上 下
2 / 16

第二話 おねだり

しおりを挟む
 俺は路地裏から抜け出し、大通りにやってきた。おじさんにゃあ眩しいセーラー服を来た学生さんたち三人組が、きゃっきゃしながら歩いてらっしゃる。どうやら学校の帰りらしい。まぁ、かなり日は傾いてるし、下校時間だったとしても不思議はねぇか。
 え? お前はさっき起きたばかりだったよな、だって? おうとも、その通りさ。夕方まで寝こけてたのさ。いいんだよ、俺は猫なんだし。

 ともあれこれは好都合。女子高生なんてのは、可愛いものに目がねぇからな。にゃんにゃんにゃーんと媚びてやればイチコロさ。

「にゃおーーん」
「あ、クロにゃんだ! 可愛いー!」
「ホントだ! クロにゃんだ! この子、野良だとは思えないほど綺麗だよねー」

 そうだろう、そうだろう。俺は嬉しいことを言ってくれたお嬢さんに自慢の黒い毛並みを擦り付ける。

「きゃっ、くすぐったーい」
「この人懐っこさも野良っぽくないよね。なになにー、どうしたのー? お腹でも空いてるのかなぁ」

 そうだとも。そろそろ腹の虫が限界なのさ。今にも羽化して羽ばたきそうなんだ。

「何かあったかな……あ、私スルメ持ってるよ! ほら、クロにゃん、スルメだぞー」

 おっ、なかなか渋い嬢ちゃんだ。だが猫にスルメは御法度だって知らねぇのかい? そりゃ、スルメはうめぇが、猫が食ったら腰が抜けちまうのさ。危ねぇ危ねぇ。俺がこれを知らなかったら、善意に殺されちまうところだった。

 俺は首を振ってイヤイヤする。我侭なガキみてぇだが、可愛い猫を演じるのにゃあもう慣れたのさ。今更恥ずかしくもなんともねぇ。

「あれ、スルメ要らない? 美味しいよ?」
「あ、そうだ。猫にスルメはダメだって聞いたことあるよ!」
「ほんと? そうなんだ。ごめんね、クロにゃん。じゃあ私、クロにゃんにあげれる物ないや。二人は何か持ってる?」
「あ、私クロにゃんにあげようと思って、猫缶持ってきてるよ!」

 お、本当かい? そいつぁありがてぇ。猫缶、うめぇんだよなぁ。わざわざ野良の俺に猫缶をくれる物好きなヤツはそうそういねぇから、俺にとっちゃあ猫缶はご馳走だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

毎日告白

モト
ライト文芸
高校映画研究部の撮影にかこつけて、憧れの先輩に告白できることになった主人公。 同級生の監督に命じられてあの手この手で告白に挑むのだが、だんだんと監督が気になってきてしまい…… 高校青春ラブコメストーリー

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

不眠症の上司と―― 千夜一夜の物語

菱沼あゆ
ライト文芸
「俺が寝るまで話し続けろ。  先に寝たら、どうなるのかわかってるんだろうな」  複雑な家庭環境で育った那智は、ある日、ひょんなことから、不眠症の上司、辰巳遥人を毎晩、膝枕して寝かしつけることになる。  職場では鬼のように恐ろしいうえに婚約者もいる遥人に膝枕なんて、恐怖でしかない、と怯える那智だったが。  やがて、遥人の不眠症の原因に気づき――。

フレンドシップ・コントラクト

柴野日向
ライト文芸
中学三年に進級した僕は、椎名唯という女子と隣同士の席になった。 普通の女の子に見える彼女は何故かいつも一人でいる。僕はそれを不思議に思っていたが、ある時理由が判明した。 同じ「period」というバンドのファンであることを知り、初めての会話を交わす僕ら。 「友だちになる?」そんな僕の何気ない一言を聞いた彼女が翌日に持ってきたのは、「友だち契約書」だった。

様々な性

遠藤良二
ライト文芸
最近、ニュースやネットなどで話題になっているLGBT。彼らが生きていく姿や、交流などを描写したヒューマンドラマです。

琥珀色の日々

深水千世
ライト文芸
北海道のバー『琥珀亭』に毎晩通う常連客・お凛さん。 彼女と琥珀亭に集う人々とのひとときの物語。 『今夜も琥珀亭で』の続編となりますが、今作だけでもお楽しみいただけます。 カクヨムと小説家になろうでも公開中です。

『蜜柑の花まるエブリディ✩⡱』

陽葉
ライト文芸
『蜜柑の花まるエブリディ✩⡱』

出版社はじめました

まさくん
ライト文芸
 新社会人の僕は、ラノベの編集者となるため、ある出版社へ入社した。  その出版社は、クレヒロ出版社という会社であるが、できたばかりで編集者は僕一人。社員も社長を合わせてもわずか10人、専属の小説家に限っては0。誰一人としていないのである。  なのに、半年後には、クレヒロ出版が新設するラノベレーベルのクレヒロノベルの第1作目を半年後に発売予定というが、何もない。僕しかいない編集部なのに、入稿締め切りまで4ヶ月。それまでに小説家を見つけ、発売することはできるのか。そして、その小説を売ることはできるのか。

処理中です...