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パフェについてる、ウエハース

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「そうだ、ルドにしよう」
「え、何? 何をルドにするのさ」

 パフェ用の長いスプーンを咥えたコウが、唐突に宣言した克己を不思議そうに見た。
 映画と昼食の後モール内の店を少し冷やかした二人は「近くにパフェの美味しい店がある」というコウの提案でモールを出て、駅近くの喫茶店に来ていた。

「この子の名前。シェーフィールドのルド」

 克己は言いながら、横の席に置いた不織布の包みを軽く叩いた。さすがに猫のぬいぐるみを抱きながら歩くのは成人男性としては恥ずかしいので、映画館を出てからはずっと袋の中だ。

「茶色のシマシマじゃないけど?」
「いいの。今日の映画、面白かったし」

 小さく頷くコウのスプーンが大粒のイチゴを掬う。持ち上げようとしてふっと止まった。その後ろ、窓の向こうにある窓の外はすっかり暗くなっている。あっという間に夕方になってしまった気がするのは、多分今が冬至すぎだからというだけではない、と克己は思う。

「もしかして克己さん、家のぬいぐるみにも名前つけてたりするの?」
「うん、あの子はクロ」
「クロ」

 オウム返しにしたコウは、ふっと口元に手を当てた。

「な、なにさ」
「いや、ちょっと……あまりにも安直だったから、なんか、聞くまでもなかったなって」
「いいじゃん、黒いからクロなの」

 名づけが安直で何の問題があろうか。分かりやすくて親しみやすい、とてもいいではないか。少しだけ拗ねた顔をした克己だったが、すぐにその顔がにやけてくるのを感じた。
 コウが目の前で笑ってくれることが、ただ無性に嬉しいのだ。

 もっと一緒にいたい。そんなことは無意味だと知りながらゆっくりとパフェを味わおうとするものの、どんどんグラスの中身は減っていってしまう。「イチゴ好きなら食べなきゃ損」とコウが豪語しただけあって、本当に美味しいのだ。イチゴが甘くて、パフェの生クリームやアイスと合わさっても酸っぱくならない。しかも、そんなイチゴがとにかくたくさん入っている。

 もくもくとイチゴを食べる。幸せな気分に浸っていた克己がグラスから目を上げると、コウにじっと見つめられていた。

「おいしい?」
「ん、うん」

 まだ半分以上残っているコウのパフェに比べ、克己の方は早くもグラスが空になろうとしていた。
 夢中で食べ進めていたことに恥ずかしさを感じながら頷くと、良かった、とコウはなおも克己の顔を見つめてくる。

「えっと」
「克己さんの素顔、今日初めて見た」
「……ああ」

 普段は食事や風呂の時以外ずっとマスクである。コウの前で外すのは確かに今日が初めてかもしれない。

「想像と違って幻滅しただろ」
「なんで。思ってたのよりずっと可愛いよ」
「そ、んな……」

 お世辞だと分かっていても嬉しくなってしまう。単純だ、と思いながらにやついてしまう口に克己はイチゴを放り込んだ。

「克己さん、よく食べるね。小食っぽそうなイメージあったから意外」
「ん、ああ……毒作ってる分エネルギー使うからね」
「へえ、そんなところにも影響あるの」
「普段から食べておかないと強毒期にばてちゃうし」

 なるほど、と言いながらコウはペーパーナプキンを手に取った。

「ほら、克己さん」
「ん?」
「ここ」

 口の端にクリームがついていることを示され、締まりのない口元を克己は紙で覆った。
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