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「穂香さん、おはようございます」
「あっ、瑠璃ちゃんおはよう。あのね、今日お昼すぎにコンチェが届くことになったの」
「やったー!これでチョコレートが作れるようになりますね」
「そうね。カカオ豆は届いているから、コンチェが届いたらすぐ洗浄して作り始めましょう」
瑠璃はとても嬉しそうにしている。もちろん私も。
これからは自分が思うように自由にチョコレートを作れる。
夢が叶う瞬間にまた一歩近づけるのだ。
「届くのを待つあいだに焼き菓子の試作をしましょうか。瑠璃ちゃんはどれを作りたい?」
先日のレシピを見ながら、瑠璃はクルミのクッキーを、私はバターと蜂蜜のフィナンシェを選んだ。
瑠璃はすぐに材料を選び、手際よく生地を作っていく。
二つのボールに小麦粉やバター、卵、そしてフィナンシェの生地にはアーモンドプードルを入れて
「穂香さん、クルミは大きめと小さめ、どっちがいいと思います?」
「そうね...両方作ってみましょう」
「わかりました!」
瑠璃はどちらにするか質問しながらもう一つクッキーの生地を準備していた。私の答えがわかっていたのかな。
「穂香さん、これにクルミを混ぜて冷凍してもらえますか。あっ、ちょっと細めにしてください」
冷凍...アイスボックスクッキーってことね。
クルミを混ぜ込んだ生地を細めの棒状に成形して冷凍庫に入れる。そのあいだに瑠璃がフィナンシェの生地を仕上げて型に流し込んでいる。
フィナンシェの焼き上がりを待つあいだ、瑠璃に聞いてみた。
「瑠璃ちゃんは本当にパティシエールとして働いていたの?」
「ごめんなさい。それはここで働かせてもらうための口実です。青王様から穂香さんを見守るように言われて、どうすれば近くにいられるか考えたんです」
「でも瑠璃ちゃんが作るケーキは確かにプロ並みだった。手際もいいしちゃんと経験を積んでいるんだと思ったわ」
「お菓子作りが趣味というか、大好きなんです。王城ではほぼ毎日作っていました。だからそれなりに自信があったしなんとかごまかせるかなぁ、って...本当にごめんなさい」
だんだんとうつむき声も小さくなっていく。昨日から謝ってばかりの瑠璃を見たら、なんだかかわいそうな気がしてきた。あとは青王様に聞くことにしようかな。
『ピーッピーッ』とオーブンから焼き上がりの合図が聞こえてきた。バターと蜂蜜の甘い香りが広がっている。
「綺麗な焼き色ね。早く試食したいけど粗熱を取るあいだにクッキーも焼いちゃいましょう」
「それじゃあ生地のカットしちゃいますね」
瑠璃は冷凍しておいた生地にグラニュー糖をまぶしカットして天板に並べていく。クッキーの焼き上がりを待つあいだ、お待ちかねのフィナンシェの試食をすることに。
「うわぁおいしい!回りはサクッとして中はしっとりね」
「香りもいいですね。焦がしバターにしてよかった」
「ちゃんと焦がしバターを濾していて、丁寧に作っているなって思ったわ」
「濾さないと苦みが出ちゃいますからね」
改めて瑠璃が来てくれてよかったと思う。
チョコレート作りでは手を抜かないし自信もあるけれど、そのほかのお菓子を作るとき、私にはこんなに丁寧な仕事ができるかわからないから。
「フィナンシェなんですけど、チョコレートとかコーヒーや紅茶の味も試作してみていいですか?」
「もちろん。でも最初はオーソドックスなメニューを置こうと思うの。フレーバー違いは徐々に増やしていきましょう」
「わかりました。ふふっ、なんだか楽しいな」
「今までは楽しくなかったの?」
「楽しくなかったわけじゃないですけど、今までは自分が作りたいお菓子を作りたいときに黙々と作ってただけで、こうやって誰かと一緒に作って試食して、今度は違う味にしてみようとかそんなふうに考えたことなかったから」
思いついたことをメモしながら楽しそうにしている瑠璃は、本当に生き生きとしている。
「あっ、クッキーも焼けましたよ」
焼き上がったのは、ちょっと小さめでキラキラしたディアマンクッキーだ。
「一口サイズでかわいらしいわね。プレーンの生地だったら色付きのグラニュー糖をまぶしてもいいかも」
「味付きのザラメなんていうのもありますよ」
「それもいいわね。ある程度メニューが決まったら色々なクッキーやフィナンシェを試作してみましょう」
「はい!そろそろクッキーは冷めたかなぁ」
瑠璃は両手にクルミが大きめと小さめのクッキーを一枚づつ持って、もう待ちきれないという顔をしている。
私も両方持って、二人同時に食べ比べた。
「サックサクでおいしい!」
「クルミの食感もいいわね。私はクルミ大きめがいいかな」
「わたしも大きいほうがいいです」
「それなら、最初に並べるのはクルミ大きめにしましょう」
「お待たせしました!」
二人の意見をまとめていると、待っていたコンチェが届いた。
「ありがとうございます。ここに置いていただけますか」
「了解でーす!」
元気のいいお兄さんがコンチェを運び入れ、丁寧に設置をしてくれた。
「完了でーす!ありがとうございました!」
「あっ、これ試作品ですけどよかったらどうぞ」
瑠璃がラッピングをしておいてくれたフィナンシェとクッキーを渡すと、
「まじっすか!俺、こう見えて甘いもの大好きなんすよ!」
「それならよかったです。オープンしたらケーキもチョコレートも並べるので、ぜひいらしてくださいね」
「おねえさんたちもかわいいし、絶対きちゃいます!それじゃ失礼しまーす」
なんかすごい人だったね、と、瑠璃と顔を見合わせて笑ってしまった。
「あっ、瑠璃ちゃんおはよう。あのね、今日お昼すぎにコンチェが届くことになったの」
「やったー!これでチョコレートが作れるようになりますね」
「そうね。カカオ豆は届いているから、コンチェが届いたらすぐ洗浄して作り始めましょう」
瑠璃はとても嬉しそうにしている。もちろん私も。
これからは自分が思うように自由にチョコレートを作れる。
夢が叶う瞬間にまた一歩近づけるのだ。
「届くのを待つあいだに焼き菓子の試作をしましょうか。瑠璃ちゃんはどれを作りたい?」
先日のレシピを見ながら、瑠璃はクルミのクッキーを、私はバターと蜂蜜のフィナンシェを選んだ。
瑠璃はすぐに材料を選び、手際よく生地を作っていく。
二つのボールに小麦粉やバター、卵、そしてフィナンシェの生地にはアーモンドプードルを入れて
「穂香さん、クルミは大きめと小さめ、どっちがいいと思います?」
「そうね...両方作ってみましょう」
「わかりました!」
瑠璃はどちらにするか質問しながらもう一つクッキーの生地を準備していた。私の答えがわかっていたのかな。
「穂香さん、これにクルミを混ぜて冷凍してもらえますか。あっ、ちょっと細めにしてください」
冷凍...アイスボックスクッキーってことね。
クルミを混ぜ込んだ生地を細めの棒状に成形して冷凍庫に入れる。そのあいだに瑠璃がフィナンシェの生地を仕上げて型に流し込んでいる。
フィナンシェの焼き上がりを待つあいだ、瑠璃に聞いてみた。
「瑠璃ちゃんは本当にパティシエールとして働いていたの?」
「ごめんなさい。それはここで働かせてもらうための口実です。青王様から穂香さんを見守るように言われて、どうすれば近くにいられるか考えたんです」
「でも瑠璃ちゃんが作るケーキは確かにプロ並みだった。手際もいいしちゃんと経験を積んでいるんだと思ったわ」
「お菓子作りが趣味というか、大好きなんです。王城ではほぼ毎日作っていました。だからそれなりに自信があったしなんとかごまかせるかなぁ、って...本当にごめんなさい」
だんだんとうつむき声も小さくなっていく。昨日から謝ってばかりの瑠璃を見たら、なんだかかわいそうな気がしてきた。あとは青王様に聞くことにしようかな。
『ピーッピーッ』とオーブンから焼き上がりの合図が聞こえてきた。バターと蜂蜜の甘い香りが広がっている。
「綺麗な焼き色ね。早く試食したいけど粗熱を取るあいだにクッキーも焼いちゃいましょう」
「それじゃあ生地のカットしちゃいますね」
瑠璃は冷凍しておいた生地にグラニュー糖をまぶしカットして天板に並べていく。クッキーの焼き上がりを待つあいだ、お待ちかねのフィナンシェの試食をすることに。
「うわぁおいしい!回りはサクッとして中はしっとりね」
「香りもいいですね。焦がしバターにしてよかった」
「ちゃんと焦がしバターを濾していて、丁寧に作っているなって思ったわ」
「濾さないと苦みが出ちゃいますからね」
改めて瑠璃が来てくれてよかったと思う。
チョコレート作りでは手を抜かないし自信もあるけれど、そのほかのお菓子を作るとき、私にはこんなに丁寧な仕事ができるかわからないから。
「フィナンシェなんですけど、チョコレートとかコーヒーや紅茶の味も試作してみていいですか?」
「もちろん。でも最初はオーソドックスなメニューを置こうと思うの。フレーバー違いは徐々に増やしていきましょう」
「わかりました。ふふっ、なんだか楽しいな」
「今までは楽しくなかったの?」
「楽しくなかったわけじゃないですけど、今までは自分が作りたいお菓子を作りたいときに黙々と作ってただけで、こうやって誰かと一緒に作って試食して、今度は違う味にしてみようとかそんなふうに考えたことなかったから」
思いついたことをメモしながら楽しそうにしている瑠璃は、本当に生き生きとしている。
「あっ、クッキーも焼けましたよ」
焼き上がったのは、ちょっと小さめでキラキラしたディアマンクッキーだ。
「一口サイズでかわいらしいわね。プレーンの生地だったら色付きのグラニュー糖をまぶしてもいいかも」
「味付きのザラメなんていうのもありますよ」
「それもいいわね。ある程度メニューが決まったら色々なクッキーやフィナンシェを試作してみましょう」
「はい!そろそろクッキーは冷めたかなぁ」
瑠璃は両手にクルミが大きめと小さめのクッキーを一枚づつ持って、もう待ちきれないという顔をしている。
私も両方持って、二人同時に食べ比べた。
「サックサクでおいしい!」
「クルミの食感もいいわね。私はクルミ大きめがいいかな」
「わたしも大きいほうがいいです」
「それなら、最初に並べるのはクルミ大きめにしましょう」
「お待たせしました!」
二人の意見をまとめていると、待っていたコンチェが届いた。
「ありがとうございます。ここに置いていただけますか」
「了解でーす!」
元気のいいお兄さんがコンチェを運び入れ、丁寧に設置をしてくれた。
「完了でーす!ありがとうございました!」
「あっ、これ試作品ですけどよかったらどうぞ」
瑠璃がラッピングをしておいてくれたフィナンシェとクッキーを渡すと、
「まじっすか!俺、こう見えて甘いもの大好きなんすよ!」
「それならよかったです。オープンしたらケーキもチョコレートも並べるので、ぜひいらしてくださいね」
「おねえさんたちもかわいいし、絶対きちゃいます!それじゃ失礼しまーす」
なんかすごい人だったね、と、瑠璃と顔を見合わせて笑ってしまった。
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