超常の神剣 タキオン・ソード! ~闘神王列伝Ⅰ~

駿河防人

文字の大きさ
上 下
66 / 165
第三章  蒼い髪の少女~朴念仁と可憐な護衛対象~

第五話  宿屋の親子

しおりを挟む

 ノムという少年を保護し、アリオスの街にダーンとステフがたどり着いた頃には午後十時半を回っていた。
 
 街に三人で歩いてくる道中、話題となったのは、当然ノムがなかなか狩りから帰って来なかった事情だ。

 ノム少年曰く、帰宅途中に野犬に襲われたとのことだが、その話をノム自身から聞かされている中で、ダーンは異様にひっかかる部分があった。

 それは、ノムが崖から落下した一件だ。

 崖を落ちている最中に意識を失ったが、その後崖の下から離れた小川の側で目を覚ましたこと。
 その際、怪我はなかったが、彼を介抱してくれた銀髪の女性がいたという二つの点だ。

 ノムが落下した崖というのは、彼の話だと高さ五十メライはあるらしい。

 その高さを落下してはとても命は助からないはずだが、彼は一切の怪我もなく、崖を落ちたことそのものが勘違いなのではないかと疑いたくなる。

 しかし、ステフが崖の下でノムの持っていた狩猟用ライフルを拾っていることから、どうも崖を落下したのは間違いないようだ。

 そうなると考えられるのは、ノムを介抱してくれたという銀髪の女性が、何らかの方法で落下するノムを助けたということだが。

 五十メライの高さから落下する人間を助ける方法とはなんだろうか。

 ダーンは、その方法が何らかの超人的な能力によるものではないかと推測する。

 いずれにしても、あの森にはそういった人物が一人、自分たちが魔物と戦う直前まで近場にいたということである。


――ノムを助けてくれたということは、必ずしも敵とは限らないが……。


 ダーンはそう思いつつも、あの場に、何者かが魔力で花弁の魔物をステフにけしかけたことと平行して思案する。

 ノムを助けた超人的な能力を持つ女性と、自分たちが戦った魔物を放った人物が、同じ場所にいたのは単なる偶然と、安易に考えはしない。

 そんなにホイホイと超人的な力の持ち主がいるわけがない。

 むしろ、同一人物なのではないか……そう考えるのが妥当だ。

 この先も用心する必要はある。

 そう結論づけるダーンは、ノムに気づかれないようにステフの左手を軽く右手で握った。

 その瞬間――――

「ひゃぁッ」

 いきなり手を繋がれて、とんきような声がもれ出し背筋をピンッと伸ばすステフ。

 恨めしそうに琥珀の視線を半眼にしてダーンを睨むが……。

 その視線に少し怯むダーンが、念話で先の推察を告げると、ステフも同意見と相づちを返した。

 ついでに、『ビックリするでしょうが、この朴念仁ッ』という抗議まで、ずしり重い念としてダーンの脳内に響く。

 二人がそんな風にする内に、ノムの自宅である宿屋が見えてきた。



「ノム!」

 玄関のすぐ脇で、息子の無事を必死に祈りつつ待っていた女性が涙声を高く上げる。

 その声の主、ミランダ・ガーランドがノムの姿を認めるやこちらに走り出していた。

「かあさん……その、心配かけてごめん」

 素直に謝る息子をミランダは抱きしめていた。

 その姿を見て、ステフがほっとしたように口元を緩めている。

 ダーンも同じような気分だったが……。

 彼は口元を少しだけ緩めて見せたものの、言い得ぬ不安が頭から離れないでいたのだった。




     ☆




 ノムをミランダの元に連れてきたダーンは、元々ステフがこの宿に宿泊しているということもあって、今夜は同じく自分もこの宿に部屋を用意してもらうこととなった。
 
 その際は、ミランダから熱烈な歓迎を受け、宿代はサービスするとまで言われたほどだ。
 
 流石にタダで宿泊は恐縮すると申し向けると、代わりに食事だけでもおごらせて欲しいと言われて……。

 そんなわけで、ガーランド親子とステフの四人で、夕食というよりは夜食といった感じで軽めの食事をとっている。

 個人経営の宿にしては広めの食堂、その片隅に正方形をした四人掛けの木製テーブルで彼ら四人は掛けていた。

 テーブル上には、さっぱりとした風味の燻製サーモンを使ったオードブルや、自家製チーズ、新鮮でしっかりと冷水に晒しシャキシャキと歯ごたえのいい野菜サラダ、クルミとチーズの自家製パンなどが並んでいる。

 簡単なものとはいえ、妥協を許していないミランダの料理に舌鼓するダーン。

 そのダーンから見て、正面にノムが座り、右側にはダーンの取り皿に料理を盛りつけては、グレープジュースなどを勧めてくるミランダの姿がある。

 そして左側にはナイフとフォークを上品に使いこなし、黙々と食事するステフの姿が――――
 時折、刺すような視線を送ってきていた。

「ダーンさん、まだまだおかわりはありますから遠慮なさらないで下さいね」

 ダーンの方に身を乗り出すようにして、ミランダは彼の取り皿にパンとチーズ等を乗せる。

「あ、ありがとうございます……ミランダさん」

 取り皿を受け取りつつ、若干どぎまぎするダーン。

 その姿をステフが横目で見ているが、その不機嫌さは、ダーンにもしっかりと伝わってきていた。

 ミランダの好意は嬉しいのだが――――

 彼女の服装は胸元が割と開いたワンピースで、豊満なバストの谷間がちらついて、流石の朴念仁も視線のやり場に困る。

 そんな自分とミランダのやりとりを隣で見ているステフが、随分と機嫌が悪いのは、任務中の傭兵のクセして気を緩めすぎていると怒っているからだろうか?


 そのような、見当違いをしているダーンと、その左側に座り不機嫌オーラ出まくりのステフ。

 その二人を眺めつつ、ノムはニヤニヤとしながら食事を進めていた。




     ☆




 ステフは、口に運んだくんせいサーモンを必要以上にしやくしながら、ミランダの身体の一点を見て思う。


――大きいわね……やっぱ。


 自分も、その部分については人並み以上であることは間違いない。

 だがミランダは背も高く、身体の線もしっかりしているので、その部分はやたら迫力があるように感じられた。


――トップとアンダーの差は負けていないと思うけど――――って、馬鹿か……あたし。


 うかつな思考をれいに流すように、手元のグラスに注がれているグレープフルーツジュースを飲みこむ。

 のど元を通過する酸味がさわやかで、もやもやとした気分を少しは和らげてくれた。


――それにしても……


 ミランダ・ガーランドには、会ったときから奇妙な感覚を覚えていた。


 彼女からは、とてつもなく大きな存在感を抱かされている。

 決して胸が大きいからではない。

 いや、それも……少しは要因として認められなくもないが……。

 存在感とは、彼女から感じる気配についてだ。

 彼女からは、何もかもを包み込むような母性を感じるのだ。

 その母性は彼女の息子に向けられたものだけでなく、ほかの何か――――

 イメージとしては大地に生けとし全てのものをほうようするかのようなもの。

 対して、息子のノムからは、何だかその年齢よりも下に感じるくらい、悪戯っぽいイメージを感じている。

 そのせいか、この親子を端から見ていると、もっと幼い子供とその母親のイメージだ。

 自分は、あまり街の人々と接したことも少ない。

 特にこのアテネでは、自分は異郷人で、こちらの風習には疎い。

 だから、この親子から奇妙な感覚を覚えるのかもしれないが……。

 そんな風に考えている内に、ダーンの頬についたサラダのドレッシングをミランダがハンカチで拭き取ろうと身を乗り出す情景が、琥珀の瞳に映る。

 その瞬間に、グラスが倒れる軽い音と、「あっ……ごめんなさい」というミランダの声が耳に響いてきたが、そんなことよりも――――

 ミランダの謝罪の直前……身を乗り出した彼女の揺れる胸がグラスを弾いていたのだが。

 琥珀の瞳がその光景しっかりと捕らえていた。


――ぐッ……がまん……がまんよ、あたし。


 なんとか理性と自尊心で感情の爆発を抑えて……妙な感覚は、やっぱりあの胸のせいだ、と思い直しているのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

散々利用されてから勇者パーティーを追い出された…が、元勇者パーティーは僕の本当の能力を知らない。

アノマロカリス
ファンタジー
僕こと…ディスト・ランゼウスは、経験値を倍増させてパーティーの成長を急成長させるスキルを持っていた。 それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。 するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。 それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき… 遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。 ……とまぁ、ここまでは良くある話。 僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき… 遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。 「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」 それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。 なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…? 2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。 皆様お陰です、有り難う御座います。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

異世界で幸せに

木の葉
ファンタジー
新たな生を受けたキャロルはマッド、リオと共に異性界で幸せを掴む物語。 多くの人達に支えられながら成長していきやがては国の中心人物として皆を幸せにしていきます。

金喰い虫ですって!? 婚約破棄&追放された用済み聖女は、実は妖精の愛し子でした ~田舎に帰って妖精さんたちと幸せに暮らします~

アトハ
ファンタジー
「貴様はもう用済みだ。『聖女』などという迷信に踊らされて大損だった。どこへでも行くが良い」  突然の宣告で、国外追放。国のため、必死で毎日祈りを捧げたのに、その仕打ちはあんまりでではありませんか!  魔法技術が進んだ今、妖精への祈りという不確かな力を行使する聖女は国にとっての『金喰い虫』とのことですが。 「これから大災厄が来るのにね~」 「ばかな国だね~。自ら聖女様を手放そうなんて~」  妖精の声が聞こえる私は、知っています。  この国には、間もなく前代未聞の災厄が訪れるということを。  もう国のことなんて知りません。  追放したのはそっちです!  故郷に戻ってゆっくりさせてもらいますからね! ※ 他の小説サイト様にも投稿しています

元使用人の公爵様は、不遇の伯爵令嬢を愛してやまない。

碧野葉菜
恋愛
フランチェスカ家の伯爵令嬢、アンジェリカは、両親と妹にいない者として扱われ、地下室の部屋で一人寂しく暮らしていた。 そんな彼女の孤独を癒してくれたのは、使用人のクラウスだけ。 彼がいなくなってからというもの、アンジェリカは生きる気力すら失っていた。 そんなある日、フランチェスカ家が破綻し、借金を返すため、アンジェリカは娼館に売られそうになる。 しかし、突然現れたブリオット公爵家からの使者に、縁談を持ちかけられる。 戸惑いながらブリオット家に連れられたアンジェリカ、そこで再会したのはなんと、幼い頃離れ離れになったクラウスだった――。 8年の時を経て、立派な紳士に成長した彼は、アンジェリカを妻にすると強引に迫ってきて――!? 執着系年下美形公爵×不遇の無自覚美人令嬢の、西洋貴族溺愛ストーリー!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

そして、アドレーヌは眠る。

緋島礼桜
ファンタジー
長く続いた大戦、それにより腐りきった大地と生命を『奇跡の力』で蘇らせ終戦へと導いた女王――アドレーヌ・エナ・リンクス。 彼女はその偉業と引き換えに長い眠りについてしまいました。彼女を称え、崇め、祀った人々は彼女の名が付けられた新たな王国を創りました。 眠り続けるアドレーヌ。そこに生きる者たちによって受け継がれていく物語―――そして、辿りつく真実と結末。 これは、およそ千年続いたアドレーヌ王国の、始まりと終わりの物語です。 *あらすじ* ~第一篇~ かつての大戦により鉄くずと化し投棄された負の遺産『兵器』を回収する者たち―――狩人(ハンター)。 それを生業とし、娘と共に旅をするアーサガ・トルトはその活躍ぶりから『漆黒の弾丸』と呼ばれていた。 そんな彼はとある噂を切っ掛けに、想い人と娘の絆が揺れ動くことになる―――。 ~第二篇~ アドレーヌ女王の血を継ぐ王族エミレス・ノト・リンクス王女は王国東方の街ノーテルの屋敷で暮らしていた。 中肉中背、そばかすに見た目も地味…そんな引け目から人前を避けてきた彼女はある日、とある男性と出会う。 それが、彼女の過去と未来に関わる大切な恋愛となっていく―――。 ~第三篇~ かつての反乱により一斉排除の対象とされ、長い年月虐げられ続けているイニム…ネフ族。 『ネフ狩り』と呼ばれる駆逐行為は隠れ里にて暮らしていた青年キ・シエの全てを奪っていった。 愛する者、腕、両目を失った彼は名も一族の誇りすらも捨て、復讐に呑まれていく―――。 ~第四篇~ 最南端の村で暮らすソラはいつものように兄のお使いに王都へ行った帰り、謎の男二人組に襲われる。 辛くも通りすがりの旅人に助けられるが、その男もまた全身黒尽くめに口紅を塗った奇抜な出で立ちで…。 この出会いをきっかけに彼女の日常は一変し歴史を覆すような大事件へと巻き込まれていく―――。 * *2020年まで某サイトで投稿していたものですがサイト閉鎖に伴い、加筆修正して完結を目標に再投稿したいと思います。 *他小説家になろう、アルファポリスでも投稿しています。 *毎週、火曜日に更新を予定しています。

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

処理中です...