お山の狐は連れ添いたい

にっきょ

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35 ぐぜり鳴く、愛の歌

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 けきょっ、けきょっ、としゃっくりをするような声に修造が横を探ると、隣にいたはずの赫はいない。体を起こすと、土間でゆらゆらと揺れる六本の尻尾が見えた。ほっと息をつき、障子を開けて縁側に出る。甘い匂いを放つ梅の木に、すすけた黄緑色をした地味な小鳥が止まっていた。

(へたっぴめ)

 ホーホケキョ、と修造が鳴きまねをすると、誰だ、とばかりにウグイスは左右を見回した。それから、ほー! きょ! とムキになったかのように大声で囀る。

「ホーホケキョ」
「ほほほっ……けきょきょきょん!」
「ホーホロロホケキョ! ピリルリルリルリララリラリラ……」
「何してんの、修造!」

 突然響いた赫の声に、バタバタとウグイスが飛び去っていく。振り向くと、お膳を両手に持った赫がむくれた顔で立っていた。

「修造は寝ててって言ったじゃないか!」
「なん……もう治ったって」
「だめー!」
「大袈裟なんだよいちいち。お前だって怪我したろ」
「ぼくは狐だからいいの!」

 その言葉通り赫の傷はもう治り、剥げてしまった毛もすっかりふわふわに生えそろっている。なんだか納得がいかないな、と思いつつ修造は布の上から頭を掻いて座った。かさぶたができてきたのはいいが、痒くて仕方ないのだ。

(あいつも、そろそろ治ってたりするのか?)

 疑問を口にできないまま、お膳に並べられていく朝食を待つ。
 ――確かに目を撃ち抜いたはずの黒狐は、修造が気を失い、赫がそれに気を取られている間にどこかに消えてしまっていた。翌日にやってきた宗二郎と貞宗が血の跡を追ってくれたのだが、それも途中で分からなくなってしまったらしい。

 ちゃんと死んだかどうか確かめないからそうなるんだ、と修造は思わず文句を言ってしまったが、「修造の方が大切なんだから仕方ないだろ」と言い返されてしまっては黙るほかなかった。
 いくら化け狐が丈夫とはいえ重傷ではあったろうし、どこかでのたれ死んでいる可能性もあるだろう。だが、修造はどうにもそうは思えなかった。体の回復を待ち、こちらに反撃する機会を待っている、なんだかそんな気がしてならないのだ。赫も同じ気持ちなのか、毎日山と村の見回りに出かけるようになっていた。

 どじょうの味噌汁と山もりご飯、煮た百合根の朝食に箸をつける。甘辛くほくほくとした百合根はご飯が進む、ちょっと濃いめの味付けだ。

「短い間に上手くなったな」

 赫が最初に作ったのは、表面は真っ黒なくせに生焼けのイワナと糊状になったおかゆだかご飯だか分からないものだった。修造が寝込んでいるうちに随分と腕を上げたものだ。

「んっふふ、修造にはね、いっぱい食べて元気になってもらわなきゃいけないから」
「……ありがとうな」
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