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25. 飯盒炊飯
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「佐野ー!米とげよ!」
「これ俺の役割だったっけ?ごめん、そっちやってくれる?」
異様にバタバタしている俺たち。今、何をしているのかと言うと…?
「飯盒炊飯ってこんなにバタバタするもんなの…?」
俺の指示を受けた茜の前の席の男子、志知(しち)くんはそうボソッと呟いた。そう、今俺たちは飯盒炊飯をしている。のだが…。
「だいぶ遅れてるんじゃ…?」
俺たちは今カレーを作っているのだが、他の班は米を研ぎ終わり、火にかけている。しかし俺たちの班は火は微妙どころか米をとげてすらない。何をしていたのだろうか。思いつく節が見当たらない。
「佑!こっちは火たけたぞー!」
木の板材をぶんぶんふりながら俺にそう告げた茜。こんこんと咳き込む様子を見ると頑張ってくれたのだろう。
「おお、ありがとう茜!よかったらこっちも手伝ってくれ!」
「あ、やばい!火が消えそう!」
俺の言葉を遮るように茜はまた火の作業に戻っていった。全く、というか普通逆な気がするのだが…。男子が火つけて、女子が米とかを研ぐと思うのだが…?
「まあ、いいか…。本人が望んだことだし…」
「佐野くん、野菜切るよ?」
ボソッと呟いていると、先ほど俺の指示を嫌がることなく受け入れてくれた志知くんが俺の元へと来て、そう話した。
「え、いいの?」
「うん、僕、野菜切るの得意!」
くいっと茶色のメガネを動かし、彼は言った。
「じゃあお願いしてもいい?ありがとう!」
「任せといて!」
志知くん、喋ったことなかったけど普通に喋りやすいな。少なくとも俺よりかはコミュ力がある。羨ましい…。
「でも…、忙しいのには変わりないな。頑張るか」
1人小さくそうぼやき、俺は少しペースを上げるのだった。
「お!いい感じじゃないか!」
「ほんとだ!志知、お前すごいぞ!」
須山が志知くんの頭をくしゃくしゃして褒めていた。あのあと、志知くんの見事な行動で、なんとカレーが出来上がるタイミングが、他の班とほぼ同じになったのだ。しかも人参やじゃがいもを切ってくれたのも志知くん。ルーの感じは茜含め他の女子がしてくれたが、野菜のサイズがちょうどいい感じに見受けられた。
「そう?ありがとう!」
「志知くんやっぱりすごいな!助かった!」
横からひょこっと茜が出てきてそう言った。そういえば茜は席の前の子と喋ってたっていつか言ってたっけ…?
「うまそう…、米は??」
見た感じ全くシャバシャバにはなっておらず、いい感じのとろみが出ているように見えたカレーを見て須山はそんな心からの感想を漏らした。
「ほんとだ、どうなんだ?」
「あっ…、やばい!」
米を担当していたであろう2人でつるんでる女子2人がそう言って炊飯窯に目をやった。
「あっちちち、ほいっ」
「あちゃー、結構焦げちゃってるな…」
蓋の上でダンスを踊るように軍手を通した指で蓋を開けたその子。それを見た須山は少しだけ残念そうにそう呟いた。すると、その2人の後ろからぴょこんと茜が顔を出して言った。
「大丈夫だって!凛華(りんか)、愛梨(あいり)!この班の男子は焦げが大好きだからさ!」
「そうなの…?ごめんね、佐野くん、須山くん、志知くん…」
「いいってことよ!これも飯盒炊飯の醍醐味だぜ!」
謝罪に意気揚々と答える須山。…やっぱりこいつってバカだけど、いいやつだよな。
「おい佐野。さっきなんか失礼なこと考えなかったか?」
「イヤ、ソンナコトナイヨ」
おいおい、こいつも心読んでくるのかよ。勘弁してくれ…。お得意のカタコトを披露してしまったじゃないか!いい加減これやめたい…。
「まあいいや。じゃあ俺皿持ってくるぜ!」
「じ、じゃあ僕はご飯入れるね!」
うちの班の男子群は優秀だ。須山は皿を前に取りに、志知くんは飯盒のご飯をよそおうと準備を始めた。
「で、佑は何もしないのか?」
「え?あー。今からしようとだなー」
ジト目で見てくる茜に俺は目をそらした。まあ確かに、俺も何かしなければならないが…。
「じゃあカレー注ぐよ!入れてほしい量とか言ってもらえれば調節します!」
「合格!いいね佑!」
「いやお前何様だよ…。とりあえず早く食べようぜ、瀬川さんと橘さんもお腹すいてるでしょ?」
俺がそう尋ねるとご飯を焦がしてしまったことで少し落ち込んでいた2人は微笑を浮かべて、
「うん、ありがとう!もう腹ペコ!」
と、元気に応じてくれた。笑顔になってくれてよかった、とそう感じながら皿を持ってくる須山を待つのだった。
そして、分担のお陰でサクサクとカレーを注ぎ、俺たちの班のテーブルへと移動した。テーブルは円の形をしたテーブルで、俺たちは適当に座った。先生曰く、できた班から食べていいとのことだったので、俺たちは手を合わせて合掌した。まだ周りはガヤガヤうるさいが、林の中の鳥たちの歌声が聴こえてくる。その中で食べる料理はきっと美味しいと、そう思いながら俺はカレーを口に含んだ。
「う、うめぇ~!!」
「本当だ!美味しい!」
班総員感嘆の声が漏れた。ちょっと外は蒸し暑いけど、そんなことなんか気にならないほどのおいしさだった。
「最高~!いい出来だな!佑!」
「そうだなー!うまいぜ!」
隣の茜にそう話しかけられたので俺は笑顔で応じる。他に班の子たちは楽しそうにそれぞれが会話をしていた。すると茜はルーに紛れていた肉をスプーンで掬い上げ、疑問そうに言った。
「ん?この肉…。もしかして切ったの佑?」
「え?ああ。なんで分かったんだ?」
切ってたところを見てたのかな?と思いつつ俺は彼女に尋ねた。
「いや、なんか雑に切られてたから…、料理下手そうな佑かなって♫」
「いやお前失礼だぞ!それで外してたらだいぶやばかったぞお前…」
「んー?だって佑って絶対的確信があったし」
「だから失礼なんだって!」
苦笑いしながら茜にそうツッコミを入れた。本当にこいつは…。不思議なやつだ。俺はよく分からない気持ちに追い込んだかと思えばこういうくだらないことを平気で言ってきたりする。そのコミュ力を俺にください。
「ん?」
そんなことを考えていると不意に須山が立ち上がった。そしてこいつにしては珍しい真剣な表情で、
「悪い、食事中だけど、ちょっとヤボ用ができた。ごめんけどそのまま食べててくれ!」
そう言って須山はテーブルを離れ、走っていった。
「…………」
うーん、怪しい。なんだか知らんが怪しい。用事ってなんだ?突然生まれるものなのか…?
疑問の糸が張られたので、俺は須山をじっくり見ることにした。そして彼はある人の前で足を止めた。
「…えっ」
その人は俺は彼との関係性で一番目を張っていた人物、唐津椛だった。彼女は彼との少しの会話のようなものの後、席を立ち、人の少ないところへと足を進めていた。
「佑?どーしたんだ?」
もぐもぐと口を動かしながら茜が俺に尋ねた。
「いや…。なんでも…」
須山たちが行った方に首を向けながら俺は茜にそう返した。要件はなんだ、用事はなんだ…?
そう心中思っていると、頭の中で、1つの言葉が反芻された。
『本当はもう気持ち伝えてもいい頃なんだけどな!』
「えっ、あいつ…。マジか!!」
「えっえっなんだよ、何がだよ!」
そう俺が言ったことに対し、茜は過度に興味を示した。だが、それよりも須山の件が気になった俺は、彼に気づかれないようについていこうとした。
「悪りぃ茜、後で話すな。俺もちょっと用事が!」
「むー…」
少し不貞腐れる茜に少し罪悪感を抱きながら俺は席を立った。正直なところ、あまり邪魔はしたくない。俺はあいつらの恋愛だから、だけど気になるもんは気になる…!気づけば、彼を追う足は徐々に速くなり、ついにその周辺まで辿り着いていた。
「確か…、ここに入ってい…」
刹那。肩を軽く叩かれた感覚があった。誰だ?そう戸惑いつつ、俺は体をその方向へと動かした。
「…や、やっほー」
「し…、佐伯!?」
そこには朝となんら髪型の変わらない、見慣れない雫の姿があった。
「ど、どうしたんだ?」
「まあ…。ちょっと、いいかしら?」
真顔に近しい表情で、雫は俺にそう言った。どうしようか、見たいは見たいが、ここで雫を断るのはまた違う気がする…。そうだよな、須山の件については夜聞けばいい。
「おう…、いいぞ」
須山のことをやや気にかけながら俺は了承した。
「ありがと、ここじゃ人が多いし、ちょっと移動しましょうか」
そう言って、くるっと体の方向を変えた雫は須山の向かった方向とは真反対の方向へと足を動かし始めた。見慣れない、朝に茜は確かハーフアップ?と言っていた髪型を前に、俺はそんな雫の後を追うのだった。雫は雫で俺に何の用なのだろうか……。
「これ俺の役割だったっけ?ごめん、そっちやってくれる?」
異様にバタバタしている俺たち。今、何をしているのかと言うと…?
「飯盒炊飯ってこんなにバタバタするもんなの…?」
俺の指示を受けた茜の前の席の男子、志知(しち)くんはそうボソッと呟いた。そう、今俺たちは飯盒炊飯をしている。のだが…。
「だいぶ遅れてるんじゃ…?」
俺たちは今カレーを作っているのだが、他の班は米を研ぎ終わり、火にかけている。しかし俺たちの班は火は微妙どころか米をとげてすらない。何をしていたのだろうか。思いつく節が見当たらない。
「佑!こっちは火たけたぞー!」
木の板材をぶんぶんふりながら俺にそう告げた茜。こんこんと咳き込む様子を見ると頑張ってくれたのだろう。
「おお、ありがとう茜!よかったらこっちも手伝ってくれ!」
「あ、やばい!火が消えそう!」
俺の言葉を遮るように茜はまた火の作業に戻っていった。全く、というか普通逆な気がするのだが…。男子が火つけて、女子が米とかを研ぐと思うのだが…?
「まあ、いいか…。本人が望んだことだし…」
「佐野くん、野菜切るよ?」
ボソッと呟いていると、先ほど俺の指示を嫌がることなく受け入れてくれた志知くんが俺の元へと来て、そう話した。
「え、いいの?」
「うん、僕、野菜切るの得意!」
くいっと茶色のメガネを動かし、彼は言った。
「じゃあお願いしてもいい?ありがとう!」
「任せといて!」
志知くん、喋ったことなかったけど普通に喋りやすいな。少なくとも俺よりかはコミュ力がある。羨ましい…。
「でも…、忙しいのには変わりないな。頑張るか」
1人小さくそうぼやき、俺は少しペースを上げるのだった。
「お!いい感じじゃないか!」
「ほんとだ!志知、お前すごいぞ!」
須山が志知くんの頭をくしゃくしゃして褒めていた。あのあと、志知くんの見事な行動で、なんとカレーが出来上がるタイミングが、他の班とほぼ同じになったのだ。しかも人参やじゃがいもを切ってくれたのも志知くん。ルーの感じは茜含め他の女子がしてくれたが、野菜のサイズがちょうどいい感じに見受けられた。
「そう?ありがとう!」
「志知くんやっぱりすごいな!助かった!」
横からひょこっと茜が出てきてそう言った。そういえば茜は席の前の子と喋ってたっていつか言ってたっけ…?
「うまそう…、米は??」
見た感じ全くシャバシャバにはなっておらず、いい感じのとろみが出ているように見えたカレーを見て須山はそんな心からの感想を漏らした。
「ほんとだ、どうなんだ?」
「あっ…、やばい!」
米を担当していたであろう2人でつるんでる女子2人がそう言って炊飯窯に目をやった。
「あっちちち、ほいっ」
「あちゃー、結構焦げちゃってるな…」
蓋の上でダンスを踊るように軍手を通した指で蓋を開けたその子。それを見た須山は少しだけ残念そうにそう呟いた。すると、その2人の後ろからぴょこんと茜が顔を出して言った。
「大丈夫だって!凛華(りんか)、愛梨(あいり)!この班の男子は焦げが大好きだからさ!」
「そうなの…?ごめんね、佐野くん、須山くん、志知くん…」
「いいってことよ!これも飯盒炊飯の醍醐味だぜ!」
謝罪に意気揚々と答える須山。…やっぱりこいつってバカだけど、いいやつだよな。
「おい佐野。さっきなんか失礼なこと考えなかったか?」
「イヤ、ソンナコトナイヨ」
おいおい、こいつも心読んでくるのかよ。勘弁してくれ…。お得意のカタコトを披露してしまったじゃないか!いい加減これやめたい…。
「まあいいや。じゃあ俺皿持ってくるぜ!」
「じ、じゃあ僕はご飯入れるね!」
うちの班の男子群は優秀だ。須山は皿を前に取りに、志知くんは飯盒のご飯をよそおうと準備を始めた。
「で、佑は何もしないのか?」
「え?あー。今からしようとだなー」
ジト目で見てくる茜に俺は目をそらした。まあ確かに、俺も何かしなければならないが…。
「じゃあカレー注ぐよ!入れてほしい量とか言ってもらえれば調節します!」
「合格!いいね佑!」
「いやお前何様だよ…。とりあえず早く食べようぜ、瀬川さんと橘さんもお腹すいてるでしょ?」
俺がそう尋ねるとご飯を焦がしてしまったことで少し落ち込んでいた2人は微笑を浮かべて、
「うん、ありがとう!もう腹ペコ!」
と、元気に応じてくれた。笑顔になってくれてよかった、とそう感じながら皿を持ってくる須山を待つのだった。
そして、分担のお陰でサクサクとカレーを注ぎ、俺たちの班のテーブルへと移動した。テーブルは円の形をしたテーブルで、俺たちは適当に座った。先生曰く、できた班から食べていいとのことだったので、俺たちは手を合わせて合掌した。まだ周りはガヤガヤうるさいが、林の中の鳥たちの歌声が聴こえてくる。その中で食べる料理はきっと美味しいと、そう思いながら俺はカレーを口に含んだ。
「う、うめぇ~!!」
「本当だ!美味しい!」
班総員感嘆の声が漏れた。ちょっと外は蒸し暑いけど、そんなことなんか気にならないほどのおいしさだった。
「最高~!いい出来だな!佑!」
「そうだなー!うまいぜ!」
隣の茜にそう話しかけられたので俺は笑顔で応じる。他に班の子たちは楽しそうにそれぞれが会話をしていた。すると茜はルーに紛れていた肉をスプーンで掬い上げ、疑問そうに言った。
「ん?この肉…。もしかして切ったの佑?」
「え?ああ。なんで分かったんだ?」
切ってたところを見てたのかな?と思いつつ俺は彼女に尋ねた。
「いや、なんか雑に切られてたから…、料理下手そうな佑かなって♫」
「いやお前失礼だぞ!それで外してたらだいぶやばかったぞお前…」
「んー?だって佑って絶対的確信があったし」
「だから失礼なんだって!」
苦笑いしながら茜にそうツッコミを入れた。本当にこいつは…。不思議なやつだ。俺はよく分からない気持ちに追い込んだかと思えばこういうくだらないことを平気で言ってきたりする。そのコミュ力を俺にください。
「ん?」
そんなことを考えていると不意に須山が立ち上がった。そしてこいつにしては珍しい真剣な表情で、
「悪い、食事中だけど、ちょっとヤボ用ができた。ごめんけどそのまま食べててくれ!」
そう言って須山はテーブルを離れ、走っていった。
「…………」
うーん、怪しい。なんだか知らんが怪しい。用事ってなんだ?突然生まれるものなのか…?
疑問の糸が張られたので、俺は須山をじっくり見ることにした。そして彼はある人の前で足を止めた。
「…えっ」
その人は俺は彼との関係性で一番目を張っていた人物、唐津椛だった。彼女は彼との少しの会話のようなものの後、席を立ち、人の少ないところへと足を進めていた。
「佑?どーしたんだ?」
もぐもぐと口を動かしながら茜が俺に尋ねた。
「いや…。なんでも…」
須山たちが行った方に首を向けながら俺は茜にそう返した。要件はなんだ、用事はなんだ…?
そう心中思っていると、頭の中で、1つの言葉が反芻された。
『本当はもう気持ち伝えてもいい頃なんだけどな!』
「えっ、あいつ…。マジか!!」
「えっえっなんだよ、何がだよ!」
そう俺が言ったことに対し、茜は過度に興味を示した。だが、それよりも須山の件が気になった俺は、彼に気づかれないようについていこうとした。
「悪りぃ茜、後で話すな。俺もちょっと用事が!」
「むー…」
少し不貞腐れる茜に少し罪悪感を抱きながら俺は席を立った。正直なところ、あまり邪魔はしたくない。俺はあいつらの恋愛だから、だけど気になるもんは気になる…!気づけば、彼を追う足は徐々に速くなり、ついにその周辺まで辿り着いていた。
「確か…、ここに入ってい…」
刹那。肩を軽く叩かれた感覚があった。誰だ?そう戸惑いつつ、俺は体をその方向へと動かした。
「…や、やっほー」
「し…、佐伯!?」
そこには朝となんら髪型の変わらない、見慣れない雫の姿があった。
「ど、どうしたんだ?」
「まあ…。ちょっと、いいかしら?」
真顔に近しい表情で、雫は俺にそう言った。どうしようか、見たいは見たいが、ここで雫を断るのはまた違う気がする…。そうだよな、須山の件については夜聞けばいい。
「おう…、いいぞ」
須山のことをやや気にかけながら俺は了承した。
「ありがと、ここじゃ人が多いし、ちょっと移動しましょうか」
そう言って、くるっと体の方向を変えた雫は須山の向かった方向とは真反対の方向へと足を動かし始めた。見慣れない、朝に茜は確かハーフアップ?と言っていた髪型を前に、俺はそんな雫の後を追うのだった。雫は雫で俺に何の用なのだろうか……。
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