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序章 朴念仁を取り巻く環境~宮廷司祭と駄目男~
第一話 蒼髪の剣士~アテネ一の朴念仁~
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蒼を帯びた銀の月光の中、白いドレスが淡く光っていた。
春先の冷ややかな夜風に、ほんのりと吐息が白い帯を描いていく。
夜の静寂に、今夜はやけに遠く感じる満月からの清廉な光。
大理石の白が月光の銀を照らし返すバルコニーの中、目の前に佇立する幼い少女。
その姿は、触れることも許されないほどに高貴で――残酷といえるほどに神聖な雰囲気を纏っていた。
夜風に背中まで伸びた黒い髪がさらりと軽く舞う。
艶やかで濡れたような漆黒。
美しい黒髪であるのに、それは小さな嘘を秘めているように感じられた。
その黒髪とは対照的に、真摯に向けられた瞳の琥珀は、一切の陰りのない輝きで全てを惹きつけるかのよう。
琥珀の瞳がもつ不可思議な魅力のせいだろうか……。
その少女はこちらに語りかけているにもかかわらず、その言葉をうまく聞き取れなかった。
少女は――
何かを訴えている。
何かを決意している。
何かを誓っている。
願いと約束。
目の前の蒼髪の幼い剣士に――
☆
頭上の木の葉、その陰がつくる揺らぎの会間から、初夏の暑い日差しがまぶたを照らしていた。
海辺から、小高い丘へと草原の碧を駆け上がってきた暖かい風が、鼻腔に潮と土のにおいを伝える。
丘の上、広葉樹の大木が大地を掴むその根を枕に、うたたかの昼寝をしていた男は、少し野暮ったい顔をしながら上体を起こした。
「何て言ってたんだ?」
夢の中――
おそらくは夢の中だったのだろう。
覚めたばかりの夢のくせに、内容は遠い過去の記憶のようにおぼろげだ。
ただ、その世界の妙な冷たさだけが残っている。
そんな夢の中で唯一生気を感じたのは、何か言葉を紡いでいた琥珀の瞳をもつ少女。
彼女が夢の中で言っていた言葉が何だったのか。
「綺麗な子だったな……」
呟いてから一呼吸、そして頭を数回横に振る。
「何言ってんだ、俺……夢だし、まだ十歳程度のガキじゃないか」
さらに周囲を急ぎ見渡して、軽く安堵する。
彼の迂闊な呟きを聞いている人影などはいなかった。
軽く伸びをして、肺の中に初夏の風を取り込み、一気に立ち上がる。
木の根に立て掛けてあった、長剣が収まった赤い鞘を拾い上げ、そのつり革を肩口から袈裟懸けにし、彼は天を仰ぎ見た。
上空を流れる白い雲を映す瞳は、蒼穹のごとく。
そして、その頭髪にあっても、同じく蒼い長めの癖毛。
剣士として鍛え上げた肉体は、一九〇セグ(センチ)ほどの長身、無駄のない鋼の筋肉で引き締められていた。
端正な顔つきのその男は、一応、このアテネでは少年の部類になる十七歳。
その剣士の名はダーン・フォン・アルドナーグ。
「そろそろ時間かな」
ダーンは一人呟き、丘を下り始めた。
その先には、アテネ王国白亜の王城が、大理石の白を照り返していた。
☆
アテネ王国は、レアン大陸の西側に位置するユーロン地方の一国である。
ユーロン地方南方とギプト大陸に囲まれたオリン海の北岸にあり、温暖な気候。
また世界においても有数の先進国家であり、いくつかの先進国と同盟を結び、交易も陸路・海路ともに盛んである。
この世界において先進国家とは、主に《理力器》の運用が盛んに行われている国を指している。
これらの国は、国家事業として莫大な《理力》を生成する大型の《理力器》を運用し、国内に理力伝導網を築いていた。
アテネ王国も都市部に理力伝導網を保有して都市機能を発展させている。
また水道施設や下水施設、理力ガスなどの安定供給がなされた代表的な先進国家であった。
国家において、その存続を維持するためには力が必要である。
この場合の力とは、政治・経済・軍事力と様々だが、このアテネ王国には主に三つの軍事力があった。
一つ――王国機甲師団。
先進の《理力器》を軍事開発し、これらを運用して成り立つ最大の軍事力だ。
二つ――王国騎士団。
白銀の甲冑を纏った騎士の部隊で、白兵戦を主とする。
三つ――傭兵隊。
国籍は主にアテネ王国にある者がほとんどだが、外国人も多く、優秀な戦闘能力を持つ戦士たち。
傭兵の名の通り、王国に雇われた兵士たちだ。
特徴として、戦闘スタイルがバラバラで主に集団戦闘よりも、特殊任務や潜入工作を得意とする。
そのアテネ王国傭兵隊の訓練場では、二人の若い男が対峙していた。
一方は蒼髪が目立つダーンである。
ダーンは右手に訓練用の刃を落とした長剣を持って、その手首を回したり、首を左右に傾けたりと、軽い準備体操をしていた。
もう一方は、胸に赤銅色のプレートをつけた茶髪の剣士だ。
背の高さはダーンよりわずかに低いが、肩や胸など筋肉の盛り上がりから、随分と鍛えられた肉体のようだ。
こちらも軽い準備運動をしながら訓練用の長剣を右手で弄んでいる。
二人に共通していたのは、剣を持って対峙しているのに、随分と気楽で口元に薄笑みを浮かべていることだ。
「ナスカ、そろそろ始めようか」
ダーンは正面の茶髪の男に刃をおとした長剣の切っ先を向けた。
ナスカと呼ばれた茶髪の男は、ダーンの長剣の切っ先が自分の眉間に向けられていることにも動じることなく、軽く深呼吸をし応じる。
「おう、いいぜ。今夜は負けた方が夕食を作るってことでいいな?」
ナスカの言葉に、ダーンはため息交じりに
「どうせお前、また負けたらホーチィニさんに作らせるんだろ? 賭にならないじゃないか」
軽く不満を漏らす。
「あいつはオレの女だからな。愛情というスパイスの利いた手料理だぜ。本来お前のような朴念仁が口にすることはないであろうものだが……そいつが食えるんだ。料理が上手い女を惚れさせるオレ様のいい男ぶりに感謝しろ」
「ホーチィニさんが作ったものが上手いってのは納得。だけど、それ故に納得がいかないってのは、アテネ中男のが共有する認識だぞ。ナスカ、お前が宮廷司祭の弱みを何か握っていて、脅してるんじゃないかって噂、知らないのか?」
左目を軽く瞑って冗談半分にやじるダーンに、ナスカは左手で前髪を掻き上げると、
「モテない奴らのひがみなど、このオレには響かないな」
ワザと――とは思うが、気障ったらしく言い放つ。
「あ。今の流石に俺でもムカッときたぞ。ったく、あんないい子と恋仲になっても、お前の性格の歪みは直らないんだな」
「ぬかせっ。お前みたいな朴念仁の方が歪んでるっつーの。まあ、確かにアイツはいい女だぜ。このオレのイイ男ぶりに若干霞んでしまうかもしれねーけどな。――ちょっとアレな性格とか、微妙に育ちが芳しくないトコなんかはチョット残念だけどな……胸とか……やや小ぶりなオッパイとか……巨乳とは果てしなく遠かったこととか……」
本当に残念だ、三年前はもっと育つものと……と一人目尻に涙をにじませて呟く。
「ナスカ、あとで私刑……」
訓練場を見下ろす王宮のテラスから、一部始終を眺めていた黒髪の少女が一人。
彼女は微笑みながら、優しく柔らかな口調で物騒なことを口にする。
その後ろに控えていた女中が、その異様な気配に恐怖し、手にしたガラス製の水差しを床に落として割ってしまった。
ガラスの割れる派手な音が頭上のテラスから聞こえ、屈強の傭兵剣士二人が肩を強張らせた。
「聞こえたみたいだ」
ダーンは青ざめた顔でナスカを伺うと、そこにあるはずの茶髪の頭がない。
その視線の遙か下に、ナスカの茶髪があった。
――土下座。
それは漢の誠意の究極型。
何も言い訳を口にせず、ただ誠意のみを伝えることで、相手への陳謝とする。
バカな自分が口を開ければ、本来持っている貴女への敬愛を、自分の意思に背き損なってしまうものなんだ。
油断してつい本音――じゃなくて、心にもないことを口走ってしまう、愚かでエロいオレを許してくれ……って多分手遅れで天罰決定。
ナスカは諦めて、待ち受ける天罰イベントを覚悟し、立ち上がる。
「これがオレの人生最後の挑戦となるかもしれねぇな」
「安い人生観だな……」
「やかましいッ。とにかく、アイツが見てるつーのをスッカリ忘れさせてくれたこと、たっぷりと後悔させてやるぜ」
「いや、別に忘れさせてやる意図は無かったし。というか、お前の方だろ、たっぷりと後悔してるの……」
「かわいそうなモノを見る目で辛辣に言うなッ」
剣術訓練の勝負なのだが、すでに別のところで敗北しているナスカが、無恥に吠えた。
その二人の間に割り込んで、一人の傭兵……十代後半の女性で、背中までの金髪をポニーテールにしている弓兵が
「はいはい。バカ兄弟の漫才はここまでね。二人とも訓練はいつも通りの交戦規程よ、いい?」
あきれ顔で言う。
「オレ、隊長なんだけど……扱い惨くね」
アテネ王国傭兵隊長ナスカ・レト・アルドナーグは不平を漏らすも、先ほどまでとはうって変わって鋭い表情になり訓練用の剣を正中に構えた。
「義理の愚兄にはいつも難儀しているだけで、別に漫才じゃ無いんだがな、エル」
ダーンも同じように剣を構え臨戦状態となった。
「二人ともいつもそんな顔してれば、隊長と颯刹流剣法皆伝の凄腕剣士として、私の認識も改まるんだけど?」
弓兵の傭兵隊員エル・ビナシスは半目で二人を睨め付けるが、剣士二人はわずかに口元を緩めるだけだった。
「はあ……。とにかく、えーと……アルドナーグ家夕食当番決定戦? ……始めッ!」
若干気の抜けた号令に突き動かされて、二人の剣士が同時に大地を蹴り間合いを詰める。
二人の剣士が一瞬にして周囲の空気を硬化させた。
春先の冷ややかな夜風に、ほんのりと吐息が白い帯を描いていく。
夜の静寂に、今夜はやけに遠く感じる満月からの清廉な光。
大理石の白が月光の銀を照らし返すバルコニーの中、目の前に佇立する幼い少女。
その姿は、触れることも許されないほどに高貴で――残酷といえるほどに神聖な雰囲気を纏っていた。
夜風に背中まで伸びた黒い髪がさらりと軽く舞う。
艶やかで濡れたような漆黒。
美しい黒髪であるのに、それは小さな嘘を秘めているように感じられた。
その黒髪とは対照的に、真摯に向けられた瞳の琥珀は、一切の陰りのない輝きで全てを惹きつけるかのよう。
琥珀の瞳がもつ不可思議な魅力のせいだろうか……。
その少女はこちらに語りかけているにもかかわらず、その言葉をうまく聞き取れなかった。
少女は――
何かを訴えている。
何かを決意している。
何かを誓っている。
願いと約束。
目の前の蒼髪の幼い剣士に――
☆
頭上の木の葉、その陰がつくる揺らぎの会間から、初夏の暑い日差しがまぶたを照らしていた。
海辺から、小高い丘へと草原の碧を駆け上がってきた暖かい風が、鼻腔に潮と土のにおいを伝える。
丘の上、広葉樹の大木が大地を掴むその根を枕に、うたたかの昼寝をしていた男は、少し野暮ったい顔をしながら上体を起こした。
「何て言ってたんだ?」
夢の中――
おそらくは夢の中だったのだろう。
覚めたばかりの夢のくせに、内容は遠い過去の記憶のようにおぼろげだ。
ただ、その世界の妙な冷たさだけが残っている。
そんな夢の中で唯一生気を感じたのは、何か言葉を紡いでいた琥珀の瞳をもつ少女。
彼女が夢の中で言っていた言葉が何だったのか。
「綺麗な子だったな……」
呟いてから一呼吸、そして頭を数回横に振る。
「何言ってんだ、俺……夢だし、まだ十歳程度のガキじゃないか」
さらに周囲を急ぎ見渡して、軽く安堵する。
彼の迂闊な呟きを聞いている人影などはいなかった。
軽く伸びをして、肺の中に初夏の風を取り込み、一気に立ち上がる。
木の根に立て掛けてあった、長剣が収まった赤い鞘を拾い上げ、そのつり革を肩口から袈裟懸けにし、彼は天を仰ぎ見た。
上空を流れる白い雲を映す瞳は、蒼穹のごとく。
そして、その頭髪にあっても、同じく蒼い長めの癖毛。
剣士として鍛え上げた肉体は、一九〇セグ(センチ)ほどの長身、無駄のない鋼の筋肉で引き締められていた。
端正な顔つきのその男は、一応、このアテネでは少年の部類になる十七歳。
その剣士の名はダーン・フォン・アルドナーグ。
「そろそろ時間かな」
ダーンは一人呟き、丘を下り始めた。
その先には、アテネ王国白亜の王城が、大理石の白を照り返していた。
☆
アテネ王国は、レアン大陸の西側に位置するユーロン地方の一国である。
ユーロン地方南方とギプト大陸に囲まれたオリン海の北岸にあり、温暖な気候。
また世界においても有数の先進国家であり、いくつかの先進国と同盟を結び、交易も陸路・海路ともに盛んである。
この世界において先進国家とは、主に《理力器》の運用が盛んに行われている国を指している。
これらの国は、国家事業として莫大な《理力》を生成する大型の《理力器》を運用し、国内に理力伝導網を築いていた。
アテネ王国も都市部に理力伝導網を保有して都市機能を発展させている。
また水道施設や下水施設、理力ガスなどの安定供給がなされた代表的な先進国家であった。
国家において、その存続を維持するためには力が必要である。
この場合の力とは、政治・経済・軍事力と様々だが、このアテネ王国には主に三つの軍事力があった。
一つ――王国機甲師団。
先進の《理力器》を軍事開発し、これらを運用して成り立つ最大の軍事力だ。
二つ――王国騎士団。
白銀の甲冑を纏った騎士の部隊で、白兵戦を主とする。
三つ――傭兵隊。
国籍は主にアテネ王国にある者がほとんどだが、外国人も多く、優秀な戦闘能力を持つ戦士たち。
傭兵の名の通り、王国に雇われた兵士たちだ。
特徴として、戦闘スタイルがバラバラで主に集団戦闘よりも、特殊任務や潜入工作を得意とする。
そのアテネ王国傭兵隊の訓練場では、二人の若い男が対峙していた。
一方は蒼髪が目立つダーンである。
ダーンは右手に訓練用の刃を落とした長剣を持って、その手首を回したり、首を左右に傾けたりと、軽い準備体操をしていた。
もう一方は、胸に赤銅色のプレートをつけた茶髪の剣士だ。
背の高さはダーンよりわずかに低いが、肩や胸など筋肉の盛り上がりから、随分と鍛えられた肉体のようだ。
こちらも軽い準備運動をしながら訓練用の長剣を右手で弄んでいる。
二人に共通していたのは、剣を持って対峙しているのに、随分と気楽で口元に薄笑みを浮かべていることだ。
「ナスカ、そろそろ始めようか」
ダーンは正面の茶髪の男に刃をおとした長剣の切っ先を向けた。
ナスカと呼ばれた茶髪の男は、ダーンの長剣の切っ先が自分の眉間に向けられていることにも動じることなく、軽く深呼吸をし応じる。
「おう、いいぜ。今夜は負けた方が夕食を作るってことでいいな?」
ナスカの言葉に、ダーンはため息交じりに
「どうせお前、また負けたらホーチィニさんに作らせるんだろ? 賭にならないじゃないか」
軽く不満を漏らす。
「あいつはオレの女だからな。愛情というスパイスの利いた手料理だぜ。本来お前のような朴念仁が口にすることはないであろうものだが……そいつが食えるんだ。料理が上手い女を惚れさせるオレ様のいい男ぶりに感謝しろ」
「ホーチィニさんが作ったものが上手いってのは納得。だけど、それ故に納得がいかないってのは、アテネ中男のが共有する認識だぞ。ナスカ、お前が宮廷司祭の弱みを何か握っていて、脅してるんじゃないかって噂、知らないのか?」
左目を軽く瞑って冗談半分にやじるダーンに、ナスカは左手で前髪を掻き上げると、
「モテない奴らのひがみなど、このオレには響かないな」
ワザと――とは思うが、気障ったらしく言い放つ。
「あ。今の流石に俺でもムカッときたぞ。ったく、あんないい子と恋仲になっても、お前の性格の歪みは直らないんだな」
「ぬかせっ。お前みたいな朴念仁の方が歪んでるっつーの。まあ、確かにアイツはいい女だぜ。このオレのイイ男ぶりに若干霞んでしまうかもしれねーけどな。――ちょっとアレな性格とか、微妙に育ちが芳しくないトコなんかはチョット残念だけどな……胸とか……やや小ぶりなオッパイとか……巨乳とは果てしなく遠かったこととか……」
本当に残念だ、三年前はもっと育つものと……と一人目尻に涙をにじませて呟く。
「ナスカ、あとで私刑……」
訓練場を見下ろす王宮のテラスから、一部始終を眺めていた黒髪の少女が一人。
彼女は微笑みながら、優しく柔らかな口調で物騒なことを口にする。
その後ろに控えていた女中が、その異様な気配に恐怖し、手にしたガラス製の水差しを床に落として割ってしまった。
ガラスの割れる派手な音が頭上のテラスから聞こえ、屈強の傭兵剣士二人が肩を強張らせた。
「聞こえたみたいだ」
ダーンは青ざめた顔でナスカを伺うと、そこにあるはずの茶髪の頭がない。
その視線の遙か下に、ナスカの茶髪があった。
――土下座。
それは漢の誠意の究極型。
何も言い訳を口にせず、ただ誠意のみを伝えることで、相手への陳謝とする。
バカな自分が口を開ければ、本来持っている貴女への敬愛を、自分の意思に背き損なってしまうものなんだ。
油断してつい本音――じゃなくて、心にもないことを口走ってしまう、愚かでエロいオレを許してくれ……って多分手遅れで天罰決定。
ナスカは諦めて、待ち受ける天罰イベントを覚悟し、立ち上がる。
「これがオレの人生最後の挑戦となるかもしれねぇな」
「安い人生観だな……」
「やかましいッ。とにかく、アイツが見てるつーのをスッカリ忘れさせてくれたこと、たっぷりと後悔させてやるぜ」
「いや、別に忘れさせてやる意図は無かったし。というか、お前の方だろ、たっぷりと後悔してるの……」
「かわいそうなモノを見る目で辛辣に言うなッ」
剣術訓練の勝負なのだが、すでに別のところで敗北しているナスカが、無恥に吠えた。
その二人の間に割り込んで、一人の傭兵……十代後半の女性で、背中までの金髪をポニーテールにしている弓兵が
「はいはい。バカ兄弟の漫才はここまでね。二人とも訓練はいつも通りの交戦規程よ、いい?」
あきれ顔で言う。
「オレ、隊長なんだけど……扱い惨くね」
アテネ王国傭兵隊長ナスカ・レト・アルドナーグは不平を漏らすも、先ほどまでとはうって変わって鋭い表情になり訓練用の剣を正中に構えた。
「義理の愚兄にはいつも難儀しているだけで、別に漫才じゃ無いんだがな、エル」
ダーンも同じように剣を構え臨戦状態となった。
「二人ともいつもそんな顔してれば、隊長と颯刹流剣法皆伝の凄腕剣士として、私の認識も改まるんだけど?」
弓兵の傭兵隊員エル・ビナシスは半目で二人を睨め付けるが、剣士二人はわずかに口元を緩めるだけだった。
「はあ……。とにかく、えーと……アルドナーグ家夕食当番決定戦? ……始めッ!」
若干気の抜けた号令に突き動かされて、二人の剣士が同時に大地を蹴り間合いを詰める。
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