15 / 47
12
しおりを挟む
「青王様、おはようございます」
「おはよう、よく来たね。それではさっそく商店街に行こうか」
「わたしはお留守番していますね」
「え、瑠璃ちゃんは行かないの?なんで?」
「ふふ、お二人でのんびり楽しんできてくださいね。あ、これ持って行ってください」
瑠璃はお茶が入った水筒二つとクッキーを差し出し「いってらっしゃーい」と手を振る。
王城を出て、カカオの森の中を歩き始めてそろそろ一時間ほど経つ。
「ふぅ...青王様、カカオの森ってどれだけ広いんですか?」
「出口まであと一時間はかからないと思うけれど、ちょっと疲れたかな?少し休憩しようか」
あと一時間はかからないって...それってまだ一時間近くかかるってことよね。
「はぁ、冷たくておいしい」
瑠璃が冷たいお茶とおやつを持たせてくれた理由がよくわかった。
「お手伝いにきてくれる妖たちは、いつもこんなに歩いてきているんですか?」
「いや。それぞれ飛ぶことができたり走るのが速かったり、中には瞬間移動ができる妖もいる。わたしだって飛ぶことも瞬間移動もできる。穂香だって懐中時計を使えば移動できるだろう」
「そ、それならどうして今日は歩いて移動しているんですか?瞬間移動すればいいのに」
「瞬間移動はできるけど、ちょっと苦手でかなりの力を使ってしまうんだ。それに、せっかく穂香と...」
青王様はもごもごとどんどん声が小さくなっていく。それにちょっと耳が赤いような...
「それなら懐中時計でもいいのに。商店街って言えば行けるんですよね?」
「まぁそれはそうなんだが...せっかくだから森の中をのんびり散歩するのもいいじゃないか」
「わかりました。そういえばたまに妖を見かけますけど、ここは王城の敷地の中なんですよね?」
「そうだよ。でもみんながゆっくり過ごせるように解放しているんだ。さて、そろそろ行こうか」
カラフルなカカオポットを眺めながら歩いていると、高いレンガの塀が見えてきた。よく見ると大きな鉄の門があり、門番らしき妖が数人立っている。
こんなに広い森だけどちゃんと全体が塀で囲まれているらしい。
門番の一人が「青王様、いってらっしゃいませ!そちらのお嬢さんもお気をつけて」とお見送りをしてくれる。
そういえばいつも護衛とか誰も一緒じゃないけど、青王様って王様なのに普段から一人で出歩いているのかな...
「うわぁ、賑わっていますね!」
「ここはいつも活気があって、見て歩くだけで楽しいんだよ」
「あれ?なんだかあっちこっちに井戸がありますね」
「京陽は綺麗な水が豊富に湧いているんだ。井戸は自由に使い放題だよ」
確かにみんな鍋や桶に水を汲んでいる。水が豊富って…そういえば青王様は雨を操ってカカオを守ってくれているけれど、
「青王様は何の妖なんですか?まさかカッパではないですよね...」
「カッパではないけど水にまつわる妖だよ」
カッパじゃないけど水関係...なんだろう?
「まぁそのうちわかるよ」
青王様はいつになってもなにも教えてくれない。そんなに言いづらい秘密があるんだろうか。
「え?きゃー!」
「穂香!!」
お店を覗いたりキョロキョロしながら歩いていると、突然なにかに腕を掴まれ細い路地に引き込まれてしまった。
あんなに賑やかだったのに、ここはなにも音がしない真っ白な空間。なにが起きているのかわからずただボーッと立ち尽くしていると、目の前に「ボッ」と黄色い炎が現れた。
「っ...!」
恐怖で声も出せない。「青王様!助けて!」と心の中で叫ぶ。きっとペンダントが私の居場所を教えてくれているはず。
すると黄色い炎は人の形に姿を変えた。もふもふの耳と尻尾がついているけど...あれは…狐?
「人間の女。俺の嫁になれ」
「は?!え...あ、あの...」
「俺さ、人間の世界に行きたいんだよ。でも自分の力では行けなくてさ。なにか手段はないかと思ってたら森の中でおまえを見つけたんだ。人間のおまえを嫁にすればずっと向こうにいられるだろ」
「早く連れて行け」と腕を引っ張られ、もうどうしたらいいのかわからない。
「青王様早く来て!」と心の中で叫びながら必死に抵抗するけど、どうしても振りほどくことができない。青王様、早く助けて...
「おはよう、よく来たね。それではさっそく商店街に行こうか」
「わたしはお留守番していますね」
「え、瑠璃ちゃんは行かないの?なんで?」
「ふふ、お二人でのんびり楽しんできてくださいね。あ、これ持って行ってください」
瑠璃はお茶が入った水筒二つとクッキーを差し出し「いってらっしゃーい」と手を振る。
王城を出て、カカオの森の中を歩き始めてそろそろ一時間ほど経つ。
「ふぅ...青王様、カカオの森ってどれだけ広いんですか?」
「出口まであと一時間はかからないと思うけれど、ちょっと疲れたかな?少し休憩しようか」
あと一時間はかからないって...それってまだ一時間近くかかるってことよね。
「はぁ、冷たくておいしい」
瑠璃が冷たいお茶とおやつを持たせてくれた理由がよくわかった。
「お手伝いにきてくれる妖たちは、いつもこんなに歩いてきているんですか?」
「いや。それぞれ飛ぶことができたり走るのが速かったり、中には瞬間移動ができる妖もいる。わたしだって飛ぶことも瞬間移動もできる。穂香だって懐中時計を使えば移動できるだろう」
「そ、それならどうして今日は歩いて移動しているんですか?瞬間移動すればいいのに」
「瞬間移動はできるけど、ちょっと苦手でかなりの力を使ってしまうんだ。それに、せっかく穂香と...」
青王様はもごもごとどんどん声が小さくなっていく。それにちょっと耳が赤いような...
「それなら懐中時計でもいいのに。商店街って言えば行けるんですよね?」
「まぁそれはそうなんだが...せっかくだから森の中をのんびり散歩するのもいいじゃないか」
「わかりました。そういえばたまに妖を見かけますけど、ここは王城の敷地の中なんですよね?」
「そうだよ。でもみんながゆっくり過ごせるように解放しているんだ。さて、そろそろ行こうか」
カラフルなカカオポットを眺めながら歩いていると、高いレンガの塀が見えてきた。よく見ると大きな鉄の門があり、門番らしき妖が数人立っている。
こんなに広い森だけどちゃんと全体が塀で囲まれているらしい。
門番の一人が「青王様、いってらっしゃいませ!そちらのお嬢さんもお気をつけて」とお見送りをしてくれる。
そういえばいつも護衛とか誰も一緒じゃないけど、青王様って王様なのに普段から一人で出歩いているのかな...
「うわぁ、賑わっていますね!」
「ここはいつも活気があって、見て歩くだけで楽しいんだよ」
「あれ?なんだかあっちこっちに井戸がありますね」
「京陽は綺麗な水が豊富に湧いているんだ。井戸は自由に使い放題だよ」
確かにみんな鍋や桶に水を汲んでいる。水が豊富って…そういえば青王様は雨を操ってカカオを守ってくれているけれど、
「青王様は何の妖なんですか?まさかカッパではないですよね...」
「カッパではないけど水にまつわる妖だよ」
カッパじゃないけど水関係...なんだろう?
「まぁそのうちわかるよ」
青王様はいつになってもなにも教えてくれない。そんなに言いづらい秘密があるんだろうか。
「え?きゃー!」
「穂香!!」
お店を覗いたりキョロキョロしながら歩いていると、突然なにかに腕を掴まれ細い路地に引き込まれてしまった。
あんなに賑やかだったのに、ここはなにも音がしない真っ白な空間。なにが起きているのかわからずただボーッと立ち尽くしていると、目の前に「ボッ」と黄色い炎が現れた。
「っ...!」
恐怖で声も出せない。「青王様!助けて!」と心の中で叫ぶ。きっとペンダントが私の居場所を教えてくれているはず。
すると黄色い炎は人の形に姿を変えた。もふもふの耳と尻尾がついているけど...あれは…狐?
「人間の女。俺の嫁になれ」
「は?!え...あ、あの...」
「俺さ、人間の世界に行きたいんだよ。でも自分の力では行けなくてさ。なにか手段はないかと思ってたら森の中でおまえを見つけたんだ。人間のおまえを嫁にすればずっと向こうにいられるだろ」
「早く連れて行け」と腕を引っ張られ、もうどうしたらいいのかわからない。
「青王様早く来て!」と心の中で叫びながら必死に抵抗するけど、どうしても振りほどくことができない。青王様、早く助けて...
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
大正石華恋蕾物語
響 蒼華
キャラ文芸
■一:贄の乙女は愛を知る
旧題:大正石華戀奇譚<一> 桜の章
――私は待つ、いつか訪れるその時を。
時は大正。処は日の本、華やぐ帝都。
珂祥伯爵家の長女・菫子(とうこ)は家族や使用人から疎まれ屋敷内で孤立し、女学校においても友もなく独り。
それもこれも、菫子を取り巻くある噂のせい。
『不幸の菫子様』と呼ばれるに至った過去の出来事の数々から、菫子は誰かと共に在る事、そして己の将来に対して諦観を以て生きていた。
心許せる者は、自分付の女中と、噂畏れぬただ一人の求婚者。
求婚者との縁組が正式に定まろうとしたその矢先、歯車は回り始める。
命の危機にさらされた菫子を救ったのは、どこか懐かしく美しい灰色の髪のあやかしで――。
そして、菫子を取り巻く運命は動き始める、真実へと至る悲哀の終焉へと。
■二:あやかしの花嫁は運命の愛に祈る
旧題:大正石華戀奇譚<二> 椿の章
――あたしは、平穏を愛している
大正の時代、華の帝都はある怪事件に揺れていた。
其の名も「血花事件」。
体中の血を抜き取られ、全身に血の様に紅い花を咲かせた遺体が相次いで見つかり大騒ぎとなっていた。
警察の捜査は後手に回り、人々は怯えながら日々を過ごしていた。
そんな帝都の一角にある見城診療所で働く看護婦の歌那(かな)は、優しい女医と先輩看護婦と、忙しくも充実した日々を送っていた。
目新しい事も、特別な事も必要ない。得る事が出来た穏やかで変わらぬ日常をこそ愛する日々。
けれど、歌那は思わぬ形で「血花事件」に関わる事になってしまう。
運命の夜、出会ったのは紅の髪と琥珀の瞳を持つ美しい青年。
それを契機に、歌那の日常は変わり始める。
美しいあやかし達との出会いを経て、帝都を揺るがす大事件へと繋がる運命の糸車は静かに回り始める――。
※時代設定的に、現代では女性蔑視や差別など不適切とされる表現等がありますが、差別や偏見を肯定する意図はありません。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる