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33. 弱音
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「…ん」
1人リビングでチャーハンを食べているとインターホンが鳴った。その相手を、俺は見ずとも分かった。
「…ぼ、僕です」
「ああ、今行く」
玄関へと足を運び、ドアをゆっくりと開ける。そこには、私服へと服を着替えた、茜の姿があった。
「…あれ、髪…。濡れてない?」
俺がふとそう言うと、茜はその髪をくるくるといじりながら、
「あーうん…。ちょっと遅くなったのは、汗かいてて…シャワー浴びたからなんだ。ごめんな、遅くなって…」
「…いいよ。大丈夫」
そう軽く茜に言った俺は、リビングへと彼女を案内した。やっぱり、人がいるってのはいいな…。
「…うん。お邪魔、します…」
茜はペコっと頭を軽く下げ、靴を脱いで廊下へと足を踏み入れた。2人分の足音が廊下に響く。そして俺はガラッとリビングのドアを開けた。
「…ごめん、自分から呼んでおいてなんだけど…。結構散らかってて…」
俺が家に帰ってきた当初、最初は頭が真っ暗すぎて見えていなかったが、リビングの部屋がやや散らかっていた。茜と電話して、対面で会って。そうしてようやく気づくことができたのである。
そんな俺の言葉に、彼女は首を横に振った。
「…ううん、呼んでもらってるのはこっちだし、全然大丈夫だぞ。今の佑の状態だと…、なおさら、な」
そう言って茜は、キッチンで手を洗う。
「本当に、ありがとうな…。こんな急に俺のところにって…。今思うと、何言ってんだって感じなんだけど…」
席に着きながら俺は彼女にそう言う。本当に身勝手な発言だったと今になって反省をするべきだ。
「大丈夫だって!佑は今…。いっぱいいっぱいなんだろ…?じゃあ僕の存在が大切なんじゃないか!」
「ああ…。ありがとう、茜」
途中のチャーハンを見つめながら、俺は茜にそう言った。今、俺が言えることはこれしかない。とにかくありがとうと、彼女に…。すると茜は、
「…結構食べてくれてるんだな、それ。嬉しい」
と、机の上にある食べかけのチャーハンを見てそう言った。
「…うん。茜と喋ってたら何か急に腹減ってきてさ…。あはは…」
なぜだろうか、少しずつだけど、周りの視界が開けてきた気が…。
「佑…。気のせいだったらごめんけど、ちょっとずつ、元気になってきてないか?」
俺と対面の席に座りながら茜はそう言った。
「うん…。その通りさ、このチャーハンのお陰かもな」
「美味しかったならよかった!作った甲斐があったな!」
目の前でニコッと笑う茜。その笑顔からは、優しさが滲み出ているように感じた。その笑顔に釣られるように、俺の表情からも笑みが漏れる。
「…あ、佑が笑った!」
そんな俺を見て、どこか嬉しそうに茜は指を指して言う。
「…ふふっ」
母さんが事故に遭ってしまって、気分は最低のはずなのに…。目の前の少女の笑顔を見ていると、不思議と心が浄化されていくように感じた。これが…。人の存在ってやつなのだろうか…。
「…食べ終わったら、シャワー浴びてきなよ。僕、食器洗ってるからさ!」
すると、もうすぐ皿の上が空になる様子を見て、茜は俺にそう言った。
「いやいや、悪いよ…。勝手に呼んどいてそこまで…」
俺は流石に申し訳なくなって、その提案を断った。が、茜は席を立ち、軽く微笑しながら言った。
「僕はね、佑のサポーターとしてこの家に来させてもらったんだ。だから、家事とかのことは全部僕がやる。今日佑は、心がいっぱいいっぱいなんだから…、今日だけは、僕に任せて!」
「茜…」
「僕、家事は結構得意なんだ!だから佑は、普段通りに生活してればいい。そして、寂しくなったら僕に話しかけてきて。その時僕は、好きな時に好きなだけ佑の話を聞く。僕はここにいるから、な?」
本当に、本当に心強かった。今の茜の存在は、孤独になってた俺の心の大きな穴を埋めてくれているように感じて、どこか優しさをも感じさせた。
「…ああ。ありがとう…。じゃあ言葉に甘えて、シャワーでも浴びてくるよ…。それと、ごちそうさま…」
「…うん。いってらっしゃい」
そんな茜の言葉を背に、俺は風呂場へと向かうのだった。
シャワーを浴び、リビングへと戻ると、時刻は8時くらいになっていた。茜は、食卓の椅子で某SNSをいじっていた。キッチンには、綺麗に磨かれた皿。その瞬間俺は思った。本当に…、出来過ぎたやつだと。
「…あ、戻ったのか」
画面から顔を上げ、シャワー上がりの俺に気づいた茜はそう言った。
「ああ、食器、本当にありがとな」
「いいよいいよ!僕が自分でしてるってだけだし!」
スマホの電源を落としながら茜は俺に元気よくそう言う。すると、あ、そうだ…。と何か思い出したように茜は続けて言った。
「さっき、そこの電話が鳴ったんだ」
「電話?ああ、家の電話が鳴ったのか。…え、もしかして出てくれたのか?」
そんな俺の言葉に、茜は首肯し、
「うん、でな、その電話は病院からだったんだ」
「お、おお…」
心の中で大感謝しながら俺は彼女の言葉を聞く。
「佑のお母さんの手術…。…無事成功して、今は病室で寝てるんだってさ!」
「そ、そうか…。よかった…」
彼女の説明を聞いて、俺はひとまず、安堵の声を漏らした。よかった、本当に…。よかった。
「よかった、佑の顔に笑顔が増えてきたな!」
茜は俺の顔を覗き込み、ニッとしながらそう言った。母さんが助かったのはよかった。それでも…。
「…うん、だけど…」
「…?」
「俺はまだまだ、心細いんだ…」
ソファーに移動し、腰を下ろしながら俺はそう言った。家族がいないことがこんなにも心細く、不安に思ったことはなかった。
「…そうなんだ」
俺の後を追うように、茜はそう言いながら、俺の横に腰を下ろした。
「…ご、ごめん。こんなにぐだぐだ弱音を…。鬱陶しいよな…」
同時に、情けないという感情が湧き上がってきた。俺が勝手に呼んだ人である茜にこんな言葉とかは聞かせないべきなのだ。だから茜はてっきり少し嫌そうな顔をしていると俺は思った。
「……?」
だけど、俺の隣には、そんな気持ちが一切汲み取れない、茜の姿、表情があった。そして茜は俺の目をじっと見て言う。
「いいんだ、弱音を吐いたって。それが人ってもんだろ?弱音を吐かない人なんていないぞ?」
「………」
「それに、別に僕は弱音を吐いている佑のことを鬱陶しいとかはこれっぽっちも思わない。むしろそんな状態になってることが正常だと思う」
真剣な表情で茜は俺にそう言った。それはどこか…。説得力があるように感じられた。
「そうか…。でも俺はやっぱり…」
「そうだよな、心細いよな…」
俺の言葉に被せるように茜は優しくそう言う。ふと彼女の方を見ると、顔は真顔なのだが、口角が少し上がっていた。まるで、子供を見守る母親のような、そんな表情だった。
「…1人は辛い。佑は今日何度も僕にそう言った。きっと自分でも無意識にそう言ってた…」
「そ、そんなにか…。ごめん」
「さっきも言っただろ?その感情は間違ってないんだって、謝る必要はないんだってさ」
それに…。と茜は続けて、どこか懐かしむように言う。
「…僕も、そうだったんだ」
「…え?」
ゆっくりと前を見る茜に俺は疑問符を浮かべた。僕も、そうだった…?
「…似てるんだ、僕の過去と、佑の今が。本当に類似してて…。その出来事は鮮明に記憶に残ってる」
「似てる…?」
そんな彼女の言葉に首をかしげる俺。すると茜は悲しげな笑みを浮かべて、
「本当は…。このことを話すのはもう少し先になると思ってたんだけど、状況が状況だし、話すことにするよ…。今の佑のことも含めて…な」
と、そんな言葉とともに話を切り出すのだった。彼女の過去…。一体どのようなものなのだろうか。そして、状況とは、どういう意味なのだろうか…?
時計の音が響くこのリビングで、俺はそんなことを考えるのだった。
1人リビングでチャーハンを食べているとインターホンが鳴った。その相手を、俺は見ずとも分かった。
「…ぼ、僕です」
「ああ、今行く」
玄関へと足を運び、ドアをゆっくりと開ける。そこには、私服へと服を着替えた、茜の姿があった。
「…あれ、髪…。濡れてない?」
俺がふとそう言うと、茜はその髪をくるくるといじりながら、
「あーうん…。ちょっと遅くなったのは、汗かいてて…シャワー浴びたからなんだ。ごめんな、遅くなって…」
「…いいよ。大丈夫」
そう軽く茜に言った俺は、リビングへと彼女を案内した。やっぱり、人がいるってのはいいな…。
「…うん。お邪魔、します…」
茜はペコっと頭を軽く下げ、靴を脱いで廊下へと足を踏み入れた。2人分の足音が廊下に響く。そして俺はガラッとリビングのドアを開けた。
「…ごめん、自分から呼んでおいてなんだけど…。結構散らかってて…」
俺が家に帰ってきた当初、最初は頭が真っ暗すぎて見えていなかったが、リビングの部屋がやや散らかっていた。茜と電話して、対面で会って。そうしてようやく気づくことができたのである。
そんな俺の言葉に、彼女は首を横に振った。
「…ううん、呼んでもらってるのはこっちだし、全然大丈夫だぞ。今の佑の状態だと…、なおさら、な」
そう言って茜は、キッチンで手を洗う。
「本当に、ありがとうな…。こんな急に俺のところにって…。今思うと、何言ってんだって感じなんだけど…」
席に着きながら俺は彼女にそう言う。本当に身勝手な発言だったと今になって反省をするべきだ。
「大丈夫だって!佑は今…。いっぱいいっぱいなんだろ…?じゃあ僕の存在が大切なんじゃないか!」
「ああ…。ありがとう、茜」
途中のチャーハンを見つめながら、俺は茜にそう言った。今、俺が言えることはこれしかない。とにかくありがとうと、彼女に…。すると茜は、
「…結構食べてくれてるんだな、それ。嬉しい」
と、机の上にある食べかけのチャーハンを見てそう言った。
「…うん。茜と喋ってたら何か急に腹減ってきてさ…。あはは…」
なぜだろうか、少しずつだけど、周りの視界が開けてきた気が…。
「佑…。気のせいだったらごめんけど、ちょっとずつ、元気になってきてないか?」
俺と対面の席に座りながら茜はそう言った。
「うん…。その通りさ、このチャーハンのお陰かもな」
「美味しかったならよかった!作った甲斐があったな!」
目の前でニコッと笑う茜。その笑顔からは、優しさが滲み出ているように感じた。その笑顔に釣られるように、俺の表情からも笑みが漏れる。
「…あ、佑が笑った!」
そんな俺を見て、どこか嬉しそうに茜は指を指して言う。
「…ふふっ」
母さんが事故に遭ってしまって、気分は最低のはずなのに…。目の前の少女の笑顔を見ていると、不思議と心が浄化されていくように感じた。これが…。人の存在ってやつなのだろうか…。
「…食べ終わったら、シャワー浴びてきなよ。僕、食器洗ってるからさ!」
すると、もうすぐ皿の上が空になる様子を見て、茜は俺にそう言った。
「いやいや、悪いよ…。勝手に呼んどいてそこまで…」
俺は流石に申し訳なくなって、その提案を断った。が、茜は席を立ち、軽く微笑しながら言った。
「僕はね、佑のサポーターとしてこの家に来させてもらったんだ。だから、家事とかのことは全部僕がやる。今日佑は、心がいっぱいいっぱいなんだから…、今日だけは、僕に任せて!」
「茜…」
「僕、家事は結構得意なんだ!だから佑は、普段通りに生活してればいい。そして、寂しくなったら僕に話しかけてきて。その時僕は、好きな時に好きなだけ佑の話を聞く。僕はここにいるから、な?」
本当に、本当に心強かった。今の茜の存在は、孤独になってた俺の心の大きな穴を埋めてくれているように感じて、どこか優しさをも感じさせた。
「…ああ。ありがとう…。じゃあ言葉に甘えて、シャワーでも浴びてくるよ…。それと、ごちそうさま…」
「…うん。いってらっしゃい」
そんな茜の言葉を背に、俺は風呂場へと向かうのだった。
シャワーを浴び、リビングへと戻ると、時刻は8時くらいになっていた。茜は、食卓の椅子で某SNSをいじっていた。キッチンには、綺麗に磨かれた皿。その瞬間俺は思った。本当に…、出来過ぎたやつだと。
「…あ、戻ったのか」
画面から顔を上げ、シャワー上がりの俺に気づいた茜はそう言った。
「ああ、食器、本当にありがとな」
「いいよいいよ!僕が自分でしてるってだけだし!」
スマホの電源を落としながら茜は俺に元気よくそう言う。すると、あ、そうだ…。と何か思い出したように茜は続けて言った。
「さっき、そこの電話が鳴ったんだ」
「電話?ああ、家の電話が鳴ったのか。…え、もしかして出てくれたのか?」
そんな俺の言葉に、茜は首肯し、
「うん、でな、その電話は病院からだったんだ」
「お、おお…」
心の中で大感謝しながら俺は彼女の言葉を聞く。
「佑のお母さんの手術…。…無事成功して、今は病室で寝てるんだってさ!」
「そ、そうか…。よかった…」
彼女の説明を聞いて、俺はひとまず、安堵の声を漏らした。よかった、本当に…。よかった。
「よかった、佑の顔に笑顔が増えてきたな!」
茜は俺の顔を覗き込み、ニッとしながらそう言った。母さんが助かったのはよかった。それでも…。
「…うん、だけど…」
「…?」
「俺はまだまだ、心細いんだ…」
ソファーに移動し、腰を下ろしながら俺はそう言った。家族がいないことがこんなにも心細く、不安に思ったことはなかった。
「…そうなんだ」
俺の後を追うように、茜はそう言いながら、俺の横に腰を下ろした。
「…ご、ごめん。こんなにぐだぐだ弱音を…。鬱陶しいよな…」
同時に、情けないという感情が湧き上がってきた。俺が勝手に呼んだ人である茜にこんな言葉とかは聞かせないべきなのだ。だから茜はてっきり少し嫌そうな顔をしていると俺は思った。
「……?」
だけど、俺の隣には、そんな気持ちが一切汲み取れない、茜の姿、表情があった。そして茜は俺の目をじっと見て言う。
「いいんだ、弱音を吐いたって。それが人ってもんだろ?弱音を吐かない人なんていないぞ?」
「………」
「それに、別に僕は弱音を吐いている佑のことを鬱陶しいとかはこれっぽっちも思わない。むしろそんな状態になってることが正常だと思う」
真剣な表情で茜は俺にそう言った。それはどこか…。説得力があるように感じられた。
「そうか…。でも俺はやっぱり…」
「そうだよな、心細いよな…」
俺の言葉に被せるように茜は優しくそう言う。ふと彼女の方を見ると、顔は真顔なのだが、口角が少し上がっていた。まるで、子供を見守る母親のような、そんな表情だった。
「…1人は辛い。佑は今日何度も僕にそう言った。きっと自分でも無意識にそう言ってた…」
「そ、そんなにか…。ごめん」
「さっきも言っただろ?その感情は間違ってないんだって、謝る必要はないんだってさ」
それに…。と茜は続けて、どこか懐かしむように言う。
「…僕も、そうだったんだ」
「…え?」
ゆっくりと前を見る茜に俺は疑問符を浮かべた。僕も、そうだった…?
「…似てるんだ、僕の過去と、佑の今が。本当に類似してて…。その出来事は鮮明に記憶に残ってる」
「似てる…?」
そんな彼女の言葉に首をかしげる俺。すると茜は悲しげな笑みを浮かべて、
「本当は…。このことを話すのはもう少し先になると思ってたんだけど、状況が状況だし、話すことにするよ…。今の佑のことも含めて…な」
と、そんな言葉とともに話を切り出すのだった。彼女の過去…。一体どのようなものなのだろうか。そして、状況とは、どういう意味なのだろうか…?
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