98 / 165
第三章 蒼い髪の少女~朴念仁と可憐な護衛対象~
エピローグ~左脛に走る痛みと、腕に抱いた柔らかさ~
しおりを挟むダーンが放った剣戟は、太刀筋で言えば《突き》だった。
ただし、ただの突きではない。
洗練された闘気を圧縮して剣先に乗せ、凄まじい速度の突きを放つ。
極限まで圧縮した闘気と音速をはるかに超越した剣先で生まれた衝撃波が、轟音と共に一直線に放たれ、はるか上空に舞う《魔核》を一瞬で貫いたのだ。
遠距離攻撃の、凄まじい威力を誇るその技はまるで砲撃である。
本来、剣が届かない標的への剣戟。
その威力は、《闘神剣》剣技の一つ空破閃裂斬よりもはるかに強力であった。
『秘剣・崩魔蒼閃衝……』
ソルブライトがダーンの放った剣戟についてと思われる呟きを漏らした。
その直後、ステフが手にした狙撃砲は銃身にひび割れを起こし、ガラスが割れるような音と共に粉々砕けて光の粒子となりながら消滅する。
ステフの右手に、改良された《衝撃銃》の本体だけが残った。
さらに、上空の《魔核》が消滅したことにより、発動していた魔法の罠が効力を弱め、ステフは身動きがとれるようになる。
と同時に、ステフ達の《固有時間加速》も途切れた。
ステフは身体の自由は取り戻せたものの、一度発動した捕縛の魔法はまだ発動中で、彼女の周囲を緋色の禍々しい羽が浮遊している。
「このぉッ」
ステフは《衝撃銃》を光る羽に向けるが……。
『ダメです、ステフ』
ソルブライトの警告もむなしく、ある程度の自由を取り戻したステフが自身を囲む禍々しい光を放つ羽に向かって《衝撃銃》を構え引き金を引いていた。
二発の衝撃波を収束した光弾が、緋色の光る羽をはじき飛ばした直後、発動した罠は完全に沈黙したが、同時に、ステフの握る《衝撃銃》の内部から、何かが砕ける嫌な異音が響く。
「え? 今のって」
掌から確実に伝わってきた異常な感触に、ステフは不吉な予感を覚えたが、すぐにソルブライトがその答えを示してきた。
『その《衝撃銃》の本体の炉心が砕けましたね。いくら追加銃身をしていたとはいえ、あれだけのエネルギーを射出するのです。本体の炉心も相当の負荷がかかっていたはず。せめて数分は撃たないで欲しかったところですが』
「そ……そんなこと今更言っても」
『貴女なら、このようなことくらい知っているかと』
「う……確かに知っていたけど」
気まずそうな表情を浮かべ、ステフは取り敢えずホルスターに銃を納める。
「大丈夫か?」
先程強力無比な一撃を放ったダーンが、剣を鞘に収めつつステフを覗うが――――
ステフはダーンの腕を視界に捉えるや、つかみかかりそうな勢いでダーンに近づき、
「貴方の方こそ大丈夫なの? 腕真っ赤じゃない」
慌てている声で言って、彼の右腕を手に取る。
ダーンの右肘の先から手首までがドロリとした出血により朱に染まっていた。
「ああ、その……見た目はアレだが、たいしたことないよ。まあ、少し無理はしたけど、筋肉までは損傷していないみたいだしな」
申し訳なさそうに言って、右手を開いたり閉じたりしてみせるダーン。
『……《秘剣》を撃つには些か力量が及びませんでしたね。技の威力と速度にその腕が耐えられなかったために毛細血管が破裂したのです。その出血量なら大事ないですが、早く治療を』
ソルブライトの言葉が早いか、ステフはダーンの腕を両手で支えたまま《治癒》のサイキックを発動する。
白い輝きがダーンの右腕を包み込み、刺すような痛みが和らぎ始めた。
『……ステフ、あまり無理をしないように。先程も言いましたが……』
「大丈夫よ……」
少し疲労感が感じられるステフの声。
彼女は《リンケージ》状態で強力な武器精製を行い、慣れない《固有時間加速》のサイキックや、上位のサイキック《予知》を発動させたため、現時点で精神的にかなり疲弊している。
「ステフ、もう大丈夫だ」
ステフの精神的な疲弊に気がついて、ダーンが静止するが……。
「いいえ……まだよ」
額に冷や汗を浮かべながら気丈にも言い返すステフ。
と、その時、その身体を包んでいた防護服が桜色に輝き、それも束の間、一瞬で光の粒子になって崩壊する。
ほんの一瞬透き通るような裸体を晒すが、すぐに最初に着ていた彼女の服が再生されて身体を包み込んだ。
魔物に引き裂かれた胸元も復元されており、まるでおろしたての状態であった。
「み……見たでしょ?」
白い輝きが消え、右腕の痛みが完全になくなったと思った瞬間、ステフが赤い顔のまま睨め上げてきた。
「いや……その、一瞬過ぎて何が何だか解らないってば」
たじたじになって答えるダーンも、心なしか顔を紅潮させている。
「正直すぎるのもどうかと思うわね……」
精神的な疲労から意識が飛びそうになってふらつきながらも、気力を振り絞って――――
ステフはダーンの左脛を蹴飛ばした。
「痛ッ……。……まったく、本当に大した女だな」
自分の脛を蹴飛ばした直後、意識を失ってこちらに倒れ込んできた蒼い髪の少女。
その華奢な身体を抱きとめつつ、ダーンは自然とこぼれた言葉に自嘲した。
跡も残さずに完治したその腕の中に、柔らかで温かい感触が伝わってくる。
そんな契約者達の間で、ソルブライトが微かに笑みをこぼしているのだった。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした
赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売です!】
早ければ、電子書籍版は2/18から販売開始、紙書籍は2/19に店頭に並ぶことと思います。
皆様どうぞよろしくお願いいたします。
【10/23コミカライズ開始!】
『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました!
颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。
【第2巻が発売されました!】
今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。
イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです!
素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。
【ストーリー紹介】
幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。
そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。
養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。
だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。
『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。
貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。
『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。
『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。
どん底だった主人公が一発逆転する物語です。
※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!
Levi
ファンタジー
前世は日本で超絶貧乏家庭に育った美樹は、ひょんなことから異世界で覚醒。そして姫として生まれ変わっているのを知ったけど、その国は超絶貧乏王国。 美樹は貧乏生活でのノウハウで王国を救おうと心に決めた!
※エブリスタさん版をベースに、一部少し文字を足したり引いたり直したりしています

どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)
水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――
乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】!
★★
乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ!
★★
この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。

地球から追放されたけど、お土産付きで帰ってきます。
火曜日の風
SF
何となく出かけた飛行機旅行、それは偶然の重なり、仕組まれた偶然。
同じく搭乗している、女子高校生3人組、彼女達も偶然だろう。
目を開けたら、そこは宇宙空間でした。
大丈夫だ、テレポートができる。
そこで気づいてしまった、地球に戻れないという事実を。
地球から追放したは、どこの誰だ?
多少の犠牲を払いながら、地球に戻ってきたら、今度は地球がピンチでした。
~~~~
カテゴリーはSFになってます。が、現代ファンタジーかもしれません。
しかし、お話の展開はインドアの人間ドラマが8割ほどです。
バトルはラスボス戦まで、一切ありません!
超能力の使用もほぼありません・・・
ーーーー
※男女の営みの描写はありません、空白になって情事後から始まります。
なろう、ツギクル、カクヨム転記してます。
続きの第2部をなろうにて始めました。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった
Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。
*ちょっとネタばれ
水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!!
*11月にHOTランキング一位獲得しました。
*なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。
*パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる