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47. 懐旧
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「わぁ、すげぇなあ」
朝7時30分。俺はまたもサボりがちになっていたジョギングをしていたのだが、街の雰囲気が変わっていたのに気づいた。おそらく、その理由としては…。
「明日は、祭りか…。花火大会、なんか楽しみだな」
ここの町はそこそこ都会であるゆえ、花火を上げることのできるスペースももちろん存在する。明日の花火大会では、少し距離は遠いが、大きな広場でするらしい。昨日、家のポストにチラシが入っていたが、屋台なども出るらしい。
「よし、そろそろペース上げて帰りますか」
俺は1人そう呟き、ペースを上げる。だが、交差点に差し掛かる目の前の信号は赤色に変わってしまった。まあ、休めるからいいか…。
「…ん?」
すると、俺が待っている目の前の横断歩道の前に、見覚えのある後ろ姿をした少女がいた。俺は、そいつの隣に行き、話しかける。格好的に、こいつもジョギングだろうか。
「…よう、雫。おはよう」
「っえ!?あ、た、佑?お、おはよう」
「なんだその反応…」
「い、いや…。急だったからびっくりしただけよ。驚かさないでよね!」
ごめんごめん、と。頭を軽く触りながら俺は雫に謝る。ふと、7月にしては珍しい涼しい風が吹いたように感じて、俺は思わず周りを見回す。
「あれ…?ここって…」
なんだろうか。ここに何か覚えがある。
「ん?どうしたの、佑」
「ああいや…。うん?あ!」
俺は雫の不思議そうな表情を見て、記憶が舞い戻る。そうだ…、ここは。俺と雫が初めて会った交差点…。ちょっと嫌なものを思い出してしまったな…。
「な、何よー。1人ではしゃいじゃって…」
「いやいや、なんでもないなんでもない。ほら、信号青になったぞ!」
俺は雫に悟られないように苦笑いを浮かべながら雫とともにジョギングを再開するのだった。
最初に雫と出会ったこの交差点。確か、あの時は…、そもそもとして相手にしてもらえなかったんだっけ。俺の特有のコミュ症を最大限に発揮し、見事に嫌われた場所として深く深く印象に残っている……。そう考えると、茜ほど喋りやすいやつって本当にいないよな、あいつのコミュニケーション能力を本当に羨ましく感じる。
「ちょ、佑…。速い!」
「え、あ、ああ…。すまん雫…」
ボケっと頭の中で考えていると、いつのまにか俺は雫よりも約10メートル先に行ってしまっていた。
「…そういえば、もう風邪は大丈夫なのか?」
隣に追いついた雫に俺は尋ねた。一応あの後は茜がずっと看病してたらしく、茜から見るに、大丈夫そうだったらしいんだが…。
「う、うん。一応はね。身体鈍ってたぶん、ちょっと走って体力取り戻そうってしてたところ」
「偉いなぁ、雫は」
「ち、ちなみにさ…」
すると、雫は少し恥ずかしそうな顔をしながら俺に尋ねた。
「私、風邪の時、何か変なことしてなかった?大丈夫?」
「え?風邪の時?」
「うん…。ほら、佑私の家に来て私のこと見ててくれたんでしょ?茜曰く私って風邪ひいた時は性格が変わるみたいな訳わかんないこと言ってるんだけど…。私、風邪引いた時の記憶イマイチ覚えてないんだ…」
「お、おう…。そうか…。べ、別に何もなかったぞ…」
俺は思わず雫から顔を逸らしながらそう言った。変なことをしてなかったか、その質問に答えるとするならば、かなりしてた。思い返すだけでも恥ずかしくなりそうな…。
「ちょ、ちょっと。何よその反応!絶対何かあったでしょ!茜に聞いてもなんかニヤニヤしてるし…。何があったの?私はあんたに何をしたの!?」
…おそらく、茜がニヤニヤしているのは、雫がこれから何を俺にするか、予想できていたからなんだろう。まあ、実際にあの後茜にほとんど何してたか当てられたしな…。
「え、ええいや。ナ、ナニモナカッタヨ?」
「なんで途中からカタコトなのよ…。ねぇ、教えてよ佑!」
「おいバカ、寄ってくんな!走りずらいだろうが!」
「バカって何よ!佑が教えてくれないのが悪いんでしょ!?」
周りの人から見れば、このクソ暑い朝から謎に身体をぶつからせあう、男女にしか見えなかっただろうか。俺は一度落ち着きたくなったので、運良く見えた公園のベンチへと雫を呼んだ。
「ふぅー。疲れた…」
「ふん、あんたが教えてくれないのが悪いのよ!」
「なんで怒ってるんだよ雫…」
教えてくれって言ってもなぁ、あれほどの内容を…。
「なんか顔赤くなってない佑?風邪?」
「…違うよ。ジョギングで体温が上がっただけだ。でも本当に聞きたいのか?雫。何があったか」
「そ、そりゃもちろん。まあもしかしたらほんのちょっとの確率だけど、あんたに迷惑かけちゃったかもしれないし…?」
「そ、そうか…」
どうしよう、しっかりと話すべきだろうか。でも、隣の雫はこんなにも俺の言葉を待ってるし…。もう話すしかないじゃないか…。しょうがない、雫のためにも正直に全部話そう…。
「え、えっと…。まずお前はめちゃめちゃ幼くなってた」
「幼く?」
「う、うん…。なんかまるで小学生と喋ってるみたいな、今のしっかりとした話し方じゃなくて、もっとゆるーく話してた」
「えっ!?」
途端、顔がみるみる赤くなっていく雫。ほらだからやめておけって言ったのに…。
「わ、私…。そんなんだったの…?」
「ああ…。というか本当に覚えてないのか?」
「覚えてないわよ!だったらなんでこんな恥ずかしいことわざわざ言わせなくちゃならないの!」
「だからなんで怒ってるんですかって…」
苦笑しながら俺は雫にツッコむ。後は…、と俺は続けて言う。
「プリン持ってきてって頼まれて、食べさせてってせがまれたから食べさせた…。とか」
「ええっ…!?」
さらに顔が赤くなる雫。頬に両手を覆うが、その染まった頬は覆い切れていなかった。
「後は…」
「…………」
「俺に好きな人の有無を聞いた、とか…」
「……あうぅ…ぅ」
「えっ?」
ボン!と雫から音がした気がした。なんだ?恥ずかしすぎて、感情が限界を超えてしまったのだろうか。おいおい、夏なのに湯気みたいなのが見えるぞ…。
「ちょ、ちょっと待って?それって私は何か言ってた…?」
「うん…、まあ。そうだな…」
「な、なんて言ってた?私…」
なんとか正気を保ちながらそう尋ねてくる雫。これは、言ってもいいのか…?
まあ、言ったほうが本人の望みなのだろう。そう俺は結論づけ、口を開いた。
「『私はいるよ』って言ってました…」
「……あうぅ…うぅ…ぅ」
プルプルと震えながら頭を下げて悶絶しまくる雫。この様子を見るに、本当にあの時の記憶がないんだな…。まあでも、俺とて、逆にありがたかったのかもしれない。あのままの記憶が残っていたら残っていたで変に気まずくなりそうだったしな…。
「…い」
「い?」
「いないからね!?私、今は、好きな人!か、勘違いしないでよ!?本当にいないんだからー!」
急に叫び出したと思えば、とてつもない早口でそう言葉をまくし立てる雫。おおお近い近いうるさいうるさい…。
まあ前の風邪の時の雫は、きっと小学生時の雫の気持ちだったのだろう。でも、恋を知ってるなんてどこか羨ましいなって感じる…。
今考えてみれば、風邪の時の記憶が曖昧なのはちょっと異質な気もする。少なくとも俺はしんどいっていう記憶は嫌というほど頭に残ってしまうが…。
「まあでも…」
そんなことを考えながら俺はボソッと一言。
「あの時の雫は…、なんかやばかったな…。うん」
「…ん?佑何か言った?」
少し落ち着いたのか、やや冷静を装って雫は俺に尋ねた。耳、良すぎませんかね?
「な、なにもないよ。ほらいくぞ、家まで後もうちょいだ。この公園を後にするぞ」
「う、うん…。変な佑っ」
変なのはお前の方だよ…。と心の中でツッコんだ俺と雫はベンチから立ち上がる。反射的に上を見て、グーッと伸びをした。そこには始めてくる公園のはずなのに、見慣れた屋根が。あれ、ちょっと待て、この場所は…?
「あ、ここ…」
周りをキョロキョロしながら俺は呟く。…ここは、チャリが壊れた時に、茜と一緒に雨宿りしたところだ…。あの時に茜と今隣にいる雫についての過去を聞いたんだよな…。
「どうしたの、佑。ほら行くわよ」
「お、おう。OK」
もちろんそんなことを雫が知るはずもなく、少し不思議そうになりながらも公園を出た俺と歩数を合わせ、ジョギングを再開した。
なんか今日は今まで、と言ってもまだ3ヶ月ほどだが、今日まで起きてきた場所を思い出すなぁ。となると…、ここの道は…?
「よし、ここを曲がればもうすぐ家ね!」
「そうだな…。もう少しだ」
すると、目の前の直線の右手側に見覚えのあるものが。俺は思わず足を止める。
「ん、どうしたの佑。疲れちゃった?」
「いや、これは…」
俺が足を止めた場所、それは自動販売機のあるところだった。確か、ここで、あいつと──。
「あれ、佑じゃん。お姉ちゃんも」
「…!」
「あら茜。茜もジョギング?」
自販機の影から、茜が姿を現した。雫はやや驚いたような表情で彼女にそう尋ねる。
「まあな…。それよりも」
すると茜はあからさまにニヤッとして、
「なんだなんだー?朝から2人でデートですかいな?」
「なんでそうなるのよ茜!こいつなんかとデート行くわけないでしょ!?」
「いやその言い分は酷くないですかね雫さん…」
なんか見慣れた光景だな、と。少し俺は口角を緩ませそう思うのだった。
「でもほら、佑も笑ってるぞ?」
「え…?」
雫はゆっくりとこちらに首を動かす。
「いやいや違うよ、これは…。誤解だって!」
見慣れた光景であることにちょっと感慨ふけってたのに、勝手に思い込まれてしまった。茜のそんな表情も俺が転校してきてから見慣れたものだな…。
「ま、とりあえず僕は1人で走ってくるから、2人はそのままデートを続けてくださいな!」
「何よその言い方は茜ー!帰ってきたら覚えてなさいよ!」
「…ははは。元気だな雫は…」
茜の煽り(?)に過剰に反応する雫。俺はそんな雫に苦笑を漏らしながら、茜のジョギングを見送った。茜が少し遠くの角を曲がったのを確認した俺は、
「ほら、雫。一足先に帰ってゆっくりしてよーぜ」
「…うん」
雫の返事を聞いた俺は踵を返そうとした。
「ねぇ、佑」
だが、雫の声がそれを防いだ。振り向くと、肩にかけたタオルで汗を拭い、尋ねる。
「佑は、明日の花火大会楽しみ?」
その雫はどこか心配そうな、不安そうな表情をしていた。俺はそんな雫に今思う、素直な気持ちを彼女に伝えるのだった。
「ああ、そりゃもちろん!」
と、明日を待ち遠しく思いながら…。
朝7時30分。俺はまたもサボりがちになっていたジョギングをしていたのだが、街の雰囲気が変わっていたのに気づいた。おそらく、その理由としては…。
「明日は、祭りか…。花火大会、なんか楽しみだな」
ここの町はそこそこ都会であるゆえ、花火を上げることのできるスペースももちろん存在する。明日の花火大会では、少し距離は遠いが、大きな広場でするらしい。昨日、家のポストにチラシが入っていたが、屋台なども出るらしい。
「よし、そろそろペース上げて帰りますか」
俺は1人そう呟き、ペースを上げる。だが、交差点に差し掛かる目の前の信号は赤色に変わってしまった。まあ、休めるからいいか…。
「…ん?」
すると、俺が待っている目の前の横断歩道の前に、見覚えのある後ろ姿をした少女がいた。俺は、そいつの隣に行き、話しかける。格好的に、こいつもジョギングだろうか。
「…よう、雫。おはよう」
「っえ!?あ、た、佑?お、おはよう」
「なんだその反応…」
「い、いや…。急だったからびっくりしただけよ。驚かさないでよね!」
ごめんごめん、と。頭を軽く触りながら俺は雫に謝る。ふと、7月にしては珍しい涼しい風が吹いたように感じて、俺は思わず周りを見回す。
「あれ…?ここって…」
なんだろうか。ここに何か覚えがある。
「ん?どうしたの、佑」
「ああいや…。うん?あ!」
俺は雫の不思議そうな表情を見て、記憶が舞い戻る。そうだ…、ここは。俺と雫が初めて会った交差点…。ちょっと嫌なものを思い出してしまったな…。
「な、何よー。1人ではしゃいじゃって…」
「いやいや、なんでもないなんでもない。ほら、信号青になったぞ!」
俺は雫に悟られないように苦笑いを浮かべながら雫とともにジョギングを再開するのだった。
最初に雫と出会ったこの交差点。確か、あの時は…、そもそもとして相手にしてもらえなかったんだっけ。俺の特有のコミュ症を最大限に発揮し、見事に嫌われた場所として深く深く印象に残っている……。そう考えると、茜ほど喋りやすいやつって本当にいないよな、あいつのコミュニケーション能力を本当に羨ましく感じる。
「ちょ、佑…。速い!」
「え、あ、ああ…。すまん雫…」
ボケっと頭の中で考えていると、いつのまにか俺は雫よりも約10メートル先に行ってしまっていた。
「…そういえば、もう風邪は大丈夫なのか?」
隣に追いついた雫に俺は尋ねた。一応あの後は茜がずっと看病してたらしく、茜から見るに、大丈夫そうだったらしいんだが…。
「う、うん。一応はね。身体鈍ってたぶん、ちょっと走って体力取り戻そうってしてたところ」
「偉いなぁ、雫は」
「ち、ちなみにさ…」
すると、雫は少し恥ずかしそうな顔をしながら俺に尋ねた。
「私、風邪の時、何か変なことしてなかった?大丈夫?」
「え?風邪の時?」
「うん…。ほら、佑私の家に来て私のこと見ててくれたんでしょ?茜曰く私って風邪ひいた時は性格が変わるみたいな訳わかんないこと言ってるんだけど…。私、風邪引いた時の記憶イマイチ覚えてないんだ…」
「お、おう…。そうか…。べ、別に何もなかったぞ…」
俺は思わず雫から顔を逸らしながらそう言った。変なことをしてなかったか、その質問に答えるとするならば、かなりしてた。思い返すだけでも恥ずかしくなりそうな…。
「ちょ、ちょっと。何よその反応!絶対何かあったでしょ!茜に聞いてもなんかニヤニヤしてるし…。何があったの?私はあんたに何をしたの!?」
…おそらく、茜がニヤニヤしているのは、雫がこれから何を俺にするか、予想できていたからなんだろう。まあ、実際にあの後茜にほとんど何してたか当てられたしな…。
「え、ええいや。ナ、ナニモナカッタヨ?」
「なんで途中からカタコトなのよ…。ねぇ、教えてよ佑!」
「おいバカ、寄ってくんな!走りずらいだろうが!」
「バカって何よ!佑が教えてくれないのが悪いんでしょ!?」
周りの人から見れば、このクソ暑い朝から謎に身体をぶつからせあう、男女にしか見えなかっただろうか。俺は一度落ち着きたくなったので、運良く見えた公園のベンチへと雫を呼んだ。
「ふぅー。疲れた…」
「ふん、あんたが教えてくれないのが悪いのよ!」
「なんで怒ってるんだよ雫…」
教えてくれって言ってもなぁ、あれほどの内容を…。
「なんか顔赤くなってない佑?風邪?」
「…違うよ。ジョギングで体温が上がっただけだ。でも本当に聞きたいのか?雫。何があったか」
「そ、そりゃもちろん。まあもしかしたらほんのちょっとの確率だけど、あんたに迷惑かけちゃったかもしれないし…?」
「そ、そうか…」
どうしよう、しっかりと話すべきだろうか。でも、隣の雫はこんなにも俺の言葉を待ってるし…。もう話すしかないじゃないか…。しょうがない、雫のためにも正直に全部話そう…。
「え、えっと…。まずお前はめちゃめちゃ幼くなってた」
「幼く?」
「う、うん…。なんかまるで小学生と喋ってるみたいな、今のしっかりとした話し方じゃなくて、もっとゆるーく話してた」
「えっ!?」
途端、顔がみるみる赤くなっていく雫。ほらだからやめておけって言ったのに…。
「わ、私…。そんなんだったの…?」
「ああ…。というか本当に覚えてないのか?」
「覚えてないわよ!だったらなんでこんな恥ずかしいことわざわざ言わせなくちゃならないの!」
「だからなんで怒ってるんですかって…」
苦笑しながら俺は雫にツッコむ。後は…、と俺は続けて言う。
「プリン持ってきてって頼まれて、食べさせてってせがまれたから食べさせた…。とか」
「ええっ…!?」
さらに顔が赤くなる雫。頬に両手を覆うが、その染まった頬は覆い切れていなかった。
「後は…」
「…………」
「俺に好きな人の有無を聞いた、とか…」
「……あうぅ…ぅ」
「えっ?」
ボン!と雫から音がした気がした。なんだ?恥ずかしすぎて、感情が限界を超えてしまったのだろうか。おいおい、夏なのに湯気みたいなのが見えるぞ…。
「ちょ、ちょっと待って?それって私は何か言ってた…?」
「うん…、まあ。そうだな…」
「な、なんて言ってた?私…」
なんとか正気を保ちながらそう尋ねてくる雫。これは、言ってもいいのか…?
まあ、言ったほうが本人の望みなのだろう。そう俺は結論づけ、口を開いた。
「『私はいるよ』って言ってました…」
「……あうぅ…うぅ…ぅ」
プルプルと震えながら頭を下げて悶絶しまくる雫。この様子を見るに、本当にあの時の記憶がないんだな…。まあでも、俺とて、逆にありがたかったのかもしれない。あのままの記憶が残っていたら残っていたで変に気まずくなりそうだったしな…。
「…い」
「い?」
「いないからね!?私、今は、好きな人!か、勘違いしないでよ!?本当にいないんだからー!」
急に叫び出したと思えば、とてつもない早口でそう言葉をまくし立てる雫。おおお近い近いうるさいうるさい…。
まあ前の風邪の時の雫は、きっと小学生時の雫の気持ちだったのだろう。でも、恋を知ってるなんてどこか羨ましいなって感じる…。
今考えてみれば、風邪の時の記憶が曖昧なのはちょっと異質な気もする。少なくとも俺はしんどいっていう記憶は嫌というほど頭に残ってしまうが…。
「まあでも…」
そんなことを考えながら俺はボソッと一言。
「あの時の雫は…、なんかやばかったな…。うん」
「…ん?佑何か言った?」
少し落ち着いたのか、やや冷静を装って雫は俺に尋ねた。耳、良すぎませんかね?
「な、なにもないよ。ほらいくぞ、家まで後もうちょいだ。この公園を後にするぞ」
「う、うん…。変な佑っ」
変なのはお前の方だよ…。と心の中でツッコんだ俺と雫はベンチから立ち上がる。反射的に上を見て、グーッと伸びをした。そこには始めてくる公園のはずなのに、見慣れた屋根が。あれ、ちょっと待て、この場所は…?
「あ、ここ…」
周りをキョロキョロしながら俺は呟く。…ここは、チャリが壊れた時に、茜と一緒に雨宿りしたところだ…。あの時に茜と今隣にいる雫についての過去を聞いたんだよな…。
「どうしたの、佑。ほら行くわよ」
「お、おう。OK」
もちろんそんなことを雫が知るはずもなく、少し不思議そうになりながらも公園を出た俺と歩数を合わせ、ジョギングを再開した。
なんか今日は今まで、と言ってもまだ3ヶ月ほどだが、今日まで起きてきた場所を思い出すなぁ。となると…、ここの道は…?
「よし、ここを曲がればもうすぐ家ね!」
「そうだな…。もう少しだ」
すると、目の前の直線の右手側に見覚えのあるものが。俺は思わず足を止める。
「ん、どうしたの佑。疲れちゃった?」
「いや、これは…」
俺が足を止めた場所、それは自動販売機のあるところだった。確か、ここで、あいつと──。
「あれ、佑じゃん。お姉ちゃんも」
「…!」
「あら茜。茜もジョギング?」
自販機の影から、茜が姿を現した。雫はやや驚いたような表情で彼女にそう尋ねる。
「まあな…。それよりも」
すると茜はあからさまにニヤッとして、
「なんだなんだー?朝から2人でデートですかいな?」
「なんでそうなるのよ茜!こいつなんかとデート行くわけないでしょ!?」
「いやその言い分は酷くないですかね雫さん…」
なんか見慣れた光景だな、と。少し俺は口角を緩ませそう思うのだった。
「でもほら、佑も笑ってるぞ?」
「え…?」
雫はゆっくりとこちらに首を動かす。
「いやいや違うよ、これは…。誤解だって!」
見慣れた光景であることにちょっと感慨ふけってたのに、勝手に思い込まれてしまった。茜のそんな表情も俺が転校してきてから見慣れたものだな…。
「ま、とりあえず僕は1人で走ってくるから、2人はそのままデートを続けてくださいな!」
「何よその言い方は茜ー!帰ってきたら覚えてなさいよ!」
「…ははは。元気だな雫は…」
茜の煽り(?)に過剰に反応する雫。俺はそんな雫に苦笑を漏らしながら、茜のジョギングを見送った。茜が少し遠くの角を曲がったのを確認した俺は、
「ほら、雫。一足先に帰ってゆっくりしてよーぜ」
「…うん」
雫の返事を聞いた俺は踵を返そうとした。
「ねぇ、佑」
だが、雫の声がそれを防いだ。振り向くと、肩にかけたタオルで汗を拭い、尋ねる。
「佑は、明日の花火大会楽しみ?」
その雫はどこか心配そうな、不安そうな表情をしていた。俺はそんな雫に今思う、素直な気持ちを彼女に伝えるのだった。
「ああ、そりゃもちろん!」
と、明日を待ち遠しく思いながら…。
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