超常の神剣 タキオン・ソード! ~闘神王列伝Ⅰ~

駿河防人

文字の大きさ
上 下
35 / 165
第二章  神代の剣~朴念仁の魔を断つ剣~

第八話  虚ろなる鈍色の兵士

しおりを挟む

 こちらに一斉に飛びかかってきたにびいろの兵士達の内、一番手前の兵士がダーンに振り上げた曲刀を打ち付けてきた。

 その切っ先を剣で下から跳ね上げつつ、ダーンは今受けた一撃と体勢を崩しつつもがら空きになりかけた胴体部を素早く円形盾でカバーする兵士の動きから、敵単体の戦闘能力を見極めようとする。

 一体一体は、なかなか手強いようだ。

 王国の騎士団と模擬戦をしたこともあったが、目の前の敵は騎士達よりも強い。


 しかし――

「これではまるで烏合の衆だな」

 にびいろの兵士――金属兵達はまるで連携というものがなっていない。

 最初に一斉に飛びかかってきたとき、隣り合う金属兵同士でぶつかり合ったりしていたし、こちらは三人いるのに、一番近くにいるダーンのみに集中して攻撃を仕掛けたりと、生きた戦士の戦い方ではない。

 忠実に命令通り、最も近接する対象を攻撃するだけの自動兵器たちだろう。

 四倍以上の数の差があったことから、はじめは焦ったがこれならば、こちらが上手く連携して対処すればなんとか切り抜けられそうだ。

 現に、後方の宮廷司祭は、始めに飛びかかってきた金属兵の内、隣り合う者と衝突したりして隙を見せた数体を中距離からの鞭でなぎ払っている。

 弓兵のエルも、金属兵の最後尾にいた個体を鋭く射貫いていた。

「よし、俺が接近戦を個々に仕掛けるから、ホーチィニさんはそのまま敵を中距離からほんろうしてくれ。エルはとおからだ」

「わかったわ、無理しないでねダーン」

 《理力器》が埋め込まれて、威力が強化された金属製の弓を引きながら、女弓兵エルが応じてきた。

「私も了解。ただし油断は出来ません……ダーン、敵の金属兵の弱点を見極めて下さい。おそらく魔力合成された金属生命体ですから、活動を支える《核》が存在するはずです」

 話しながら宮廷司祭は、十メライ近い長さをもつ特殊な樹脂製の鞭をたくみに操る。

 小さなおもりを埋め込まれた鞭の先端が、ひるがえるたびに音速を超えて周囲に「パァンッ!」と何かが破裂するような音を響かせる。

 ホーチィニの鞭が、跳躍し一気にダーンに迫ろうとした金属兵を生じた衝撃波で打ち落とした。

「《核》か……」

 ホーチィニの言葉にダーンは金属兵の一体の左肩付近に切りつけながら、記憶の奥からその知識を掘り起こしていた。

 彼が幼少の頃から学んだ剣術――颯刹流剣法の戦術教本にもあった知識だが、眼前の金属兵のような魔力により生成された金属生命体には、弱点となる《核》が存在する。

 その《核》を破壊しない限り、蓄えられた魔力により、傷つけても瞬時に再生して襲いかかってくるのだ。

 現に、エルの放った弓矢を頭部に食らった金属兵は、一度動きを止めたものの、すぐにぎこちなく立ち上がり、突き刺さった矢をそのままにして剣と盾を構え直している。

 一方、ダーンが切りつけた金属兵は、円形盾を太刀筋に合わせてこちらの攻撃を受け止めていた。

 元々金属の身体を持つ敵が盾を装備し、胴体部に対するこちらの攻撃をあえて防御するのは、おそらくその胴体部分に弱点となる『核』が存在するからだろう。

 先ほど剣を跳ね上げた時も、体勢を崩しながらも胴体部を守っていた。

「弱点の核は胴体のどこかだと思う。エル、意図的に胴体のどこかを狙って試してくれ」

「了解。――多分だけど、こういう敵は人間とおんなじトコが弱点よね。まあ……簡単にはいかないだろうけどッ」

 ダーンの指示通りに、右奥の金属兵の胸部――人間で言えば心臓の辺りを狙って理力弓を放つエル。

 しかし、金属兵は理力により音速まで速度を上げた矢を難なく盾で弾いていた。

 エルの矢があっさりと弾かれたのを視界に納め、舌打ちしつつも、ダーンは先ほど自分に切りつけてきた金属兵を、素早い切り返しでほんろうする。

 そこへ、別の金属兵がダーンの左後方に回り込んで、曲刀を斜め右下からぎ上げてきた。

 左脇に迫る白刃に対し、ダーンはとつに、正対していた方の金属兵の円形盾を自分の剣で強く打ち込み、その反動を利用して、反時計回りに半身を返して紙一重でかわす。

 躱された白刃は、勢い余って、ダーンの剣戟を円形盾で受けていた金属兵、その右手に持つ曲刀の腹に衝突。
 予期せぬ衝撃に、剣を同胞に打たれた金属兵は体勢を崩しつつ動きを一瞬止めた。

 その瞬間を逃さず、ダーンは動きを止めた金属兵の左手をはじき飛ばして、一気に胴体中央の心臓付近を突き入れる。

 颯刹流剣法の極意――――闘気で強化した剣先が、金属製の胴体を粘土でも突き刺したかのように深々と突き刺さった。

 金属の塊を突き通す途中の一瞬、ダーンの手元に硬質のガラスを砕いたような感触が伝わると……。

「キシャァァー」

 耳障りな奇声を上げて、胸を突き刺された金属兵は、まるで熱せられたろう人形のように形をどろどろに変化させる。

 剣を金属兵から抜きつつ、ダーンは左から斬りかかってきた別の金属兵と切り結び、視線を倒れた金属兵に向ければ、胸をつかれたそれは黒い灰になってぼろぼろと風化していく。

「どうやら、正解だったみたいだな」

 敵の弱点は人間と同じ、胸部中央の心臓部だ。

 ただし、エルの弓矢では弾かれてしまうし、ホーチィニの鞭は打ち付けるのみで、金属の身体を貫いたりは出来ない。

 ダーンとて、今のように綺麗に敵の防御を崩して心臓部を突くことは容易ではなかった。

 敵の連携が全くと言っていいほどとれていないこともあって、運良くその隙を突けたが、相手の金属兵は一対一では非常にやっかいな敵だ。

 特に心臓部への防御は固く、曲刀と円形盾の扱いは、人間で言うなれば達人クラスの技量と言える。


 その強敵が、残りあと十二体。

 依然彼らが不利な状況は変わっていなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

異世界召喚に巻き込まれたのでダンジョンマスターにしてもらいました

まったりー
ファンタジー
何処にでもいるような平凡な社会人の主人公がある日、宝くじを当てた。 ウキウキしながら銀行に手続きをして家に帰る為、いつもは乗らないバスに乗ってしばらくしたら変な空間にいました。 変な空間にいたのは主人公だけ、そこに現れた青年に説明され異世界召喚に巻き込まれ、もう戻れないことを告げられます。 その青年の計らいで恩恵を貰うことになりましたが、主人公のやりたいことと言うのがゲームで良くやっていたダンジョン物と牧場経営くらいでした。 恩恵はダンジョンマスターにしてもらうことにし、ダンジョンを作りますが普通の物でなくゲームの中にあった、中に入ると構造を変えるダンジョンを作れないかと模索し作る事に成功します。

散々利用されてから勇者パーティーを追い出された…が、元勇者パーティーは僕の本当の能力を知らない。

アノマロカリス
ファンタジー
僕こと…ディスト・ランゼウスは、経験値を倍増させてパーティーの成長を急成長させるスキルを持っていた。 それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。 するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。 それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき… 遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。 ……とまぁ、ここまでは良くある話。 僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき… 遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。 「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」 それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。 なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…? 2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。 皆様お陰です、有り難う御座います。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

処理中です...