超常の神剣 タキオン・ソード! ~闘神王列伝Ⅰ~

駿河防人

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第二章  神代の剣~朴念仁の魔を断つ剣~

第十三話  灼髪の男

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 ナスカは、人狼の至近距離にいながらも、人狼の凄まじいほうこうをかろうじてかわしていた。

 長剣を構え直し、人狼の方を覗った時には、すでに人狼の姿はそこになく、地面には血の落ちた跡が点々と林の方へと続いている。

「このすき退いたか……」

 ナスカは一応の警戒を残しつつも、先ほど人狼の咆哮に飲まれた後、強烈な一撃を放った蒼髪剣士の方に視線を移した。

 ダーンはすでに意識を失って、前のめりに大地にしているが、ナスカはその姿を捉えとりあえずあんの息を漏らす。

 まさか、ダーンが人狼の咆哮を躱せないとは予測していなかったので、彼が討ち取られそうになった際には、流石に肝を冷やした。

 その直後に、ダーンが無理な体勢から放った一撃を見たときには、更に驚いたが、今、そのダーンのすぐそばに立つ男にもきようがくしている。

 先ほどダーンを取り囲んだ金属兵二体と、さらにその周囲にいた金属兵の残りすべて、数にして計五体を、紙人形を切り裂くように一瞬にして切り裂いたその男の太刀筋は、ナスカにも見えなかった。

 ただ一瞬、赤い閃光がいくつも走るのが見えた直後、その斬撃の鋭さで、金属兵達の身体は無残に千切れ、結果胸部の核も粉々にされて消滅していく光景を見ただけだ。

 すべての金属兵が消滅し、赤髪の剣士は剣を一度払って後、腰の鞘に納刀する。

 燃えるような赤い髪はクセが掛かり、アテネやアークでは見たことのないデザインの革製の黒いジャケット、そのえりに赤髪の襟足が僅かに触れるほど、前髪はかき分けないと鼻の辺りまで垂れ下がるほどに伸びていた。

 アイスブルーの双眸は鋭く、その物腰も自然体でありながらまるで隙がない。

 見た目は二十代後半といった風だが、何となく人外の雰囲気を醸し出していて、実際の年齢は推し量れなかった。

 納刀した剣士に、武器を構えないまでも警戒心を残しながら、ホーチィニとエルがゆっくりと近づく。

 ナスカも小走りに彼に走り寄っていくと、赤髪の剣士は、ナスカ達から後ずさる形で、気絶し倒れ伏したダーンからゆっくりと離れ始めた。

「司祭がいたな……一応すぐに看てやるといい。命に別状はないはずだが、全身の筋肉が細かな断裂を起こしているはずだ」

 赤髪の剣士はそう告げて、近くにあった岩の上に腰掛ける。

「助けてもらったとみていいのかねぇ……この辺じゃ見ない顔だが?」

 ダーンのもとに駆け寄るエルとホーチィニの姿を視界に捉えながら、ナスカが尋ねると、赤髪の剣士は、

「素直に感謝していいぞ、ナスカ・レト・アルドナーグ。私も一応、助けたつもりだからな」

と薄く笑って答えた。

「……オレって結構有名人なのかねぇ。ところで……おたくの名前、聞いていいか?」

 会った記憶のない赤髪の剣士、その口から自分の名前が出てきたことに少し驚きながら、ナスカも右手に持った長剣をさやに収める。

「なに、お前の父、レビン・カルド・アルドナーグの仲間だった男が私の古い戦友でね。お前のこともよく聞き及んでいたのさ。私の名はカリアス・エリンというが……どこかで聞いたことくらいはあるのではないかな?」




     ☆




 赤毛の剣士の名を聞いた直後、ナスカとホーチィニは、しばらく言葉を失ってしまった。

 ホーチィニにあっては、ダーンの介抱をするつもりだったのに、その手が止まっている。

 そんな傭兵隊長と宮廷司祭を交互に見ながら、げんな顔をする弓兵のエル……彼女はその名に全く聞き覚えがなかった。

 なんとなく置いてけぼりをくった面持ちで、彼女は宮廷司祭に小声で耳打ちし始める。

「あのー……有名人なんですか? どっかの王様とか……」

 エルの耳打ちに、ホーチィニは我を取り戻し、エルに対して若干困った表情を見せた後、視線を逸らし、ダーンに治癒の信仰術をかけ始める。

 その彼女の姿に、ナスカは短い溜め息を吐いた。

「どこぞの王様って言うなら、驚きゃしないんだがな……」

 そう切り出して、ナスカは当の本人を目の前にしながら、カリアス・エリンについて知っている限りをし始めた。

「カリアス・エリンってのは、颯刹流そうさつりゆう剣法の始祖と言われている男の名だ。確か聞いた話じゃあ、『赤毛の剣聖』って通り名があったな」

「へー……なるほど道理でお強い訳ね……って、颯刹流って確か、二百年以上昔からある剣法の源流とか言われてるんでしょう?」

「ああ。つまりこの赤毛の剣士殿は、えらい昔のとっても凄い男なわけだ。んで……まあ、割と身近に、見た目と年齢不詳さのギャップが天文学的数字っつー女が親族にいるホーチがビックリしてんのは、そこじゃねえよ」

「いくらなんでも、天文学的じゃない……はず」

 ホーチィニがナスカの言葉に横やりを入れるが、あまり自信がなさそうだ。

 ともあれ、ナスカは続けて説明する。

「ホーチがカリアス・エリンの名前に驚いたのは、司祭職だからさ。信仰する神々の世界を守護する者……その最高位にある者の名が――《灼髪しゃくはつの天使長》カリアス・エリン」

 ナスカの言葉に、エルが音を失う中で、カリアスは声を上げて笑い出していた。

「ハハハッ! なかなか場を盛り上げてくれる話だったな、ナスカ・レト・アルドナーグ。まるで神話や伝説の男を紹介しているみたいで、かなりこそばゆかったぞ。
 だがな、私はカリアス・エリンと名乗っただけで、お前の言う《灼髪しゃくはつの天使長》だの赤毛の剣聖だのと自己紹介した覚えはないし、するつもりもない。
 第一、お前の言うその神話じみた話が事実かどうかもわからんではないか? 神の信仰、その威光は確かに信仰術として存在するが、神はおろか、その天使長とやらに実際に会ってきたという人物をお前も知るまい」

 人を食ったような顔で、カリアスと名乗った男は言うが――――

「…………確かにな」

 ナスカは、豪快に笑い飛ばすカリアスの姿を見て、確信を得た苦笑いを洩らしていた。




     ☆




 「終わったわ……」

 倒れたダーンの治癒を信仰術で施していたホーチィニが告げてくる。
 ナスカは了解の旨を伝えて、皆を見渡し現状を再確認した。

 取り敢えず、こちらがこうむった損害は、飛空挺が中破し使用不能、人的損害は、現時点では回復しているものの、ダーンが一時戦闘不能状態。

「やばい相手だったが、何とか切り抜けられたな……」

 一息吐くナスカだったが、その彼に宮廷司祭が近づいてきて――――

「まだ、終わってない」

 おもむろに愛用の鞭を取り出し始めた。


――そう……確かに、まだ終わっていない。


 人狼にダメージを与えたとは言え、取り逃がしてしまったし、また何時襲ってくるか知れたものではなかった。

 当然、要人捜索の任務もほとんど進展がない状況だ。

 しかし、彼女が呟いた「終わってない」というのは……。

――きっと……アレだよなァ。

 背筋に嫌な汗が伝うのを意識するナスカに、ホーチィニが笑顔を凍てつかせて視線を投げかけている。

「あー……なんだ、オレの方は大してダメージとかないし……つーか、さっき軟膏もらったからそれで充分なんだよね……」

「龍闘気を使ったら、本人が気付かない細かくも深刻なダメージが蓄積していくの。それに――さっき天罰受けるってナスカ言ってた……」

 淡々と話すホーチィニは、左ポケットの中から小さな鈴が付いたストラップを取り出し、鞭の柄の部分にそれを取り付ける。

「いやー、オレの身体を心配してくれんなら、素直にフツーに信仰術をかけようか……なっ! 今さっき、ダーンにはやってたろ」

 冷や汗を額に大量ににじませつつ後ずさるナスカ。

「ほう……興味深いな。鈴の音と鞭の動きを重ね合わせて編み上げる信仰術式か……」

 カリアスが嘆息し、興味深くこちらを見てくるのを、「そこッ、いきなり現れた分際で何言っちゃってんの?」とナスカが抗議するが――――
 ホーチィニの鞭が容赦なくそのナスカの身体を打ち付けていた。

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