超常の神剣 タキオン・ソード! ~闘神王列伝Ⅰ~

駿河防人

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第二章  神代の剣~朴念仁の魔を断つ剣~

第十話  漢、神秘に触れて奮い立つ!

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 左肩と左肘に激痛が走った。

 人狼の強烈な一撃は、その重量と速度による物理的な威力で大地をえぐり、音速を超えて得た衝撃波を孕んでいたため、それが炸裂して土砂を巻き上げる爆発を起こした。

 その瞬間、とつに後方へ思いっきり飛んでいたナスカだったが……。

 人狼の戦斧は彼の左肩付近を通過した際には既に音速を超えていて、そのブレード部から音速を超えたことによる衝撃波がナスカの左肩を傷つけていた。

 そして、はじけ飛んだいしつぶてがナスカの左肘に直撃し、ちょうど当たった場所が悪く、肘関節に損傷を与えている。


「ヒビくらいは入ったか……」


 苦痛に表情をゆがめながら、自分で飛び退いたのと大地の爆発にはじけ飛んだ勢いで、ナスカは大きく人狼から離れる形で吹き飛び、宮廷司祭のすぐそばの大地に背中から落ちた。

「ナスカ、大丈夫?」

 背中をしたたか打ったナスカに向かって声をかけてくるホーチィニだったが、彼女も、金属兵達の牽制に鞭を振るい続けており、助け起こすどころか視線すら向けられない状況だ。

 一方、強烈な一撃を放った人狼は、自らが作り出した直径三メライ(メートル)程度のクレーターの向こうで、戦斧を構え直し余裕の表情でこちらを覗っている。

「ああ……とんでもねぇな、あの野郎……痛ッ、ああ畜生ッ。ちっとばかし腕痛めたんで、ちょっと救急キット借りるぜ」

「え?」

 疑問調の声を漏らす宮廷司祭のスカート、その右ポケットにナスカが無遠慮に右手を突っ込んだ。

「ひヤぁッ……んっ……馬鹿ッ……こらああああ! ちょッ……ソコ……っやだぁ」

 ちょっと深く手を突っ込み過ぎたナスカの指先、その感触にホーチィニがとんきような声を漏らし、身体を妙にくねらせる。

 そのせいで、彼女の振るっていた鞭が不規則にうねり、結果運良く金属兵をはじき飛ばしていた。

「おっ……あったあった」

 右手に白く小さな平たい瓶を持ったナスカが、ホーチィニのポケットから手を抜く。

 その瓶の中身は、数種類の薬草を練り混ぜて、信仰術で効果を高めたなんこうだった。

 ハーブ系の臭気を放つ草色の軟膏を左肘に塗り込むナスカを、涙目のホーチィニが睨んでくるが、その彼女に片目を瞑って、ナスカは右手の中のものを彼女だけに見える様にした。

「くッ……後で覚えてることね……絶対に天罰下すんだから……」

「おお……怖ぇ。んじゃあまあ、行ってくるわ」

 立ち上がり、ホーチィニの耳の後ろに顔を近づけたナスカは、ささやくように

「……無理しない程度に、少しだけアレを使うが許せよな。後でちゃんと天罰受けてやっからさ」

 軽く耳たぶに唇を触れて、直後に耳を真っ赤にさせたホーチィニの背を軽く左手でたたくと、長剣を構え直し、ナスカは再び人狼の元に駆けだしていった。


     ☆


 ナスカが再び人狼の元に近づくと、人狼はバックステップして数メライ後方へ下がった。

 その動きを見て、ナスカは人狼の作り出したクレーターを飛び越え、動きを止めた人狼の間合い手前に立つ。

 ナスカが長剣を右手で構え直すと、人狼はふと表情を緩めた。

「ん? なんかおもしろいものでも見つけたかい?」

 人狼の表情にナスカが訪ねると、人狼は軽く肩を上下に揺すり、

「いえ……本当に愉快な方だと思いまして。そして賞賛に値する男ですな……。あの宮廷司祭の動き、先ほどは力みすぎていて狙いが直線的でしたが、貴方に何かされた後、妙な力みがなくなって鞭の動きもなめらかになっていますね。何か私の知らない術式でも使ったのですか?」

 人狼の言葉に、ナスカは軽く鼻で笑う。

「別に特別なコトしてないぜ、オレ。……単に、軟膏もらうついでに、ポケットの薄い布地越しに神秘の柔らかさを確かめてきただけだぞ……。
 あ、そうだ! 一点訂正するが、流石にチビっちゃいなかった」

 ナスカの後方で、金属兵数体が衝撃波に撃たれて派手に吹っ飛び、「うわッ……司祭様ッ、そんなにいっぺんに吹っ飛ばしちゃうと弓で狙えない……っていうか、ダーン、今の鞭よくかわせたねぇ」というエルの驚嘆が轟音に混じって聞こえた。

 ナスカは気まずい汗を頬に伝わらせつつ聞こえなかったことにする。

「グフフフッ……それで、よろしいのですかな? そのような軟膏を塗った程度では、そのひだりひじ、まともに動くとは思えませんが」

「ああ、それなら心配いらねぇよ。大丈夫になったからここにいるんだぜ。……いいか人狼よ」

 ナスカは一端言葉を切り、すうっ……と大きく息を吸い込み、左手の人差し指で人狼を指し示すと――――


おとこってのはなァ、いい女の身体に触れると色々元気になんだよッ! そりゃあもうッ猛烈になあッ! 
 ウチのホーチはちっと足りない部分が上半身にあるけども、ケツとか太ももは完璧にイイんだ!  
 どうだ、うらやましいかこの野郎ッ」

 背後に猛々しい炎を吹き上げさせるような勢いで言い放った。




     ☆




 笑顔のまま額に青筋立てた宮廷司祭は、鞭の動きを更に複雑に加速させつつ告げる。

「はい、皆さん……これ以上《駄目男ばか》に好きなようにさせると、『アテネの恥』が『人類の恥』に昇格しますよー。
 いいですか、目の前の金属人形なんかサッサと片づけて、きゆうてき速やかに本気で『しつけ』に入りたいので協力して下さい」

 宮廷司祭の冷ややかな言葉の後、心なしかダーンのけんげきの速度が増し、その剣戟と唸る鞭に弾かれた二体の金属兵の急所に、エルの弓矢がクリーンヒットした。




     ☆




 「言葉の意味はイマイチよく理解できないのですが、貴方の発言のせいか、お仲間の連携がよりきようじんになっておりますな」

 すこし不可解そうな人狼の言葉に、ナスカは生唾を飲みこみ、

「あ……ああ。……その、あとがスゲェ怖いけどな。くそッ、調子に乗り過ぎちまったぜ」

 ナスカは取り敢えずわざとらしい咳払いを一つして剣を構え直すと、応じるように人狼も両手で戦斧を構え直した。

「とにかく……そろそろ戦闘再開だ。今度はギリギリまでマジに行かせてもらうぜ」

 ナスカの闘気がふくれあがっていく。それは人とは少し異質な雰囲気をかもし出していて、持っている長剣が微かに輝きを増している様だった。

「望むところです」

 対峙した二人は、一気に周囲の空気を硬質化させて、剣と斧が激しい斬り合いを始めた。

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