これからの僕の非日常な生活

喜望の岬

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24. 妙なこと

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 季節外れのような太陽が俺らを照らしている。今の時刻は夕暮れ時のはずだが、太陽が地平線になかなか潜らない。今の時期だともう隠れてくれてもいい頃なんだけどな…。
 そんなこんなで妙に生ぬるい風が吹く場にバスが7台停まった。駐車できるスペースはきちんと確保されており、安全に俺たち約280人はここ、2泊3日を明かすコテージチックなところへと足を踏み入れた。
「おー、ここか?今日泊まるところって、佐野?」
「らしいな、なんかでっかい。4階建てか?珍しいな。それに2棟に分かれてる。」
「そりゃー、280人近くの人が泊まるんだから当たり前だろうなぁ。分かれてるのは女子との棟分けなんじゃねーの?」
 バスに詰まれた大きな荷物を取り出しながら須山はそう言った。
「ほーいっと、荷物重いなぁあぁあ」
「ん?須山、お前…?」
「どうした?」
「気のせいか?妙にテンションが?」
 いつもとは違うようなテンションの上がり方をしている須山に俺は疑問を抱いた。
「そうかー?最初からこんな感じじゃなかったか?ま、宿に着いたら誰だってテンションは上がるだろ♫」
「ま、まあそうか…?」
 少し不思議な感じはするが、まあそういうことなんだろう。そうして俺も荷物を取り出し、須山の後を追うのだった。
 カヤックが終わってからもいくつか行事があったが、俺はその中で気になることが1つあった。今日は妙に須山と椛が会話しているところを多くみたのだ。陶芸の時は卓球部のところに行った後椛のそばにいたし、カヤックの時は着替えた後すぐ喋ってたし…。椛曰く、須山とは中学が同じらしいが…。なんだろう、馴染みのものってやつなのかな?こいつの機嫌が良く見える理由はこれなのかもしれない。これに思い当たる節は1つ。カヤックの時に言ってた、気になる子?が俺と同じくらいの女子としか関わってなかったということ。じゃあなおさらじゃ…?
 そう思いながら俺たちは部屋へと到着した。襖を開けると約10畳の畳のスペースがあり、俺と須山を含める男子5人が寝るには少し狭いかもだが、十分だと俺は感じた。
「おおー、ここが俺たちが泊まる部屋か!」
「だな、よし、集合までまだちょっと時間あるし、部屋でちょっと喋ってようぜ、須山」
 しおりの内容を思い出し、俺はそう言ったのだが…。
「いやいや、佐野さん。せっかくの野活なんだ、やることは1つだろー?」
 ニヤッとしながら俺にそう言ってきた須山。こいつは何をする気なんだ…?
「女子の部屋に行く!これに限るだろ!」
「何そんな堂々と言ってんだよ…。いや、グッじゃねーよ…」
 目を輝かせる須山。◯野アイですかあなた…。頭の上に腕を持っていったら完全にそうなりそうだ…。
「とりあえず女子の部屋というか別棟に行くのはダメだからやめとけよ、バレたらタダじゃすまねぇぞ?」
「そう固いこと言うなよ佐野。じゃあ俺1人でも行くぜ!」
「なんでそんなに行きたがるんだよ…。気になるやつでもいるのか??」
 冗談まじりに俺はそう須山に尋ねた。
「え?もしかしてもう分かった感じ?俺の好きな人」
「いやいや言ってない言ってない…。てかもう好きな人って言ってんじゃねぇか…」
 まあ、この反応を見る限り須山はやはり目当ての女子がいるのだろうか。
「とりあえず今行かなくても飯の時全体集合なんだからそん時その女子見れるだろ、焦んなよ…」
「まあそうか。じゃあ大人しく佐野と喋ってるか。本当はもう気持ち伝えてもいい頃なんだけどな!」
「なんでちょっとだれてんだよ…。そしていらない冗談を言うな。野活でテンションが上がってバグりすぎてるよお前…」
 やや不服そうに、そして謎にテンション高く言う須山に俺はそうツッコミを入れるのだった。



「おおー!すごい、広ーい!」
「そうね、10畳くらいあるかしら?」
 僕と椛は襖の先にあった部屋を見てそんな感想を漏らした。部屋の隅に大きな荷物を置き、晩御飯の飯盒炊飯の時間までもう少しあることに気づいた僕は、そのまま椛と喋ることにした。
「なぁ椛。いよいよ飯盒炊飯だな、楽しみか?」
「そうね、私カレーすごく楽しみにしてる!」
「僕もだ!でも小中とそういう経験ないから実は初めてなんだよなー、どんな感じなんだ?飯盒炊飯って」
 鞄の横に腰を下ろしながら僕は椛に尋ねた。
「私は1回だけあるんだけど、お米の調節加減がとっても難しいのよ!底とか焦げちゃったりしちゃうし…」
「そーなのかぁ。某動画サイトを見る限りはみんなおいしそうにご飯を飯盒で炊いてるんだけどなぁ」
 すると椛はクスッと笑って、
「あれはあの道のプロの人とかが撮ってるからね、そりゃおいしそうな仕上がりになるわよ」
「そっかー、やっぱりプロはすごいや。僕も飯盒炊飯のプロになろっかな?」
「茜はまだ飯盒炊飯を経験してないでしょ、プロはまだ早いわよ」
 微笑しながら椛は僕にそう言った。そういえば、よく見てみると、椛って顔整ってるよなー。美人ってよりかはかわいいって方の顔に見える。いいなぁ、僕もこんな笑った時に輝くような笑顔を手に入れてみたい…。
「ん?どうしたの茜。私をじっと見て…」
「ああ、いや。笑った時の顔可愛いなって思って」
 すると椛は素っ頓狂な表情をして言った。
「え?そうかな?そう言われたの茜が初めてよ?」
「そうなのかー?うーん、男子は見る目がないなぁ」
 腕を組みながらぐむむと軽く唸る。
「あはは、私は茜の方が個人的にはかわいいと思うけどね?」
「そんなことないだろー。僕も言われたことないぞ、かわいいって…」
「いや、私聞いたことあるわよ?男子から」
「えっ!?」
 椛からの突然のカミングアウトに想像以上の声が出てしまった。この部屋に入った他の女子3人も驚いたような表情でこっちを見ている。
「ああ…。ごめんごめん、あまりに衝撃的だったから…」
「そんな驚くことかなぁ、ちなみにクラスの子だけど?」
 その瞬間、僕の心臓は軽く跳ねた。なぜだろう、自分で理解できないほどの突拍子さだった。
「どうしたの、顔固まってるわよ?…さては、クラスの誰が言ってたか気になるのね?」
 さらに、それに…。と椛は付け加えて、
「その感じだと…。茜、好きな人いるの?」
 ニヤッとまるで小悪魔のような顔で僕にそう尋ねた。目をじっと見てくる椛に少したじろいで思わずふっと目を逸らしてしまう。
「ち、ちょっと。話を進めすぎじゃないか?そして聞きたいけど、好きな人ってどの段階の人のことなんだ?」
「え?好きな人は好きな人よ。この人と付き合いたいなーって人とか茜いないの??」
 先ほども見たような呆気に取られた表情をする椛。デ、デジャヴ…??
「うーん…」
 僕は彼女の言葉にそんな言葉にならない声を返した。
「今椛が言ってるのは異性として好きだなーとか恋愛的に好きだなーってものであってるか?」
「そ、そうよ。そうだけど…」
「まあ、好きな人はいるよ?椛が思ってるものとは違うとは思うけれど…」
 少し開いた窓を横目で見ながら僕はそう呟いた。
「な、なるほど…」
「僕、実は初恋がまだなんだ。珍しいと思うかもしれないけど、人を恋愛的に好きになったことはまだないから、今思ってる好きとの区別がつかないんだ」
「好き、がまだの女子…。恐るべし…」
「え?なんか言った??」
 何か椛の方から聞こえた気がしたけど…?
「…何も?まあとりあえず…」
 すると椛は僕の肩に片手をポン、と置いて、
「その区別がつくようになった時が、茜の初恋ってことだね!」
 ニコッと首を傾げながらそう言う椛。僕はなんだか頼もしくなった。
「そうだな、その時って来るのかな…?」
「来るわよきっと!じゃあ今の"友達的に"好きって人教えてよ!さっきいるって言ってたからいるんでしょ?」
「えー、その前に僕のことをいいなって言ってた子を教えてくれよー。何気に気になってるんだぞ?」
「何よ茜。やっぱり気になってるんじゃない!」
「いやだって…。そんなニヤニヤした表情で言われると…」
「その人はおいおい分かってくるわよ!その前に茜のを先にほら!プリーズ!!」
 妙にテンションが高く、手で求めてくる椛に苦笑のような微笑のようなよく分からない反応をした僕は、
「しょうがないなぁ~。特別だよ?」
 と、ため息混じりに一言置いて、部屋にいる他の女子に聞こえないように椛の耳元に口を持っていって、小声で小さく言った。
「ーーー、ーー、ーーー…」
 僕はこう言うことを言うのに慣れていないからか少し緊張してしまった。特に…、
「なるほど、3人か~。ねぇ、最初の人言う時だけ緊張してなかった?茜」
「へっ!?」
「何その顔、かわいい~!さては図星だった?まあ、あながち予想はできてたけどねぇ」
「じ、じゃあ聞くなよ!は、恥ずかしいぃぃ…」
 不意に両手でほっぺを抑えると今の気温以上の温もりを感じた。それだけそんな気持ちであることを知り、余計に恥ずかしくなる。
「あはは、分かりやす!まあ、私はお似合いだと思うけどね?」
「う、うるさい!じゃあ椛!教えろ、ほら!」
「何を?さあーってっと、そろそろ集合の時間だし、行きましょうか!」
「おいこら、流すな~!」
 先にささっと部屋から出て行ってしまうそんな椛の後を僕は顔のほてりが冷めぬまま追いかけるのだった。
「…ん?」
 さっき一瞬だけ、彼女の顔の眉が下がっていたことを不思議に思いながら…。
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