超常の神剣 タキオン・ソード! ~闘神王列伝Ⅰ~

駿河防人

文字の大きさ
上 下
85 / 165
第三章  蒼い髪の少女~朴念仁と可憐な護衛対象~

第二十四話  大地の抱擁2

しおりを挟む

 具象結界で作られた洞窟内を歩き進むこと一時間あまりが経過していた。

 未だ、出口や終着点は見えてきてはおらず、進もうとする先は三十メライほど先しか視認することが出来ない状態で、その先は暗闇になっている。

 その暗闇はダーンとステフが歩を進めていく度に、先の方の闇が晴れていくような仕掛けだった。

 いや、もしかしたら、彼らが歩を進める度にその先が形成されていくようになっているのかもしれない。

 洞窟の地面は乾いた岩場で、凹凸も少なく傾斜もなかったが、何故か進むにつれて足取りが重くなっているように感じられた。


「いつになったら着くのよ……」

 少々息を切らしながら、ステフは独り言のように悪態を吐く。

 その隣を歩いていたダーンも同じような気分だったが、彼は別のことで悪態を吐きたい気分になっていた。

 それは、自分自身のかつさに対してだ。

 この具象結界の特性を今更ながらに気がついたのだが――――

 自分たちが感じている足取りの重さは、何時までも終わりが見えない洞窟の長さや、歩き続けた疲労によるものではない。

「ステフ……ここ、どうやら重力が強くなっていくみたいだ」

 ダーンは額に浮いた汗を手で拭いながら、気がついた点を彼女に告げると、ステフも軽く頷いた。

「やっぱり……。あたしもそんなことだろうとは思っていたのよ。でも、正直自信がなくて言わなかったの。歩く度に微かに、でも確かに重力が強くなっていく仕掛けのようね」

 歩み続ける自分の足先を見つめながらステフは応じた。

「気がついてたか……でも未だに魔力や法術の気配は感じないんだ。この結界の特性だろうとは思うけど」

 具象結界自体は、その形成を魔法によって行う者と法術によって行う者がいるが、どちらも今のダーンなら術式の根源たる気配を感じることが出来るはずだった。

 しかし、周囲に感じる気配は術者の心象のざんみたいなものだけで、肝心の魔力や法術そのものの気配を感じることが出来ないでいる。

 カリアスの使った《灼界》では、心象の残滓の他に、彼が用いた法術の気配もちゃんと感じられたのだが……。

「そうなると、もしかしてこれって具象結界じゃないんじゃ……」

 ステフの疑うような視線に、ダーンは少しムッとして、

「そんなはずはない。この空気は確かに具象結界のものだよ。現実を術者の描いた心象によって変質させているからこそ、微かに心象の残滓を感じるんだ。ただ……この感じはなんとなく悪い気がしないんだよな……何というか、まるで優しく包まれているような……」

 ダーンが昨日カリアスに引き込まれた《灼界》では、その場に居続けることがつらく感じるように意図的に環境を悪化させたものだったが、今回のものは違っていた。

 徐々に重力が強まっていくこと以外、ここの環境は奇妙な安心感すら与えてくるものだ。

 だからこそ逆に、重力が強まっていく仕掛けに気がつきにくかったのかもしれない。

「その感覚、あたしも感じるんだけど……なーんか、つい最近どこかで感じたような感覚なのよね……」

 そう呟きつつステフは、途方もなく続いているようなこの洞窟の気配に、自分たちを包み込むどころか圧倒的なまでの包容力を感じていた。


 これに似た感覚は一体何時どこで感じたものだったろうか。


 自分がよく知る《蒼の聖女》も、確かにこのような包容力を持っていた気もするが、彼女のものとは明らかに異質だ。

 実は、ステフが思案していく中で、ただ一人だけここの雰囲気と似たようなイメージの人物に思い当たるが、確証もなくはっきりとしたことがわからない。

 そして、ここが岩肌に囲まれた洞窟の中だからなのか、周囲に満ちる空気には何となく大地の臭いのようなものを感じるのだが……。

 そんな風に思案しつつ歩き続けていたステフの視線の先で突如、新たに開けてきた洞窟の景色に変化が生じていた。

「ステフ!」

 視線の先に生じた変化に、ダーンは即座に長剣を抜刀してステフの前におどり出る。

 その変化とは、彼らが歩いて行こうとした先の大地が隆起して、歪な石像のように立ちふさがっていたものだ。

 ダーンが抜刀した直後、限りなく人型に近いその石像は、人の頭部に見立てた部分に赤い眼光のような光を灯しつつ彼らに襲いかかってきた。

「これって……石のゴーレム?」

 言いながらスカートの中から《衝撃銃》を抜き出すステフ。

「見た目はな。でも妙だぞ、魔力を感じない」

 ステフの言葉に応じながら、ダーンは前に飛び出してゴーレムの攻撃に対応しようとする。

 ダーンがあえて前に飛び出たのは、相方のステフが近接戦闘に向かないタイプだったからだが、こちらに迫る石のゴーレムはダーンの動きを予測していたかのように、石の腕を振り上げて彼の頭部めがけて一気に振り落としてきた。

 石のゴーレムは、その見た目二メライ以上の巨体であるのにその動きは俊敏で、振り下ろされた石の拳は大気を振るわせる轟音を孕んでダーンに迫る。

 石の塊の強烈な一撃を、ダーンは無理に長剣で受け止めようとはせずに、身をひねって寸前のところで躱すと、石の拳が大地をひしゃげるのを尻目に、その腕の付け根に洗練された闘気を纏う長剣の斬撃をたたき込んだ。

 石と金属の打ち合う音が洞窟内を反響し、ステフの視界にはダーンの剣とゴーレムの腕との間ではじけた火花が映り込む。

「あまり無駄弾は撃ちたくないんだけどッ」

 吐き捨てつつ、ステフは動きの止まったゴーレムの頭部、赤く光る眼光めがけて《衝撃銃》を二連射した。

 ステフの放った衝撃波の銃弾は、けんせいの為に撃ち込んだものだ。

 石で出来たゴーレムがその目に当たる部分だけ赤く光らせているのは、何とも怪しいところだが、まさかこれほどわかりやすい弱点もないだろうし、一般的にゴーレムは魔核により駆動している存在だ。

 昨夜撃破した花弁の魔物同様、その活動を停止させるには、どこかにいんとくされた魔核を探し出し破壊するしかない。

 そう考えていたステフだったが、《衝撃銃》を撃った後、彼女はその結果に拍子抜けしてしまう。

 赤い眼光を撃ち抜いた瞬間、石のゴーレムはその動きを不自然に止めてしまい、さらにその巨体が砂になって崩れていくではないか。

「え? うそ、なんかあっけないわね」

 少し上擦った声で言うステフだったが、ダーンは警戒を解かずに砂となって崩れるゴーレムから間合いをとるように後ずさる。

「いや……まだだッ」

 ステフの方を振り返らずに警告するダーンの前で、砂となって崩れ落ちていたゴーレムの残骸が、不自然にいくつかの塊に集まっていく。

「今度は何?」

 誰にともなく問い詰めるステフ、その琥珀の瞳に映っていくのは砂が固まってさらに水分を少し含んだ粘土の塊だった。

 黄土色の粘土の数は五つ、それらはうねうねと脈打ってから、これまた人型になっていく。

「土人形……というか土で出来た剣士か」

 ダーンは長剣を正中に構えて言う。

 黄土色の人型をした粘土は、剣を持つ兵士の形になって、ダーンに襲いかかった。

「色々と芸が細かいわね」

 嫌みのように悪態を吐いて、ステフはダーンから少し離れた位置に立つ土の兵士に衝撃銃を連射する。

「全くだ」

 ダーンも溜め息交じりに言い捨てて、正面に立つ土の兵士に斬撃をお見舞いする。

 ダーンの長剣を土の兵士は手にした土製の剣で受け止めようとするが、それはやはり土でしかなく、斬撃を打ち込んだダーンですら拍子抜けするくらい簡単に土の剣は真っ二つになり、そのまま兵士の身体も切り裂かれた。

 昨日の昼間相手にした、鈍色の金属兵達とは違い、驚くほど簡単に土の兵士は切り裂かれて動きを止め、さらにそのまま砂となって崩れ落ちた。

 そしてステフが衝撃銃で撃ち抜いた兵士達も、数発の光弾を受けて砂になってしまう。

「なんなの? このあっけなさ……」

 ダーンがさらにもう一体の兵士を始末するウチに、ステフが連射した光弾が残りの土の兵士に風穴を開けていた。

 全ての土の兵士が砂になり、少しだけ安堵しつつ、やはり無駄に貴重な残弾を消費してしまったことを悔やむステフだったが、次の瞬間、彼女の視界が黄土色一杯になっていた。

「うわッ」

 土の兵士のなれの果て、その砂が突如勢いよく舞い上がり、黄土色の土煙が小さな竜巻のように渦を巻いてダーンの身体を包み込んだ。

「ダーン!」

 慌ててステフが駆け寄ろうとするが――――

 細かい砂の粒子が行く手を阻み、無理に突入すれば体中砂だらけになるどころか、目や鼻に砂の粒子が入り込みただではすまないだろう。

 巻き起こる土煙の竜巻の前に、ステフが蹈鞴たたらを踏んでいると、程なくして土煙の中からダーンの声が力強く聞こえてきた。

「大丈夫だ! ステフ、今吹き飛ばすから離れていてくれ」

 その言葉に胸を撫で下ろし、ステフは振り返って距離をとると、それを待っていたかのように、土煙の竜巻が内部から風船をぜさせるようにかき消える。


「大丈夫? ダーン……って……ええッ?」


 土煙が晴れて姿を現した人影を琥珀の瞳に映したステフは、洞窟内に思いっきり反響するとんきような声を上げてしまった。


 その彼女の前に、軽い砂埃をかぶったダーンがなんと二人立っていたのだ。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

令和の俺と昭和の私

廣瀬純一
ファンタジー
令和の男子と昭和の女子の体が入れ替わる話

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます

銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。 死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。 そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。 そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。 ※10万文字が超えそうなので、長編にしました。

【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!

しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。 けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。 そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。 そして王家主催の夜会で事は起こった。 第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。 そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。 しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。 全12話 ご都合主義のゆるゆる設定です。 言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。 登場人物へのざまぁはほぼ無いです。 魔法、スキルの内容については独自設定になっています。 誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。

処理中です...