超常の神剣 タキオン・ソード! ~闘神王列伝Ⅰ~

駿河防人

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第五章  姫君~琥珀の追憶・蒼穹の激情~

第六話  閉じた王家3

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   アーク王国王立科学研究所長のスレームが語ったのは、世界最大の国家とその利権にまつわる闇の部分だった。

 千年以上続いたとされる古代アルゼティルス王国が崩壊した後、世界は混迷の一途をたどっていた。

 それまで人類を繁栄させてきたアルゼティルスの科学文明が終焉を迎え、新たに開発された理力文明の黎明期、人々はその利権を求めて凄惨な争いに明け暮れたのだ。

 そして約二〇〇年前、混迷した世界をまとめるべく建国されたのがアーク王国だ。

 初代の国王は、アルカード・ルキス・テロー・アーク。

 彼の出自は様々な憶測や伝承があるが、正式な記録には記されたものがない。

 彼は、七人の将軍とともに軍を率いて世界各地の紛争を解決しつつ、各地の文化圏を整備し、世界に理力文明の基礎を根付かせた。

 七人の将軍達を各地に残し、その場を統治させて国を作らせ、混迷の世界に秩序と繁栄を与え、自分はアーク大陸に国家を建設し人類繁栄の中心としたのだが────その国家こそが現在のアーク王国である。

 アルカードは各国の王となった七人の元将軍達と協議し、互いが対等な立場での国交ができるよう条約を交わし、権力がアーク王国に集中しすぎないよう尽力した。

 しかし、権力の匂いというのは甘美なモノだったのだ。

 王となった将軍はまだ良かったが、その部下の中に、アーク王国の利権を利用しようとする者が現れ始めたのである。

 アーク王国の利権に目がくらんだ者達のやり口は、その後のいかなる歴史学者も眉をひそめるようなモノだった。

 彼らが目をつけたのは────


 アルカード王には、2人の王子と1人の王女がいた。

 妻は姫君を産み落とした際に、体調を崩し早くに亡くなってしまったことと、アルカードは側室を置かなかったため、彼の後継者となるのは二人の王子の一方だった。
 王子達が十に満たない年齢であったことと、アルカード自身がまだ若かったので、彼は自分の後継者を指名していなかった。


 そんな折、最初の悲劇がアーク王家を襲う。


 その日は、王家の所有する山間の別荘地にアルカードと数人の使用人達、そして五歳の誕生日を迎えた姫君が訪れていた。

 初夏のさわやかな風が草花の息吹を運んでくる山間の草原で、アルカードは、娘の誕生プレゼントにと父娘おやこの時間を作ってやったのだ。

 普段は多忙を理由になかなか相手にされなかった幼い姫君は、それを見た女中達がつい破顔してしまうほどに、喜びいっぱいにはしゃいでいたという。

 そうして気の緩んだ女中達の目をぬすんで、一人別荘の敷地外に出ようとした姫君だったが。
 幼い彼女が敷地を出ることはかなわなかった。

 表面を燻して、腐食対策をしたすすに黒くなっている木製の扉の前。

 そこを守護する兵士達は門の向こうだったが、幼い少女はきっと考えあぐねたことだろう。

 彼女は、未だに一人で外出したことがなかった。

 それでも、5歳になったことで、何か新しい成長的なモノを欲したのだろうか?

 おそるおそる、重い木の扉を押し開けたが────案の定、門を守護していた兵士に呼び止められ、少女の小さな冒険はあっさりと終結する。

 やんわりと敷地に戻される姫君に、兵士は思い出したようにポケットにしまった小さな、本当に小さな白い箱を手渡した。

 ピンクのリボンと小さなカードがついたその小さな箱。

 兵士は、つい先ほど郵送の配達員から王女宛にということで受け取ったモノだと説明し、小さなカードには『お誕生日おめでとう アルカードから愛を込めて』と記載されていた。

 喜々として早速その箱を開けようとした姫君に、その兵士は言う……
「どうせなら、陛下の目の前で開けてあげた方が、贈り主の陛下は喜ぶだろう」と。


 かくて、素直に別荘の母屋に戻り、大好きな父の元へ駆けつけた姫君は満面の笑顔で大事に両手で抱えてその小さな箱をアルカードに見せながら、「ありがとう、パパ……」と最期の言葉を口にした。

 高濃度の理力爆弾は、一瞬にしてそれを手にした少女と怪訝な顔をしたアーク初代国王の肉体を蒸発させたのだった。


 その後、残された王子達の間で、凄惨な権力争いが勃発する。

 アークの利権を狙った者が、二人の王子に接近してたぶらかし、次期国王の座を争わせたのだ。

 結果、王国を二分する内戦となり、せっかく復興しかけた人類文明は一度後退し、多くの命が失われることとなった。

 この抗争は長男側が勝利を収め、次男は国外の流刑地に軟禁されることとなる。

 だが、内戦終結後も王家の利権をかけた抗争は苛烈を極め、長男が国王に戴冠するも、彼の子供は成人になる前に暗躍する権力の亡者達に全て暗殺され、国王も外遊の際にクルーズ船が沈没し還らぬ人となった。

 結局、政戦で敗北し軟禁されていた弟が、第三代の国王となって王族の血筋は保たれることになるが、この際も、王子暗殺事件に関わった者として、多くの貴族や官僚が処刑されることとなった。

 王国の黎明期に権力闘争が苛烈だったが、その後も世界最大の利権を巡る抗争は、凄惨さを増しつつ続いていくこととなる。

 それがようやく収まったのが、約七十年前らしいが、それを成し遂げた方法というのが、時の国王と元老院が考えた『閉じた王家』政策である。

「つまり、将来国王になりそうな奴を一切公にしなくなったのさ。今じゃ、国王と王妃以外は全く情報を公開していないんだ」

 スレームの説明の最中、その悲惨な王家の歴史に眉をひそめていたダーンの耳に、自嘲気味に声を震わすリドルの言葉が染み入ってくる。

 スレームがさらに説明をしていったのは、要約すると、次期国王となる人間が完全に決められるまで、王家の内情は一切公開されないことと、万が一にも、悪意あるものに利用されたことを考慮し、王子・王女は王家の名前以外の名前と戸籍を持ち、都合が悪くなった際には『そんな王子など最初からいなかった』という形で即座に問題が解決するよう仕込まれているのだとか。


 そんな話を聞きながら、ダーンは思わず自分の唇を強く噛んでいた。

 口の中に鉄の香りが微かに広がるが、その不快感にまして胸糞悪い気分だった。

 アーク王家は────
 その子供達に、王の子供とすら認められないまま、都合が悪ければ切り捨てられるという、まさに政治の道具扱いとして大事に扱われていたのだから。


 スレームの話の後、ダーンはアテネ国王ラバートから預かっていた機密文書内蔵の《記憶媒体》をリドルに手渡すと、今後のアークでの予定を簡単に話し合い、足早に応接室を退出するのだった。

 余計にかける言葉とタイミングを失ってしまった、ステファニーの寂しそうな視線を置き去りにして。
 
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