超常の神剣 タキオン・ソード! ~闘神王列伝Ⅰ~

駿河防人

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第四章  ざわめく水面~朴念仁と二人の少女~

第五十一話  来訪した真の悪意

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 二つの蒼閃が魔人の《魔核》を貫き、あたりに硬質のガラスが派手に砕け散る音が響く。

 四つの連動する《魔核》のうち、左右肩部の《魔核》を同時に失った魔人は、攻撃の威力に上半身を仰け反らせたまま硬直する。

 そして、そのまま両腿のあたりにある《魔核》が最大に稼働し、吹き飛ばされた《魔核》を再生しようと魔力を溢れさせた。

 周囲には吐き気を催すほどの醜悪な魔力がゆたう。

 だが、《魔核》と肉体を補修することに全魔力が注ぎ込まれていて、魔人も停止し周囲の魔力球もすべて消失した上、破壊された防御フィールドも再生されず、魔人は完全な無防備状態になった。

 そこへこの機をうかがっていた金と銀の剣士が飛び込んでくる。

 銀の髪をなびかせて猛然と突進したルナフィスは、レイピアにすべての闘気を乗せて必殺の一撃、崩月衝を放った。

 その一撃にタイミングを合わせて、ケーニッヒもレイピアで必殺の一撃を放つ。
 
 黄金に輝く破壊の衝撃――――皇鬼鉤撃オウガ・ハーケン

 彼の得意とする古代神魔法により、刀身に編み込まれた破壊の魔導衝撃と闘気の合成された、魔法剣士独自の強力無比な一撃である。

 金と銀の剣閃が動きを止めた魔人の肉体に轟音をはらんで迫り、ケーニッヒの一撃が右の大腿部の《魔核》を、ルナフィスの一撃が左の大腿部の《魔核》をそれぞれ吹き飛ばす。

 その瞬間、魔人の体は一気に色を失い、灰色の岩と化した。

 あたりを揺蕩っていた濃密な魔力が一気に消失し、まるで時間を早送りするかのように、灰の岩と化した魔人の肉体が風化してボロボロと崩れだす。

「やったわ!」

 自らが放った一撃に確かな手応えを感じて、ルナフィスの声が弾んでいた。

 その彼女の視界に、魔人の風化した肉体から崩れ落ちて、岩床の上をこちらに向かって転がってくる物体を認める。

 げんに思いつつも、ルナフィスはその物体につい手を伸ばしていた。

 それは、手のひらに収まるサイズの球体で、紅いの宝石のようなもの。

――これって、確か……

 ルナフィスはその球体に魔力などの不吉な気配がないことを確認して、それを手で拾う。

 その紅いの球体は、緋色の魔人が形成された際にリンザーの胸元に埋め込まれた宝玉だった。

「ルナフィス、大丈夫なのかそれ?」

 長剣を下げたまま、ダーンがルナフィスの行為に気がつき心配して声をかけてきた。

「うん。たぶん平気よ……というか、なんか変な気分ね。妙になつかしいというか、何というか。まるで私に拾ってほしくてこっちに転がってきたような……」

「へ? なんで? ソレ、あのリンザーっていう女の持ち物でしょ……ばっちくない」

 少し身を引く感じで言ってくるステフの言葉で、ルナフィスも宝玉を手のひらにのせていることを後悔しかけた。

 今さら悲鳴を上げて投げ出すわけにもいかず、少しだけ身の毛がよだつ気分のまま、隣に立つケーニッヒに視線を送る。

 その視線に、『どうしよう?』という困惑や助けを求める意図と、『黙って見てないでなんとかしなさいよッ』という理不尽な叱責の意図を同時に感じて、さしものケーニッヒも苦笑いを浮かべた。

 とりあえず、何か言おうとケーニッヒが口を開きかけたところで――――


「いらないのなら返してくれる? ソレはアンタ達小娘が持つには過ぎた宝なのよ」


  昏い黄昏と死の冷たさを孕む不吉な声が、勝利に気を緩ませかけたダーン達のを打っていた。

 その場にいた者達がぎくりと身を震わせるほどの不吉な声。

 灰の塊と化した魔人の肉体、その影から染み出るように紅い魔力の光があふれ出し、血のように紅い髪を持つ女の姿が現れる。

 リンザー・グレモリーのようだが、その姿を見た全員が気がついていた。

 今まで相手にしてきたリンザーとは気配が違う。

 視線を合わせることが危険と感じるほどの、圧倒的な悪意に満ちた濃密な魔力。

 背筋に冷たい汗が流れる感覚と、微かに足下がかんして震えるのを感じる。





 その気配に呑まれないように、ダーンとルナフィスは剣を構え直し、疲れ果てた肉体に鞭打って、わずかに残っていた闘気を奮い立たせた。

 ケーニッヒも、ゆうぜんと構えていたが冷や汗がこめかみから流れ落ちるのを隠せなかった。

 異界では魔神と自称するほどの魔力の持ち主。

 もはや疑いようもなく、たった今目の前に現れたこの女こそ、真のリンザー・グレモリーだ。

 はっきり言って、この場の誰もがここでやり合っては勝てないと意識する。

 非常手段として、ケーニッヒと《水神の姫君サラス》のカレリアが協力し、この場から撤退するための転移術式を発動するしかない――――そう考えて、ケーニッヒはカレリアに視線を送った。

 もっとも、その非常用術式ではこの場の全員は転送できない。

 ケーニッヒが送り手側に残り、カレリアが誘導役として転移に同行、そしてほかに運搬可能な人員は二人だ。

 この場合、後々のことを考えれば、蒼髪の二人を送り出すのが最良かと、考えていたところで――――

「ああ……べっつに、今からあんた達と遊ぶ気はないからぁ。そんなことしても、お目当ての巨乳ちゃんに逃げられちゃうしぃ、そっれに、ここまで敢闘したアンタ達を、弱り切った今を狙って挽肉にしたって私の名が廃るだけよぉ。挽肉にするヤルなら、もっと活きのいいときにするわン」

 ケーニッヒ達の思惑を看破し、愉悦に声を弾ませるリンザーは、そのままぐるりとダーン達を眺めた。
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