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第一章 幼少期

第五十八話 戦力削り

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 次の日、僕は最高のコンディションで朝を迎えた。気力は十分。頭は冴え渡っている。体も思い描いたとおりに動く。完璧だ。

「ソルはどう?」
『いつも通りだ』

 ソルらしい返答に笑いが漏れる。村の存亡をかけたと言っても過言ではない戦いを前に、僕達はいつも通りだ。油断している訳では無い。余分な緊張がないと言うべきだろう。
 過剰な緊張は動きを、そして思考を鈍らせる。だから適度な緊張を持っている今の状態はベストだと言えるだろう。それもこれも父さんと母さんのおかげだ。

「おはようソーマ」
「おはよう~ソーマちゃん」

 リビングに行くと、父さんと母さんは既に起きていた。

「おはよう父さん、母さん」
「いよいよ、だな。覚悟は……出来ているみたいだな」

 父さんは僕の目を見て、満足そうに頷く。

「さ、朝食にしましょうか~。しっかり食べて頑張るのよ~?」

 三人でいつも通りの朝食を楽しんだ。焦ることも無く、切羽詰まったような表情をするでもなく、本当にいつも通りの朝食だった。

 父さんは心底美味しそうに食事にがっつき、僕はそれを苦笑しながらゆっくりと食べる。母さんはそんな僕と父さんを優しげな表情で見守りながら、上品に料理を口に運ぶ。

 そんな、平凡だけどとても大切な日常。この日常を守るために頑張らないと。僕は決意を新たにした。

「行ってきます」

 僕は朝食後、すぐに家を出た。そして村を出ようと村を囲む柵まで歩いていく。柵の所には見張りをしている村人が何人かいた。
 村から出るのを見られると止められるだろうから、僕は気配を消し、ソルに頼んで強化魔法をかけてもらう。
 自分でかけてもいいけど、ソルの方が強力だからね。
 毛細血管をイメージして強化する方法をソルに教えると、ソルはあっさりと僕より強力な強化魔法が使えたんだ。

 強化された体で走り出し、一気に柵を飛び越える。気配も消していたし、目にも留まらない速さで駆け抜けたので、見張りの人には風が吹いただけのように感じられるはずだ。

 柵を乗り越えた僕は、そのまま魔物の群れがいる場所に向かって走り続ける。しばらく走り森の中を進むと、魔物達が見えてきた。
 僕は近くの木に隠れ、気配を完全に消す。

 僕が何をしに来たかと言うと、ずばり、暗殺だ。前世で散々鍛えられた僕でも、この数を相手にするのは厳しい。でも、気づかれないように厄介な相手を殺すことは可能だろう。それが僕の仕事だったのだから。

 今回標的とする、厄介な相手というのは遠距離攻撃をする魔物だ。近距離で攻撃してくる魔物は、柵で足止めしている間に処理できるが、弓や魔法をうたれると柵ではどうにもならない。
 だから出来る限り数を減らしておきたいのだ。

 僕は気づかれないようにしながら魔物達に近づき、獲物を見定める。優先順位が高いのはやはり魔法を使う魔物だ。魔物についてはソルが詳しいので、どの魔物が魔法を使うのか教えてもらう。
 教えてもらった中で一番近かった、ゴブリンメイジというゴブリンが杖を持った見た目の魔物に狙いを定め、石を投擲する。

 強化された体で投げた石は風切り音をたてながら、狙い違わずゴブリンメイジの頭部に命中した。ゴブリンメイジの頭はトマトのように、赤い血を撒き散らしながら潰れた。
 周囲の魔物は何が起きたのかわからず慌てている。その隙を逃さず、僕は次弾を投擲する。

 淡々と石の投擲を繰り返していると、魔物達はようやくどこから攻撃を受けているかに気づいたようだ。
 だが、魔物達が移動を始めたときには僕はもうそこには居ない。

 僕は、オーガメイジという魔物の背後に忍び寄っていた。

 オーガとは身体能力に非常に優れている、鬼の姿をした強力な魔物だ。だが、オーガメイジの身体能力は普通の人とそう変わらない。身体能力を捨て、魔法のみに特化した魔物なのだ。
 その魔法は非常に強力だが術者自体が非常に弱いため、この群れでは他のオーガ達に囲むようにして守られていた。
 しかし、今そのオーガ達は謎の襲撃に気を取られ、オーガメイジの護衛に隙が出来ている。
 僕はその隙を突き、オーガメイジの背後に忍び寄ったというわけだ。

 僕は懐からナイフを取り出し、オーガメイジの首を切り裂く。そして、血が吹き出るよりも早くその場を離脱し、姿を隠す。

 護衛のオーガたちは僕に気が付かなかったようで、守るべき対象が血を吹き出し、事切れているのを見て何が起きたのかと慌てている。

 その後も着々と敵を倒し続け、大方遠距離攻撃をする魔物を倒したと思った僕は一度村に戻る事にした。
 ここで無理をして倒れてしまえば元も子もない。

 魔物達は敵の姿も見えず仲間達が次々と倒れていく現状に士気を下げているようだし、十分な成果だろう。

 後は村に戻って残りの魔物達を倒すだけだ。ある意味、ここからが本番だと言えるだろう。

 僕は家に帰り、少しの間体を休めた。

 太陽はもうすぐ真上に登る。
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