超常の神剣 タキオン・ソード! ~闘神王列伝Ⅰ~

駿河防人

文字の大きさ
上 下
121 / 165
第四章  ざわめく水面~朴念仁と二人の少女~

第十六話  魔法剣士

しおりを挟む

 ケーニッヒ・ミューゼルと名乗った奇妙な男に連れられて、ダーンは研究所の廊下から鉄製の扉をくぐり、せん状の裸階段を下っていく。

 下の方からは生暖かい風が吹き上がってきて、階段の隙間から見下ろす景色はぼんやりと乳白色に霞んでいる。

「なんだ? ここは……」

 ダーンの疑問に、ケーニッヒは振り返ることなく応じる。

「ここはね、地下の竜脈に繋がる階段さ……。この研究所が理力科学技術を研究する上で、竜脈……ああ、君たちは地脈と言うんだったかな、とにかく惑星ほし活力マナが対流している場所を選んで作られている。ここは、その活力マナの対流層に向かって下っている場所なのさ」

 まるで野に咲いている草花を説明するかのように、気軽に言葉を紡ぐケーニッヒ。

 だが、惑星ほし活力マナが対流する場所なんかに生身で潜るなど、マグマに飛び込むようなものだ。

「なあ、たしか特殊な鍛錬場があるっていう話じゃなかったか? このまま下っていけば……」

「心配無用さ。そんな深いところまで行く気はないし、この階段も途中で止まっている。さらに、活力マナ層なんて、何カリメライ(キロメートル)も下だよ。ここを下っていくのはね、特殊な鍛錬場を築くのに都合がいいからさ……こんな風にね」

 ケーニッヒの言い回しの途中、ダーンは《具象結界》のことに思いあたり、一瞬警戒を強めたが後の祭りだった。
 目の前の景色が、現実味のない虚無の世界へと変質する。

 そして、変質した世界の中に漂うのは術者が抱く心象のざん――――だが、今回はちょっと異質だった。

「って、これはまさか……魔法なのか」

 その時ダーンが感じたのは、《魔核》などが放つ《魔》の波動に近かった。
 ただし、《魔》の波動特有の禍々しさが感じられないが……。

「うん、どうやら気がついたね。そのとおり、コレは魔法さダーン。それも古代の神々の霊に働きかけて発動したものだ」

「ということは、アンタは異界に関係が……」

「ないよ。ボクは異界の神々とは何の契約もしていない。言ったろ、古代の神々って」

「何なんだ、その古代の神々って」

「そうだね、全てを説明するには時間が足りないしまだまだ研究途中なんだが、この宇宙が生まれる以前に存在していた神様達さ」

 ケーニッヒは螺旋階段から、具象結界で新たに生み出された大地に降りていく。

 ダーンもそれにならって、階段の途中から具象結界で生み出された虚実の大地を踏みしめる。

 ある程度階段から離れたところで、ケーニッヒは停止し、ダーンを振り返ると言葉を続けた。

「彼らはこの宇宙の発生と同時に半ば消滅したが、いくつかの強力な神霊達は完全に消滅したのではなく宇宙のしんえんに眠っている。その彼らに交信して、この世界の活力マナを利用し変質させて超常を発生させるのが、ボクの使う古代神魔法だよ」

 魔法の定義とは――――

 魔竜戦争時代から、世界各国の研究者達が魔法を研究してきたが、魔法とは《活力マナ》を変質させる術式を用いて異界の神に働きかけ、その結果超常を引き起こすものと定義している。
 
 魔力とは、《活力マナ》が変質したものであり、変質した《活力マナ》は生命体に悪影響を及ぼす。

 故に、《魔》の波動といったものには嫌悪感を覚えるし、魔力を扱うものは、生命体としても悪い方に変質していくのだ。

 その悪影響は様々で、身体そのものが変質するものもいれば、精神を犯されるものもいる。

「俺の感覚では、魔法とは邪法であって、《魔》に取り込まれてむしばまれていくから人が手を染めてはならないという認識なんだが」

 ダーンの言葉に、軽く笑ってケーニッヒは首を横に振る。

「それは偏見が過ぎるねダーン。確かに、異界の神……いや、《魔神》と呼ぶべきかな……魔竜人達が契約した魔神の力は、《活力マナ》を悪性の力に変質させる特性があった。だが、魔法と言っても全てが悪性というわけじゃないんだ。君だって、今ボクが使っている古代神魔法の波動に不快感を抱かないだろう?」

「それは……確かに」

 ダーンが感じているのは、魔法が発動した時に感じる波動であって、以前あのグレモリーという女が魔法を発動させたときに感じた『悪意』や『嫌悪感』は、今この場では感じていない。

「魔法とは、契約した力ある存在に《活力マナ》を変換してもらって超常を引き起こすものだ。それは、人々が日常で使っている《理力器》と似ているのさ。要は、《理力器》の代わりが契約した存在と考えればいい。まあ、《理力器》を扱うほど簡単ではないけどね」

「そういう考え方もできるのか? いや、正直俺には上手く理解しがたいけど、それで、ケーニッヒが俺をここに連れてきたのは魔法に関する解説のためか」

 ダーンの問いかけにケーニッヒは首を横に振り、

「もちろん、魔法云々はタダの前振りさ……。ボクは少々特殊な戦い方をするから、あらかじめ断っておこうと思っただけだよ。固有時間加速クロツク・アクセルにしても、古代神魔法を応用しているんだ。サイキックでやるより、術者の負担はとても少ないから、便利なんだよ。そして、君が《剣士》なら、ボクのスタイルは《魔法剣士》ということになるかな」

「初めて聞くクラスだな」

「だろうね。もっとも、『異界』と呼ばれている世界では、わりとありふれたクラスらしいけどね。さて、今回ボクがご用意した具象結界は、鍛錬にぴったりの設定だ。『非殺傷』、つまりはここで戦闘しても怪我をしない。便利だろう?」

 そう言って、ケーニッヒはあいきようよく片目をつぶってくる。

 若干、気怠いいらつきを覚えるダーンは、不機嫌を織り交ぜたような声で、

「無茶クチャな設定だな……他には?」

「特にないよ。肉体が物理的なダメージを受けないだけで、実は痛みや疲労、精神の疲弊はあるし、さらに言うと、肉体ダメージは精神的なダメージに変換される。だから、攻撃を受け過ぎると気絶したりするんだ」

「なるほど……。それで、アンタはいつまでけったいな姿をしてるんだ? いい加減、どんな顔してるのか知りたいな」

 ケーニッヒの赤い鼻を指さし、ダーンが言い放つが、ケーニッヒは軽く肩を竦ませるだけで、にこやかに子供をあやすような声で応じてくる。

「それは、君がボクをその気にさせたらご覧にいれようじゃないか。ちょっとくらい嫌がらせしないと、君は本気で戦ってくれなさそうなんでね」


――嫌がらせの自覚はあるのか……。


 そう思いつつダーンは、目の前の道化師の男を注意深く観察し、その実力の程を推察する。
 しかし――――

「正直、本気でやっても勝てるかわからないな。アンタの実力はその特殊なクラスのせいか、全く見当がつかない」

「いいね……そういうことがわかるのって大事だよダーン。ご褒美に、一番初めに気絶したときにボクの熱いベーゼを捧げようじゃないか」

 甘くささやくように語りかけるケーニッヒは、鞘からレイピアを抜き放つ。

 瞬間、彼の回りの空気が硬質化した気がした。

「俺にそういう趣味はない……」

 無性に殴りたくなるような気分で、ダーンも抜剣する。

「そうか! ボクが君を愛のとりこにしてしまったら、彼女が悲しんでしまうね。……いや、略奪愛っていうのも燃えるか……。でも、それは彼女の目の前で奪わなければ意味がないな。よし、コレはあとのお楽しみに取っておこう。ということで、まずは一戦目、いくよ」

 その言葉を合図に、魔法剣士ケーニッヒのレイピアが、無数の銀閃となってダーンに迫ってくるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。 ※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界召喚に巻き込まれたのでダンジョンマスターにしてもらいました

まったりー
ファンタジー
何処にでもいるような平凡な社会人の主人公がある日、宝くじを当てた。 ウキウキしながら銀行に手続きをして家に帰る為、いつもは乗らないバスに乗ってしばらくしたら変な空間にいました。 変な空間にいたのは主人公だけ、そこに現れた青年に説明され異世界召喚に巻き込まれ、もう戻れないことを告げられます。 その青年の計らいで恩恵を貰うことになりましたが、主人公のやりたいことと言うのがゲームで良くやっていたダンジョン物と牧場経営くらいでした。 恩恵はダンジョンマスターにしてもらうことにし、ダンジョンを作りますが普通の物でなくゲームの中にあった、中に入ると構造を変えるダンジョンを作れないかと模索し作る事に成功します。

散々利用されてから勇者パーティーを追い出された…が、元勇者パーティーは僕の本当の能力を知らない。

アノマロカリス
ファンタジー
僕こと…ディスト・ランゼウスは、経験値を倍増させてパーティーの成長を急成長させるスキルを持っていた。 それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。 するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。 それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき… 遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。 ……とまぁ、ここまでは良くある話。 僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき… 遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。 「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」 それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。 なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…? 2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。 皆様お陰です、有り難う御座います。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

幼子は最強のテイマーだと気付いていません!

akechi
ファンタジー
彼女はユリア、三歳。 森の奥深くに佇む一軒の家で三人家族が住んでいました。ユリアの楽しみは森の動物達と遊ぶこと。 だが其がそもそも規格外だった。 この森は冒険者も決して入らない古(いにしえ)の森と呼ばれている。そしてユリアが可愛い動物と呼ぶのはSS級のとんでもない魔物達だった。 「みんなーあしょぼー!」 これは幼女が繰り広げるドタバタで規格外な日常生活である。

処理中です...