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第一章 幼少期

第六話 初めての魔法

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数日後、僕は一冊の本の前で体を震わせていた。待ちに待った魔法の使い方が、この本に書かれているのだ。

 母さんがが冒険者になるのには魔法が必須だと、買ってきてくれたのだ。まぁ、正確には僕にくれたのではなく、将来使うだろうから前もって用意したというだけなのだが。僕の手の届かない、本棚の高い所に置かれていた事から、まだ僕に魔法を教える気はないのだろう。

 まぁまだ五歳だから仕方ないか。あ、本は本棚をよじのぼってゲットしました。

 じゃあそろそろ本を開こうかな。えーとタイトルは、《魔道の極め方》か、なんかどう見ても初心者用じゃない気もするけど……

 中身はえらく難しく書かれていたが、魔法の使い方から、応用、可能性まで書かれていた。

 魔法の可能性まで書いてるって、これ絶対初心者用じゃないよね……でも何故か魔法の使い方は細かく書いてくれてたし、まぁいっか。

 魔法の使い方はこうだ。

 体内を巡っている魔力を一点に集め、発動したい魔法を強くイメージして、魔力を使いたい魔法に合わせた属性に変化させ、発動する、と強く念じるだけだ。

 とりあえず使い方はわかったし、試してみよう!

 屋内でやるのは少し危ないかと思い、外に出てきた。近くの森に入ると、少し歩いたところに開けた場所があった。

 ここなら人にも見つかりにくいし、大丈夫だよね。

 幸い、今日は両親がでかけていて留守なので、家に居ないのがバレることは無い。

「えーと、魔力は体内に巡っているんだったよね。血液みたいな感じかな?」

 血の巡りを意識してみると、血液とは違う何かが流れているのがわかる。ただ、その何かは全く知らないものではなく、どこか懐かしいものだった。

「この感覚……僕はよく知っていた気がする……前世では馴染み深かったような……」

 僕は更にその感覚を強く意識してみる。すると、その流れの元が丹田であることが分かった。

「そうか! 気だ! 気と同じなんだ!」

 前世では気を練る訓練を日課にしていた。だが、一族の間では幼少期に気を扱うことは危険とされていたので、転生してから今までやっていなかった。だからすぐに思い出せなかったのだ。

「それなら動かすのも簡単だな。とりあえず火の魔法を使ってみようかな。気、じゃなくて魔力は半分位集めれば十分かな? 小さい頃は気の量は少なかったし火を出すならそのくらい必要だろう」

 僕は右手に魔力を集める。全魔力の半分を集中させるのは流石に大変で、一分くらいかかった。そして、使いたい魔法――拳大のファイアボールをイメージする。

「魔力の属性を変化させる、か。火属性に変化させるには熱をイメージすればいい、だったよね」

 前世で見た一番熱いものって言えば科学の実験で使ったガスバーナーかな? それをイメージすればいいかな?

 ガスバーナーの青い火をイメージすると、魔力の何かが変わったのが分かった。

「成功、かな? あとは発動をイメージするだけ、か。よし! 早速やってみよう! 発動!」

 僕は右手を突き出し、叫ぶ。その瞬間右手の前に、青い火の塊が生まれる。

「やった! 成功し」

 やった! 成功した!

 そう言いかけた時、前世での訓練で何度も感じた強烈な死の予感がした。だが、前世のそれとは比べ物にならないほど、強烈な死の予感だ。

 右手の前にある炎が、一瞬歪んだかと思うと、一気に膨張した。

『ちっ! 馬鹿がっ!!』

 頭の中でそんな声がしたと同時に、青い炎が空に打ち上げられる。バランスボールぐらいに大きくなった炎が、ほとんど見えなくなるまで高く上がると、凄まじい爆発音と共に空を青い炎が覆い尽くした。

 爆発の余波がここまで届いたようで、熱風が僕を襲う。僕は手で顔を庇い熱風に耐える。

「いったい何が起こったんだ?」

 わけもわからずそう呟くと、再び僕の頭に声が響く。

『テメェがやらかした魔法の暴発をオレが上に逸らしてやったんだ。ったく目覚めたばっかりだってのに何させてくれんだよ』

 不機嫌そうに言うその声は昔どこかで聞いたことがある声だった。

「魔法の暴発?」
『そうだよ。テメェがファイアボールをイメージしながら馬鹿みたいな魔力を突っ込むから暴発したんだ。俺の全力量とほぼ同じ魔力を、そんなチンケな魔法につぎ込んだら暴発するってのはゴブリンでもわかんだろ』

 高圧的で馬鹿にしたような話し方だが、悪意があるわけではなくただ呆れているだけなのがその声色からわかったので、僕はあまり怒りを抱かなかった。

「発動する魔法と使った魔力が釣り合わなかったってこと?」
『あぁその通りだよ』
「でも僕が使ったのは全魔力の半分位だよ? 成長と共に魔力は育っていくんだから、五歳児の僕の魔力量なんて、たかが知れてるでしょ」

 あの本には十歳になるまでは、小規模な魔法しか使えないほど魔力が少ないと書かれていた。

『はぁ? 魔力ってのは魂に強く関係してるんだよ。成長と共に魔力の扱い方が上手くなるから使える魔力が増えるだけだ。魔力の総量はただ歳を重ねるだけじゃ増えねぇ』

 なるほど、僕は前世での気の修行で魔力の扱い方を学んでいるから、使える魔力が多いのか。

『つーかよ、そんなことより普通は俺が誰なのかとか聞くもんじゃねぇの?』
「え、だって、さっき死にかけたんだよ? だったらそっちの情報収集が先でしょ」

 命の危機だったんだよ? だったらそっちが優先なのは当たり前でしょ。

『ちっ変なやつだな。まぁいいや、俺はソルだ、ソル=ヴィズハイム。テメェは?』

 ん? どっかで聞いたことがあるような……なんだか今日はこんな事が多いな。

「ソーマだよ、平民だから性はない。」
『へぇ、ソーマか。で、テメェは何もんなんだ?』
「名前言ったんだから名前で呼んでよ……」

『んなのはどーでもいいんだよ。テメェ何もんなんだ? 五歳児とは思えねぇ程しっかりしてるし、こんな状況でも落ち着いてる。そして何より魔力の操作技術が異常なほど上手い。総魔力量だって異常だ。このオレの二倍もある』

 転生の事を話すのはリスクが高い。ここは話を逸らすしかないね。

「ソルだっておかしいじゃないか。頭の中に話しかけてきてるし。ソルこそ何者?」
『ちっ話す気はねぇってか。まぁいい、俺だってなんでこんな事になってるのかはわかんねぇんだよ。目が覚めたらお前の体の中にいたんだ』
「僕の体の中?」
『あぁ、そうだ。お前の視界で見てるしな。多分そういうことだろ』

 僕はあの死後の世界と思わしき所での出来事を思い出す。

「もしかして……あの時融合したのがソルだったのかも」
『あぁん? 融合だぁ?……あぁ、あの時の事か』
「ソルも覚えてるの?」
『あぁ、覚えてる。そうか、今は魂が混ざった状態ってことか』
「魂が混ざった状態、か」

『なるほどな、だからテメェの総魔力量が化物なのか。オレの魔力量とテメェの魔力量が合わさっているから……だとしてもテメェの魔力量はオレと同じってことになるのか。どっちにしても只者じゃねぇな』

「魔力量が自分と同じで只者じゃないって、凄い自信だね」
『そりゃそうだろ。オレは世界一の魔法使いだったらな』
「世界一って、ソルが魔導師だとでも言いたいの? ……ん? ソルの性ってヴィズハイムだったよね……ソル=ヴィズハイム……え!? あの・・ソル=ヴィズハイム!?」
『ぷっ、ハハハハハ! おもしれぇ反応するなぁ! そうだよ、魔導師・・・のソル=ヴィズハイムだよ』
「……ほんとに?」
『まぁ、すぐには信じれねぇよな』

 僕はさっきの魔法の暴発をふと思い出す。

「でも、さっき暴走した魔法を制御したんだよね。それってありえないことなんじゃ……」
『まぁ確かにあんなのができるのはオレだけだな』
「じゃあほんとに……?」
『めんどくせぇな。だったら証明してやるよ。幸い、魔力は自由に扱えるみてぇだしな』

 ソルがそういった直後、目の前に火がともった。そしてその火が水に包まれて消えると、水が氷となり、雷を帯びたかと思うと突然隆起してきた土に覆われ、人形の形になる。
 その人形がフラッシュのように激しく光り、そして影の中に沈んでゆく。人形が沈んで消えた部分が別の場所の何も無いところから現れる。

『ざっとこんなもんだな。これで信じたか?』
「え!? 今のって全属性の魔法!? じゃあ本当にソルは魔導師なんだね! じゃあさ、魔法教えてよ!」
『あぁ?……ハハハハハハハハ! おいおい、俺が魔導師だってわかって最初にいう言葉がそれかよ! おもしれぇヤツだな、いいぜ教えてやるよ』
「本当!? ありがとう!」

『テメェは魔法の発動自体はできてたからな。発動する魔法に見合った魔力量がわかればある程度の魔法は使えるだろ。やり方は簡単だ。使いたい魔法の威力、影響を強くイメージして、それに合いそうな器を思い浮かべるんだ。その器に入る魔力が必要な魔力量ってわけだ』

「へぇ、そんな方法でわかるんだ。でもなんで?」

『そもそもな、魔法ってのは世界との取引みてぇなもんなんだ。火を起こしたいならそれに見合った魔力を世界に渡して火を起こしてもらうってな具合にな。だから強くイメージする事で世界に取引を持ちかけたら、世界が対価を要求してくるんだ。
 その対価を人が理解するには器を想像するのが都合がいいって事だ。だから器をイメージすれば必要な対価がわかるんだよ』

「なるほどなぁ。あ、それじゃあさ……」
「おぉーーい! ソーマァ! どこだぁー!?」

 僕の言葉は遠くから聞こえてきた大声に遮られた。

「えっ!? この声は父さん!? 父さんたちが帰ってくるのはもっと後のはずじゃ……」
『あぁ?バカかテメェ。あんなデケェ爆発が起きたんだ。自分の子供の安否を確認しに来るのは当たり前だろ。おおかた途中で急いで帰ってきたんだろ』

 ソルの呆れたような声が頭の中に響く。

「来るのがわかってたなら教えてよ!」
『あぁ? なんでオレがそんなことしなきゃならねーんだよ』

 僕が八つ当たりしている内に、父さんの気配は近づいてくる。

「やばいやばい魔法の事、どうやって誤魔化そう」
『テメェがやったって事はバレてねぇんだから、んな必要ねぇだろ』

 僕はソルの言葉にはっとする。

「そうか! 魔法は空に打ち上がったから誰が使ったかわからないのか!」

それじゃあ父さんの所に早く行かないと!
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