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第三章 蒼い髪の少女~朴念仁と可憐な護衛対象~
エピローグ~左脛に走る痛みと、腕に抱いた柔らかさ~
しおりを挟むダーンが放った剣戟は、太刀筋で言えば《突き》だった。
ただし、ただの突きではない。
洗練された闘気を圧縮して剣先に乗せ、凄まじい速度の突きを放つ。
極限まで圧縮した闘気と音速をはるかに超越した剣先で生まれた衝撃波が、轟音と共に一直線に放たれ、はるか上空に舞う《魔核》を一瞬で貫いたのだ。
遠距離攻撃の、凄まじい威力を誇るその技はまるで砲撃である。
本来、剣が届かない標的への剣戟。
その威力は、《闘神剣》剣技の一つ空破閃裂斬よりもはるかに強力であった。
『秘剣・崩魔蒼閃衝……』
ソルブライトがダーンの放った剣戟についてと思われる呟きを漏らした。
その直後、ステフが手にした狙撃砲は銃身にひび割れを起こし、ガラスが割れるような音と共に粉々砕けて光の粒子となりながら消滅する。
ステフの右手に、改良された《衝撃銃》の本体だけが残った。
さらに、上空の《魔核》が消滅したことにより、発動していた魔法の罠が効力を弱め、ステフは身動きがとれるようになる。
と同時に、ステフ達の《固有時間加速》も途切れた。
ステフは身体の自由は取り戻せたものの、一度発動した捕縛の魔法はまだ発動中で、彼女の周囲を緋色の禍々しい羽が浮遊している。
「このぉッ」
ステフは《衝撃銃》を光る羽に向けるが……。
『ダメです、ステフ』
ソルブライトの警告もむなしく、ある程度の自由を取り戻したステフが自身を囲む禍々しい光を放つ羽に向かって《衝撃銃》を構え引き金を引いていた。
二発の衝撃波を収束した光弾が、緋色の光る羽をはじき飛ばした直後、発動した罠は完全に沈黙したが、同時に、ステフの握る《衝撃銃》の内部から、何かが砕ける嫌な異音が響く。
「え? 今のって」
掌から確実に伝わってきた異常な感触に、ステフは不吉な予感を覚えたが、すぐにソルブライトがその答えを示してきた。
『その《衝撃銃》の本体の炉心が砕けましたね。いくら追加銃身をしていたとはいえ、あれだけのエネルギーを射出するのです。本体の炉心も相当の負荷がかかっていたはず。せめて数分は撃たないで欲しかったところですが』
「そ……そんなこと今更言っても」
『貴女なら、このようなことくらい知っているかと』
「う……確かに知っていたけど」
気まずそうな表情を浮かべ、ステフは取り敢えずホルスターに銃を納める。
「大丈夫か?」
先程強力無比な一撃を放ったダーンが、剣を鞘に収めつつステフを覗うが――――
ステフはダーンの腕を視界に捉えるや、つかみかかりそうな勢いでダーンに近づき、
「貴方の方こそ大丈夫なの? 腕真っ赤じゃない」
慌てている声で言って、彼の右腕を手に取る。
ダーンの右肘の先から手首までがドロリとした出血により朱に染まっていた。
「ああ、その……見た目はアレだが、たいしたことないよ。まあ、少し無理はしたけど、筋肉までは損傷していないみたいだしな」
申し訳なさそうに言って、右手を開いたり閉じたりしてみせるダーン。
『……《秘剣》を撃つには些か力量が及びませんでしたね。技の威力と速度にその腕が耐えられなかったために毛細血管が破裂したのです。その出血量なら大事ないですが、早く治療を』
ソルブライトの言葉が早いか、ステフはダーンの腕を両手で支えたまま《治癒》のサイキックを発動する。
白い輝きがダーンの右腕を包み込み、刺すような痛みが和らぎ始めた。
『……ステフ、あまり無理をしないように。先程も言いましたが……』
「大丈夫よ……」
少し疲労感が感じられるステフの声。
彼女は《リンケージ》状態で強力な武器精製を行い、慣れない《固有時間加速》のサイキックや、上位のサイキック《予知》を発動させたため、現時点で精神的にかなり疲弊している。
「ステフ、もう大丈夫だ」
ステフの精神的な疲弊に気がついて、ダーンが静止するが……。
「いいえ……まだよ」
額に冷や汗を浮かべながら気丈にも言い返すステフ。
と、その時、その身体を包んでいた防護服が桜色に輝き、それも束の間、一瞬で光の粒子になって崩壊する。
ほんの一瞬透き通るような裸体を晒すが、すぐに最初に着ていた彼女の服が再生されて身体を包み込んだ。
魔物に引き裂かれた胸元も復元されており、まるでおろしたての状態であった。
「み……見たでしょ?」
白い輝きが消え、右腕の痛みが完全になくなったと思った瞬間、ステフが赤い顔のまま睨め上げてきた。
「いや……その、一瞬過ぎて何が何だか解らないってば」
たじたじになって答えるダーンも、心なしか顔を紅潮させている。
「正直すぎるのもどうかと思うわね……」
精神的な疲労から意識が飛びそうになってふらつきながらも、気力を振り絞って――――
ステフはダーンの左脛を蹴飛ばした。
「痛ッ……。……まったく、本当に大した女だな」
自分の脛を蹴飛ばした直後、意識を失ってこちらに倒れ込んできた蒼い髪の少女。
その華奢な身体を抱きとめつつ、ダーンは自然とこぼれた言葉に自嘲した。
跡も残さずに完治したその腕の中に、柔らかで温かい感触が伝わってくる。
そんな契約者達の間で、ソルブライトが微かに笑みをこぼしているのだった。
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