超常の神剣 タキオン・ソード! ~闘神王列伝Ⅰ~

駿河防人

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第四章  ざわめく水面~朴念仁と二人の少女~

第九話  認識校正2

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 背後に少女が座る気配を察知しながら、ダーンが控えめに尋ねる。

「本当にいいのか……」

「なによ……意識しすぎだってば。べつにいやらしい意味でやるんじゃないんだから……っていうか、そんな風に考えたら、後ろからサイコレイで撃ち抜くわ」

「そ……そんなつもりはないけど……」

 どもりつつ答えながら、少し後ろめたい気分になるダーンは、とにかく冷静になろうと深呼吸をはじめる。  

『あのー、ステフ……男の子は色々と自分で制御の効かないところもあるので、ある程度は勘弁してあげて下さいね』

 またもや秘話状態で告げるソルブライトに、念話で『わかっているわよッ』と言い返すと、ステフも大きく深呼吸。

 意識を集中し、目の前の大きな背中の上、蒼い髪の頭部へと手を伸ばしていく。

「こ……こっち、絶対に振り向かないでよ」

 身長差のせいで腰を落としたままでは上手く届かないため、膝立ちになるステフ。

 もっとも、もっと彼の身体に接近すれば、膝立ちにならなくても頭頂部に手が届くが、全裸状態でそれほど接近するのも気が引けたのだ。

 ダーンの背後、湯面の上に艶やかな裸体を晒す。

「み……見ない……」

 緊張した声で短く答えたダーンの頭部に、ステフの両手が触れていく。

 頭部や顔のあたりは、普段から目にしている部位なので、この辺は簡単でいい。

 一度撫でれば、イメージとしてしっかりと彼の輪郭は掴める。

 そのまま腰を落とし、首筋を触れて背中に移っていくと、微かに彼の身体が震えた。

「な……なに?」

 指先に触れる感触が大きく震えたために驚いてしまうステフ。

「なんでもない……ちょっとくすぐったかっただけだ。気にしないでくれ」
 
 応じるダーンだったが、彼ら二人の声がやたらとうわっていた。

『ステフ……意識を集中して下さい。一応、私の方でもバックアップしていますが、確実に成功するわけではないんですよ』

「わかってるわよぉ……」

 少し泣きそうな声で応じつつ、ステフは彼の背中を両手で撫でていく。

 さすがは剣士の鍛え上げた肉体だ。

 掌に鋼のような筋肉の感触が伝わってくる。

――背中は……多分大丈夫。

 次に、両肩に触れて、鎖骨から胸の方に両手を回す。

 胸部の筋肉も思っていた以上に凄かった。

 触れ始めた瞬間はびくりとして引き締まり固かったが、力が抜けた状態だと結構柔らかい。

 というか、柔らかいままこの容量なら、よくある寄せてあげるタイプの矯正ブラを着けると、理想的な谷間ができるのでは?

 そんな風に考えて、脇の方から寄せ上げると――――

「あの……なんか遊んでないか?」

「え……あっ……ちがっ……そんなわけないでしょ」

 めちゃくちゃ焦って言い返すが、そのまま胸に触れていると気がついてしまう。

――うわー……男の人も触ると固くなるんだ。

 指先に触れた乳頭部分の感触に、どぎまぎするステフ。

 そのまま下に手をスライドして、複雑に割れた腹筋や脇腹に触れていく。

 でも、流石に下腹部までは触れずに今度は脚の方に触れようとして――――

「あっ……」

 とんきような声が背後で上がると同時に、背中に触れる濡れた柔らかな感触にダーンは、湯の中で全身を硬直させてしまう。

 脚を前に伸ばして座ったダーンの背後から、その大腿部に手を伸ばしていたため、彼の背中にステフの胸が触れてしまったのだ。

「ご……ごめんなさい……。その、こっち向かないように立ってくれる」

 ごにょごにょと申し向けると、素早く立ち上がってくれるが、目の前に引き締まったおしりが露わになってしまった。


――しまったぁ! 事態悪化ッ!


 猛烈な後悔とともに、慌てて目を背けるステフ。

 彼女たちがいるのは、立ち上がれば股下までしかない深さの湯殿だ。

 立ち上げれば当然の結果なのだが、彼の肉体に触れつつその輪郭を脳裏にかたどっていた彼女は、そこまで考えが及ぶほど余裕がなかったのだ。

 それは、ダーンの方も同じだったらしく、立ち上がって一拍おいた後、下半身が湯の外に露出していることに気がついたが――――

 そのまますぐに座ってしまったら、余計別のことを意識しているみたいなので、そのまま立ち尽くすしかなかった。

『まあ、見ながらの方が認識しやすいですけど……積極的で大胆な要求でしたね』


――うー……。


 ソルブライトの秘話状態での突っ込みに返す気力もなく、ステフはダーンの脚を両手で触れていく。

 腰骨から大腿部とその裏側、おしりの筋肉もしっかりと触れて、ひざのあたりや、彼女がよく蹴飛ばすすねにも触れて……すねの感触にドキドキしつつ脚もおおむね認識終了。

 あとは、いわゆる局部だけだ。

『ねえ、やっぱ……局部は触らなくてもいいよね……そんなとこ怪我するなんて……』

 助けを求めるようにソルブライトに念話を送るステフだったが、秘話状態で返ってきたのは――――

『急所と言われるくらいですから、その部分を狙ってくる敵もいますよ。……ただ、こんな状況ですから、それなりに御覚悟を……』

 返ってきた無慈悲な言葉に始めは肩をがっくりと落としたステフだったが、最後の方の言葉に妙に引っかかる気分になる。

『なによ、覚悟って?』

『今の状況……正常な男性ならば、もう生理現象として抑えられないものなのですが……』

 ソルブライトのわざとらしい困惑した念話。

『何言いたいかわかったから……もう言わないで』

 ステフは溜め息交じりに応じて最後に、焦点を合わせないように彼の臀部をぼんやりと見ながら、僅かに開いた彼の股下から手を回してその部分に触れようとする。

 だが――――

「やっぱ、流石にこれ以上はダメだ!」

 を上げて、慌てて座り込むダーン、そばにいたステフの顔に湯が跳ねてかかった。

 無防備に跳ねた湯をまともに顔面に喰らったステフは、目や鼻に温泉の湯が染みて涙目になり、口にも少し入り込んで、軽く咽せ返ってしまう。

 そんな中、彼女の中で自棄やけっぱちな想いが一気に膨らんで、これまで抱え込んでいた羞恥やら何やらがいっぺんに吹っ飛んだ。

「んもうッ! ここまできて何よッ。要は医者の触診みたいなものなのッ、いいわね」

 もはや破れかぶれにわめいたステフは、ダーンの背後から湯の中に両手を突っ込み、座った彼の腰元から回し、手探りで股間に触れる。

 少女の柔らかい手が、自分自身の敏感な部分を両手で包むように握ってくる感触。

 思わずダーンはとんきような声を上げ、全身を大きく跳ねるように震わせてしまった。

 一方のステフは、初めて触れる感触に脳が飽和状態になりながらも、認識校正を続けていく。

 何だか凄くみじめな気分になるダーン。

 ひとしきりステフがその部分を撫で回した後、不意に背中に暖かで柔らかな感触が密着してくる。

 それは、認識校正の最後に自分の肉体と相手の肉体を同じように大切な存在だと感じるための儀式的行為なのだが。

 背中越しに、少女の熱い鼓動が伝わってくると、やはり自分の胸の鼓動も呼応するように激しくなっていく。


 しばらくのあいだ密着していた背中から肩越しに、彼の耳元へと彼女口元が近付くと――――


「朴念仁って言ってもさ……貴方だって、やっぱり男だったみたいね………………この、ケダモノさん……」

 意地悪な声で優しくささやかれる。

「……面目ない……」

 肩を落とし応じるダーンに、真っ赤に火照った顔の少女が肩を揺らして笑う。

 彼女はそのまま両腕を彼の胸の方へ回して、背中から思いっきり抱きしめるのだった。
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