超常の神剣 タキオン・ソード! ~闘神王列伝Ⅰ~

駿河防人

文字の大きさ
上 下
97 / 165
第三章  蒼い髪の少女~朴念仁と可憐な護衛対象~

第三十六話  秘剣

しおりを挟む
 
 蒼い閃光が収束して空を裂いた。

 加速した感覚をもってしても、その弾道を追い切れない。

 圧倒的な威力と凄まじい速度をもって、衝撃波はカラス馬の肉体とその直前に展開された魔法障壁をいとも簡単に貫く。

 ダーンは、華奢きゃしゃな背中から左手を通じ、一瞬流れてきた切ない哀愁に苦い思いを抱きつつ、強力な衝撃波の束が《魔核》を完全に破壊するのを察知した。


――なんだ?


 はるか上空を飛翔していたカラス馬、その《魔核》が消え去りその肉体が崩壊しかけた姿を見ながら、何故かダーンは言い得ぬ不快を感じていた。


 そう、不快感だ。


 何かがしっくりこない、でも、それがなんなのかはっきりしない。

 まるで、濃霧の中に見知っているはずの人影を認め、しかしそれが誰なのか判別できないような……。

 思えば今回の戦闘で、《魔核》を持つ魔物を三体も撃破したことになる。

 ステフが神器ソルブライトとの契約を経て、限定的とは言え大地母神の力を借り、それによって予測していたよりも容易に三体の魔獣をほふることに成功した。

 始めの二体がそれほど凶悪な存在ではなかったし、本来なら一番厄介な相手になるはずだったグレモリーと名乗った異界の神たる女を、早々にミランダが撃退してくれたのも大きい。

 その後相手にしたカラス馬に関しては、ソルブライトの協力なしでは、とても突破できなかったが――――

 それをこうして撃破したばかりなのに、そう……何かがしっくりこない。

 未だ加速し、さらにステフとの《ユニゾン》で、《予知フォーサイト》のサイキックまでも身につけ始めたダーンの知覚が、カラス馬の肉体が崩壊していくにつれて警鐘を強くする。


 そもそも、これら魔獣は、誰がなんの目的で放ったものなのか。


 《魔核》を持って自然界の生物から魔物を精製したのは、禍々しいまでの赤を髪となびかせる、グレモリーと名乗った異界の女だ。


 彼女の目的はなんだったか?


 このような魔物を精製しこちらにけしかけたのは、一体どのような意図なのか?


――あの女の目的は!


 ダーンの脳裏に一瞬、赤みのかかった銀髪を持つ少女の面影がちらつく。

 その彼女が話していた内容をおぼろに思い出して、彼の不快感は一気にせんりつへと激変した。

 上空では、《魔核》が崩壊したはずのカラス馬の肉体が一気に破裂し、赤黒い霧となっていた。

 その霧が上空に平面的な円状に広がって、異様ながく模様やら、不可解な文字らしきものをかたどり、禍々しい波動を放ち始めている。

 それと同時に、ミランダが防御障壁ではじき落としていたカラス馬の放った弾丸、その正体である黒い羽が、ステフの足下で広がり、無数の羽が大地にやはり禍々しい模様を描いていた。


――強制転移と捕縛系の魔法ッ!


 そうだ。


 あの女――――
 
 リンザー・グレモリーの目的は、ステフの殺害ではなく拉致!

 強力な魔物を三体も用意していたことで、こちらのせんめつを目的にしているように見せかけ、実際には、ステフを無傷で捕縛・転移させるための魔法的罠を仕組んでいんとくしていたのだ。

 《固有時間加速クロック・アクセル》を発動中のダーンやステフでさえも逃れるいとまを与えない速度で、その魔法の罠は発動する。

 上空には、赤黒い霧で描かれた魔方陣の中心に、《魔核》が不吉な光を放っていた。

 あの《魔核》は、恐らく合成された馬の魔物かもしくはカラスの魔物の核だったものだろう。

 あのカラス馬の魔物は、一つの《魔核》だけで形成されてはいなかったのだ。

 予め合成する素体であるカラスと馬のそれぞれに《魔核》埋め込ませておき、敵の接近に合わせて埋め込まれた二つの《魔核》が発動し、接敵する直前に二つの魔物を合成する。

 そして合成が完了したのならば、二つある《魔核》のうち、片方を休止させて、一つしか《魔核》がないと錯覚させ、この魔導の罠を隠匿、万が一にも本来の目的を悟られないようにしていたようだ。

 敵は、こちらがカラス馬を撃破することも予測していたのだろう。

 魔獣を活動させていた《魔核》が撃破されこちら気を緩める瞬間に、休止していた《魔核》は本来の目的であるステフの捕縛という罠を発動させるという仕組みだったのだ。

  その罠は、どうやら上空の魔方陣が制御システムで、羽で出来た魔方陣が、亜空間への扉を担っているようだが――――


――クッ……だが、ステフは……絶対に渡さないッ!


 既に罠が発動し、血の赤を連想させる緋色の光を放ち始めた羽に囲まれ、驚きあえぐステフ。

 彼女は、発動した魔法により身体の自由がきかないことに驚愕し、かろうじて後ろのダーンを振り向いた。


 その次の瞬間――――


 ステフの鼓膜に、大気が膨張することで生まれたごうおんが打ち込んでいた。


 一瞬前、蒼い髪の少女が琥珀の瞳に映したのは、彼女の背中から手を離しいつの間にか抜剣していたダーンの姿だった。

 ダーンは、抜剣の直後、《固有時間加速クロック・アクセル》の状態で強化された感覚を持つステフさえも知覚不能な速度で凄まじいけんげきを放っていた。

 音速をはるかに上回る剣先の速度と、圧縮された膨大な闘気が、意思の力によって精練され幾重にも重なった衝撃波を形成する。

 それはあまりに強烈で、引き裂く大気中の分子を崩壊、プラズマ化させながら、怒涛の破壊力を孕む閃光となって上空の《魔核》へと迫っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放幼女の領地開拓記~シナリオ開始前に追放された悪役令嬢が民のためにやりたい放題した結果がこちらです~

一色孝太郎
ファンタジー
【小説家になろう日間1位!】 悪役令嬢オリヴィア。それはスマホ向け乙女ゲーム「魔法学園のイケメン王子様」のラスボスにして冥界の神をその身に降臨させ、アンデッドを操って世界を滅ぼそうとした屍(かばね)の女王。そんなオリヴィアに転生したのは生まれついての重い病気でずっと入院生活を送り、必死に生きたものの天国へと旅立った高校生の少女だった。念願の「健康で丈夫な体」に生まれ変わった彼女だったが、黒目黒髪という自分自身ではどうしようもないことで父親に疎まれ、八歳のときに魔の森の中にある見放された開拓村へと追放されてしまう。だが彼女はへこたれず、領民たちのために闇の神聖魔法を駆使してスケルトンを作り、領地を発展させていく。そんな彼女のスケルトンは産業革命とも称されるようになり、その評判は内外に轟いていく。だが、一方で彼女を追放した実家は徐々にその評判を落とし……? 小説家になろう様にて日間ハイファンタジーランキング1位! ※本作品は他サイトでも連載中です。

加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました

ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。 そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。 家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。 *短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜

甲殻類パエリア
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンだった深海玲司は仕事帰りに雷に打たれて命を落とし、異世界に転生してしまう。  秀でた能力もなく前世と同じ平凡な男、「レイ」としてのんびり生きるつもりが、彼には一つだけ我慢ならないことがあった。  ——パンである。  異世界のパンは固くて味気のない、スープに浸さなければ食べられないものばかりで、それを主食として食べなければならない生活にうんざりしていた。  というのも、レイの前世は平凡ながら無類のパン好きだったのである。パン好きと言っても高級なパンを買って食べるわけではなく、さまざまな「菓子パン」や「惣菜パン」を自ら作り上げ、一人ひっそりとそれを食べることが至上の喜びだったのである。  そんな前世を持つレイが固くて味気ないパンしかない世界に耐えられるはずもなく、美味しいパンを求めて生まれ育った村から旅立つことに——。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます

銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。 死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。 そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。 そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。 ※10万文字が超えそうなので、長編にしました。

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

処理中です...