超常の神剣 タキオン・ソード! ~闘神王列伝Ⅰ~

駿河防人

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第四章  ざわめく水面~朴念仁と二人の少女~

第二十話  水霊の神殿

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 ホワイトアウトした視界が徐々に回復していく。

 今回は、大地母神の時と違って、ダーン達の意識がなくなることはなかった。

 鼓膜を震わす轟音――――

 目の前に広がったのは、水煙を上げる大瀑布だった。

 見回せば、莫大な量の水が周囲から滝となって落ちており、その中心に浮いているような錯覚を覚える。

「まさに水の精霊王にふさわしい場所ね」

 ステフは呟き、あたりを見渡す。

 彼女たちが立っている床はクリスタルか何かでできていた。

 眼下には、周囲から落ちた膨大な量の水が集まって巨大な渦を形成している。

 あたりの空気は、まさに滝のそばの空気と同じく、清涼で涼やかに濡れたものだった。

 床は四方に広がっているものの、広さはおおむね十メライ(メートル)四方といったところか……。

 その床を支えているのは、巨大なエンタシスの柱で、これもクリスタルのようなものでできており、その太さで光が屈折したり吸収されたりして、淡い水色をしている。

 その色合いは、まるで水を固めたようなものだ。

 そして、上を見上げれば、分厚いガラスのような天井があり、その上には日の光のようなモノが揺れている。

 その光景は、水中から太陽を眺めたときの感覚に近い。

 いや、むしろ周囲の構造物全てが、水を固体化したもので構成されているみたいだ。

 水を凝固させるには、冷却し凍らせればいいが、一応触れてみると床などは凍っているのではなかった。

 もしこれが水でできているのならば、何か特殊な力で固められたモノなのだろう。

「あちらに扉のようなものがありますわ」

 カレリアが指さした方向にダーンは視線を送る。

 その視線の先は、床の端から人が一人通れるような道が、やはり透明な足場となってびていた。

 さらにその先、大瀑布の水が僅かに割れて、岩壁に木製の扉のようなものがあった。

「なるほど、どうやらあれが神殿内部への入り口のようですね」

 スレームの言葉に、その場の全員が同意見といった風に頷き合う。

「今回も、誰かの《具象結界》なのかしら……どう? ダーン」

 ステフに促されて、ダーンも周囲の気配を探ってみるが――――

「ああ、この前みたいに術者の思念を感じるよ……さっきのほこらなんかは現実にあったモノなんだろうけど、ここは何者かの意志が介在する場所だな……」

 言葉を切って、ダーンは周囲をもう一度見渡す。
 
 周囲は明らかに水の活力に満ちている。

 前回の大地母神は、半ば自分自身の存在を隠し、大地の活力を利用しつつも、その正体を少しわかりにくくしていた感じだった。

 対して、今回の水の精霊王《水神の姫君》は、自分の力がこの場に及んでいることを隠す気はさらさらないらしい。


――と、いうか……。


 ダーンはちらりとその場の女性陣を確認し、思わず肩を竦めてしまう。

 今回の精霊王は、随分と自己主張というか、あからさますぎるというか……。

 まるで、契約者をからかっているかのようだ。

「とりあえず、あちらの方に参りましょう……さあ、ダーン様」

 にこやかに笑って、カレリアはダーンに近付いて、彼の左腕に抱きつく。

 途端に、蒼い髪の少女の気配が只ならぬものに豹変するが――――

「あ……あのー、カレリアさん?」

 琥珀の視線がとても痛く、背中にイヤな汗がにじむ感触と、左腕付近に柔らかな感触。

 相反する二つの感触に困惑しながらも、ダーンはその元凶たる黒髪の少女に、困った子犬のような視線を投げかける。

 すると、当のカレリアは、はしばみ色の瞳を悪戯っぽく細めて、舌先を軽く出す。
 ダーン鼻腔を涼やかなシトラスの香りがくすぐった。

「こうしていないと、なんか下に落ちてしまいそうで……。お姉様のことが心配で、勢いにまかせてこんなところまで来てしまいましたが、いざ、冒険となると少し怖くなってしまいましたの……。ダーン様、ほんの少しでいいですから、私のことも守ってくださらないかしら? その……お姉様よりもほんの少しだけ『過剰』にサービスしてお礼にしますから」

 つやのある流し目を蒼髪の剣士に送り、さらにちらりと姉の方を覗えば……


――ああ……ジェラシー全開なお姉様も素敵です。


 少し上気した顔で、満足げに喉を鳴らしてしまうカレリア。


「……あまり、虐めないでやってくれ……って、君に俺が言うのもなんだかなぁ……」 

 色々な負の感情と、それを抑え込もうとする『姉の威厳』や体裁で、かんともしがたい状況になっているステフを横目に、ダーンは黒髪の少女だけに聞こえるように言うが。

 その言葉には従えないとでも宣言するかのように、左腕がさらに柔らかな感触へと埋没するのだった。
 
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