上 下
51 / 94
第一章 幼少期

第五十一話 大作業

しおりを挟む

 次の日、僕は父さんに頼んで村中の人を集めてもらった。前から考えていた作戦を実行するためだ。
 もちろん、村の見回りをしている人たちなんかは除いているが、それでもかなりの人数が集まっていた。その中には小さな子供の姿も見える。流石に赤子はいないようだが僕と同じ五歳頃の子はこの場に来ているようだ。

 なぜ集められたのかわからずざわめく人々の前に、父さんが立つ。即席ではあるが台が用意されていた為その姿は集まった全ての人たちから見え、人々の話し声が止む。

「今日集まってもらったのは魔物の襲来に備えるためだ。みなも既に聞いていると思うが、近々大規模な魔物の群れがここを襲う。だから、俺達はそれに抗わなければならない! だが、それは俺や、自警団の連中だけじゃ足りない。みんなの力を貸して欲しいんだ! 村人全員でこの危機を乗り越えるんだ! 俺はみなの力を合わせれば魔物共を蹴散らすことが出来ると信じている!」

 父さんは前日から準備していた演説で人々の不安を取り除き、皆を奮起させる。父さんが元Aランク冒険者だということは皆知っているのでその言葉に聞き入り、協力を求めるその声に各々やる気を出していく。

「スーノさん! 俺達は何をすればいいんだ!?」

 若い青年が父さんに向かって問いかけた。父さんは昨日のうちに僕が伝えておいた作戦を、意気揚々と語る。

「村を囲う柵に仕掛けを施す! 材料は用意してあるから皆には作業を手伝って欲しいんだ! 作業自体は簡単だ!」

 それから父さんは作業の細かい内容を説明していき、指示を出していく。その指示はテキパキとしており、合理的だった。流石、Aランクのパーティーリーダーだっただけはあるね。

 指示を受けた人々は、僕と母さん、そしてフューが準備した……と言ってもほとんどフューが用意したけど、ともかく三人で用意した頑丈な針金をまず受け取る。
 そしてその針金を五センチほどに切り分け、それらを両端が突き出るように巻き付けていく。
 仕上げに突き出た部分をナイフで尖らせ、完成だ。

 そう、僕が考えた策というのは村の周りに『有刺鉄線』を張り巡らせることだったのだ。ソルの話では、フラムの操る魔物は人型が多いらしい。
 だったら地球の戦争での策が役に立つだろう。そう思って有刺鉄線を作ったのだ。

 一般的な有刺鉄線と少し違うのはベースとなる木の柵があることだが、基本的には普通の有刺鉄線と同じだろう。
 それと、作る時に村人に気をつけさせたのが針金が必ず隣の針金に接するように巻き付けることだ。ここでミスが起きるともう一つの作戦が上手くいかない。父さんに頼んで厳重に注意してもらった。

 僕も村人に混じって作業をしていたが、その頭にフューはいない。フューを他の人たちに見せるわけにいかないからではない。魔物襲来時にはそんなこと気にしていられない。

 ではなぜフューがここにいないかというと、フューには村人がいない部分の有刺鉄線の作成を頼んでいるからだ。
 自在に魔法を操れるフューの作業速度はとてつもない。針金を切って巻くという動作がいらないからだ。魔法で針金を生み出し、巻き付けるのを同時に行うため他の人との作業効率が比べ物にならない。
 そんな速度で仕事を進めていくスライムが隣にいては、皆のやる気が削がれてしまうので、フューには離れた場所をお願いしている。

(さっきちらっと見たけど、凄かったもんね……)
『あぁ、異様な光景だったな』

 柵の上に乗ったスライムが、強化していない目では追うのがやっとの速度で移動していき、その後には完璧な有刺鉄線が生み出されていく……なんとも奇妙な光景だった。

 朝から村人総出で作業を行った結果。日が暮れ始めた頃には作業が終了した。作業のその早い完了に、フューの多大な貢献があったことは言うまでもない。


 魔物の襲撃まで、残された時間はそう多くない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

だって私は、真の悪役なのだから。

wawa
ファンタジー
目が覚めると赤ん坊。 転生先は何処か不明な乙女ゲームの世界。 でもはっきりわかっていることは、自分は間違いなく悪役だってことだけ。 金と権力にものを言わせ、思いのままに生きてみようを突き進む主人公は悪役令嬢リリー。 ※1 世界観は乙女ゲーム、ジャンルは恋愛ですが、そこに至るまでの道のりは長く遠く、主人公は恋愛脳ではありません。 ※2 主人公目線と第三者目線が発生します。 『小説家になろう』でも掲載しています。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

私は逃げます

恵葉
ファンタジー
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。 そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。 貴族のあれやこれやなんて、構っていられません! 今度こそ好きなように生きます!

蒼竜世界の勇者 -魔物と心を通わす青年の世界救済の旅-(リメイク版)

mao
ファンタジー
 ※最新まで更新が追いついたので今後はやや更新頻度が落ちます(12/15~)  竜神を味方につけた「勇者」が魔族を撃退した魔大戦から四千年余り。  当時の戦いの爪痕や記憶も薄れ、穏やかに暮らしてきた人間たちは次第に「平和」の尊さを忘れていった。  平和だったはずの世界では、これまで共存してきた魔物が狂暴化を始め、人々の暮らしは次第に脅かされていく。  四千年という永い時を経て、人間たちの世界は再び魔に侵食され始めていた。  今や伝説となった「勇者」に純粋な憧れを抱く青年ジュードは、ひょんなことから不思議な少女カミラと出逢う。  彼女の力になりたいと願うジュードは徐々に、そして静かに世界の命運を懸けた戦いへと巻き込まれていく。  発現していく能力、導く声、立ちはだかる多くの壁。  魔物と心を交わし、魔法を受け付けないという奇妙な体質を持つ彼は、自らに課せられた宿命を知らない。  かつて世界を救った勇者に憧れるジュードは、その再臨となるか、それとも……。  ※小説家になろう、カクヨムにも投稿してます。

転生料理人の異世界探求記(旧 転生料理人の異世界グルメ旅)

しゃむしぇる
ファンタジー
 こちらの作品はカクヨム様にて先行公開中です。外部URLを連携しておきましたので、気になる方はそちらから……。  職場の上司に毎日暴力を振るわれていた主人公が、ある日危険なパワハラでお失くなりに!?  そして気付いたら異世界に!?転生した主人公は異世界のまだ見ぬ食材を求め世界中を旅します。  異世界を巡りながらそのついでに世界の危機も救う。  そんなお話です。  普段の料理に使えるような小技やもっと美味しくなる方法等も紹介できたらなと思ってます。  この作品は「小説家になろう」様及び「カクヨム」様、「pixiv」様でも掲載しています。  ご感想はこちらでは受け付けません。他サイトにてお願いいたします。

夜遊び大好きショタ皇子は転生者。乙女ゲームでの出番はまだまだ先なのでレベル上げに精を出します

ma-no
ファンタジー
【カクヨムだけ何故か九千人もフォロワーがいる作品w】  ブラック企業で働いていた松田圭吾(32)は、プラットホームで意識を失いそのまま線路に落ちて電車に……  気付いたら乙女ゲームの第二皇子に転生していたけど、この第二皇子は乙女ゲームでは、ストーリーの中盤に出て来る新キャラだ。  ただ、ヒロインとゴールインさえすれば皇帝になれるキャラなのだから、主人公はその時に対応できるように力を蓄える。  かのように見えたが、昼は仮病で引きこもり、夜は城を出て遊んでばっかり……  いったい主人公は何がしたいんでしょうか…… ☆アルファポリス、小説家になろう、カクヨムで連載中です。  一日置きに更新中です。

狙って追放された創聖魔法使いは異世界を謳歌する

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーから追放される~異世界転生前の記憶が戻ったのにこのままいいように使われてたまるか!  【第15回ファンタジー小説大賞の爽快バトル賞を受賞しました】 ここは異世界エールドラド。その中の国家の1つ⋯⋯グランドダイン帝国の首都シュバルツバイン。  主人公リックはグランドダイン帝国子爵家の次男であり、回復、支援を主とする補助魔法の使い手で勇者パーティーの一員だった。  そんな中グランドダイン帝国の第二皇子で勇者のハインツに公衆の面前で宣言される。 「リック⋯⋯お前は勇者パーティーから追放する」  その言葉にリックは絶望し地面に膝を着く。 「もう2度と俺達の前に現れるな」  そう言って勇者パーティーはリックの前から去っていった。  それを見ていた周囲の人達もリックに声をかけるわけでもなく、1人2人と消えていく。  そしてこの場に誰もいなくなった時リックは⋯⋯笑っていた。 「記憶が戻った今、あんなワガママ皇子には従っていられない。俺はこれからこの異世界を謳歌するぞ」  そう⋯⋯リックは以前生きていた前世の記憶があり、女神の力で異世界転生した者だった。  これは狙って勇者パーティーから追放され、前世の記憶と女神から貰った力を使って無双するリックのドタバタハーレム物語である。 *他サイトにも掲載しています。

私のバラ色ではない人生

野村にれ
恋愛
ララシャ・ロアンスラー公爵令嬢は、クロンデール王国の王太子殿下の婚約者だった。 だが、隣国であるピデム王国の第二王子に見初められて、婚約が解消になってしまった。 そして、後任にされたのが妹であるソアリス・ロアンスラーである。 ソアリスは王太子妃になりたくもなければ、王太子妃にも相応しくないと自負していた。 だが、ロアンスラー公爵家としても責任を取らなければならず、 既に高位貴族の令嬢たちは婚約者がいたり、結婚している。 ソアリスは不本意ながらも嫁ぐことになってしまう。

処理中です...