超常の神剣 タキオン・ソード! ~闘神王列伝Ⅰ~

駿河防人

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第一章  王国軍大佐~超火力で華麗に変態吸血鬼を撃つ~

エピローグ~見守っていた者達~

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 魔竜に辛くも勝利し、その場で膝をついてしまった《大佐殿》の姿を、モニター越しに見つめている人影がある。

 その影は二つ、飛行客船レイナー号のブリッジにあった。

 一人は船長のリーガルだったが、もう一人は黒髪の女性だ。

 背丈は一般的なアーク女性のもので、清潔感とそこはかとないあでやかさを兼ね備えた、客室乗務員の制服を着用している。

 肌は白くきめ細やかで、体つきも清楚な白い制服からにじみ出る程に色香を放つものだった。

 妖艶な雰囲気を自然とまとっているような女性。

 その見た目は、二十代後半といったところだろうか。

「お見事! 強力な兵器がいくつかあったとはいえ、まさか、魔竜相手にたった一人で戦って勝つとはね。……うんうん、師である私も鼻が高いというものです」

 妖艶な客室乗務員は、腕を組みながら嘆息する。

 その隣で、半ばあきれ顔のリーガル船長は、サイドテーブルに置かれたカップの紅茶を啜ると、

「色々と、貴女あなたには伺いたいことがありますが……その前に、今回の密航についての弁解を拝聴しましょう」

「ないですよ、そんなもの」

 即答する女性の言葉に、リーガル船長の眉根がピクリと反応。

 そんな船長の顔色を楽しむかのように、女性は流し目で観察しつつ言葉をつなげていく。

「この船は、私が開発して、建造費も半分以上負担した上に、運営会社も私の財閥傘下です。しかも、養子とはいえ、娘の名前まで与えた船ですよ。この船にとって、この私は母のようなものですから、自由に乗ってもいいでしょう」

「めちゃくちゃですな、相変わらず」

 溜め息交じりに応じて、船長は隣の女性を半目で一瞥する。

 客室乗務員の制服など着込んで、いつの間にかこの船に乗り込んでいたその人物は、乗務員名簿にも、乗客名簿にも記載されていない名前の人物だ。


 その名は、スレーム・リー・マクベイン。


 アーク王国王立科学研究所長にして、マクベイン財閥の総帥。

 さらに、アーク王室とも繋がりの深い人物で、王国軍中将の階級にもある者だ。

 船長自身、二十年以上前からこんにしている人物だが、その頃から、この女性の容姿は全く変わらない。

 年齢不詳。――一説には、百歳以上ともいわれているが……。

 さしずめ、あの《大佐殿》に万が一のことがあった場合のために、密かに乗船していたということだろうが、その制服、一体どこで調達したのだ?

 スレームは、初老の域に入り、口ひげやあごひげを生やしつつも、それを端正に切りそろえている、かつての戦友を覗き込む。

「貴方は、その、何というか……昔に比べて随分紳士的になったものですね、リーガル中佐」

「中佐はやめていただきたいものです。もう退役して、ずいぶんになりますので」

「ああ、忘れていました」

 スレームは、組んでいた腕を解き、足下に置いていたショルダーバッグを開くと、

「はい、これ辞令」

 船長に厚手の上質紙を一枚手渡す。

 げんな顔でそれを受け取り、記載された内容を一瞥した船長は、額に青筋を立てた。

「何の冗談だ? おい……」

「あら、素に戻っていますよ、リーガル」

 スレームは涼しい顔して、口のに笑みを浮かべている。

「うるさい、色気ババア。このタイミングで軍に戻れとか、ふざけてんのかよ」

 渡された上質紙には、アーク国王陛下の署名があり、王国軍が正規に発行したことを証明する透かしが入っていた。

「姫を任せられる人材を、私なりに厳選した結果です。よろしくお願いしますね、艦長殿」

「娘と同じ年頃の彼女が、このオレの上官になるってかい?」

「その点に不満はないでしょう。あの子をこの船に乗せて正解でしたね。上官としての才覚は十分持ち合わせていること、貴方の目の前で証明できたのですから」

「はあぁ。やれやれ……」

 リーガルは手にした辞令書を適当に丸めながら深い溜め息を吐いた。
 そのまま一度思案顔になって、一呼吸置き言葉をつなげる。

 今回の相手、サジヴァルド・デルマイーユか……。奴はかなり上級の魔竜だったよな。アレを手玉に取る才覚には、確かに驚いたが……しかしスレームよ、あんたよく手出ししなかったな」

「準備はしていましたが、恐らく大丈夫ではないかと感じていました。フフフ……あの子は、私の教え子達の中でも、一番の秘蔵っ子ですからねえ。私以上に頭の切れるところがありますし、射撃の腕はとっくに抜かれてしまいました。……全く、恋する乙女は強いこと」

「なんだそりゃ?」

「いえ、こちらの話です。そうそう、アテネのラバート陛下には先ほど連絡してありますから、程なくして救援が駆けつけるはずです。ここでのドンパチについても、相手が魔竜だったことをオフレコで伝えてありますし、問題にはならないようにしてありますよ」

 片目を瞑って見せて、にっこりと笑うスレームだったが、リーガルは憮然とした表情をしている。

 まるで、お前に妖しさはあっても、愛嬌などはない、と言わんばかりに鼻を鳴らした船長は、そのままスレームに追及する。

「理力通信、この船のヤツはみんなダウンしてたんだが?」


「こんなこともあろうかと、軍用の強化型理力無線機を持ってきたので」

「ホントに相変わらずだな、おい」

「褒め言葉として承りますよ。……おや……どうやら、あの子も決めたようですね」


 船長席のモニターは、船外のカメラで湖南岸を映している。

 その砂浜に街のある方向へ歩き出す《大佐殿》の姿があった。

 こちらから彼女を迎えに行こうにも、このレイナー号のボートは、みんな爆破してしまったので一艘もない。

 また、彼女の方も、潜水艇の動力を失い、こちらに戻ってこられる手立てがない。

 そこで、彼女の取り得る選択肢は二つ。

 その場に残って、アテネ王国側の救助隊が駆けつけるのを待つか、今回の目的を遂行するため、予定を切り上げ、一人目的地に向かうか。

 結局、彼女は、より積極的な後者を選択したようだ。

「さてと、ホーチに連絡しておきましょうかね。ああ、リーガル、その辞令……別に破って捨ててもかまいませんよ。半分は冗談です」

「前戦争の時から、お前の冗談は笑えねぇし、今更後戻りは出来ねえよ」

 毒づいた後、リーガルはモニターに向かい、姿勢を正して挙手の敬礼をする。

「やっぱり、ノリノリじゃないですか……」

 モニター越しに、若すぎる大佐に対して、律儀に敬礼するリーガルの姿を横目に見ながら、スレームは両肩を竦めて口元を緩めた。

 再びモニターを見れば、林道を歩いて行く蒼い髪の少女が、カメラの有効範囲から離れ始め、その背に揺れていた銀をまぶした蒼が、ゆっくりと夜の闇に消えていくのだった。
 
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