超常の神剣 タキオン・ソード! ~闘神王列伝Ⅰ~

駿河防人

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第一章  王国軍大佐~超火力で華麗に変態吸血鬼を撃つ~

第四話  変態紳士に捧ぐ彼女の爆弾

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 魔竜にして吸血鬼ヴァンパイアたるサジヴァルドは、漆黒のがいとうに身を包み、一〇〇メライ(メートル)程上空からかんする。

 その視界に、月光を反射する穏やかな湖面と、そこに浮かぶ白亜の船体。

 その周囲には、自らの魔力を変換して生み出したコウモリの大群を映していた。

 思惑通り、アーク王国の飛行船は我が手中にある。

 あとは、目標の人物を船内からいかに引きずり出すかだが……。

 このまま、コウモリ達を船内へ進入させ、目標を探させてみようか。

 そして、目標を見つけ次第、コウモリ達に取り囲ませて身動きを封じ、耳鳴りがする音波と、不安をかき立てる羽音でなぶり尽くそうか。

 いや、むしろこちらから船内に出向いて、高級ベッドで小さく震えている姿に、いきなりガブリッというのはどうだろうか。

 しよせんは小娘だ。
 しかも、大事に箱入りで育てられたようなお嬢様。

 嬲るにしても、とらえるにしても、色々と楽しめそうな標的だ。


「クックックッ……取り敢えず、どこから乗り込みましょうかねえ」

 サジヴァルドは、コウモリ達に侵入の経路などを探らせようとする。

 しかし、思念波でコウモリに命じようとしたところで、船の方から動きがあった。

 白い船体の至る所から白い煙が上がっている……どうやら目くらましの煙幕らしい。

――この程度の小細工で、一体どうするおつもりかな?

 所詮は小娘の子供だましと、口のに笑みを持って眺めるサジヴァルド。

 やがて左舷の湖面が大きく揺らぎ、前照灯を点けた小型の理力ボートが、南岸の方に向け猛スピードで疾走していった。

「なるほど、脱出のためのカムフラージュでしたか……クックックッ……」

 のどをえつに震わせながら、サジヴァルドはコウモリの群れの一部を、疾走する理力ボートへ向けた。

 コウモリ達は彼の魔力そのものであり、彼の分身だ。

 彼の目となり耳となるコウモリ達は、音速に近い速度で闇の空を舞うことが出来る。

 すぐに理力ボートはコウモリ達に囲まれる――だが……ボートは無人だった。


 ダミーか。


 そう思い至ったところで、突然、ボートがオレンジ色の光を放って爆発した。



     ☆



 狭い操縦席の中で、理力爆弾の起爆ボタンを押した《大佐殿》は、目の前のモニターに映し出された爆発の光を見て、深く重いため息を吐いた。

「やっぱり……ロクでもない代物ね。アレのどこが護身用グッズなのよ」

 旅立つ前に船の貨物室に積み込ませて、手書きの説明書を指示しながら、えつに入って説明する黒髪の女性――そのようえんな笑顔を思い出す。

 今さらだが、こんな爆発物を旅客船に乗せていたのかと、背筋が若干凍り付いた。

 モニターでは、コウモリ達の二割程度を吹き飛ばせたようだが、あの爆発力ならば、大型のレイナー号とて一撃で沈んでいただろう。

 さすがに、ボタンを押したことを後悔する。

 さらに悪いことに、手に持っていたリモコンには、不吉そうな赤いボタンがいくつか備え付けられているが……。

――うー……もう押すのヤダなあ。……もうっ! あの色気ババアってば、あたしのことどう考えてんのよッ。あんな威力見て、こんな危ない爆弾使える女の子がいる?

 リモコンをゲンナリと見つめつつ、悪態を思い浮かべていると、頭上から小さな振動と航空理力エンジンの唸る音が伝わってきた。

 モニターには、船の後部甲板から飛び立っていく小型飛空挺の姿が映し出されている。

 その小型飛空挺は、あっという間に船体を離れ、東の空へとグングン加速していったが……。
 
 案の定、先ほどの理力ボート同様、コウモリの大群に囲まれてしまった。
 しかも、その数はボートの時よりも多い。

 恐らく、敵はこちらの脱出作戦のことを色々と予測していたのだろう。

 今まさに、飛空挺の姿が全く見えなくなるほど、飛び去る機影は無数のコウモリに取り付かれている。


 その光景を目の当たりにして、《大佐殿》は無意識にほんの少し口の端を緩め――


 部屋の明かりでもつけるようなごく自然な仕草で、ちゆうちよなどじんもなく、赤いボタンを押した。



     ☆



 東の空に爆散した飛空挺の破片が、オレンジ色の光からはじき飛ばされるように落下している。

 その光景を、額に青筋を立てて見つめる吸血鬼は、今の爆発により、最初にいたコウモリ達の半数を失っていた。

 同時に、彼の保有していた魔力も半減している。
 あのコウモリ達は、彼の分身であり、彼の魔力そのものなのだから。

「クッ……! 小娘と思って侮っていましたね。《あの男》の娘であるということを失念していました」

 ほぞをかむサジヴァルドは、忌々しめに、だが口調は努めて気品を保ちつつ呟いた。

 《あの男》――かつての《魔竜戦争》の折り、《竜殺修士》と共に我らが同胞を数多く葬った最強の槍使い。
 人の身でありながら、太古の闘神達に匹敵する強さを誇った戦士だ。

 小娘が脱出を考えていることは明確なのだが、これでおいそれと手出しは出来なくなってしまった。

 何しろ、次に何らかの脱出行為が計られたとしても、二度のフェイクと罠を受けたのだ。

 こちらとしては、それがまたもや罠ではないかと疑い、また、こちらがフェイクと疑うことを逆手に本当の脱出なのかもしれない。

 追い詰めたはずのこちらが、疑心暗鬼になる状況を作り出したのだ。



 そして、飛空挺の爆発から程なくして、今度は船の右舷から北岸に向けてボートが走り出す。



 また罠かもしれないが、こちらとしても確認しないわけにはいかない。
 ここで本当に逃がしてしまっては単なる骨折り損だ。

 サジヴァルドは、残ったコウモリ達のうち、数匹を確認に向かわせた。

 上空からコウモリ数匹がボートに到達すると――またもや、小動物を数匹葬るには明らかに火力超過の大爆発が起こる。

 同時に、今度は煙幕が残る船の両舷から、今度は十艘以上の理力ボートが、一斉に散開し、各々最も近い岸に向かって疾走しはじめた。


「次から次へと、よくもまあ……」

 若干呆れた表情のまま、サジヴァルドは、コウモリ達を八匹ずつの小集団に編成して、前照灯を点灯して疾走するボートに向けた。

 その数は十二そう

 サジヴァルドは上空から、十二艘のボートが湖面に描く航跡を見下ろしつつ、敵の思惑を考察する。


――敵は頭の切れる女だ。

 これ見よがしに船から脱出用ボートを何艘も出して、それをダミーとし、コウモリ達を葬って、結果こちらの魔力を割いている。

 それに、高性能の理力爆弾まで使い、躊躇なく飛行艇や脱出用ボートを爆破して、コウモリ達をせんめつしていた。

 恐らく、今湖面を一斉に、十二方向へと疾走するボートのいくつかにも、先ほどの爆弾が仕掛けられていることだろう。

 だが、ここで一斉に多数のボートを出してきたということは、この中に敵の女が乗っている可能性が高い。

――見つけ次第、背後から一気に、そのうなじへと噛みついてやろう。

 そう考え至って、吸血鬼は口の端をつり上げた。

 この時、サジヴァルドは気がついた。

 その眼下に、十二艘のボートがかき乱した湖面を、静かに進んでいく新たな航跡が一つ、飛行船の左舷側から南岸に向けて生まれている。

「クックックッ……やはり、所詮は小娘ですねぇ」

 他のボートとは違い、船体を反射のない漆黒に塗り、灯火を一切点灯せずに音もなく進むそのボートは、要人脱出用のものに違いない。

 ほとんど音がしないのは、特殊な防音加工を機関部に施しているといったところか。

 舳先の形状も、二股に分かれていて、喫水線の下には、特殊な形状の安定翼や消波翼などが備えられていることだろう。

 サジヴァルドは、残ったコウモリ達を黒いボートの前へと、上空から忍ぶように向かわせた。

 時を同じくして、先に出た十二艘のボートは、コウモリ達が取り付いた瞬間に一斉に轟音を立てて爆発する。

 十二個の高性能理力爆弾が湖上で一斉にオレンジ色の火を噴いた。

 その様子は、まさに戦場そのもの……しかも、海上の艦隊戦を見ているかのような火力だった。
 
 現に、今の段階で既に湖面は熱されて、周囲にはモクモクと水蒸気が冷えてできた霧が立ち籠めつつある。

「それにしても、よくもこれだけの爆弾を何発も使えますねぇ。敵ながら、可愛い顔して恐ろしい女です。《爆弾娘》とでも呼んであげましょうか。それとも、《ドカン娘》の方響きがキュぅートぉでしょうかぁぁ?」

 もはや勝ちが見え興奮気味のサジヴァルドは、巻き起こる爆風と爆音に紛れるように、上空からボートのキャビンへと急降下した。


 キャビンの操縦席には……やはりいた。


 銀の光沢を散りばめたように月光を照り返しながら、航行風で後ろへと流れる蒼い髪の女性だ。

 慌てて身支度をしたのだろうか?

 寝間着と思われる薄い紅色のワンピースの上に、黒いコートを羽織って、コートの裾やはだけた襟などが、髪と同じく風にはためいている。

――もぉらいましたぁ! 貴女のすぅぅべてを奪ってぇぇぇ、血ィの甘ぁい夢とぉ、いんなぁ欲にィ沈みなさぁぁい。

 操縦席に佇立するその姿が気付くいとまも与えずに、サジヴァルドは自慢の牙を、柔らかく暖かそうな白いうなじに突き立てた。

 ついでに――――

 そう、あくまでもついでだが――――

 その背後から女性の胸部へと両腕を回し、掴みごたえの……いや、逃がさないように掴みやすそうな二つの突起を鷲掴みにする。

 口から長く突き出たその牙は、確実に女性の首筋へと突き立てられ、よだれが滲んだ唇が白いうなじに触れた。

 その瞬間!



――な……? 冷たくて……硬ぁぁいィィィッ! 



     ☆



 次の瞬間、吸血鬼に首元を噛みつかれたまま無表情に佇立する蒼髪の女性型マネキンが、オレンジ色の閃光を発し、盛大に爆発した。
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