お山の狐は連れ添いたい

にっきょ

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11 秋、新月の夜

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 厚く積もった枯れ葉をかき分け、修造は樹の下に飛び出ているゼンマイの新芽を摘み取った。腰に吊るした籠の中には、他にもタラの芽やウド、松茸が入っている。腹時計に従って空を見上げると、きれいに葉を落としてすっきりとした葉の間から、頭上に来ている太陽が見えた。

「おい、昼飯にすっぞ」

 後ろにいる――見なくとも、なんとなく分かるようになってきたのだ――狐に声を掛け、竹の皮から出した握り飯を藪の向こうに放る。獣が食事にがっつく声に続き、きゅんきゅんと小さく鼻歌が聞こえてくる。どうやら狐はご機嫌のようだ。

(つっても、今日も会話してくれるわけじゃなさそうだな)

 自分も手近な石の上に腰を下ろし、おにぎりを頬張る。入っているフキ味噌は、数日前に修造が狐に持たされたフキノトウで作ったものだった。

 実家に戻らされた日から毎日、修造は山に入っていた。相変わらず屋敷には行けないので、少し山の中をうろついては狐と一緒に飯を食べ、山菜やキノコ、薪を採ったりして帰る日々である。どうしたものか修造の周りにだけ季節外れの新芽が春と見まごうばかりに生えているし、川に行けば手で難なく掬えるほど魚が寄ってくる。帰りがけには狐が毎回木の実などを追加でくれるので、おかげさまで最近の食卓は豪華だ。

(ありがてえけど、お土産をもらいに来ているわけじゃねえんだよな……)

お茶を飲みながら、赤い尻尾の飛び出た藪を見る。相変わらず狐は修造が話しかけても答えないし、姿をはっきりと見せてくれることもない。毎日修造が山に入るとどこかから出てくるし、こうやって色々くれるのだから嫌われてはいないのだろう、とは思うのだが、何を考えているものやら分からない。
狐と山の中を歩くのは、不思議な安心感のようなものがあった。村の中にいるときのように銃も撃てない腰抜けと囁かれることもないし、叔父夫婦に対して負い目を感じることもない。ただ修造のそばにいてくれるというのが、受け入れられているようで心地いい。弁当を毎日喜んで食べてくれるのも、可愛いと思うようになっていた。

 だが、やはり修造は狐と言葉を交わしたかった。何を考えているのか、何が好きなのか、なぜ修造を嫁にしたいなどと言い出したのか。聞きたいことが沢山ある。

(本当にふわふわなのかも触ってみたいし)

 ゆらゆらと揺れる尻尾を見ていると、手がうずうずしてくる。
こんなに狐のことばっかり考えてるなんて、どうかしている、と自分でも思う。だが、どうにも気になって仕方ないのだ。修造の気のせいでなければ、狐の方も修造の訪れを待ってくれているように見えた。もっと距離を詰めたいが、そのためにどうしたらいいのか修造には掴めなかった。

 昼飯を食べ終えると、修造は山菜採りを再開した。冬の日の入りは夏より早い。いつものように道に置かれたアケビとオニグルミを持ち、山を出たときにはすでにとっぷりと日が暮れていた。今日は新月なので、星がよく見える。
 畦道を歩いていると、ちらちらと遠く松明が動くのが見えた。村の中が、いつもよりざわついている感じがする。
 近づくにつれ自宅の前、権治の家がその中心であることが分かってくる。

「あっ、修造! 正一見なかったか⁉」
「見てないが」

 駆け寄ってきた権治に首を振ると、ああ、と権治が絶望的な声を出した。

「何かあったのか」

 聞かなくても分かる気がしたが、とりあえず尋ねる。

「正一が、山で友達と遊んでていなくなったらしい。修造なら見てないかと思ったんだが」
「いや……これから山狩りか」
「ああ、今人を集めてもらってる、修造が参加してくれると心強い」
「わかった」
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