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発覚

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 蝉時雨の中を歩き、診療所の近くから徐々に遠くの家へ。街中にある鼠の家を出た佑は、ふと首筋に冷たいものを感じた。

「ん?」

 見上げると、いつの間にか黒くかき曇った空に暗雲が垂れ込めている。ごろろ、と遠くから雷の音が聞こえ、またぽつりと首筋に水滴が当たった。手で拭う間に、ばらばらと雨の勢いが増していく。

「わ、夕立!」

 佑が悲鳴を上げた瞬間、と天の底でも抜けたように雨が降り始めた。
 確か、残りの届け先は椎名の店だけだ。慌てて風呂敷を前に抱えなおして走ったものの、店についた佑はすっかり濡れ鼠になっていた。

「すいませーん」

 裏口を開けると、「はーい」と振り向いた椎名の尻尾がぶわりと膨れた。

「うわっ、誰かと思った! 良夜か、びしょ濡れじゃないの」
「いきなり雨が降って来て……」
「そりゃにわかに降らないにわか雨なんてあるわけないでしょ、ちょっと待ってなさいな、拭くもん持ってきたげるから」
「あ、ありがとうございます」

 奥の部屋へと消えていく椎名を見送り、抱えていた風呂敷をほどく。中に入っていた薬の袋は、佑が強く抱えたせいで若干よれているが濡れてはいない。

(まああかぎれ用の膏薬だから、多少濡れてても平気だろうけど……)

 濡れて額に張り付いた前髪をかきあげる。視線を感じて厨房の中を見回すと、調理台の前に立った二匹の狸と視線が合った。一人は椎名の良人、と前に明月が示していた人物で、もう一人の方は、椎名の良人に顔が似ているものの見覚えはない。ただ身なりがいいので、きっと役人かなにか偉い身分の人なのだろう、と佑は見当をつけた。

「……ど、どうも」

 なんとも言えない居心地の悪さを感じながら頭を下げる。全身を舐めまわされるような視線が肌にべたついた。

「どうだ?」
「確かに……似てるな」
「あの、何か」

 言いかけて、佑は思い出した。

(確か、椎名さんの義弟って宮中で働いているんじゃなかったか?)

 氷の塊を飲んだように、腹の底から佑の全身が冷えていく。

「あ……あのっ、すいません、急用を思い出して……薬は、ここに置いて行くんでっ」

 叩きつけるように調理台の端に薬を置く。そのまま踵を返そうとするものの、相手が佑の腕を掴むほうが早かった。

「水芭蕉の宮様であられますよね? 申し訳ございませんが、改めさせていただいてもよろしいでしょうか」
「い……嫌っ! やめてっ!」

 叫んで手を振りほどこうとするものの、動物相手では勝てない。佑の反応に確信を得たらしい狸にさらに強く引かれ、滑って転ぶ。
 厨房の床に組み敷かれる向こうで、椎名が全身の毛を逆立てていた。

「ちょっと! 何してんの⁉」
「違う! 放して!」

 失礼します、と低い声が聞こえて、佑の胸元に手がかかる。必死で抵抗するものの、その両腕はびくともしなかった。雨で濡れ、肌に張り付いた着物がはがされる。

「やだ……見ないでっ……」

 暴かれた胸元から、必死で顔を背ける。
 そこには、竜王に刻まれた爪痕が、今もなお三角に残っていた。
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