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「イツキ。起きろってイツキ」
「んぁ……」
ゆさゆさと揺さぶられ、樹は目を覚ました。ぼんやりしたまま左右を見回すと、図書館の長机と隣に立つ淳哉の顔が見えた。
「あ……ジュン?」
「次、集合と位相だろ。遅刻するぞ」
「へ? ……あ、ホントだ!」
空き時間に図書館で勉強をするつもりが、すっかり寝入ってしまっていたらしい。慌ててにょろにょろと髭が書かれたノートとプリントを鞄にしまって立ち上がる。淳哉と一緒に図書館の外に出ると、鋭い寒さが頬を指す。ふわあ、とあくびをすると、体の中まで冷たい空気が入ってきて一気に目が覚めた。
「ありがとー、寝過ごすところだった」
「別に。ちょうどいたから起こしただけだし……昨日も須野原と遊んでたの?」
「えへへ。ちょっとカラオケ行ってた」
本当は「ちょっと」ではなく日付が変わってから帰ったし、だからこそ今眠いのだが、淳哉には何となく言いづらい。
「ちょっと……なんだ」
低い声で呟いた淳哉はどこか投げやりに見え、自分で聞いて来たくせに、と樹は少し不満を覚えた。
集合と位相の授業は須野原と被っていない。淳哉の隣に腰を下ろした樹は、「そうだ」と手を打った。
「ねえねえ淳哉、今週末空いてない? クリスマスプレゼント買うのに付き合ってほしいんだけど」
「プレゼント?」
「そう、今度先輩とクリスマスに会うから、プレゼント渡したくて」
まあ正確には二十六日だが、そこらへんはいいだろう。
「それで……できればその時に告白もしたいから、ピッタリなものを一緒に選んでくれると嬉しいなって」
「こ、告白⁉」
「わ、ちょ!」
突然の大声に慌てた樹がわたわたと手を振り回すと、目だけであたりを見回した淳哉が「ごめん」と小さく呟いた。
「告白……告白するのか」
「……うん。やっぱりそこらへんは……はっきりさせておきたいなって、思って」
須野原の友人たちに「後輩」と紹介されたとき、樹はなんだかもやっとした不満を感じた。きちんと「彼氏」と紹介される存在になりたい、と感じたのだ。自分の中でも覚悟を決め、須野原としっかり向き合いたい、というのもある。クリスマスというのは、何となくそれにうってつけな気がしたのだ。
「そうか……う、うまくいくといいな」
「うん……?」
淳哉の表情はいつもの仏頂面だったが、どこか声が揺れているような気がした。樹から目をそらすようにバッグからスマホを取り出し、とってつけたように眺める。
「今週末、は……ええと、ごめんな、バイト入ってて……放課後とかも、うん……バイト、ある、から……」
「あ、うん、わかった」
俯いたまま弱々しく聞こえてくる声に、樹も動揺しながら返す。
「そういえば、そろそろ入試に向けて冬期講習とか始まるって言ってたもんね。バイト頑張ってね!」
残念だが仕方ない。自分一人で先輩へのプレゼントを決めるのは不安だが、淳哉のほかに頼れるような友人もいないのだ。
「それにしても……」
バタン!
樹が言葉をつづけようとした瞬間、叩きつけるようにスマホを裏返し、突然淳哉が立ちあがった。
「え?」
「……ごめん」
掠れたような声だけを残し、教室を飛び出していく。「わ」「あっぶな!」と扉の方から声が聞こえた。
「……え?」
訳が分からず、樹は隣の席の上に放置されたスマホと、その下に綺麗に広げられていたノートと教科書を見下ろした。
(ジュン、どうしたんだろう)
急にお腹でも痛くなったのだろうか。樹が首を傾げるているうちにチャイムが鳴り、白髪の教授による授業が始まる。
「んぁ……」
ゆさゆさと揺さぶられ、樹は目を覚ました。ぼんやりしたまま左右を見回すと、図書館の長机と隣に立つ淳哉の顔が見えた。
「あ……ジュン?」
「次、集合と位相だろ。遅刻するぞ」
「へ? ……あ、ホントだ!」
空き時間に図書館で勉強をするつもりが、すっかり寝入ってしまっていたらしい。慌ててにょろにょろと髭が書かれたノートとプリントを鞄にしまって立ち上がる。淳哉と一緒に図書館の外に出ると、鋭い寒さが頬を指す。ふわあ、とあくびをすると、体の中まで冷たい空気が入ってきて一気に目が覚めた。
「ありがとー、寝過ごすところだった」
「別に。ちょうどいたから起こしただけだし……昨日も須野原と遊んでたの?」
「えへへ。ちょっとカラオケ行ってた」
本当は「ちょっと」ではなく日付が変わってから帰ったし、だからこそ今眠いのだが、淳哉には何となく言いづらい。
「ちょっと……なんだ」
低い声で呟いた淳哉はどこか投げやりに見え、自分で聞いて来たくせに、と樹は少し不満を覚えた。
集合と位相の授業は須野原と被っていない。淳哉の隣に腰を下ろした樹は、「そうだ」と手を打った。
「ねえねえ淳哉、今週末空いてない? クリスマスプレゼント買うのに付き合ってほしいんだけど」
「プレゼント?」
「そう、今度先輩とクリスマスに会うから、プレゼント渡したくて」
まあ正確には二十六日だが、そこらへんはいいだろう。
「それで……できればその時に告白もしたいから、ピッタリなものを一緒に選んでくれると嬉しいなって」
「こ、告白⁉」
「わ、ちょ!」
突然の大声に慌てた樹がわたわたと手を振り回すと、目だけであたりを見回した淳哉が「ごめん」と小さく呟いた。
「告白……告白するのか」
「……うん。やっぱりそこらへんは……はっきりさせておきたいなって、思って」
須野原の友人たちに「後輩」と紹介されたとき、樹はなんだかもやっとした不満を感じた。きちんと「彼氏」と紹介される存在になりたい、と感じたのだ。自分の中でも覚悟を決め、須野原としっかり向き合いたい、というのもある。クリスマスというのは、何となくそれにうってつけな気がしたのだ。
「そうか……う、うまくいくといいな」
「うん……?」
淳哉の表情はいつもの仏頂面だったが、どこか声が揺れているような気がした。樹から目をそらすようにバッグからスマホを取り出し、とってつけたように眺める。
「今週末、は……ええと、ごめんな、バイト入ってて……放課後とかも、うん……バイト、ある、から……」
「あ、うん、わかった」
俯いたまま弱々しく聞こえてくる声に、樹も動揺しながら返す。
「そういえば、そろそろ入試に向けて冬期講習とか始まるって言ってたもんね。バイト頑張ってね!」
残念だが仕方ない。自分一人で先輩へのプレゼントを決めるのは不安だが、淳哉のほかに頼れるような友人もいないのだ。
「それにしても……」
バタン!
樹が言葉をつづけようとした瞬間、叩きつけるようにスマホを裏返し、突然淳哉が立ちあがった。
「え?」
「……ごめん」
掠れたような声だけを残し、教室を飛び出していく。「わ」「あっぶな!」と扉の方から声が聞こえた。
「……え?」
訳が分からず、樹は隣の席の上に放置されたスマホと、その下に綺麗に広げられていたノートと教科書を見下ろした。
(ジュン、どうしたんだろう)
急にお腹でも痛くなったのだろうか。樹が首を傾げるているうちにチャイムが鳴り、白髪の教授による授業が始まる。
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