超常の神剣 タキオン・ソード! ~闘神王列伝Ⅰ~

駿河防人

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第四章  ざわめく水面~朴念仁と二人の少女~

第四十三話  水の精霊王5

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 神殿のさいおう水神の姫君サラスの祭壇で無事契約を成立し、ステフ達はルナフィス達と合流するためせんの階段を上っていた。

 祭壇の近くでは、濃密な活力に満ちた水蒸気が邪魔をして転移が使えないらしい。
 ここに来たときも、螺旋階段の降り口までしか転移でこられなかった。

 そして、階段を上るだけの時間を無為に過ごせないらしく、彼女たちは雑談に興じている。

「やっぱり、《リンケージ》したときに何かしらの恩恵が得られるの?」

 ステフの質問に、カレリアは微妙な反応をする。

「その……申し上げにくいのですけど、今回はそれほど劇的には変化ないかと……。実はお姉様にお渡しした《白き装飾銃アルテッツァ》には、既に私の力を利用した改良が入っています。本当は、契約が済んだ後にこの場でお渡しするつもりでしたの」

 しかしながら、ステフの衝撃銃が壊れてしまったために、急遽前倒しで、《白き装飾銃アルテッツァ》を手渡すこととなってしまったらしい。

 さらにカレリアは、ステフの持つ《白き装飾銃アルテッツァ》についての改良点と自分の力との関連性を説明していった。
 
 双子姉妹は、並んで螺旋階段を上り、その後ろに、ダーンが少し所在なさげについて行っている。

 彼女らが「流体制御によるエネルギー収束」だの、「銃身や炉心に理力流体層被膜を形成」だのと言っているが、ダーンにはまるで意味がわからない。

 要約すると、カレリアの水の精霊王としての知識により、《衝撃銃》を劇的に進化させていたらしいが、最終的な改良は、実は研究所にステフが到着した日、《リンケージ》してソルブライトによって調整された瞬間に行ったらしい。

 あの時、ソルブライトは銃把の握りなどの簡単な調整をしたとか言っていたと思うが、ブラスターショットの機構などは、カレリアの知識を借りてソルブライトが実装したものである。

 そうなると、ソルブライトはその時既にカレリアが水の精霊王と知っていたことになるが……。

『私からはそういった答えは教えません。貴女あなた自身が精霊王を見つけることも、契約にかかる試練のひとつなのですから』

 いぶかるステフに対し、ソルブライトはしれっと言う。

「むー。それじゃあ、最初っから知っていたんだ。でも、確かあなた、今精霊王がどんな姿をしているかわからないって言っていたわよね? 黙っていただけならともかく、嘘は酷いんじゃない?」

『私がそれを申し上げた時は、私もまだ知りませんでしたよ。あの時は確か、温泉であなた達がれんな行いをした後でしたが……』

「ハレンチ言うなッ」

『ああ、失礼しました、つい。それで妹君が精霊王と知ったのは、彼女が我々のいた部屋の外にあらわれた瞬間です。そう……あなた達が初めて同じベッドの上で迎えた朝に……』

「きゃー!! なんですの? そのお話、私まだ聞いてません。教えてください、徹底的に! 詳しく! 赤裸々に!」

 ステフがソルブライトを叱責するよりも早く、カレリアが喜々として黄色い悲鳴と共に騒ぎだす。
 明らかに興味津々である。

『それが……信じがたいことに、手を繋いで寝ただけなのです。……いや、厳密には、目を覚ます寸前にステフの方から、彼のはだけた浴衣の中に手を突っ込んで、もそもそと……』

「ちょっとぉッ! いい加減なこと言わないでよッ」

『あら、そう思われます? 寝ていたのに? 目が覚めたとき、どんな体勢だったか覚えていらっしゃらないのですか? 私などは二人の胸に挟まれてスリスリされたものですから、とても暑苦しかったのですが。ダーンはもっと大変だったようですよ、いろいろと……そうですよね? ダーン』

「知らない。覚えてない」
 
 いきなり話を振られて、ダーンは困惑しつつも視線をあらぬ方向にらし即答。

「スリスリって……こすって何していたのですか?」

 興奮気味に両手を胸の前で組んで、ステフの胸元に詰め寄るカレリア。

 一方、ステフは羞恥心で真っ赤になりながら、その時は実際に寝ていたし、よくよく思い返せば、とてもこの場で語って聞かせられない内容の夢を見ていた記憶が蘇る。

 蘇った記憶は生々しい感触を伴って、ステフの下腹部にうずくような鈍い感覚を覚える。
 そのため、なんらかの反論なり抗議がすぐに出なかった。

『その内容については秘密です。貴女あなたにはまだ早いです……刺激が強すぎます』

「まあ……それほどまでに」

『そんな中、そこまでいきながら、何もしないヘタレがこの朴念仁となります』

「悪かったな……」

 ぼそっと悪態をついてダーンは押しだまる。
 自分の場合、こういうときは何か言い返しても無駄だし、余計に事態が悪化すると、ダーンはこれまでの経験で知っていた。

 そんなダーンを置き去りにして、女性陣の遠慮のない会話はまだ続く。

「そうなりますとお姉様、やはりもっと直接的かつ大胆に、せんじよう的な方向へと」

「あのねぇ……」

 妹の発言にゲンナリとした視線を向けるステフ、その視線に反応したわけではないが、カレリアは何か重大な問題に直面したかのような深刻な表情となる。

「ハッ……こんなことなら、あんな機能はりませんでしたわ。……ソルブライト、どうしましょう? 私、お姉様のアピールチャンスを奪ってしまったかもしれません」

『流体スクリーンのことですか? ですから、私もそのようなモノは必要ないと……』

「なんのこと?」

 妹と神器が何やら自分の知らないところで、恐らく自分に関わる事を勝手にやっていたらしく、ステフはげんな表情を露わにした。

「いえ……。《リンケージ》の際の防護服脱着の際に、一時的にお姉様の周囲を流体化した理力でカーテンのように包んで、無防備な瞬間を守ろうとする機構を追加したんです。このおかげで、万が一攻撃されても一定以上の防御が可能なんですが、重大なへいがいが発生しました」

「なによ、弊害って」

 確かに《リンケージ》の変身は、全裸になるというだけでなく、全くの無防備状態になる瞬間があった。
 それが防護されることは、喜ぶべき事だが弊害と言われてしまうと、心中穏やかではない。

「可視光線も透過しないスクリーンなので、変身時にさらされてきたお姉様の美しい裸体が、今後周囲から見えなくなってしまうんです」

「でかしたカレリア」

 カレリアの言葉に即座に賞賛を送るステフ。

「そんな……折角の悩殺アピールタイムがなくなってしまうんですよ。これはもう、この世界全体の損失となる重大な弊害ですわ」

 姉の賞賛など全く心外という感じで、悲哀すら織り交ぜた声で訴えるカレリア、その言葉に神器も続く。

『まったくです! ここにきてこのようなしき改変、美しき萌の精神への冒涜です』

「ごめん……ホントに何言ってるかわかんない」

『ああ、失礼、本音が出てしまいましたね。まあ、この先ダーン以外の男に裸を見られたくもないでしょうから、妹君の配慮に感謝することですね』

「ありが……って、ダーンだからいいわけじゃ……」

 その後、しばらく妹と神器によるステフいじりが続く中、数歩遅れて階段を上るダーンは、もう《リンケージ》の度に彼女から離れたり背を向けたりする必要がなくなったことに何故か溜め息を漏らしてしまうのだった。


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