超常の神剣 タキオン・ソード! ~闘神王列伝Ⅰ~

駿河防人

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第二章  神代の剣~朴念仁の魔を断つ剣~

第八話  虚ろなる鈍色の兵士

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 こちらに一斉に飛びかかってきたにびいろの兵士達の内、一番手前の兵士がダーンに振り上げた曲刀を打ち付けてきた。

 その切っ先を剣で下から跳ね上げつつ、ダーンは今受けた一撃と体勢を崩しつつもがら空きになりかけた胴体部を素早く円形盾でカバーする兵士の動きから、敵単体の戦闘能力を見極めようとする。

 一体一体は、なかなか手強いようだ。

 王国の騎士団と模擬戦をしたこともあったが、目の前の敵は騎士達よりも強い。


 しかし――

「これではまるで烏合の衆だな」

 にびいろの兵士――金属兵達はまるで連携というものがなっていない。

 最初に一斉に飛びかかってきたとき、隣り合う金属兵同士でぶつかり合ったりしていたし、こちらは三人いるのに、一番近くにいるダーンのみに集中して攻撃を仕掛けたりと、生きた戦士の戦い方ではない。

 忠実に命令通り、最も近接する対象を攻撃するだけの自動兵器たちだろう。

 四倍以上の数の差があったことから、はじめは焦ったがこれならば、こちらが上手く連携して対処すればなんとか切り抜けられそうだ。

 現に、後方の宮廷司祭は、始めに飛びかかってきた金属兵の内、隣り合う者と衝突したりして隙を見せた数体を中距離からの鞭でなぎ払っている。

 弓兵のエルも、金属兵の最後尾にいた個体を鋭く射貫いていた。

「よし、俺が接近戦を個々に仕掛けるから、ホーチィニさんはそのまま敵を中距離からほんろうしてくれ。エルはとおからだ」

「わかったわ、無理しないでねダーン」

 《理力器》が埋め込まれて、威力が強化された金属製の弓を引きながら、女弓兵エルが応じてきた。

「私も了解。ただし油断は出来ません……ダーン、敵の金属兵の弱点を見極めて下さい。おそらく魔力合成された金属生命体ですから、活動を支える《核》が存在するはずです」

 話しながら宮廷司祭は、十メライ近い長さをもつ特殊な樹脂製の鞭をたくみに操る。

 小さなおもりを埋め込まれた鞭の先端が、ひるがえるたびに音速を超えて周囲に「パァンッ!」と何かが破裂するような音を響かせる。

 ホーチィニの鞭が、跳躍し一気にダーンに迫ろうとした金属兵を生じた衝撃波で打ち落とした。

「《核》か……」

 ホーチィニの言葉にダーンは金属兵の一体の左肩付近に切りつけながら、記憶の奥からその知識を掘り起こしていた。

 彼が幼少の頃から学んだ剣術――颯刹流剣法の戦術教本にもあった知識だが、眼前の金属兵のような魔力により生成された金属生命体には、弱点となる《核》が存在する。

 その《核》を破壊しない限り、蓄えられた魔力により、傷つけても瞬時に再生して襲いかかってくるのだ。

 現に、エルの放った弓矢を頭部に食らった金属兵は、一度動きを止めたものの、すぐにぎこちなく立ち上がり、突き刺さった矢をそのままにして剣と盾を構え直している。

 一方、ダーンが切りつけた金属兵は、円形盾を太刀筋に合わせてこちらの攻撃を受け止めていた。

 元々金属の身体を持つ敵が盾を装備し、胴体部に対するこちらの攻撃をあえて防御するのは、おそらくその胴体部分に弱点となる『核』が存在するからだろう。

 先ほど剣を跳ね上げた時も、体勢を崩しながらも胴体部を守っていた。

「弱点の核は胴体のどこかだと思う。エル、意図的に胴体のどこかを狙って試してくれ」

「了解。――多分だけど、こういう敵は人間とおんなじトコが弱点よね。まあ……簡単にはいかないだろうけどッ」

 ダーンの指示通りに、右奥の金属兵の胸部――人間で言えば心臓の辺りを狙って理力弓を放つエル。

 しかし、金属兵は理力により音速まで速度を上げた矢を難なく盾で弾いていた。

 エルの矢があっさりと弾かれたのを視界に納め、舌打ちしつつも、ダーンは先ほど自分に切りつけてきた金属兵を、素早い切り返しでほんろうする。

 そこへ、別の金属兵がダーンの左後方に回り込んで、曲刀を斜め右下からぎ上げてきた。

 左脇に迫る白刃に対し、ダーンはとつに、正対していた方の金属兵の円形盾を自分の剣で強く打ち込み、その反動を利用して、反時計回りに半身を返して紙一重でかわす。

 躱された白刃は、勢い余って、ダーンの剣戟を円形盾で受けていた金属兵、その右手に持つ曲刀の腹に衝突。
 予期せぬ衝撃に、剣を同胞に打たれた金属兵は体勢を崩しつつ動きを一瞬止めた。

 その瞬間を逃さず、ダーンは動きを止めた金属兵の左手をはじき飛ばして、一気に胴体中央の心臓付近を突き入れる。

 颯刹流剣法の極意――――闘気で強化した剣先が、金属製の胴体を粘土でも突き刺したかのように深々と突き刺さった。

 金属の塊を突き通す途中の一瞬、ダーンの手元に硬質のガラスを砕いたような感触が伝わると……。

「キシャァァー」

 耳障りな奇声を上げて、胸を突き刺された金属兵は、まるで熱せられたろう人形のように形をどろどろに変化させる。

 剣を金属兵から抜きつつ、ダーンは左から斬りかかってきた別の金属兵と切り結び、視線を倒れた金属兵に向ければ、胸をつかれたそれは黒い灰になってぼろぼろと風化していく。

「どうやら、正解だったみたいだな」

 敵の弱点は人間と同じ、胸部中央の心臓部だ。

 ただし、エルの弓矢では弾かれてしまうし、ホーチィニの鞭は打ち付けるのみで、金属の身体を貫いたりは出来ない。

 ダーンとて、今のように綺麗に敵の防御を崩して心臓部を突くことは容易ではなかった。

 敵の連携が全くと言っていいほどとれていないこともあって、運良くその隙を突けたが、相手の金属兵は一対一では非常にやっかいな敵だ。

 特に心臓部への防御は固く、曲刀と円形盾の扱いは、人間で言うなれば達人クラスの技量と言える。


 その強敵が、残りあと十二体。

 依然彼らが不利な状況は変わっていなかった。
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