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35. 気持ち
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それから、俺はソファーに座りながら茜との話を続けた。いつの間にか、俺の落ちていた気持ちは徐々に回復していき、茜との会話を純粋に楽しんでいる自分がいた。そんな茜との会話は時間を忘れるもので、そのピリオドは一つの通知によって打たれる。
「…あ。お姉ちゃんからだ」
「ん、メールか?」
スマホを触る茜に俺はそう尋ねた。
「うん、というかもう10時半!?…やばいやばい、流石に帰らないと…」
「おお、本当だ。早いな…」
スマホの時刻を見てやや焦りながらソファーから腰を離す茜。俺もそれに釣られて腰を上げる。そして、俺たちはリビングのドアへと向かう。
「…大丈夫か?」
すると、足を止め、首だけを俺の方に向けながら、茜は突如俺にそう尋ねた。大丈夫か、か。そんな一言だけで茜が俺に聞きたいことを理解した俺は、
「うん、本当にありがとう。俺は、大丈夫だぞ」
と、小さき背中にそう言った。でも、心の大きさや優しさからいうと、その身体とは対比もできないくらい、でっかいものだと思う。
「…よかった!」
何度目だろうか。安心させてくれるために、俺に見せてくれるそんな笑顔。だが、今回の笑顔には先ほどまでの俺に気を遣っての笑顔ではなく、心からの笑顔なんだって、相変わらずの言うなれば可愛らしい、そんな笑顔なんだって、そう心の中で言いながら…。
気がつけば、目の前には靴を履く少女の姿があった。
「…じゃあ、バイバイだな!よく寝ろよ!きっと疲れてるだろうしさ?」
「おう」
そう茜は言って、玄関のドアを開けた。俺はその場で手を振っていたが、瞬間的に体が動く。
「…え?」
「ここまでしてもらったんだ。せめて…。最後は家まで送らせてよ」
少なくとも中よりはまだ暑いと感じる5月の風邪にそよがれながら、俺はそう言った。
「送らせてよって…。僕ん家隣だぞ?」
困惑しながらも思わず笑う茜。それでも、と俺は続けて、
「いいんだ。女性が、こんな夜に1人は危ないし」
「…なーんか」
俺のそんな言葉に茜は空を見上げながら、
「最初は僕のこと男だって勘違いしてた人がよく言うよねって感じだよな」
「お前…。悪いぞ!」
「にひひっ。だって事実じゃーん?」
ケラケラ笑って俺に指を差しながらそう言う茜。よく覚えてるもんだな、そんな最初の出来事…。ま、俺も覚えてたけど…。
「あ、もう着いた」
「そりゃー、隣なんだから当たり前だろ?じゃ、佑」
目の前には街灯の灯りの中建つ一軒家。茜はそんな家のドアに手をかけ、言う。
「おやすみ!明日は代休だけど、その次からまた一緒に学校行こうな!じゃーな!」
と、元気よく。俺はそんな茜の言葉に、
「おう、ありがとう。おやすみ」
手を軽くあげながらそう返すのだった。閉まっていくドアを見ながら決して寂しくない1人になった俺は、ポツリと。
「…今日はぐっすり寝られそうだ」
夜空に消えていく、そんな言葉を発して、自分の家に戻るのだった。
「──かね、茜!起きなさい!」
「うえっ!?」
僕はそんな聞き覚えのある声とともにベッドから跳ね起きた。すると、横には見慣れた顔が。
「なんだよお姉ちゃん…。今日は野活の分の代休だろ?まだ朝8時じゃん…。寝かせててくれよ…」
朝早いと言うのに、時間に見合ってない叫び方をするお姉ちゃんがいた。
「…それに」
目を擦り、身体を起こしながら僕は言う。
「昨日、あんなに落ち込んでて、僕が佑の家に誘っても顔上げようとしてなかったのに…。なんでそんなに元気なんだよ…。言っておくけど、佑のお母さんの事故は決してお姉ちゃんのせいじゃないんだからな?…過去を引きずっちゃいけないぞ」
「…っ。わ、分かってるわよ!実際に今こうして元気じゃないの!」
「自分で元気である状態を元気って言う人初めて出会ったぞ…」
僕はそう呟きながらベットから下りる。二度寝しようと思ったが目が冴えてしまったのだ。まずどうしてお姉ちゃんは僕をこんな時間に起こしたんだろう…?
「ちょっと待って、茜」
そんなことを考えながら部屋を後にしようとする僕に一つの声がかかった。僕は思わず振り向く。
「どーしたんだ?」
「…聞きたいことがあるの。今日はそのために早く起こしたんだけど…」
聞きたいこと?この朝早くに起こしてまで聞かなくちゃいけないことなんだろうか?
「うん…?何?」
「茜…。昨日、佑の家に行って何してたの?」
「え?」
なんか思ってたことと違ったことを聞かれた僕はそんな素っ頓狂な声をだした。…そのために早く起こしたのか…。なんかやっぱり、お姉ちゃんって感じだな…。
「何その顔!まるで答えるのがめんどくさいって顔じゃない!」
「よく分かったなお姉ちゃん。なんで今なんだ…」
「ちょっと、本当に呆れないでよ!」
やれやれといった感じの僕に慌ててそうツッコむお姉ちゃん。朝から元気だな…。
「昨日…。茜が帰ってきてからすぐ聞こうとしたんだけど、茜すぐ寝ちゃうからさ…。しかもすっごい笑顔で…。だから気になりすぎて寝れなかったのよ!」
「そ、そんなにか…。そ、それはごめん…」
お姉ちゃんが思ってたことが思ったより重大であったことに僕は驚きつつ謝った。それにしても、笑顔で、か。まあ、昨日は本当に色々あったからな…。
「だから、聞かせなさいよ。佑の家に行って何してたの?」
お姉ちゃんのそんな質問に僕は思わず無言を返した。別に話してもいいのだが、少し恥ずかしいな…。
すると、お姉ちゃんはそんな僕を見て、顔を赤くしていき…。
「ま、まさか。そ、そういう行為を…!?は、破廉恥なっ……」
「…ち、違うって!その勘違いは普通に違うって!まずその間違いはまずいって!」
何やら別の方向に勘違いを走らせてしまっているお姉ちゃんの誤解を必死に解く。どうしたらそういう思想になるんだよ…。ある意味想像力の天才かも…。
「はぁ…。全くもう。全くもうだぞお姉ちゃん…」
「な、何よ。茜が素直に言わないのが悪いんじゃない…」
「ま、まあそうか…?分かった、言うよ。でもそんなに気にすることかなぁ…?」
お姉ちゃんの言葉にやや引っかかりつつも納得した僕は、昨日の出来事について話すことにした。
「僕が料理を持っていった時佑は…。やっぱり事故で落ち込んでたから…。まずは身の回りの家事をできる限りやった」
その場に腰を下ろしながら僕は言う。お姉ちゃんは僕のベットに座って話を聞いている。
「すごいわね…。確かにパパとママが死んじゃってから料理は茜に任せてから料理はなんとなく分かるけど…。家事までこなしてたのね…」
「まあな…。昨日の佑はやっぱり元気がないどころじゃなかったから…。身の回りのサポートに徹した。そして、僕たちの過去をちょっとだけ話した」
「…えっ?それってどこまで…?」
頭の上に疑問符を浮かべるお姉ちゃんに、僕は説明を続ける。
「自分の境遇に佑は絶望しちゃってたから…。大丈夫、その境遇なのは佑だけじゃないって分かってもらうために、僕たちの両親がもういないことと…」
あおちゃんのこと、と。喉先まででかかったが、僕はすんでのところで止めた。せっかくお姉ちゃんは自分自身で気持ちを戻したのにこのことを話して、また元気がなくなっちゃったら僕は責任を取れない。まあ、あんな過去があっちゃあな…。
「ことと?」
「あ、ああいや。ことって言おうとしたんだ。でまあ、支えてくれる存在がいることの大事さってのを佑に…、た、佑に…」
その瞬間、僕は昨日自分が起こした行動を改めて思い出す。確か後ろから…、佑の身体を…。
「佑がどうしたの?あれ、顔赤いわよ茜、大丈夫?」
「へっ?」
今思い返せばかなり攻めてたな僕…。そしてその後は前から…。佑も優しく抱きしめ返してくれたからよかったけど…。
「や、やっぱり…。そ、そういう行為を…!?」
「違うってお姉ちゃん!その考えにたどり着くのはもうやめてくれ…」
この約10畳の部屋は顔を赤くする僕とお姉ちゃんという、なかなかにカオスな現場になってしまった。
「じゃあ恥ずかしがってる原因はなんなのよ…」
今度はお姉ちゃんが呆れながら僕にそう尋ねる。これ以上黙ってても誤解に誤解を重ねるだけと悟った僕は、理由の分からない恥ずかしさとともにお姉ちゃんに言う。
「…は、ハグを…。た、佑を落ち着かせるために、ギュッて…」
「ハグ…!?あ、茜…。あなた」
お姉ちゃんは僕の言葉を聞き、おそらく今の僕と同じような表情をしながら続けて言う。
「す、好きなの…?佑のこと…」
「好きって…。分かんない…」
そう、分からないのだ。お姉ちゃんが聞いている"好き"っていうのは野活の時に椛にも聞かれた恋愛的に好きか、いわば恋をしているのかってことだ。僕はそのようなものをしたことがないので結論、分からないのだ。
「分かんないって…。好きじゃなかったらそういう行動はとらないと思うんだけど…」
あはは…。と苦笑しながらお姉ちゃんはそう言う。
「じ、じゃあ!お姉ちゃんは恋、したことあるのか?」
恋愛的に好き=恋だという式を確立させたい僕はお姉ちゃんにそんな質問をした。
「…恋。あるわよ」
「えっ!?」
予想していなかった返答が返ってきた僕は、思わずそのような大きな声をだしてしまった。
「あ、あるのか!?そ、それって…。どんな気持ちのことなんだ…?」
「…………」
恥ずかしそうに口を閉じていたお姉ちゃんだったが、意を決したのか話し始めた。
「…胸が高鳴って。ずっとその人のことを考えてしまうっていう、そんな状態のことよ…」
「へ、へぇ…。で、それって誰なんだよ?」
芋づる式に気になることが増えていく僕は次にそんな質問をした。
「言うわけないでしょ!それも過去の話なんだから…。それより、私の質問にちゃんと答えてよ…」
「えーケチ。質問ってなんだっけ?」
「なんで忘れるのよ…。佑のこと、好きかどうかってことよ…。どうなの?」
やれやれという感じで、お姉ちゃんは僕にそう尋ねた。さっきの話を聞いて、僕は昨日の出来事を思い出す。胸が高鳴って、ずっとその人のことを考えることが恋…。
「…好きだよ」
「えっ」
「ああ…。違うぞ?好きだけど、恋愛的にって言ったら分かんない。僕は恋をしたことがないから…」
「そ、そう…」
「でも」
僕は昨日の出来事、そしてさっきのお姉ちゃんの話を聞いて、一つ変わったことがあることに気づいた。続けて僕はそれを言う。
「…もう、友達って範囲ではないなって思った。胸もドキドキしてたし、佑と喋るとちょっとだけだけど…。頭の中で考えちゃう、し…」
「ふ、ふーん…」
「こ、恋ではないよな!これは…。ははは…」
半目で口を尖らせながら僕の方を見るお姉ちゃんに気づいた僕は、困りながら笑顔を見せる。
「まあ、"今は"かもしれないけどね…」
ニヤリと口角を上げて言うお姉ちゃんに僕はムッと頬を膨らませて、
「お、お姉ちゃんのくせに…。な、生意気な…!」
恋というのを経験しているお姉ちゃんは僕の現状のこの気持ちのことに気づいているのだろうか。それがなんだか悔しくて、思わずそうお姉ちゃんに言う。
でも、昨日と今日で、ちょっとだけ、自分のこのモヤモヤしてた気持ちの正体に気づけた気がする。それはあいつとこれからもっと過ごせば、理解って行くのかな…。
「ふふん。さあ、朝ごはん食べるわよ、早く下降りてきてねー」
謎のドヤ顔を浮かべながらお姉ちゃんは僕の部屋を出ていった。恋を経験してるのってこんなにドヤれるものなのか…?
「その余裕はなんだよ…。うーん、でも気になるなぁ、お姉ちゃんの好きだった人」
ふとさっきお姉ちゃんが言ったそんな言葉を思い出し、そうポツリと呟きながら僕はお姉ちゃんの後を追うのだった。その人…、どんな人なんだろ…?
「…あ。お姉ちゃんからだ」
「ん、メールか?」
スマホを触る茜に俺はそう尋ねた。
「うん、というかもう10時半!?…やばいやばい、流石に帰らないと…」
「おお、本当だ。早いな…」
スマホの時刻を見てやや焦りながらソファーから腰を離す茜。俺もそれに釣られて腰を上げる。そして、俺たちはリビングのドアへと向かう。
「…大丈夫か?」
すると、足を止め、首だけを俺の方に向けながら、茜は突如俺にそう尋ねた。大丈夫か、か。そんな一言だけで茜が俺に聞きたいことを理解した俺は、
「うん、本当にありがとう。俺は、大丈夫だぞ」
と、小さき背中にそう言った。でも、心の大きさや優しさからいうと、その身体とは対比もできないくらい、でっかいものだと思う。
「…よかった!」
何度目だろうか。安心させてくれるために、俺に見せてくれるそんな笑顔。だが、今回の笑顔には先ほどまでの俺に気を遣っての笑顔ではなく、心からの笑顔なんだって、相変わらずの言うなれば可愛らしい、そんな笑顔なんだって、そう心の中で言いながら…。
気がつけば、目の前には靴を履く少女の姿があった。
「…じゃあ、バイバイだな!よく寝ろよ!きっと疲れてるだろうしさ?」
「おう」
そう茜は言って、玄関のドアを開けた。俺はその場で手を振っていたが、瞬間的に体が動く。
「…え?」
「ここまでしてもらったんだ。せめて…。最後は家まで送らせてよ」
少なくとも中よりはまだ暑いと感じる5月の風邪にそよがれながら、俺はそう言った。
「送らせてよって…。僕ん家隣だぞ?」
困惑しながらも思わず笑う茜。それでも、と俺は続けて、
「いいんだ。女性が、こんな夜に1人は危ないし」
「…なーんか」
俺のそんな言葉に茜は空を見上げながら、
「最初は僕のこと男だって勘違いしてた人がよく言うよねって感じだよな」
「お前…。悪いぞ!」
「にひひっ。だって事実じゃーん?」
ケラケラ笑って俺に指を差しながらそう言う茜。よく覚えてるもんだな、そんな最初の出来事…。ま、俺も覚えてたけど…。
「あ、もう着いた」
「そりゃー、隣なんだから当たり前だろ?じゃ、佑」
目の前には街灯の灯りの中建つ一軒家。茜はそんな家のドアに手をかけ、言う。
「おやすみ!明日は代休だけど、その次からまた一緒に学校行こうな!じゃーな!」
と、元気よく。俺はそんな茜の言葉に、
「おう、ありがとう。おやすみ」
手を軽くあげながらそう返すのだった。閉まっていくドアを見ながら決して寂しくない1人になった俺は、ポツリと。
「…今日はぐっすり寝られそうだ」
夜空に消えていく、そんな言葉を発して、自分の家に戻るのだった。
「──かね、茜!起きなさい!」
「うえっ!?」
僕はそんな聞き覚えのある声とともにベッドから跳ね起きた。すると、横には見慣れた顔が。
「なんだよお姉ちゃん…。今日は野活の分の代休だろ?まだ朝8時じゃん…。寝かせててくれよ…」
朝早いと言うのに、時間に見合ってない叫び方をするお姉ちゃんがいた。
「…それに」
目を擦り、身体を起こしながら僕は言う。
「昨日、あんなに落ち込んでて、僕が佑の家に誘っても顔上げようとしてなかったのに…。なんでそんなに元気なんだよ…。言っておくけど、佑のお母さんの事故は決してお姉ちゃんのせいじゃないんだからな?…過去を引きずっちゃいけないぞ」
「…っ。わ、分かってるわよ!実際に今こうして元気じゃないの!」
「自分で元気である状態を元気って言う人初めて出会ったぞ…」
僕はそう呟きながらベットから下りる。二度寝しようと思ったが目が冴えてしまったのだ。まずどうしてお姉ちゃんは僕をこんな時間に起こしたんだろう…?
「ちょっと待って、茜」
そんなことを考えながら部屋を後にしようとする僕に一つの声がかかった。僕は思わず振り向く。
「どーしたんだ?」
「…聞きたいことがあるの。今日はそのために早く起こしたんだけど…」
聞きたいこと?この朝早くに起こしてまで聞かなくちゃいけないことなんだろうか?
「うん…?何?」
「茜…。昨日、佑の家に行って何してたの?」
「え?」
なんか思ってたことと違ったことを聞かれた僕はそんな素っ頓狂な声をだした。…そのために早く起こしたのか…。なんかやっぱり、お姉ちゃんって感じだな…。
「何その顔!まるで答えるのがめんどくさいって顔じゃない!」
「よく分かったなお姉ちゃん。なんで今なんだ…」
「ちょっと、本当に呆れないでよ!」
やれやれといった感じの僕に慌ててそうツッコむお姉ちゃん。朝から元気だな…。
「昨日…。茜が帰ってきてからすぐ聞こうとしたんだけど、茜すぐ寝ちゃうからさ…。しかもすっごい笑顔で…。だから気になりすぎて寝れなかったのよ!」
「そ、そんなにか…。そ、それはごめん…」
お姉ちゃんが思ってたことが思ったより重大であったことに僕は驚きつつ謝った。それにしても、笑顔で、か。まあ、昨日は本当に色々あったからな…。
「だから、聞かせなさいよ。佑の家に行って何してたの?」
お姉ちゃんのそんな質問に僕は思わず無言を返した。別に話してもいいのだが、少し恥ずかしいな…。
すると、お姉ちゃんはそんな僕を見て、顔を赤くしていき…。
「ま、まさか。そ、そういう行為を…!?は、破廉恥なっ……」
「…ち、違うって!その勘違いは普通に違うって!まずその間違いはまずいって!」
何やら別の方向に勘違いを走らせてしまっているお姉ちゃんの誤解を必死に解く。どうしたらそういう思想になるんだよ…。ある意味想像力の天才かも…。
「はぁ…。全くもう。全くもうだぞお姉ちゃん…」
「な、何よ。茜が素直に言わないのが悪いんじゃない…」
「ま、まあそうか…?分かった、言うよ。でもそんなに気にすることかなぁ…?」
お姉ちゃんの言葉にやや引っかかりつつも納得した僕は、昨日の出来事について話すことにした。
「僕が料理を持っていった時佑は…。やっぱり事故で落ち込んでたから…。まずは身の回りの家事をできる限りやった」
その場に腰を下ろしながら僕は言う。お姉ちゃんは僕のベットに座って話を聞いている。
「すごいわね…。確かにパパとママが死んじゃってから料理は茜に任せてから料理はなんとなく分かるけど…。家事までこなしてたのね…」
「まあな…。昨日の佑はやっぱり元気がないどころじゃなかったから…。身の回りのサポートに徹した。そして、僕たちの過去をちょっとだけ話した」
「…えっ?それってどこまで…?」
頭の上に疑問符を浮かべるお姉ちゃんに、僕は説明を続ける。
「自分の境遇に佑は絶望しちゃってたから…。大丈夫、その境遇なのは佑だけじゃないって分かってもらうために、僕たちの両親がもういないことと…」
あおちゃんのこと、と。喉先まででかかったが、僕はすんでのところで止めた。せっかくお姉ちゃんは自分自身で気持ちを戻したのにこのことを話して、また元気がなくなっちゃったら僕は責任を取れない。まあ、あんな過去があっちゃあな…。
「ことと?」
「あ、ああいや。ことって言おうとしたんだ。でまあ、支えてくれる存在がいることの大事さってのを佑に…、た、佑に…」
その瞬間、僕は昨日自分が起こした行動を改めて思い出す。確か後ろから…、佑の身体を…。
「佑がどうしたの?あれ、顔赤いわよ茜、大丈夫?」
「へっ?」
今思い返せばかなり攻めてたな僕…。そしてその後は前から…。佑も優しく抱きしめ返してくれたからよかったけど…。
「や、やっぱり…。そ、そういう行為を…!?」
「違うってお姉ちゃん!その考えにたどり着くのはもうやめてくれ…」
この約10畳の部屋は顔を赤くする僕とお姉ちゃんという、なかなかにカオスな現場になってしまった。
「じゃあ恥ずかしがってる原因はなんなのよ…」
今度はお姉ちゃんが呆れながら僕にそう尋ねる。これ以上黙ってても誤解に誤解を重ねるだけと悟った僕は、理由の分からない恥ずかしさとともにお姉ちゃんに言う。
「…は、ハグを…。た、佑を落ち着かせるために、ギュッて…」
「ハグ…!?あ、茜…。あなた」
お姉ちゃんは僕の言葉を聞き、おそらく今の僕と同じような表情をしながら続けて言う。
「す、好きなの…?佑のこと…」
「好きって…。分かんない…」
そう、分からないのだ。お姉ちゃんが聞いている"好き"っていうのは野活の時に椛にも聞かれた恋愛的に好きか、いわば恋をしているのかってことだ。僕はそのようなものをしたことがないので結論、分からないのだ。
「分かんないって…。好きじゃなかったらそういう行動はとらないと思うんだけど…」
あはは…。と苦笑しながらお姉ちゃんはそう言う。
「じ、じゃあ!お姉ちゃんは恋、したことあるのか?」
恋愛的に好き=恋だという式を確立させたい僕はお姉ちゃんにそんな質問をした。
「…恋。あるわよ」
「えっ!?」
予想していなかった返答が返ってきた僕は、思わずそのような大きな声をだしてしまった。
「あ、あるのか!?そ、それって…。どんな気持ちのことなんだ…?」
「…………」
恥ずかしそうに口を閉じていたお姉ちゃんだったが、意を決したのか話し始めた。
「…胸が高鳴って。ずっとその人のことを考えてしまうっていう、そんな状態のことよ…」
「へ、へぇ…。で、それって誰なんだよ?」
芋づる式に気になることが増えていく僕は次にそんな質問をした。
「言うわけないでしょ!それも過去の話なんだから…。それより、私の質問にちゃんと答えてよ…」
「えーケチ。質問ってなんだっけ?」
「なんで忘れるのよ…。佑のこと、好きかどうかってことよ…。どうなの?」
やれやれという感じで、お姉ちゃんは僕にそう尋ねた。さっきの話を聞いて、僕は昨日の出来事を思い出す。胸が高鳴って、ずっとその人のことを考えることが恋…。
「…好きだよ」
「えっ」
「ああ…。違うぞ?好きだけど、恋愛的にって言ったら分かんない。僕は恋をしたことがないから…」
「そ、そう…」
「でも」
僕は昨日の出来事、そしてさっきのお姉ちゃんの話を聞いて、一つ変わったことがあることに気づいた。続けて僕はそれを言う。
「…もう、友達って範囲ではないなって思った。胸もドキドキしてたし、佑と喋るとちょっとだけだけど…。頭の中で考えちゃう、し…」
「ふ、ふーん…」
「こ、恋ではないよな!これは…。ははは…」
半目で口を尖らせながら僕の方を見るお姉ちゃんに気づいた僕は、困りながら笑顔を見せる。
「まあ、"今は"かもしれないけどね…」
ニヤリと口角を上げて言うお姉ちゃんに僕はムッと頬を膨らませて、
「お、お姉ちゃんのくせに…。な、生意気な…!」
恋というのを経験しているお姉ちゃんは僕の現状のこの気持ちのことに気づいているのだろうか。それがなんだか悔しくて、思わずそうお姉ちゃんに言う。
でも、昨日と今日で、ちょっとだけ、自分のこのモヤモヤしてた気持ちの正体に気づけた気がする。それはあいつとこれからもっと過ごせば、理解って行くのかな…。
「ふふん。さあ、朝ごはん食べるわよ、早く下降りてきてねー」
謎のドヤ顔を浮かべながらお姉ちゃんは僕の部屋を出ていった。恋を経験してるのってこんなにドヤれるものなのか…?
「その余裕はなんだよ…。うーん、でも気になるなぁ、お姉ちゃんの好きだった人」
ふとさっきお姉ちゃんが言ったそんな言葉を思い出し、そうポツリと呟きながら僕はお姉ちゃんの後を追うのだった。その人…、どんな人なんだろ…?
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