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19. AM 9:30
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野活がある影響で今日から2年だけ部活がオフになった。そんなこんなで俺、佐野佑は土曜の朝に爆睡をしていた。
「んー、ん?今何時だ?」
目を開けると、朝日が顔面に当たっていた。やばい、目がチカチカするぜ…。そんなプチ極限状態の俺はベットの横に充電してあったスマホの電源を入れる。
「9時…半か…。だいぶ寝たなぁ…。昨日の部活はきつかったしな…」
2年は一時期短いオフに突入するので、その一区切りの最後の練習には少しハードなものが用意されていた。なので星本先輩などと関わっている時間などなかったわけである。
「うーーーん!っし、起きるかなー」
ぐっと伸びをした俺はベットから降りようとしたが、その時手元のスマホが震えた。
「ん?連絡??」
そう呟いてスマホを覗くと、新規メールが2件来ていた。最初は業者からの連絡からだと思ったが、違うようだ。えーっと、宛先は…?
「…え?雫…?」
そういえばいつかの電話で連絡先を交換するとかなんとか言っていたような気が…?結局交換は未だにしてなかったが、そう遠くない日だった気がする。内容はなんか誤解を解くみたいな感じのものだったというのはかすかに覚えているが…。
そんなことを考えながら俺は早速メールを開こうとした。
「いやちょっと待て…」
画面に触る直前で俺はその指を止めた。スマホが震えたのはつい先程。そこで今返信をしてみろ…、きっとあいつはこう思う…。
『うわ、すぐ返信返ってきた。引くわー。いーやいーや、未読無視未読無視』
おおお、危ない危ない。今世紀最大の過ちを犯すところだったぜ。俺、よくやった!
「昨日もちょっとだけギスってたからな…。一時期よりかは遥かにマシだけど…」
1番悪い時よりもギスりたくなかった俺のこの判断は賢明とでそうだ。
「でも…」
そう言葉を置いて俺は思考する。
「連絡の要件ってなんなんだろう…?確か木曜の時はメールとかじゃなく直接放課後のダンスの練習に付き合ってくれ、だったっけな?それは昨日も言われたが…。昨日も部活があったから断ったんだよな…」
毎日誘ってくるって…。あいつは帰宅部なのかな?
「…ダンス自体は少し上達しているように感じたけどな」
木曜の時の動きと比べて、昨日の動きの方が遥かに俊敏性があったかのように思える。家で練習したんだろうか…?
「まあいいや…。とりあえず朝ごはん食べに行こっと」
返信は朝ごはんを食べてからでいいや、とそう考えた俺はスマホ片手に1階へと降りるのだった。
「あ、そういえば」
10時半を回る時計を見ていると、俺は1つのことを思い出した。
「なんかメール来てたよな。誰だったっけ…?」
つい1時間ほど前の話だった気がするが…。送り主を忘れるほどだったのかな?
そう思いながらスマホを触る。
「あそうそう、雫だったよな…。そろそろ返信してもいい頃か…」
1時間前、と表示された新規2件の届いたメールを見ながら俺はそう呟いた。
「まあ、要件も気になって来たし、開いてみるか…」
そう言って俺はそのメールを開いた。
『佐野っちー?起きてる?ちょっと要件があるんだけど』
そしてスクロールした次のメールには端的に3文字で、送られてきていた。
『今日暇?』
「…え?」
まさかの連絡の内容に俺には限りない選択肢が生まれた。それらが頭の中で駆け回る。そして1つの選択肢が頭に残った。
「…もしかして、茜のことか…?」
確かに木曜は茜の様子がおかしかった。学校には遅れて登校していたが、その後早退をしていた…。でもその後連絡をすると大丈夫、と返信が返ってきていたし、次の日は前の日のことがなかったかのように普通に俺と登校していた。流石に金曜は先輩と雫の関係について尋ねなかったが…。
「あれだけ妹のことが好きな雫だ。もしかしたら呼び出し説教なのか…?」
そう考えると次第に少しづつ背筋が寒くなっていくのを感じた。おかしいなぁ、今の時期暑くなってきているはずなんだけど…。
「ど、どうしよう…。とりあえず、返信しておくか…?なんて返せばいいんだろ…」
怖気付きながらも俺は指を動かし、とりあえず要件を尋ねることにした。
「起きてるぞ、どうしたんだ?っと…」
なぜかいつも簡単に打てるはずの文字を何度もミスしてしまったが…。ま、まあいいか。
「…あ!そーいや今日ジョギング行ってないぞ?野活中はそんなことできないからちょっと多めに走るかな」
頭の中は雫の返信のことでいっぱいいっぱいだったが、紛らわすために走ることにした。都合よく、まだ今日は走ってなかったしな。やれやれ、今日は気持ち良く走れないだろうなぁ。
そう心の中で思う俺の想いはすぐどこかに飛んでいってしまった。震えたスマホがその理由を導く。
「ん?なんだ、通知か?」
数秒前にポケットにしまったスマホを取り出す。そして電源を入れた。
「メールの返信…。って、雫!?」
え…。返信早!いやいや、自分がされたら未読無視するくせに自分は早いって…。
「あ、違うわ。これ自分が勝手に思ってた偏見だった…」
返信は来ても15分後くらいかと思ってたが、体感15秒くらいで来たぞ?ずっとスマホ見てんのかな、こいつ…。
「と、とりあえず内容は…」
雫がこれほど早く返信してくるのなら俺だって彼女くらいの返信の速度でもいいと思った俺は雫から返ってきたメールを開くのだった。
「………」
俺は今、緊張をしている。それも今までにない、経験上にない、体験をしている。
「押すか…」
そう言って俺は、『佐伯』とかかれた表札の横にあるインターホンを押した。2回ほど音が鳴り続けたあと、向こうから微かなノイズが聞こえた。
『はーい…。え、佑??』
そのインターホン越しの声に俺は聞き覚えがあった。出たのは茜だろう。
「あ、茜か?雫いるか??」
『お姉ちゃん?いるぞ!出てもらえばいいのか?』
「おお、よろしく」
そこで通話は切れた。こういうことになるといつも要件は何か問いただしてくる茜だったが、今回はすんなりと了承した。なんでだろうか…?
そう軽く思案していると、玄関のドアがガチャっと開いた。そこには俺を呼び出した人物がいた。
「あ、おはよう、さーー」
とりあえず挨拶からだと思った俺は挨拶をしようとした、だがその刹那。
「ごるぁぁぁぁっ!!!佐野お!!」
「え?なっ…」
雫が般若のような顔で俺との距離を詰めた。そして俺の目の前で指をピン、と差し、
「返信遅すぎるって佐野っち!私がどれだけ待ったか知ってるの!?」
「え、ええ…」
「連絡の要件みたでしょ!?ペアダンの練習しよって!連絡したよね?でも問題はその前の返信の遅さ!私9時半くらいに連絡して返ってきたの10時半だったよ?お陰で練習時間1時間分くらい損したじゃないのぉ!!」
「あ、すいません…。あ、あと…近いっす…」
両手を前にし、お手上げのポーズをとる。すると興奮気味の雫はその距離感に気づいたのか、
「ああごめんなさい…。あまりにイラついてまして…」
距離をとりながら謝罪してくれた。まあ、今回悪いのは俺だしな…。勝手な偏見を持って返信しなかったのが悪いか。
それはそうと雫のキャラ崩壊してませんか…?雫ってこんな一面もあるんですか?ねえ茜さん?
「いやいや、今回は俺が悪いから…」
苦笑いしながら俺はそう雫に言った。
「そ、そう…?と、とりあえず…。上がって…」
「え?家で練習すんの?ダンス…」
予想外の雫の発言に俺は驚いた。
「え?うん。逆にどこですると思ってたの?」
「いや、普通に公園とかで…」
「公園は人に見られるから嫌なの!ほら分かったなら早く上がりなさい!時間がないの!」
「はいはい…。分かりましたよ…」
今日の雫はめちゃわがままな気がする…。いつも家でこいつと過ごしてる茜は、どう対応してるのだろうか…?
というか何気に俺、女子の家に入るの初めてだぞ…?そう考えたら急に緊張してきた。いや、嘘つきました。雫にそう言われた瞬間から俺は緊張してました。
「お、おじゃましまーす」
家に入ると、廊下の先に幾つかの部屋があった。
「はいはーい、佐野っち、こっちよ」
だが雫はその部屋に行かず、目の前にある2階に続く階段を登り始めた。
「え、2階行くのか?」
「2階行くわよ?何?どうしたの?」
「あ、2階にリビングがあるタイプ?」
「いいや?2階は私と茜の部屋よ?」
そう聞いた途端、俺の階段に向かう足は止まった。
「ちょっ…待て、俺を佐伯の部屋に入れるのか!?」
「え、うん。そのつもりだけど」
「おい待て待て待て待て…」
おいマジかよ、女子の家どころか部屋に入るのかよ俺。無理無理無理無理!緊張しすぎて心臓飛び出してきそうだよ!好きな人じゃない、ただ女子の部屋ってだけですごい意識してしまう…。そして余計つっかかるのが、雫は何も意識していないような態度をとっている…。意識してるの俺だけじゃねーか…、恥ずかしい…。
「何?佐野っち緊張してるの?」
「べべべつにしてないわ!」
「してる典型的なやつじゃん…。ほら、いいから階段上がってきて」
「分かったよ…」
靴を揃えた俺は、先に階段を登り始めた雫の後をついていった。階段を登ると、左右に廊下が分かれており、その先に1つずつ部屋があった。雫は右に進路を変える。
「はい、ここが私の部屋。反対側は茜の部屋よ。くれぐれも開けないようにね」
「いやなんで佐伯が注意すんだよ…」
「だってアンタ茜の部屋に不法侵入するかもしれないでしょ?危険じゃない、茜の身に何が起こるか…」
「俺別にそんなことしねぇよ…」
呆れながら雫に俺はツッコミを入れた。そんなツッコミも雫は華麗にスルーし、ドアノブをひねる。
「…お邪魔しまーす……」
小声でそう呟いた俺の目の先には見た感じこじんまりとしていたドアとはうってかわって広い部屋があった。カーテンから少し高い位置からの日光が差し込んでいて、暑くもなく、寒くもないという感じだった。確かに、ダンスを練習するようなスペースもある。
「さて、じゃあ早速練習しましょうか」
部屋のドアを閉めて、雫はそう言った。
「お、おう…」
やっぱり女子の部屋ってなんか雰囲気違うよなー。女子だけにしかない、こう独特な感じというか…。というか、そんなことを考えているからまた変な返事になったじゃないか!でも緊張するものはしてしまう。自分のそういう経験の少なさが情けない…。
「ほら、荷物はベットの上に置いてていいから、早く私と組みなさい!」
「そんな急がなくても…」
とまあ、そんなこんなで雫とのダンスの練習が始まった。ダンスの流れは一通り先生に教わっていたので、あとはペアがどれだけ磨けるかにかかっていた。
「…!」
軽く踊って、俺は金曜にも感じた違和感を再び感じとった。木曜の時の雫と明らかに動きが違うのは明白であり、今回は金曜に踊ったダンスよりもレベルが上がっていた。自分で言うのもなんだが、俺と息がぴったりだった。
「さ、佐伯。なんかめちゃくちゃ上手くなってないか…?ミスが全くと言っていいほどないぞ?」
2人雫のベットに座り、休憩をとる。
「そう?まあ少しだけ練習したからね…」
「練習?このダンスの?」
「ええ。ちょっとだけだけど足を引っ張ってた感じあったし?私が合わせにいってあげたのよ」
「あ、そ、そうなんデスカ…」
出ました。いつものマイペース発言。
「それに私言ったでしょ?アンタにできて私にできないものなんてないって。それを今証明できたしね」
ツンツンしてるなぁ。でも、足を引っ張ってるって自覚は少しからずあったようだし、今では普通に踊れるようになった。感謝はしないといけないだろう。
「そうだな、本当に上手くなったな、ありがとう、佐伯」
そう言うと雫は、プイッと窓側へ首を背けて、
「べ、別にアンタのために練習したわけじゃないからね!?私は自分が恥をかきたくないから練習しただけであって…」
「なんじゃそりゃ…」
とりあえず、俺には感謝してくれてるのか…?相変わらず分かりづらい雫さんなのであった。
それから30分ほど軽く練習し、今日はお開きとなった。
「ふうー。疲れたねぇ、お疲れ、佐野っち」
「ああ、佐伯もな」
ふーっと、宙に息つく雫に俺はそう言葉をかけた。
ラスト30分は少し動きを極めながらやったので、下の階にいた茜が部屋に苦情に来たのはまた別のお話である。
「じゃあ、帰ろうかな…」
よっ、と少し重い腰をベットから持ち上げ、俺は言った。
「あ…うん」
すると雫の態度が急に変わったように感じた。なにやらモジモジしているように見える。なんだ?
「どうした?もしかして俺が帰るのが寂しいのか?」
ダンスなどを通じて打ち解けたと思った俺は流れでそんな冗談を言った。
「………」
あ、やっちゃった。流石にまずかったか…。
「ご、ごめん。冗談だよ冗談…。じゃあな、帰るわ」
と、そんなプチ気まずい空気が流れたので俺はそそくさとその場を後にしようとしたその刹那。
「え」
俺は服の裾を小さな力で引っ張られているのに気づいた。そちらに目をやると…。
「…もう、帰るの?」
こちらを寂しそうに見る雫の姿があった。いつもの雫のイメージとのギャップに思わずドキッとしてしまう。
「や、ま、まあそうだな…。こっちも用事あるし…」
「そっか…。じゃあ佐野っちに1つ言いたいことあるんだ」
そっぽを向きながらそう返す俺に雫は1つ間をおき、言った。
「き、今日は付き合ってくれてありがと…。短い時間だったけど、私は、まあ…。どっちかというと楽しかったです…」
「そ、そうか…」
いつもにはない、妙に正直な雫を前に、ごもる言葉しか返せない俺。体温が、鼓動が徐々に速くなっていくのを感じる…。そんな俺にさらに雫は口を開く。
「あと、私ーー」
「入るぞー、お姉ちゃん、佑、ちょっと失礼ーー」
ガチャっと、雫の言葉を遮るように、頭を掻きながら茜が突然入ってきた。そして、ベットに座りながら俺の裾を掴む雫とその横で立っている俺の状況を見て、一瞬固まり…。
「お、お邪魔いたしました…」
顔を少し赤らめながらゆっくりと退出していった。
それを見た雫は、
「また茜はノックもせずに…。しかもなんか恥ずかしい現場見られたし…」
と、こちらも顔をやや赤らめながらボソッと言った。やっぱり双子は双子だな…。
「で、さっきなんか言おうとしてなかった?」
「な、何も?忘れちゃったわ」
「なんじゃそりゃ…」
何を言おうとしていたんだ、と考えながら俺は苦笑いをする。
「ま、とりあえず帰るからな。今日はありがとう」
「え、ええ。また練習…しよう?」
「お、おお。じゃあな」
首を傾けながらそう言ってきた雫。だからいつもとのギャップがすごい…。木曜の時の雫と重なっている気がする。
こっちまで恥ずかしくなりながら俺は雫の部屋を後にするのだった。
きっとメールか何かで茜に色々聞かれるだろうなぁ…。あいつのニヤニヤする顔が脳裏に浮かんでくる午後になりかけの時刻に俺は玄関のドアを開けるのだった。
「んー、ん?今何時だ?」
目を開けると、朝日が顔面に当たっていた。やばい、目がチカチカするぜ…。そんなプチ極限状態の俺はベットの横に充電してあったスマホの電源を入れる。
「9時…半か…。だいぶ寝たなぁ…。昨日の部活はきつかったしな…」
2年は一時期短いオフに突入するので、その一区切りの最後の練習には少しハードなものが用意されていた。なので星本先輩などと関わっている時間などなかったわけである。
「うーーーん!っし、起きるかなー」
ぐっと伸びをした俺はベットから降りようとしたが、その時手元のスマホが震えた。
「ん?連絡??」
そう呟いてスマホを覗くと、新規メールが2件来ていた。最初は業者からの連絡からだと思ったが、違うようだ。えーっと、宛先は…?
「…え?雫…?」
そういえばいつかの電話で連絡先を交換するとかなんとか言っていたような気が…?結局交換は未だにしてなかったが、そう遠くない日だった気がする。内容はなんか誤解を解くみたいな感じのものだったというのはかすかに覚えているが…。
そんなことを考えながら俺は早速メールを開こうとした。
「いやちょっと待て…」
画面に触る直前で俺はその指を止めた。スマホが震えたのはつい先程。そこで今返信をしてみろ…、きっとあいつはこう思う…。
『うわ、すぐ返信返ってきた。引くわー。いーやいーや、未読無視未読無視』
おおお、危ない危ない。今世紀最大の過ちを犯すところだったぜ。俺、よくやった!
「昨日もちょっとだけギスってたからな…。一時期よりかは遥かにマシだけど…」
1番悪い時よりもギスりたくなかった俺のこの判断は賢明とでそうだ。
「でも…」
そう言葉を置いて俺は思考する。
「連絡の要件ってなんなんだろう…?確か木曜の時はメールとかじゃなく直接放課後のダンスの練習に付き合ってくれ、だったっけな?それは昨日も言われたが…。昨日も部活があったから断ったんだよな…」
毎日誘ってくるって…。あいつは帰宅部なのかな?
「…ダンス自体は少し上達しているように感じたけどな」
木曜の時の動きと比べて、昨日の動きの方が遥かに俊敏性があったかのように思える。家で練習したんだろうか…?
「まあいいや…。とりあえず朝ごはん食べに行こっと」
返信は朝ごはんを食べてからでいいや、とそう考えた俺はスマホ片手に1階へと降りるのだった。
「あ、そういえば」
10時半を回る時計を見ていると、俺は1つのことを思い出した。
「なんかメール来てたよな。誰だったっけ…?」
つい1時間ほど前の話だった気がするが…。送り主を忘れるほどだったのかな?
そう思いながらスマホを触る。
「あそうそう、雫だったよな…。そろそろ返信してもいい頃か…」
1時間前、と表示された新規2件の届いたメールを見ながら俺はそう呟いた。
「まあ、要件も気になって来たし、開いてみるか…」
そう言って俺はそのメールを開いた。
『佐野っちー?起きてる?ちょっと要件があるんだけど』
そしてスクロールした次のメールには端的に3文字で、送られてきていた。
『今日暇?』
「…え?」
まさかの連絡の内容に俺には限りない選択肢が生まれた。それらが頭の中で駆け回る。そして1つの選択肢が頭に残った。
「…もしかして、茜のことか…?」
確かに木曜は茜の様子がおかしかった。学校には遅れて登校していたが、その後早退をしていた…。でもその後連絡をすると大丈夫、と返信が返ってきていたし、次の日は前の日のことがなかったかのように普通に俺と登校していた。流石に金曜は先輩と雫の関係について尋ねなかったが…。
「あれだけ妹のことが好きな雫だ。もしかしたら呼び出し説教なのか…?」
そう考えると次第に少しづつ背筋が寒くなっていくのを感じた。おかしいなぁ、今の時期暑くなってきているはずなんだけど…。
「ど、どうしよう…。とりあえず、返信しておくか…?なんて返せばいいんだろ…」
怖気付きながらも俺は指を動かし、とりあえず要件を尋ねることにした。
「起きてるぞ、どうしたんだ?っと…」
なぜかいつも簡単に打てるはずの文字を何度もミスしてしまったが…。ま、まあいいか。
「…あ!そーいや今日ジョギング行ってないぞ?野活中はそんなことできないからちょっと多めに走るかな」
頭の中は雫の返信のことでいっぱいいっぱいだったが、紛らわすために走ることにした。都合よく、まだ今日は走ってなかったしな。やれやれ、今日は気持ち良く走れないだろうなぁ。
そう心の中で思う俺の想いはすぐどこかに飛んでいってしまった。震えたスマホがその理由を導く。
「ん?なんだ、通知か?」
数秒前にポケットにしまったスマホを取り出す。そして電源を入れた。
「メールの返信…。って、雫!?」
え…。返信早!いやいや、自分がされたら未読無視するくせに自分は早いって…。
「あ、違うわ。これ自分が勝手に思ってた偏見だった…」
返信は来ても15分後くらいかと思ってたが、体感15秒くらいで来たぞ?ずっとスマホ見てんのかな、こいつ…。
「と、とりあえず内容は…」
雫がこれほど早く返信してくるのなら俺だって彼女くらいの返信の速度でもいいと思った俺は雫から返ってきたメールを開くのだった。
「………」
俺は今、緊張をしている。それも今までにない、経験上にない、体験をしている。
「押すか…」
そう言って俺は、『佐伯』とかかれた表札の横にあるインターホンを押した。2回ほど音が鳴り続けたあと、向こうから微かなノイズが聞こえた。
『はーい…。え、佑??』
そのインターホン越しの声に俺は聞き覚えがあった。出たのは茜だろう。
「あ、茜か?雫いるか??」
『お姉ちゃん?いるぞ!出てもらえばいいのか?』
「おお、よろしく」
そこで通話は切れた。こういうことになるといつも要件は何か問いただしてくる茜だったが、今回はすんなりと了承した。なんでだろうか…?
そう軽く思案していると、玄関のドアがガチャっと開いた。そこには俺を呼び出した人物がいた。
「あ、おはよう、さーー」
とりあえず挨拶からだと思った俺は挨拶をしようとした、だがその刹那。
「ごるぁぁぁぁっ!!!佐野お!!」
「え?なっ…」
雫が般若のような顔で俺との距離を詰めた。そして俺の目の前で指をピン、と差し、
「返信遅すぎるって佐野っち!私がどれだけ待ったか知ってるの!?」
「え、ええ…」
「連絡の要件みたでしょ!?ペアダンの練習しよって!連絡したよね?でも問題はその前の返信の遅さ!私9時半くらいに連絡して返ってきたの10時半だったよ?お陰で練習時間1時間分くらい損したじゃないのぉ!!」
「あ、すいません…。あ、あと…近いっす…」
両手を前にし、お手上げのポーズをとる。すると興奮気味の雫はその距離感に気づいたのか、
「ああごめんなさい…。あまりにイラついてまして…」
距離をとりながら謝罪してくれた。まあ、今回悪いのは俺だしな…。勝手な偏見を持って返信しなかったのが悪いか。
それはそうと雫のキャラ崩壊してませんか…?雫ってこんな一面もあるんですか?ねえ茜さん?
「いやいや、今回は俺が悪いから…」
苦笑いしながら俺はそう雫に言った。
「そ、そう…?と、とりあえず…。上がって…」
「え?家で練習すんの?ダンス…」
予想外の雫の発言に俺は驚いた。
「え?うん。逆にどこですると思ってたの?」
「いや、普通に公園とかで…」
「公園は人に見られるから嫌なの!ほら分かったなら早く上がりなさい!時間がないの!」
「はいはい…。分かりましたよ…」
今日の雫はめちゃわがままな気がする…。いつも家でこいつと過ごしてる茜は、どう対応してるのだろうか…?
というか何気に俺、女子の家に入るの初めてだぞ…?そう考えたら急に緊張してきた。いや、嘘つきました。雫にそう言われた瞬間から俺は緊張してました。
「お、おじゃましまーす」
家に入ると、廊下の先に幾つかの部屋があった。
「はいはーい、佐野っち、こっちよ」
だが雫はその部屋に行かず、目の前にある2階に続く階段を登り始めた。
「え、2階行くのか?」
「2階行くわよ?何?どうしたの?」
「あ、2階にリビングがあるタイプ?」
「いいや?2階は私と茜の部屋よ?」
そう聞いた途端、俺の階段に向かう足は止まった。
「ちょっ…待て、俺を佐伯の部屋に入れるのか!?」
「え、うん。そのつもりだけど」
「おい待て待て待て待て…」
おいマジかよ、女子の家どころか部屋に入るのかよ俺。無理無理無理無理!緊張しすぎて心臓飛び出してきそうだよ!好きな人じゃない、ただ女子の部屋ってだけですごい意識してしまう…。そして余計つっかかるのが、雫は何も意識していないような態度をとっている…。意識してるの俺だけじゃねーか…、恥ずかしい…。
「何?佐野っち緊張してるの?」
「べべべつにしてないわ!」
「してる典型的なやつじゃん…。ほら、いいから階段上がってきて」
「分かったよ…」
靴を揃えた俺は、先に階段を登り始めた雫の後をついていった。階段を登ると、左右に廊下が分かれており、その先に1つずつ部屋があった。雫は右に進路を変える。
「はい、ここが私の部屋。反対側は茜の部屋よ。くれぐれも開けないようにね」
「いやなんで佐伯が注意すんだよ…」
「だってアンタ茜の部屋に不法侵入するかもしれないでしょ?危険じゃない、茜の身に何が起こるか…」
「俺別にそんなことしねぇよ…」
呆れながら雫に俺はツッコミを入れた。そんなツッコミも雫は華麗にスルーし、ドアノブをひねる。
「…お邪魔しまーす……」
小声でそう呟いた俺の目の先には見た感じこじんまりとしていたドアとはうってかわって広い部屋があった。カーテンから少し高い位置からの日光が差し込んでいて、暑くもなく、寒くもないという感じだった。確かに、ダンスを練習するようなスペースもある。
「さて、じゃあ早速練習しましょうか」
部屋のドアを閉めて、雫はそう言った。
「お、おう…」
やっぱり女子の部屋ってなんか雰囲気違うよなー。女子だけにしかない、こう独特な感じというか…。というか、そんなことを考えているからまた変な返事になったじゃないか!でも緊張するものはしてしまう。自分のそういう経験の少なさが情けない…。
「ほら、荷物はベットの上に置いてていいから、早く私と組みなさい!」
「そんな急がなくても…」
とまあ、そんなこんなで雫とのダンスの練習が始まった。ダンスの流れは一通り先生に教わっていたので、あとはペアがどれだけ磨けるかにかかっていた。
「…!」
軽く踊って、俺は金曜にも感じた違和感を再び感じとった。木曜の時の雫と明らかに動きが違うのは明白であり、今回は金曜に踊ったダンスよりもレベルが上がっていた。自分で言うのもなんだが、俺と息がぴったりだった。
「さ、佐伯。なんかめちゃくちゃ上手くなってないか…?ミスが全くと言っていいほどないぞ?」
2人雫のベットに座り、休憩をとる。
「そう?まあ少しだけ練習したからね…」
「練習?このダンスの?」
「ええ。ちょっとだけだけど足を引っ張ってた感じあったし?私が合わせにいってあげたのよ」
「あ、そ、そうなんデスカ…」
出ました。いつものマイペース発言。
「それに私言ったでしょ?アンタにできて私にできないものなんてないって。それを今証明できたしね」
ツンツンしてるなぁ。でも、足を引っ張ってるって自覚は少しからずあったようだし、今では普通に踊れるようになった。感謝はしないといけないだろう。
「そうだな、本当に上手くなったな、ありがとう、佐伯」
そう言うと雫は、プイッと窓側へ首を背けて、
「べ、別にアンタのために練習したわけじゃないからね!?私は自分が恥をかきたくないから練習しただけであって…」
「なんじゃそりゃ…」
とりあえず、俺には感謝してくれてるのか…?相変わらず分かりづらい雫さんなのであった。
それから30分ほど軽く練習し、今日はお開きとなった。
「ふうー。疲れたねぇ、お疲れ、佐野っち」
「ああ、佐伯もな」
ふーっと、宙に息つく雫に俺はそう言葉をかけた。
ラスト30分は少し動きを極めながらやったので、下の階にいた茜が部屋に苦情に来たのはまた別のお話である。
「じゃあ、帰ろうかな…」
よっ、と少し重い腰をベットから持ち上げ、俺は言った。
「あ…うん」
すると雫の態度が急に変わったように感じた。なにやらモジモジしているように見える。なんだ?
「どうした?もしかして俺が帰るのが寂しいのか?」
ダンスなどを通じて打ち解けたと思った俺は流れでそんな冗談を言った。
「………」
あ、やっちゃった。流石にまずかったか…。
「ご、ごめん。冗談だよ冗談…。じゃあな、帰るわ」
と、そんなプチ気まずい空気が流れたので俺はそそくさとその場を後にしようとしたその刹那。
「え」
俺は服の裾を小さな力で引っ張られているのに気づいた。そちらに目をやると…。
「…もう、帰るの?」
こちらを寂しそうに見る雫の姿があった。いつもの雫のイメージとのギャップに思わずドキッとしてしまう。
「や、ま、まあそうだな…。こっちも用事あるし…」
「そっか…。じゃあ佐野っちに1つ言いたいことあるんだ」
そっぽを向きながらそう返す俺に雫は1つ間をおき、言った。
「き、今日は付き合ってくれてありがと…。短い時間だったけど、私は、まあ…。どっちかというと楽しかったです…」
「そ、そうか…」
いつもにはない、妙に正直な雫を前に、ごもる言葉しか返せない俺。体温が、鼓動が徐々に速くなっていくのを感じる…。そんな俺にさらに雫は口を開く。
「あと、私ーー」
「入るぞー、お姉ちゃん、佑、ちょっと失礼ーー」
ガチャっと、雫の言葉を遮るように、頭を掻きながら茜が突然入ってきた。そして、ベットに座りながら俺の裾を掴む雫とその横で立っている俺の状況を見て、一瞬固まり…。
「お、お邪魔いたしました…」
顔を少し赤らめながらゆっくりと退出していった。
それを見た雫は、
「また茜はノックもせずに…。しかもなんか恥ずかしい現場見られたし…」
と、こちらも顔をやや赤らめながらボソッと言った。やっぱり双子は双子だな…。
「で、さっきなんか言おうとしてなかった?」
「な、何も?忘れちゃったわ」
「なんじゃそりゃ…」
何を言おうとしていたんだ、と考えながら俺は苦笑いをする。
「ま、とりあえず帰るからな。今日はありがとう」
「え、ええ。また練習…しよう?」
「お、おお。じゃあな」
首を傾けながらそう言ってきた雫。だからいつもとのギャップがすごい…。木曜の時の雫と重なっている気がする。
こっちまで恥ずかしくなりながら俺は雫の部屋を後にするのだった。
きっとメールか何かで茜に色々聞かれるだろうなぁ…。あいつのニヤニヤする顔が脳裏に浮かんでくる午後になりかけの時刻に俺は玄関のドアを開けるのだった。
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