超常の神剣 タキオン・ソード! ~闘神王列伝Ⅰ~

駿河防人

文字の大きさ
上 下
135 / 165
第四章  ざわめく水面~朴念仁と二人の少女~

第三十話  閃く銀の猛攻

しおりを挟む

 蒼髪の剣士ダーンと銀髪の剣士ルナフィス。

 戦いは開始早々から、二人の言葉通り全力の衝突となった。

 仕合開始を告げるステフの号令の直後、対峙する二人の剣士は、一瞬だけためうような動きを見せる。

 その一瞬の不自然とも言える沈黙の後、お互いの距離が一気に縮まり、激しいけんげき戦が始まった。

 通常、人の感覚では認識しきれない速度の剣戟戦――――

 二人とも全力の《固有時間加速クロック・アクセル》を発動し、一気に相手を攻め立てたのだ。

 闘気が洗練されて刀身に伝わり、ダーンの長剣が蒼いりんこうを、ルナフィスのレイピアが白銀の燐光を太刀筋に淡くきらめかせている。

 実際に音速付近にまで加速した剣戟が幾度もぶつかり合い、周囲に連続した金属音が鳴り響く。

 時折折り混ざるのは、剣に伝う洗練され破壊力を持った闘気同士がぶつかり合い、弾け合って周囲の空中分子を崩壊させプラズマ化し大気を膨張させる爆音。

 達人のレベルを超え、闘神の域に踏み込みつつある二人の剣士が、幾多の剣戟の合間に必殺の一撃を織り込んでいる証拠だ。

 

 その二人の剣戟を見守る者達も、同じく加速した固有時間の中にいた。

「素晴らしい戦いですが……早くも力の差が出てきましたわ」

 艶やかな黒い髪を揺らして、カレリアが呟くと、隣に立っていた金髪の優男は軽く鼻で笑った。

 僅かに不機嫌を浮かべ、ケーニッヒを横目で睨むカレリア。

「失礼、カレリア様。確かに力の差が出てきたけど、貴女には一体どちらが優勢に見えておられるのかな?」

「あいかわらず遠慮のない物言いですわね」

 言い返しながら、はしばみ色の瞳は湖上の武道台を激しく動き回りつつ繰り返される剣戟戦を捉える。

 その激しい剣と剣のぶつかり合いに、僅かではあるが赤い飛沫が舞う。

 致命傷ではないが、肩や足に浅い傷をいくつか受けているのは、蒼い髪の剣士の方だ。

 ほんの僅かな差ではあるが、ルナフィスのレイピアがダーンの長剣の速度と手数を上回っている。

 すべてをさばききれないために、致命傷にいたらない程度の攻撃を受けてしまうしかない状態なのだ。

 端から見れば、やはりルナフィスがわずかに優勢であった。

「確か……報告ではダーン様の剣士としての実力ならば問題はないとのことでしたけど? これはどの様に説明されるのです」

「いやぁ。申し訳ない気持ちですね。まさか彼女がここまで力をつけているとは……アッハハ、コレは正直怖いくらいだね。あの場にいたら僕は震えが止まらないよ」

「ちょっと、笑い事ではありませんよ。大丈夫と言うことでしたから、この様な『賭け』に応じたのですからね。あの、私の話を聞いてますか?」

「もちろんさ。でもね、カレリア様、僕は彼女の力が予想以上だったと言いましたが、それだけですよ。何もダーンが彼女に劣るとは一言も言っていない。むしろ、彼女の力が予想以上だったから僕も気付いてしまった……。僕が怖いと思ったのは、ダーンの方さ」

「え? 何を言って……」

 またワケの分からないはぐらかし方をするのだと、非難の視線を向けようとしたカレリアは、ケーニッヒの表情をみて息を呑んだ。

 いつも涼しい顔をする金髪の優男が、戦慄を滲ませる表情で額に汗を浮かべていたからだ。




     ☆



 
 ダーンの蒼穹の瞳に、白銀に輝く剣先が幾多にも重なって迫ってくるように映る。

 対峙する銀髪の少女は、武道台の岩床を蹴って、素早くダーンの視界の外へ移動し、それを追ってダーンが身体の向きを変えると、正面には無数の銀閃が壁のように迫ってくるのだ。

 迫る無数の突きを剣で捌き、腕や太ももに熱い衝撃が何度も走って、ダーンは目の前の銀閃に感嘆していた。

 自分に可能な最大の加速度で行っている《固有時間加速クロック・アクセル》を、相手も同じく加速し、更に元々のレイピアの速度がプラスされて、こちらの剣の速度を圧倒していた。

 迫り来る銀閃の猛攻に、防戦一方になりつつあるのは確かだ。

 さらに、始めに試したもう一つの秘策《予知フォーサイト》は、あっさりと通じなかった。

 発動し相手の動きを先読みした瞬間、それに対応しようとしたこちらの動きを同じく《予知》で先読みされたのだ。

 ルナフィスも《固有時間加速クロック・アクセル》の上位サイキックたる《予知フォーサイト》を使えたのである。

 その結果、完全に先の読みあいにおちいってしまい、結局はサイキックのない場合の剣術の駆け引きと同じ状態になってしまった。

 そうなると、先読みが無駄になるほどの速度と手数で闘うか、先読みできても防御や避けることができない一撃を放つしかない。

 そして今はルナフィスの銀閃が、この剣戟の優勢を保っていた。

 時折、実際の音速を突破する高速刺突は、加速状態とあいまって凄まじい攻撃力を誇っている。

 気を抜けば、一瞬で心臓や頭部を撃ち抜かれていることだろう。

 また、前回アリオスの街において宿屋の一室で闘ったときと違い、今回は障害物のない平場で、ルナフィスの動きは左右上下のどこからでも攻撃が飛んでくる状態だ。

 敗色濃厚――――

 本来ならばそうなるとダーン自身も認めるところだが……。

 蒼穹の瞳には、絶対の自信に満ちた闘志。

 細かい切り傷を幾筋も受け、僅かに鮮血を舞わせるその肉体には、尽きることのないような膨大な闘気が溢れていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売です!】 早ければ、電子書籍版は2/18から販売開始、紙書籍は2/19に店頭に並ぶことと思います。 皆様どうぞよろしくお願いいたします。 【10/23コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【第2巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――  乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】! ★★  乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ! ★★  この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。

なんだって? 俺を追放したSS級パーティーが落ちぶれたと思ったら、拾ってくれたパーティーが超有名になったって?

名無し
ファンタジー
「ラウル、追放だ。今すぐ出ていけ!」 「えっ? ちょっと待ってくれ。理由を教えてくれないか?」 「それは貴様が無能だからだ!」 「そ、そんな。俺が無能だなんて。こんなに頑張ってるのに」 「黙れ、とっととここから消えるがいい!」  それは突然の出来事だった。  SSパーティーから総スカンに遭い、追放されてしまった治癒使いのラウル。  そんな彼だったが、とあるパーティーに拾われ、そこで認められることになる。 「治癒魔法でモンスターの群れを殲滅だと!?」 「え、嘘!? こんなものまで回復できるの!?」 「この男を追放したパーティー、いくらなんでも見る目がなさすぎだろう!」  ラウルの神がかった治癒力に驚愕するパーティーの面々。  その凄さに気が付かないのは本人のみなのであった。 「えっ? 俺の治癒魔法が凄いって? おいおい、冗談だろ。こんなの普段から当たり前にやってることなのに……」

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

グライフトゥルム戦記~微笑みの軍師マティアスの救国戦略~

愛山雄町
ファンタジー
 エンデラント大陸最古の王国、グライフトゥルム王国の英雄の一人である、マティアス・フォン・ラウシェンバッハは転生者である。  彼は類い稀なる知力と予知能力を持つと言われるほどの先見性から、“知将マティアス”や“千里眼のマティアス”と呼ばれることになる。  彼は大陸最強の軍事国家ゾルダート帝国や狂信的な宗教国家レヒト法国の侵略に対し、優柔不断な国王や獅子身中の虫である大貴族の有形無形の妨害にあいながらも、旧態依然とした王国軍の近代化を図りつつ、敵国に対して謀略を仕掛け、危機的な状況を回避する。  しかし、宿敵である帝国には軍事と政治の天才が生まれ、更に謎の暗殺者集団“夜(ナハト)”や目的のためなら手段を選ばぬ魔導師集団“真理の探究者”など一筋縄ではいかぬ敵たちが次々と現れる。  そんな敵たちとの死闘に際しても、絶対の自信の表れとも言える余裕の笑みを浮かべながら策を献じたことから、“微笑みの軍師”とも呼ばれていた。  しかし、マティアスは日本での記憶を持った一般人に過ぎなかった。彼は情報分析とプレゼンテーション能力こそ、この世界の人間より優れていたものの、軍事に関する知識は小説や映画などから得たレベルのものしか持っていなかった。  更に彼は生まれつき身体が弱く、武術も魔導の才もないというハンディキャップを抱えていた。また、日本で得た知識を使った技術革新も、世界を崩壊させる危険な技術として封じられてしまう。  彼の代名詞である“微笑み”も単に苦し紛れの策に対する苦笑に過ぎなかった。  マティアスは愛する家族や仲間を守るため、大賢者とその配下の凄腕間者集団の力を借りつつ、優秀な友人たちと力を合わせて強大な敵と戦うことを決意する。  彼は情報の重要性を誰よりも重視し、巧みに情報を利用した謀略で敵を混乱させ、更に戦場では敵の意表を突く戦術を駆使して勝利に貢献していく……。 ■■■  あらすじにある通り、主人公にあるのは日本で得た中途半端な知識のみで、チートに類する卓越した能力はありません。基本的には政略・謀略・軍略といったシリアスな話が主となる予定で、恋愛要素は少なめ、ハーレム要素はもちろんありません。前半は裏方に徹して情報収集や情報操作を行うため、主人公が出てくる戦闘シーンはほとんどありません。 ■■■  小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも掲載しております。

巻き込まれたおばちゃん、召喚聖女ちゃんのお母さんになる

戌葉
ファンタジー
子育てが終わりこれからは自分の時間を楽しもうと思っていたある日、目の前で地面へと吸い込まれていく女子高生を助けようとして、自分も吸い込まれてしまった。 え?異世界?この子が聖女? ちょっと、聖女ちゃんは普通の女の子なのよ?四六時中監視してたら聖女ちゃんの気が休まらないでしょう。部屋から出なさい!この国、いまいち信用できないわね。 でも、せっかく異世界に来たなら、新しいことに挑戦したい。まずは冒険者ね! 聖女召喚に巻き込まれたおばちゃんが、聖女ちゃんの世話を焼いたり、冒険者になってみたりする話。 理不尽に振り回される騎士様の話も。 「悪役令嬢と私の婚約破棄」と同じ世界です。

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...