重を移動させ、畳の上に組み敷く。

「しゃーねーな、相手してやるよ」

 オメガの発情期ヒートというものは放っておけば1週間ほど続くものだということを、滋ヶ崎はまだ知らない。
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