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第一章 幼少期

第八十話 セリアにとってのソーマ

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 洗い終わったあと、彼はまた独り言を言った。急に独り言を言い出したことにも驚いたけど、彼が誰かの名前を口にしたことに驚いた。

 話を聞くと、彼の中には別の人がいるらしい。不思議なことだと思ったけど、それ以上に羨ましかった。彼にはいつも傍に誰かがいる。それはずっと一人ぼっちの私には、素晴らしいことに思えた。

 驚いたのはそれだけじゃない。彼はその後に魔法を使った。

 魔法――それは大人しか使えないものだと思っていた。魔法はとても便利なものだ。私が魔法を使えれば、きっとパパとママの役に立てる。そうすれば、パパとママも私を認めてくれるかもしれない。

 私はすぐさま彼に頼んだ。私に魔法を教えて、と。

 少し脅したりもしたけど、彼は了承してくれて、明日会う約束をした。
 魔法を教われることも嬉しかったけど、明日また彼と会えることが嬉しかった。

 別れ際、お互いに名前を教えあった。彼――ソーマは私の名前を褒めてくれた。パパとママがくれた大事な名前。それを褒められて私はとても嬉しくなった。

 ソーマ、ソーマ。うん、覚えた。とても優しい人。私の、初めてのともだち。



 次の日、私は約束の時間より早く来ていた。ソーマと会えるのが待ち遠しかったから。
 いつもなら退屈な時間も、ソーマと会えると思うとなんだか楽しい時間に変わった。

 しばらくすると、ソーマがやってきた。

「おはよう、セリア。早いね」

 かけられた言葉に一瞬詰まってしまう。誰かと挨拶をかわすなんて、初めてな気がする。

「……おは、……よう、ソーマ」

 ちゃんと言えたかな。変に聞こえてないかな。
 私は誤魔化すように、早く魔法を教えて欲しいと彼に催促した。

 まず、私に魔法の才能があるか調べてもらった。頭に手を置くだけで分かるらしい。ソーマは凄い。

 頭にソーマの手が置かれると、体を洗ってもらった時みたいに、どきどきして、幸せな気分になった。だから手が離れる時、すこし寂しくなったけど、ソーマに嫌われたくないからわがままは言わなかった。

 どうやら、私には魔法の才能があるらしい。よかった、これならパパとママの役に立てる。

 そこから、ソーマの中の人――ソルに魔法を教えてもらった。途中、ソーマとソルが入れ替わった時は、ソーマが消えたのかと思って怖くなったけど、違うと聞いて安心した。
 確かに、ソーマの優しい気配がソルの中からしたから、それは本当らしい。

 ソルの言う通りに、まりょく、というのを操っていく。準備が出来ると、後は魔法を発動させるだけになった。

 出来るのかな。私にも魔法が使えるのかな。

 少し不安を抱きながら、魔法の発動を強く念じた。

 すると、体が飛んでしまいそうな程強い風が吹いた。私の想像した通りの風だ。

 すぐに消えてしまったけど、私は確かに魔法を使えたんだ。これでパパとママも――

 そう思ったけど、どうやら私は、ぞくせいがん、というものを持っているらしく、それを知られると嫌われてしまうかもしれないそうだ。
 だから、ぞくせいがんを抑え込めるようになるまで、人に魔法を見せてはいけないと言われた。

 すぐにパパとママに見せられると思っていただけに、残念だった。だけど、その落ち込んだ気分もすぐに吹き飛んだ。ソーマがお昼ごはんをくれたから。

 ソーマがくれたサンドイッチは今まで食べた中で一番美味しくて、いつまでも食べていたいと思う味だった。
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