かつみさんは、ねこがすき

にっきょ

文字の大きさ
上 下
13 / 29

パフェについてる、ウエハース

しおりを挟む
「そうだ、ルドにしよう」
「え、何? 何をルドにするのさ」

 パフェ用の長いスプーンを咥えたコウが、唐突に宣言した克己を不思議そうに見た。
 映画と昼食の後モール内の店を少し冷やかした二人は「近くにパフェの美味しい店がある」というコウの提案でモールを出て、駅近くの喫茶店に来ていた。

「この子の名前。シェーフィールドのルド」

 克己は言いながら、横の席に置いた不織布の包みを軽く叩いた。さすがに猫のぬいぐるみを抱きながら歩くのは成人男性としては恥ずかしいので、映画館を出てからはずっと袋の中だ。

「茶色のシマシマじゃないけど?」
「いいの。今日の映画、面白かったし」

 小さく頷くコウのスプーンが大粒のイチゴを掬う。持ち上げようとしてふっと止まった。その後ろ、窓の向こうにある窓の外はすっかり暗くなっている。あっという間に夕方になってしまった気がするのは、多分今が冬至すぎだからというだけではない、と克己は思う。

「もしかして克己さん、家のぬいぐるみにも名前つけてたりするの?」
「うん、あの子はクロ」
「クロ」

 オウム返しにしたコウは、ふっと口元に手を当てた。

「な、なにさ」
「いや、ちょっと……あまりにも安直だったから、なんか、聞くまでもなかったなって」
「いいじゃん、黒いからクロなの」

 名づけが安直で何の問題があろうか。分かりやすくて親しみやすい、とてもいいではないか。少しだけ拗ねた顔をした克己だったが、すぐにその顔がにやけてくるのを感じた。
 コウが目の前で笑ってくれることが、ただ無性に嬉しいのだ。

 もっと一緒にいたい。そんなことは無意味だと知りながらゆっくりとパフェを味わおうとするものの、どんどんグラスの中身は減っていってしまう。「イチゴ好きなら食べなきゃ損」とコウが豪語しただけあって、本当に美味しいのだ。イチゴが甘くて、パフェの生クリームやアイスと合わさっても酸っぱくならない。しかも、そんなイチゴがとにかくたくさん入っている。

 もくもくとイチゴを食べる。幸せな気分に浸っていた克己がグラスから目を上げると、コウにじっと見つめられていた。

「おいしい?」
「ん、うん」

 まだ半分以上残っているコウのパフェに比べ、克己の方は早くもグラスが空になろうとしていた。
 夢中で食べ進めていたことに恥ずかしさを感じながら頷くと、良かった、とコウはなおも克己の顔を見つめてくる。

「えっと」
「克己さんの素顔、今日初めて見た」
「……ああ」

 普段は食事や風呂の時以外ずっとマスクである。コウの前で外すのは確かに今日が初めてかもしれない。

「想像と違って幻滅しただろ」
「なんで。思ってたのよりずっと可愛いよ」
「そ、んな……」

 お世辞だと分かっていても嬉しくなってしまう。単純だ、と思いながらにやついてしまう口に克己はイチゴを放り込んだ。

「克己さん、よく食べるね。小食っぽそうなイメージあったから意外」
「ん、ああ……毒作ってる分エネルギー使うからね」
「へえ、そんなところにも影響あるの」
「普段から食べておかないと強毒期にばてちゃうし」

 なるほど、と言いながらコウはペーパーナプキンを手に取った。

「ほら、克己さん」
「ん?」
「ここ」

 口の端にクリームがついていることを示され、締まりのない口元を克己は紙で覆った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

切なくて、恋しくて〜zielstrebige Liebe〜

水無瀬 蒼
BL
カフェオーナーである松倉湊斗(まつくらみなと)は高校生の頃から1人の人をずっと思い続けている。その相手は横家大輝(よこやだいき)で、大輝は大学を中退してドイツへサッカー留学をしていた。その後湊斗は一度も会っていないし、連絡もない。それでも、引退を決めたら迎えに来るという言葉を信じてずっと待っている。 そんなある誕生日、お店の常連であるファッションデザイナーの吉澤優馬(よしざわゆうま)に告白されーー ------------------------------- 松倉湊斗(まつくらみなと) 27歳 カフェ・ルーシェのオーナー 横家大輝(よこやだいき) 27歳 サッカー選手 吉澤優馬(よしざわゆうま) 31歳 ファッションデザイナー ------------------------------- 2024.12.21~

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

処理中です...