【長編】座敷童子のパティシエールとあやかしの国のチョコレート

坂神美桜

文字の大きさ
上 下
43 / 47

37

しおりを挟む
 いきなり何を言い出したんだろうか。

 メイベル様は美しいプラチナブロンドを綺麗に巻いており、ドレスも少し大人っぽく、目は紅玉のそれという絶世の美貌の持ち主で。少しきつそうな顔つきも、お化粧が濃いせいで余計そう見えている。

 性格もあるのだろう。悪を嫌い正義を重んじる。私とは正反対、というか、もしかして私の嘘八百にそろそろ嫌気がさしてトドメでも刺しに来たのだろうか。

 私の沈黙をどう受け取ったのかは知らないが、メイベル様は頭が痛むのかこめかみに指先を当てて少し考えるようにしてから言った。

「……今『リリィクイン』の中で殿下の心象が一番いいのは貴女です。私は、貴女のように場を和ませることも、使用人の粗相を笑って許す事もできません。厳しく律することで、成長すると思うからです」

 時々居る、厳しさこそが本当の優しさ、を極めたタイプの人か、と私は即座に理解した。

 私にとっては、厳しいも優しいもその時その状況による、としかいえないのだけれど、どんな状況であれど厳しければそれがその人の為になる、と信じている人がいる。

 それは間違いじゃない。けれど、正解でもないと私は思っている。少なくとも私は、笑っている記憶の方が頭に残るので、失敗を笑って次に活かすような方法が好きだ。

 まぁそれはいい、そこは主義主張の違いだし、国母となるのならその位厳しい方が世の為人の為かもしれない。

 それはともかく、否定しなければいけない部分がある。

「おまちください。殿下の心象がいい、などというのは思い込みだと思いますわ。むしろ最悪なのでは無いでしょうか?」

 私のせいだとは思っていないが(何せ私は触ってもいない)、リリィクインが集まる場で、必ず私の近く、ないしは私が口を出せそうな相手の物が壊れたり台無しになったりしているのだ。

 私を王太子妃に、ひいては王妃にしてしまっては国庫が居るだけで傾くなんて事態もあり得る。そういう意味でも丁重に私はこの場を遠慮して去りたいものだ。最後の晩餐会までは居なければいけなくなってしまったけれど。

「イリア様が誰を擁立したかはすぐに分かります。それに……本当にお気づきではないんですの?」

「何がです?」

「貴女が話すと、殿下は笑っておられます」

 笑っている? どこをどう見ても鉄面皮で声の抑揚も少ないあの殿下が、いつ、どこで、何を笑ったというのだろう。

 もし笑った可能性があるとするのなら……。

「それは呆れ笑いという物ではございませんか?」

「……一番のライバルがこんなに鈍いだなんて。あなた、『リリィクイン』としてもう少し王太子殿下に興味をお持ちになられた方がよろしいのではなくて?」

 できれば辞退したいので今後もそれは無いかと思います、とはメイベル様の気迫に圧されて言えなかったけれど。

「まぁ……、ライバルだなんて、そんな。そうですね、でも、笑ってくださっているかどうかは……もう少し注意して見てみることにしますわ」

 にっこり笑って当たり障りなく会話を終わらせようとしたが、メイベル様は深いため息を吐くと、もう一度だけ強いまなざしで私を見詰める。

「とにかく、貴女には負けません。私は必ず王太子妃に選ばれてみせます」

 イリア様の手前、どうぞどうぞ、とも言えない私は、最後はこれしか言えなかった。

「えぇ、お互い頑張りましょうね」

 精いっぱいの言葉だったが、思いっきり私を敵視しているメイベル様にとって、これは酷い嫌味に聞こえたのかもしれない。

 終始しかめっ面のまま、メイベル様は月下宮を出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

大正石華恋蕾物語

響 蒼華
キャラ文芸
■一:贄の乙女は愛を知る 旧題:大正石華戀奇譚<一> 桜の章 ――私は待つ、いつか訪れるその時を。 時は大正。処は日の本、華やぐ帝都。 珂祥伯爵家の長女・菫子(とうこ)は家族や使用人から疎まれ屋敷内で孤立し、女学校においても友もなく独り。 それもこれも、菫子を取り巻くある噂のせい。 『不幸の菫子様』と呼ばれるに至った過去の出来事の数々から、菫子は誰かと共に在る事、そして己の将来に対して諦観を以て生きていた。 心許せる者は、自分付の女中と、噂畏れぬただ一人の求婚者。 求婚者との縁組が正式に定まろうとしたその矢先、歯車は回り始める。 命の危機にさらされた菫子を救ったのは、どこか懐かしく美しい灰色の髪のあやかしで――。 そして、菫子を取り巻く運命は動き始める、真実へと至る悲哀の終焉へと。 ■二:あやかしの花嫁は運命の愛に祈る 旧題:大正石華戀奇譚<二> 椿の章 ――あたしは、平穏を愛している 大正の時代、華の帝都はある怪事件に揺れていた。 其の名も「血花事件」。 体中の血を抜き取られ、全身に血の様に紅い花を咲かせた遺体が相次いで見つかり大騒ぎとなっていた。 警察の捜査は後手に回り、人々は怯えながら日々を過ごしていた。 そんな帝都の一角にある見城診療所で働く看護婦の歌那(かな)は、優しい女医と先輩看護婦と、忙しくも充実した日々を送っていた。 目新しい事も、特別な事も必要ない。得る事が出来た穏やかで変わらぬ日常をこそ愛する日々。 けれど、歌那は思わぬ形で「血花事件」に関わる事になってしまう。 運命の夜、出会ったのは紅の髪と琥珀の瞳を持つ美しい青年。 それを契機に、歌那の日常は変わり始める。 美しいあやかし達との出会いを経て、帝都を揺るがす大事件へと繋がる運命の糸車は静かに回り始める――。 ※時代設定的に、現代では女性蔑視や差別など不適切とされる表現等がありますが、差別や偏見を肯定する意図はありません。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

処理中です...