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第一章 幼少期
第五十一話 大作業
しおりを挟む次の日、僕は父さんに頼んで村中の人を集めてもらった。前から考えていた作戦を実行するためだ。
もちろん、村の見回りをしている人たちなんかは除いているが、それでもかなりの人数が集まっていた。その中には小さな子供の姿も見える。流石に赤子はいないようだが僕と同じ五歳頃の子はこの場に来ているようだ。
なぜ集められたのかわからずざわめく人々の前に、父さんが立つ。即席ではあるが台が用意されていた為その姿は集まった全ての人たちから見え、人々の話し声が止む。
「今日集まってもらったのは魔物の襲来に備えるためだ。みなも既に聞いていると思うが、近々大規模な魔物の群れがここを襲う。だから、俺達はそれに抗わなければならない! だが、それは俺や、自警団の連中だけじゃ足りない。みんなの力を貸して欲しいんだ! 村人全員でこの危機を乗り越えるんだ! 俺はみなの力を合わせれば魔物共を蹴散らすことが出来ると信じている!」
父さんは前日から準備していた演説で人々の不安を取り除き、皆を奮起させる。父さんが元Aランク冒険者だということは皆知っているのでその言葉に聞き入り、協力を求めるその声に各々やる気を出していく。
「スーノさん! 俺達は何をすればいいんだ!?」
若い青年が父さんに向かって問いかけた。父さんは昨日のうちに僕が伝えておいた作戦を、意気揚々と語る。
「村を囲う柵に仕掛けを施す! 材料は用意してあるから皆には作業を手伝って欲しいんだ! 作業自体は簡単だ!」
それから父さんは作業の細かい内容を説明していき、指示を出していく。その指示はテキパキとしており、合理的だった。流石、Aランクのパーティーリーダーだっただけはあるね。
指示を受けた人々は、僕と母さん、そしてフューが準備した……と言ってもほとんどフューが用意したけど、ともかく三人で用意した頑丈な針金をまず受け取る。
そしてその針金を五センチほどに切り分け、それらを両端が突き出るように巻き付けていく。
仕上げに突き出た部分をナイフで尖らせ、完成だ。
そう、僕が考えた策というのは村の周りに『有刺鉄線』を張り巡らせることだったのだ。ソルの話では、フラムの操る魔物は人型が多いらしい。
だったら地球の戦争での策が役に立つだろう。そう思って有刺鉄線を作ったのだ。
一般的な有刺鉄線と少し違うのはベースとなる木の柵があることだが、基本的には普通の有刺鉄線と同じだろう。
それと、作る時に村人に気をつけさせたのが針金が必ず隣の針金に接するように巻き付けることだ。ここでミスが起きるともう一つの作戦が上手くいかない。父さんに頼んで厳重に注意してもらった。
僕も村人に混じって作業をしていたが、その頭にフューはいない。フューを他の人たちに見せるわけにいかないからではない。魔物襲来時にはそんなこと気にしていられない。
ではなぜフューがここにいないかというと、フューには村人がいない部分の有刺鉄線の作成を頼んでいるからだ。
自在に魔法を操れるフューの作業速度はとてつもない。針金を切って巻くという動作がいらないからだ。魔法で針金を生み出し、巻き付けるのを同時に行うため他の人との作業効率が比べ物にならない。
そんな速度で仕事を進めていくスライムが隣にいては、皆のやる気が削がれてしまうので、フューには離れた場所をお願いしている。
(さっきちらっと見たけど、凄かったもんね……)
『あぁ、異様な光景だったな』
柵の上に乗ったスライムが、強化していない目では追うのがやっとの速度で移動していき、その後には完璧な有刺鉄線が生み出されていく……なんとも奇妙な光景だった。
朝から村人総出で作業を行った結果。日が暮れ始めた頃には作業が終了した。作業のその早い完了に、フューの多大な貢献があったことは言うまでもない。
魔物の襲撃まで、残された時間はそう多くない。
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