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14. エックハルトの来訪
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エックハルトが来た日、二世花はちらほらと花を咲かせていた。今年の夏は例年より少し早いらしい。
(突然……こう、突然なにかが起こってエックハルトの来訪が中止になったりしないかな)
試験前のような気持ちで言葉少なに散歩から戻ってきたヴィクトールは、味のない朝食を口の中に押し込んだ。向かいに座るカイもなんだかぼうっとしているようで、朝食を食べ終えた頃にはいつもの時間はとうに過ぎていた。
手持ち無沙汰だったが、本を開いても集中するどころではない。無意味に置物の位置を直したりしていると、住居側の玄関が叩かれた。思わずカイと顔を見合わせ、そろそろと玄関に向かう。
「やあ、ヴィクター」
「カイー! 元気にしてたー?」
ヴィクトール――とおそらくカイ――の期待に反して、そこには箒を持ったエックハルトとアルマが立っていた。
「待ってたよ、よく来たね」
玄関に箒を立てかけた二人を室内に案内すると、すかさずロジウムがリンゴのサイダーを出す。
「エックハルト、こっちに来るの久しぶりじゃない? しばらく見ない間に雰囲気変わったわねー」
カイに会いたいがためにヴィクトールがエックハルトの家に行くことが多かったため、ロジウムとエックハルトが顔を合わせるのは久しぶりだ。だが、雰囲気が変わったと感じたのはヴィクトールも同じだった。何となく浮ついているというか、柔らかくなったというか。どことなく見え隠れしていた無邪気な傲慢さが少し和らいでいる気がした。
「あ、分かる? さすがロジウムだね、実はアルマと付き合い始めたんだ」
「えーっ、そうなの!?」
ロジウムの叫び声と同時に、げほ、と隣に座っていたカイがむせ込んだ。
「私から告白したんですけど、まさか本当に付き合えるとは思っていなくて……今夢の中なんじゃないかなって思ってます」
「えっえっいつから好きだったの!? どんな告白したの!? なんて答えたの!?」
興味津々で尻尾を振るロジウムが身を乗り出している。よほど変なところに入ってしまったのか、ごほごほとむせ続けるカイの背中をヴィクトールは擦った。
「だ……大丈夫?」
目の前で失恋した相手に対し、何と声をかければいいか分からない。しかも相手は妹だ。カイの気持ちなど知らないだろうから仕方ないが、なんてことをしてくれるんだとエックハルトに腹が立った。ようやっと咳が治まってきたカイが、はい、と涙目で頷く。
「好きだったのは、ずっと、です。はじめて会ったときから格好良くて優しい人だなって思ってて、それからずっと、お嫁さんになりたいなあ、って。告白は……恥ずかしいからヒミツで!」
頬を赤らめて話すアルマも不快である。双子なんだし、こちらはカイの気持ちを知っていてもおかしくない。来たばかりの二人を早くも追い返したくなったところで、ヴィクトールはそんなことを思ってしまう自分にも嫌気が差した。
「おめでとう、エックハルト、アルマちゃん」
笑顔を取り繕って、祝福の言葉を述べる。エックハルトとアルマが幸せになるのは、喜ばしいことなのだから。
「よかったね、アルマ」
カイも微笑んだようだったが、どこか遠慮のような影があるように見えてヴィクトールは気が気でなかった。
(突然……こう、突然なにかが起こってエックハルトの来訪が中止になったりしないかな)
試験前のような気持ちで言葉少なに散歩から戻ってきたヴィクトールは、味のない朝食を口の中に押し込んだ。向かいに座るカイもなんだかぼうっとしているようで、朝食を食べ終えた頃にはいつもの時間はとうに過ぎていた。
手持ち無沙汰だったが、本を開いても集中するどころではない。無意味に置物の位置を直したりしていると、住居側の玄関が叩かれた。思わずカイと顔を見合わせ、そろそろと玄関に向かう。
「やあ、ヴィクター」
「カイー! 元気にしてたー?」
ヴィクトール――とおそらくカイ――の期待に反して、そこには箒を持ったエックハルトとアルマが立っていた。
「待ってたよ、よく来たね」
玄関に箒を立てかけた二人を室内に案内すると、すかさずロジウムがリンゴのサイダーを出す。
「エックハルト、こっちに来るの久しぶりじゃない? しばらく見ない間に雰囲気変わったわねー」
カイに会いたいがためにヴィクトールがエックハルトの家に行くことが多かったため、ロジウムとエックハルトが顔を合わせるのは久しぶりだ。だが、雰囲気が変わったと感じたのはヴィクトールも同じだった。何となく浮ついているというか、柔らかくなったというか。どことなく見え隠れしていた無邪気な傲慢さが少し和らいでいる気がした。
「あ、分かる? さすがロジウムだね、実はアルマと付き合い始めたんだ」
「えーっ、そうなの!?」
ロジウムの叫び声と同時に、げほ、と隣に座っていたカイがむせ込んだ。
「私から告白したんですけど、まさか本当に付き合えるとは思っていなくて……今夢の中なんじゃないかなって思ってます」
「えっえっいつから好きだったの!? どんな告白したの!? なんて答えたの!?」
興味津々で尻尾を振るロジウムが身を乗り出している。よほど変なところに入ってしまったのか、ごほごほとむせ続けるカイの背中をヴィクトールは擦った。
「だ……大丈夫?」
目の前で失恋した相手に対し、何と声をかければいいか分からない。しかも相手は妹だ。カイの気持ちなど知らないだろうから仕方ないが、なんてことをしてくれるんだとエックハルトに腹が立った。ようやっと咳が治まってきたカイが、はい、と涙目で頷く。
「好きだったのは、ずっと、です。はじめて会ったときから格好良くて優しい人だなって思ってて、それからずっと、お嫁さんになりたいなあ、って。告白は……恥ずかしいからヒミツで!」
頬を赤らめて話すアルマも不快である。双子なんだし、こちらはカイの気持ちを知っていてもおかしくない。来たばかりの二人を早くも追い返したくなったところで、ヴィクトールはそんなことを思ってしまう自分にも嫌気が差した。
「おめでとう、エックハルト、アルマちゃん」
笑顔を取り繕って、祝福の言葉を述べる。エックハルトとアルマが幸せになるのは、喜ばしいことなのだから。
「よかったね、アルマ」
カイも微笑んだようだったが、どこか遠慮のような影があるように見えてヴィクトールは気が気でなかった。
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