超常の神剣 タキオン・ソード! ~闘神王列伝Ⅰ~

駿河防人

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第四章  ざわめく水面~朴念仁と二人の少女~

第二十六話  水上の闘い2~決着~

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 下腹部がしゆくして全身が泡立つ感覚。

 少女は思わずしがみつく腕の力を強めてしまう。

「ちょっ……苦しいって……」

 戸惑う声が耳からとは別に、触れあった胸の辺りから肌越しに振動として伝わってきた。

「しょ……しょうがないでしょッ」

 った顔を背けつつ言い放つが、そのせいで視界に下の様子が映ってしまう。

 思わず漏れそうになった短い悲鳴をなんとか押さえ込むが――――

「うわっ……とっと……ステフ、あんまり変に動かないでくれ。バランスが……」

 悲鳴は漏れなかったがその分、身を固くし、その動きで彼女を抱き支えるダーンの上体が不意に傾いたらしい。

「わ……わかってるわよ。だから、絶対落ちないでよ……って言うか、落とさないでよ」

 文句を言い放つステフは、水着姿のまま同じく水着姿で上体が露わになっているダーンの首に両腕を回し、その彼女を彼が両腕で抱き上げている。

 いわゆるお姫様抱っこ状態だ。

 そんな二人の足元は、立っているだけでも不安にさせる場所だった。

 プールの水面から高さ十五メライ(メートル)ほどの位置に設置された、幅十五セグメライ(センチメートル)の平均台の上である。

 これは、複合障害物競走のコースに設けられた『障害』の一つだ。

 ここに至るまでに、女性の胸の谷間に卵を挟んで運ぶゾーンや、男性の身体をはしご代わりにして高所に上っていくゾーンなど、随分と特殊な『障害』があった。

 さらに途中、アロマオイルを浴びてしまう罠もあったりして、お互いの肌が随分と滑りやすくなっている。

 重ねて余計なことに、オイルのアロマ効果で随分と身体が火照ってもいた。

 普段なら、この程度の高さは怖くも何ともないし、下は一応プールで落ちても大丈夫なのだが……。

 このように男性に抱き上げられた状況では、相手に頼るしかなく、そのせいか随分と恐怖感が沸き起こっていた。

 当然、相手の剥き出しの首筋やら何やらに抱きついているのだから、気恥ずかしさも最高潮なのだが。

 前述のオイルのせいで滑ってしまうため、落下しないように思いっきり抱きしめて密着するしかなかった。

 色々と火照った感覚の中、隣のコースを見れば――――

 同じく平均台の上に金髪の優男に抱き上げられて色白の肌を真っ赤に染めている銀髪の少女が視界に映った。

 これまで4種目の対戦を終わらせていたが、成績はほぼイーブンだ。

 体力勝負の部分では、ルナフィスは凄腕の剣士なのだからどうあっても及ばないと考えていたが……。

 不思議と同じレベルの体力のようで、とても剣の達人たるダーンを苦しめた者とは思えない。

 だが、その疑問についてはダーンから回答を得ていた。

 曰く――――

 ルナフィスはダーンの剣術と同じく、筋力ではなく闘気をサイキックの力でコントロールし、動きを強化していたらしい。

 そしてこの競技場のなかではサイキックが使えなくなるため、闘気での力や素早さの補強ができないらしいのだ。

 とすると、彼女は自分とほとんど変わらない体力しか持たない少女ということである。


――魔竜人なのに?


 その疑問をダーンに問いかけると、彼は少し困惑した笑みを浮かべ、その答えは保留にしてくれと言っていた。


――なーんか……あたしに隠れて何かをたくらんでるみたいだけど……


 ジトッとした視線をダーンに向けるステフ……。

 その視線を受け、ダーンは気まずい笑みを浮かべてしまっていた。




     ☆




 ジトッと疑いの眼差しを感じながら、ダーンは気まずい笑みを浮かべる。

 実はステフにあえて黙っていることがあった。

 それは――――

 ケーニッヒとステフのよく知る女性との密約で交わされた『計画』である。

 ダーンはそれとなく視線を対戦相手の男女の方へと滑らせると――――

 やけにハイテンションな金髪優男と、その彼に抱き上げられた銀髪少女の羞恥で真っ赤に染まった横顔が視界に入った。

 銀髪少女の羞恥心と不安を混ぜ合わせた表情は、この腕の中にある蒼髪少女のそれに近いものだが……

 そんな風に感じて、ダーンは自然と口元を緩めていた。




     ☆





 自分を抱き上げているダーンが微かに笑い、その直前に隣のコースの方へと視線を流していたことも含め、ステフはこんな状況である事を心底悔やんでいる。

『嫉妬全開ですか……まあ、見ている分には可愛いと思いますけど、そんな風にいつもすねを蹴飛ばすことばかり考えていては、流石に度が過ぎるというものですよ』

 この競技場内で唯一、念話状態での会話が可能な胸元の宝玉は、溜め息交じりな感じで語りかけてくる。

『う……うるさいわね。今は蹴ってないでしょーがッ』

 不機嫌をまとめてぶつけるように、ステフは応じる。

『ですから……こんな状況で蹴ることができないことに、思いっきり悔やんでいらしたのでは?』

 ソルブライトの容赦ない突っ込みに、ステフは気まずく聞こえていないふりをして、視線をコースの先へと向けた。

 その琥珀の瞳に、平均台の終わりと白いゴールテープが映っていた。




     ☆




 水上障害物競走の後、乙女達の羞恥心をいたずらにあおる競技が二つ続き、ようやく乙女達の水上対決は終了となった。
 
 そして――――
 
 その最終的な結果は、きんではあったがはっきりと決着がついていた。


 126点 対 121点


 勝者は、ルナフィス・ケーニッヒペアであった。


 

 
 

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