かつみさんは、ねこがすき

溶けていいのは、幸せに

「うん……」

　ふわふわとした頭で肯定する。くたりと寄りかかっていると、靴と足元にわだかまっていた服を脱がされる。

「じゃあ、次……克己さんにも、あげるね」

　軽く持ち上げられて数歩、ベッドの上に降ろされる。克己の上に跨ってきたコウに、一人用のベッドが文句を言うように軋む。
　コウが服を脱ぎ捨てると、下からは程よく引き締まり、筋肉のついた体が現れた。続いて下から、大きく天を指すコウの屹立が取り出される。
　大きく怒張した熱塊を見た克己は、じんと下半身が熱く痺れるのを感じた。先ほど達したばかりだというのに。

「はっ……ん」

　たどたどしい手つきで、自分も残された服を脱ぐ。頭まで通したところで、コウに引っ張られた服が投げ捨てられる。

「克己さん、どんどん綺麗になっていくね」
「そう……かな」
「うん」

　握り合う指先にも、触れ合う足先にも、もう黒い痣はない。目を細めたコウが顔を近づけてきたので、克己は目を閉じた。唇に柔らかい感触が当たり、熱く濡れたものが克己の舌と触れ合ったかと思うと、すぐに喉の柔らかな皮膚の上へと逸れていく。

「んんっ」

　鎖骨の上を強く吸われ、克己は声を上げた。その反応を面白がっているのか、小さく笑ったコウは胸の上、脇腹、足の付け根とキスの雨を降らせてきた。
　そして最後に、硬くつんと尖った胸の突起を甘噛みされる。

「あっ、今そこは駄目ぇ」

　先ほど散々虐められたそこは、まだ敏感だ。克己が首を振ると、解かれたコウの手がその頭を撫でた。
　もう一度、今度は克己の頬にキスをしたコウが体を起こす。克己の両足を大きく広げ、その間に座った。

「克己さん、痛くない？」
「だい、じょぶ」

　ぐい、と胸につくほど足を折り曲げられた格好で克己は答えた。痛くはない。だが、秘部を無防備にコウの目の前に晒してしまっているという落ち着かなさがあった。
　熱に浮かされたような目つきのコウが、克己の足の間を見下ろす。自分でも見ることのない場所は、コウの目にはどのように見えているのだろうか。

「ひっ」

　窄まりに指を当てられ、克己は体を硬くした。

「……まだ、こういうの恥ずかしい？　それとも……」
「い、嫌じゃないよ」

　しゅんとした表情を見せるコウに、ずきりと胸の奥が痛む。

「そうじゃなくて……なんか、本当に僕がこんなことして良いのかなって……思っちゃって……」

　自分に恋人がいて、しかもその相手とこうやって触れ合えるなんて。自分には過ぎた幸せを手にしてしまったようで恐ろしいのだ。

「いいんだよ、克己さん」

　夕陽の中に、コウの微笑みが見えた。逆光に髪と産毛が透け、コウのシルエットが浮かび上がる。ただそれだけなのに、美しくて、苦しくて、克己の目には涙が浮かんでいた。

「それに……克己さんだけじゃなくて、俺もしたいんだよ」

　流れ落ちそうになった涙を、舌先で拭われる。

「一緒に、気持ちよくなって……幸せになろ、克己さん」
「うん……！」

　コウにそう言ってもらえるだけで、本当に大丈夫と思えてくるから不思議だ。膨らんでくる感情に、押し潰されそうになりながら答えを返す。
　克己の頭を撫でたコウは、クロたちの座るベッドサイドの棚に手を伸ばした。引き出しを開け、潤滑剤のチューブを手に取る。

「ふぁ」

　孔の上にぬるりとしたものを塗りつけられる。きゅっと締まったそこに当てられた指先が、中をほじくるようにめり込んでくる。

「あっ、あ」

　朝にコウを受け入れたばかりのそこは、まだ柔らかい。克己が鼻にかかった声を上げると、根本まで太い指が入ってきてしまう。

「やっ、あ……コウ、さんっ……」

　ずるりと引き抜かれた指が、また克己の中に潤滑剤を押し込むように動く。中の粘膜に触れられる度に、克己の芯が切なくなった。
　もっと触って欲しい。もっと確かな感覚が欲しい。もっと――もっと、コウが欲しい。

「ふぁ、やんっ……」

　愛撫に反応して締まった内壁が、コウの指に絡みつく。より鮮明になった感触に喘ぐと、入口を押し広げながら二本目の指が克己の中に入ってくる。

「ん、うっ」
「克己さん、ここ？」
「う、あ、あぁっ……そこ、あんま……弄らないでぇ」

　入口近くの硬い膨らみを押され、克己は足の指先を握り込んだ。
　さっき達したばかりのはずなのに、無理矢理押し上げられるような快感に、また克己のものが頭をもたげてしまう。

「気持ちいいの？」
「い、いいっ、いいからっ……だめぇ……」

　このままでは、また自分だけ達してしまう。コウの肩に手を伸ばし、必死で訴える。

「コウさん、も……い、一緒に……よく、なって」
「……ん」

　ニヤリと笑ったコウの眼差しは肉食獣のようで、全身がぞくりと震える。

「お願い」

　この人に、好きにされたい。全部食べられてしまいたい。
　いいよ、という低い囁きとともに、克己の中にあった指が抜ける。代わりに、熱く脈打つ塊が当てられた。

「ひゃう……」
「入れるよ？　いい？」

　克己が答える前に、その先端は孔にめり込んでいた。

「あっ、ふぁ、あ」
「ん……ほら、克己さん、力抜いて……」
「は、はふ」

　目を閉じて、コウに教わった通りに深呼吸をする。上に逃げていこうとする克己の体を押さえたコウが、克己の中に自身の熱い杭をめり込ませてくる。

「ん、っ」

　痛い、と思ったのは、先端の膨らみが入口を通る一瞬だけだった。すっかり柔らかくなってしまった克己の内側は、押し込まれるままにコウの剛直を奥まで受け入れた。

「……克己さんの中、すごい」

　陶然とした声でそう漏らしたコウは、自身を全て受け入れた克己の下腹部を愛おしそうに撫でた。

「入れるたび……どんどん、俺の形になってきてる」
「し……仕方ないだろっ、コウさんしか……知らない、んだから」

　コウのお陰で毒性が抑えられているとはいえ、克己がトキシックであることに変わりはない。だから、こうやって体を繋げられるのは――その毒への抗体を持つ、コウしかいない。

「嬉しいな……克己さんが俺だけのものだなんて、夢みたいだ」
「あ、んんっ、ふぁ」

　コウが腰を揺らすと克己の体も揺れ、互いの敏感な部分が擦れ合う。

「克己さん、気持ちいいよ……」
「ん、僕もっ……コウさんの、おっきくて、あついの……気持ちい……」

　軽く腰を振られているだけなのに、大きな波にさらわれていくような感覚に襲われる。

　ゆっくり引き抜かれた杭が、また奥まで差し込まれる。コウの腰に足を回した克己は、更に深い挿入をせがんだ。
「辛くない？　平気？」
「んっ……もっと、して……」

　苦しいけれども、それが気持ちの大きさを示しているようで堪らなく嬉しい。
　腰が軽く引かれ、また克己の奥にコウの先端がぶつかる。うっ、と呻いた克己の頬に、宥めるようなコウの指先が触れた。再び、今度はさっきよりも大きく、力強いストロークで腰を打ち付けられる。

「ひぁ、や、あっ、にゃ」

　奥を突かれる度に、克己の口からはしたない声が飛び出す。二人の繋がった場所から響く音が、部屋中に反響しているようだった。

「コウ、さ、あー……っ！」

　何かを言おうとしても、言葉がまとまる前に突き崩されてバラバラになっていく。二人の境目がどろどろに溶け合い、頂点を求めて一つになっていく。

「あ、あっ、ひぁ、い、いっちゃう」
「う、そろそろ、っ……俺も……」

　克己の奥が柔らかくなり、そこにコウの先端がはまり込む。

「っあ、あ……っ、くうぅ……！」

　全身を飲み込まれるような快楽に、克己は二度目の絶頂に達した。コウにしがみつきながら、甘い声を上げて体を震わせる。強く締め付けた中でコウが大きく膨らみ、そして熱いものが弾けた。

「ふ、うぁっ……！」

　艶のある声とともに、小刻みに腰を揺さぶられる。
　やがて全てを出し切ったのか、コウは動きを止めて大きく息をついた。克己の中から、小さくなった昂りが抜けていく。

「克己さん……」
「ん」

　隣に寝転がったコウのために、少しだけ場所を空ける。お互いに全身汗でぐちゃぐちゃだったが、不思議とそれが嫌ではない。
　指先を絡めて目を閉じる。起き上がってシャワーを浴びに行った方がいいのは分かるが、今はもう少し、このままでいたかった。
　とろとろと体が沈んでいくような感覚に身を任せる。

「コウさん、あのね」

　甘えた声で呟く。

「なに」
「好きにならせてくれて、ありがとう」

　なんだそれ、と笑う声は、心地よく広がり、そして遠くへと消えていった。