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23. ヒント
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陶芸を作り終えた俺たちはバスで次の場所へと進んでいた。俺たちが作った陶芸は後日学校に直接届くらしい。どんな感じで茶碗ができるのか楽しみだ。
そんなこんなで俺たちは陶芸体験のできるところの2階で各自少し早めの弁当を食べさせてもらい、ただいま時刻は12時半。食後なのでちょっとバス酔いが心配だが、まあ安静にしておけば、きっと酔わないだろう。まあ、だけど…。
「うえぇ……」
「おいおい…、行きの時のテンションはどうした須山…。お前もしかして酔ったのか?」
明らかに体調が悪そうに見える須山は窓から線のように流れる景色を眺めていた。
「ああ…。やっぱ食った後はきついや…」
「何か量多かったしなお前の弁当」
「ああ、唐揚げ大盛りだったぜ…」
「バス乗る前に油物て…」
酔いすぎて眠気どころではなさそうな須山に俺はそうツッコんだ。
「まあとりあえず安静しておけよ、バスはあともう少しかかりそうだからさ」
「おう、ありがとな佐野。ちなみに後何分くらいだ?」
「えーっと……」
そうとぼけながら俺はバス前のデジタル時計を見る。するとまだ1時間以上かかりそうな感じなので俺は彼に言った。
「あと30分で着くから!そのまま外の景色見て落ち着くといいよ」
と、ついてもいいであろう優しい嘘を…。
「おい佐野、本当に30分だったのか?俺的には体感で1時間くらいに感じたぞ?」
「いやーそれはきっときつい状態だったから長く感じただけだよ、まあいいじゃんかもうついたんだし」
「ま、まあそうだな…?」
そんな雑談をしながら俺と須山、その他諸々280名は次の目的地、2人乗りカヤック体験ができるところへと足を踏み入れていた。事前に決めていた班に分かれ、カヤックに乗るらしい。それにしても1つのカヤックで2人だから単純計算でもカヤックは140個いる。よくそんな量用意できたな、と俺はふと思った。
気がつくと説明が終わっており、各自それぞれのカヤックへと足を運んだ。すると俺に声をかけてくる一つの声があった。
「ねえ、佐野くんは誰と乗るのー?」
「ん?おお、椛か。俺は須山とだぜ、椛は誰と乗るんだ?」
「私は茜と乗るの、何か喋りやすくてあの子!」
「そうか、楽しんでこいよ!」
俺は笑顔で椛を送り出そうとした、が?
「あとさ、一ついいかしら?」
「?なんでしょう」
なんのことやらと頭の上にハテナを浮かべながら俺はそう聞いた。
「何か…、気のせいかしら、久しぶりじゃない?」
「久しぶり?どういうことだ?学校ではほぼ毎日喋ってたろ?席逆隣なんだし」
ますますハテナの量が増えていく俺。こいつは何を言ってるんだ…?
「私ってあなたの幼なじみ的存在で、あなたの黒歴史ワースト4を作り出した人物よね?」
「あんまりそれは言って欲しくないが…。まあ間違ってはないけど。急に自己紹介みたいなことしてどったん椛」
「いや…。うーん、もういいや…」
「なんじゃそりゃ…」
まるで背骨を抜かれたかのようにへにゃへにゃする椛。今日のこいつは何か変だ…。あれだろうか、こいつも酔ったのか?
「とりあえず茜が待ってるから行くね!びしょびしょになった佐野くんを後で見るのを楽しみにしてる!」
「何で濡れる前提で話してるんだよ…。じゃあな」
茜がいるであろう方へと行く椛に軽く手を振りながら俺はそう送り出した。こっちもおそらく須山が待ってることだしそちらに向かうかな。
「おい佐野。どこ行ってたんだお前」
「ごめんごめん。ちょっとちっちゃな用事がな」
既にカヤックのもとにいた須山が発したのはご立腹な言葉だったが、顔が全くご立腹ではなかったので俺は軽く謝り、カヤックに乗った。
「俺が前でよかったんだよな?佐野」
「ああ、お前背ちっちゃいしな」
「うるせーよ、俺の"complex"に触れんじゃねぇ!」
「何でコンプレックスの発音だけ謎にいいんだよ…」
いつもの調子でふざける須山にいつものごとくツッコミ返す俺。もう日常と呼んでもいいのかなこれは。
そんなバスでもしたように感じる中身のない会話をしながら俺たちはカヤックを漕ぐ。ゆっくりオールを動かして、程よい速さで俺たちのカヤックは進んでいった。水面の上を滑っているように感じて、不思議な感覚だったが、何か気持ちよかった。気温は食後だからかわからないが、少し暑く感じた。まあ、おそらく興奮してるのもあると思うけどな。
「おし、次はこっちに行くぞ佐野」
「了解、それにしても楽しいなぁカヤック」
右に旋回して、みんなから少し離れたところにきた俺と須山。水面を伝って体をそよぐ風が気持ち良い。
「…なぁ佐野」
すると、須山が前を向きながら名前を呼んできた。
「ん?どした?戻るか?」
「…いや、ちょっと話があるんだ」
クイっとオールを一漕ぎして俺にそう問いかけた。
「おお…。何だ?」
「お前…、好きな人いるか?」
「…へ?」
てっきりもう少しシリアスな内容の話を予想していた俺は彼のそんな問いに思わず素っ頓狂な声を出した。
「だから好きな人だよ好きな人!」
するとものすごいスピードで須山がこちらに顔を向けた。何でちょっとニヤついてんだこいつ…。
「好きな人なんかいねぇよ…。というかその話は布団の上まで我慢しておけよ…」
「何でだよ、別にいいだろー?そのためにこの人の少ないところに来たってのもあるんだから」
「知らねえよそんなん…。で、聞いてきたってことは須山、お前はいるのかよ?」
突拍子に俺にそう尋ねてきた須山に俺は質問を返した。すると須山は、
「いないことはないかなぁ」
と、変に濁すような発言をした。
「なんじゃそりゃ…。そいつはクラスの子か?」
「んーまあそうだな」
妙に受け答えのいい須山。人にそーいうの教えるのって恥ずかしくないのかな?俺はちょっと抵抗あるが…。なんだろう、野活テンションとでもいうのか?
「まあ、うまくやれよ?あんまり言及はしないけど」
「その様子はあまり気になってないなー?せっかく自分語りしようと思ってたのによ」
頬をぶくっと膨らましてやや不貞腐れる須山。
「分かった分かった…。で、そいつはどんなやつなんだ?」
「よくぞ聞いてくれましたっっ!!」
ガチャのSSRが当たった時のような反応をする須山。そんなに聞いて欲しかったのか…。
「普段からも可愛いんだけど、人を思いやる心がいいっていうかーなんというかー」
「普段からも可愛い…?お前それ星本先輩のことじゃねーのか??」
以前須山からえげつない量の星本先輩情報を聞いていた俺は彼の発言からそう推測した。
「違うよ、同じクラスの子って言っただろ?」
「あー確かにそうか…」
「んーじゃあもう一つヒントな?」
そう一言添えて須山は続けた。
「その子は笑った顔が可愛くて、どこか子供っぽさがある子だな」
「子供っぽさ…?え、誰だよそれ…」
2つ目のヒントのせいで余計分からなくなってしまった。そして何気に俺、惚気られてる…?
「えー分かんないのかー?じゃあ大ヒントな」
「ってか、そんなにヒントくれるなら直接そいつの名前言えばいいのに…」
「まあまあ、気分だよ気分!」
謎に上機嫌な須山。何かいいことがあったのだろうか。
「そもそもとして俺クラスのほとんどの女子と喋ってないから子供っぽいとか分からん…」
「そんなに喋ってないのかー?誰だよ」
「椛と茜だよ。椛ってのは唐津さん、茜は俺の前のやつの佐伯だ」
「どっちも知ってるって…」
いつの間にか前を向いていた須山はそう呟いた。
「で、大ヒントってのは…?」
「とうとう気になり始めたか?佐野ぉ~」
「いやまあそこまで言われるとな…」
自分の気になる人が人に知られるというのに何故か嬉しそうな様子の須山を見てやや不思議な気持ちになる。
「ま、大ヒントは…、俺もお前と同じくらいの女子としか喋ったことがないってことだな…」
「え?」
「はい、もういいだろ。そろそろ戻るぞ佐野!」
自分から大ヒントの詳細を振った割にそれを教えたあと妙に恥ずかしがる須山。なんだこいつ、やっぱり不思議なやつだなぁ。
そう思いながら須山とカヤックを浜に向けて漕ぐのだった。沖の方へ行きすぎてプチ説教を食らったのは別のお話である…。
「ちょっと喋りすぎたかな…」
佐野とは少し離れたところで1人、ぼそっとつぶやく。すると俺にかかる1つの声があった。
「あれ、須山くん。佑知らないか?」
「おお、佐伯か。佐野なら今トイレだぞ。男子トイレ不法侵入しようとすんなよ」
ケラケラ笑いながらそう佐伯をからかう。このような会話は確か陶芸の時もした気が…?
「別にしないぞ!僕のことどう見てるんだよ須山くん…」
「冗談だよ冗談。そーいえばどうだ?椛とのカヤックは楽しかったか?」
「うん!やっぱり喋りやすくて楽しかった!」
すると彼女はそれより…。と付け足し、
「椛って呼ぶんだな。あの子のこと」
「え?あ、ああ。あいつとは中学が一緒なんだ。気づかないかもだが、向こうも俺のことは名前で呼んでる」
「へぇー、なんか僕だけ名字呼びで疎外感あるなぁ」
軽く頬を膨らます佐伯。不貞腐れてるのか…?
「なんだよ、じゃあ名前で呼べってことか?」
「嫌ならいいんだぞ…?」
やや悲しそうにそう言う佐伯。なんだこいつ…、こういう表情も出来んのかよ…。
「別に嫌じゃねえよ、いいのか?名前で呼んでも」
「うん!ということは僕も須山くんのこと名前で呼んでもいいってことだよな?」
「ま、まあ構わないが…。じゃあ、よろしくな?…茜」
そう初めて目の前の女子の名前を呼応すると彼女は、おそらく俺にまだ見せたことのない笑顔で、
「よろしくな!実くん!!」
…と、言うのだった。なんか新鮮な感じがして体がむず痒く、体温が妙に高くなってる気がするが…。
そう思いながら俺はこの日初めて、神様の存在を信じるのだった。
そんなこんなで俺たちは陶芸体験のできるところの2階で各自少し早めの弁当を食べさせてもらい、ただいま時刻は12時半。食後なのでちょっとバス酔いが心配だが、まあ安静にしておけば、きっと酔わないだろう。まあ、だけど…。
「うえぇ……」
「おいおい…、行きの時のテンションはどうした須山…。お前もしかして酔ったのか?」
明らかに体調が悪そうに見える須山は窓から線のように流れる景色を眺めていた。
「ああ…。やっぱ食った後はきついや…」
「何か量多かったしなお前の弁当」
「ああ、唐揚げ大盛りだったぜ…」
「バス乗る前に油物て…」
酔いすぎて眠気どころではなさそうな須山に俺はそうツッコんだ。
「まあとりあえず安静しておけよ、バスはあともう少しかかりそうだからさ」
「おう、ありがとな佐野。ちなみに後何分くらいだ?」
「えーっと……」
そうとぼけながら俺はバス前のデジタル時計を見る。するとまだ1時間以上かかりそうな感じなので俺は彼に言った。
「あと30分で着くから!そのまま外の景色見て落ち着くといいよ」
と、ついてもいいであろう優しい嘘を…。
「おい佐野、本当に30分だったのか?俺的には体感で1時間くらいに感じたぞ?」
「いやーそれはきっときつい状態だったから長く感じただけだよ、まあいいじゃんかもうついたんだし」
「ま、まあそうだな…?」
そんな雑談をしながら俺と須山、その他諸々280名は次の目的地、2人乗りカヤック体験ができるところへと足を踏み入れていた。事前に決めていた班に分かれ、カヤックに乗るらしい。それにしても1つのカヤックで2人だから単純計算でもカヤックは140個いる。よくそんな量用意できたな、と俺はふと思った。
気がつくと説明が終わっており、各自それぞれのカヤックへと足を運んだ。すると俺に声をかけてくる一つの声があった。
「ねえ、佐野くんは誰と乗るのー?」
「ん?おお、椛か。俺は須山とだぜ、椛は誰と乗るんだ?」
「私は茜と乗るの、何か喋りやすくてあの子!」
「そうか、楽しんでこいよ!」
俺は笑顔で椛を送り出そうとした、が?
「あとさ、一ついいかしら?」
「?なんでしょう」
なんのことやらと頭の上にハテナを浮かべながら俺はそう聞いた。
「何か…、気のせいかしら、久しぶりじゃない?」
「久しぶり?どういうことだ?学校ではほぼ毎日喋ってたろ?席逆隣なんだし」
ますますハテナの量が増えていく俺。こいつは何を言ってるんだ…?
「私ってあなたの幼なじみ的存在で、あなたの黒歴史ワースト4を作り出した人物よね?」
「あんまりそれは言って欲しくないが…。まあ間違ってはないけど。急に自己紹介みたいなことしてどったん椛」
「いや…。うーん、もういいや…」
「なんじゃそりゃ…」
まるで背骨を抜かれたかのようにへにゃへにゃする椛。今日のこいつは何か変だ…。あれだろうか、こいつも酔ったのか?
「とりあえず茜が待ってるから行くね!びしょびしょになった佐野くんを後で見るのを楽しみにしてる!」
「何で濡れる前提で話してるんだよ…。じゃあな」
茜がいるであろう方へと行く椛に軽く手を振りながら俺はそう送り出した。こっちもおそらく須山が待ってることだしそちらに向かうかな。
「おい佐野。どこ行ってたんだお前」
「ごめんごめん。ちょっとちっちゃな用事がな」
既にカヤックのもとにいた須山が発したのはご立腹な言葉だったが、顔が全くご立腹ではなかったので俺は軽く謝り、カヤックに乗った。
「俺が前でよかったんだよな?佐野」
「ああ、お前背ちっちゃいしな」
「うるせーよ、俺の"complex"に触れんじゃねぇ!」
「何でコンプレックスの発音だけ謎にいいんだよ…」
いつもの調子でふざける須山にいつものごとくツッコミ返す俺。もう日常と呼んでもいいのかなこれは。
そんなバスでもしたように感じる中身のない会話をしながら俺たちはカヤックを漕ぐ。ゆっくりオールを動かして、程よい速さで俺たちのカヤックは進んでいった。水面の上を滑っているように感じて、不思議な感覚だったが、何か気持ちよかった。気温は食後だからかわからないが、少し暑く感じた。まあ、おそらく興奮してるのもあると思うけどな。
「おし、次はこっちに行くぞ佐野」
「了解、それにしても楽しいなぁカヤック」
右に旋回して、みんなから少し離れたところにきた俺と須山。水面を伝って体をそよぐ風が気持ち良い。
「…なぁ佐野」
すると、須山が前を向きながら名前を呼んできた。
「ん?どした?戻るか?」
「…いや、ちょっと話があるんだ」
クイっとオールを一漕ぎして俺にそう問いかけた。
「おお…。何だ?」
「お前…、好きな人いるか?」
「…へ?」
てっきりもう少しシリアスな内容の話を予想していた俺は彼のそんな問いに思わず素っ頓狂な声を出した。
「だから好きな人だよ好きな人!」
するとものすごいスピードで須山がこちらに顔を向けた。何でちょっとニヤついてんだこいつ…。
「好きな人なんかいねぇよ…。というかその話は布団の上まで我慢しておけよ…」
「何でだよ、別にいいだろー?そのためにこの人の少ないところに来たってのもあるんだから」
「知らねえよそんなん…。で、聞いてきたってことは須山、お前はいるのかよ?」
突拍子に俺にそう尋ねてきた須山に俺は質問を返した。すると須山は、
「いないことはないかなぁ」
と、変に濁すような発言をした。
「なんじゃそりゃ…。そいつはクラスの子か?」
「んーまあそうだな」
妙に受け答えのいい須山。人にそーいうの教えるのって恥ずかしくないのかな?俺はちょっと抵抗あるが…。なんだろう、野活テンションとでもいうのか?
「まあ、うまくやれよ?あんまり言及はしないけど」
「その様子はあまり気になってないなー?せっかく自分語りしようと思ってたのによ」
頬をぶくっと膨らましてやや不貞腐れる須山。
「分かった分かった…。で、そいつはどんなやつなんだ?」
「よくぞ聞いてくれましたっっ!!」
ガチャのSSRが当たった時のような反応をする須山。そんなに聞いて欲しかったのか…。
「普段からも可愛いんだけど、人を思いやる心がいいっていうかーなんというかー」
「普段からも可愛い…?お前それ星本先輩のことじゃねーのか??」
以前須山からえげつない量の星本先輩情報を聞いていた俺は彼の発言からそう推測した。
「違うよ、同じクラスの子って言っただろ?」
「あー確かにそうか…」
「んーじゃあもう一つヒントな?」
そう一言添えて須山は続けた。
「その子は笑った顔が可愛くて、どこか子供っぽさがある子だな」
「子供っぽさ…?え、誰だよそれ…」
2つ目のヒントのせいで余計分からなくなってしまった。そして何気に俺、惚気られてる…?
「えー分かんないのかー?じゃあ大ヒントな」
「ってか、そんなにヒントくれるなら直接そいつの名前言えばいいのに…」
「まあまあ、気分だよ気分!」
謎に上機嫌な須山。何かいいことがあったのだろうか。
「そもそもとして俺クラスのほとんどの女子と喋ってないから子供っぽいとか分からん…」
「そんなに喋ってないのかー?誰だよ」
「椛と茜だよ。椛ってのは唐津さん、茜は俺の前のやつの佐伯だ」
「どっちも知ってるって…」
いつの間にか前を向いていた須山はそう呟いた。
「で、大ヒントってのは…?」
「とうとう気になり始めたか?佐野ぉ~」
「いやまあそこまで言われるとな…」
自分の気になる人が人に知られるというのに何故か嬉しそうな様子の須山を見てやや不思議な気持ちになる。
「ま、大ヒントは…、俺もお前と同じくらいの女子としか喋ったことがないってことだな…」
「え?」
「はい、もういいだろ。そろそろ戻るぞ佐野!」
自分から大ヒントの詳細を振った割にそれを教えたあと妙に恥ずかしがる須山。なんだこいつ、やっぱり不思議なやつだなぁ。
そう思いながら須山とカヤックを浜に向けて漕ぐのだった。沖の方へ行きすぎてプチ説教を食らったのは別のお話である…。
「ちょっと喋りすぎたかな…」
佐野とは少し離れたところで1人、ぼそっとつぶやく。すると俺にかかる1つの声があった。
「あれ、須山くん。佑知らないか?」
「おお、佐伯か。佐野なら今トイレだぞ。男子トイレ不法侵入しようとすんなよ」
ケラケラ笑いながらそう佐伯をからかう。このような会話は確か陶芸の時もした気が…?
「別にしないぞ!僕のことどう見てるんだよ須山くん…」
「冗談だよ冗談。そーいえばどうだ?椛とのカヤックは楽しかったか?」
「うん!やっぱり喋りやすくて楽しかった!」
すると彼女はそれより…。と付け足し、
「椛って呼ぶんだな。あの子のこと」
「え?あ、ああ。あいつとは中学が一緒なんだ。気づかないかもだが、向こうも俺のことは名前で呼んでる」
「へぇー、なんか僕だけ名字呼びで疎外感あるなぁ」
軽く頬を膨らます佐伯。不貞腐れてるのか…?
「なんだよ、じゃあ名前で呼べってことか?」
「嫌ならいいんだぞ…?」
やや悲しそうにそう言う佐伯。なんだこいつ…、こういう表情も出来んのかよ…。
「別に嫌じゃねえよ、いいのか?名前で呼んでも」
「うん!ということは僕も須山くんのこと名前で呼んでもいいってことだよな?」
「ま、まあ構わないが…。じゃあ、よろしくな?…茜」
そう初めて目の前の女子の名前を呼応すると彼女は、おそらく俺にまだ見せたことのない笑顔で、
「よろしくな!実くん!!」
…と、言うのだった。なんか新鮮な感じがして体がむず痒く、体温が妙に高くなってる気がするが…。
そう思いながら俺はこの日初めて、神様の存在を信じるのだった。
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