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「…ねむ」
制服に着替えながら俺はそう呟いた。なぜか昨日はあまり眠れなかったのだ。高2でも睡眠時間4時間は短い気がする。
「佑、大丈夫か?なんか眠そうだが…?」
すると、多少心配そうに父さんが話しかけてきた。
「ああ、父さん。まあ、大丈夫さ…。多分」
目を擦りながら俺はそう返した。
「とりあえず…、行ってくる」
「おう、体調には気をつけろよー?」
父さんのそんな言葉を背に、俺は玄関のドアをゆっくりと開けた。
「あ、佑!おはよー!」
すると、いつもはいないはずの茜が自転車にまたがりながら玄関の前にいた。
「え?いつも俺の方が早いじゃねーか、どーした茜」
そう言いながら俺は自転車をだす。
「いやいや、今日は佑の方が遅いぞ?僕はいつも通りの時間に家を出たんだけど、佑の自転車がまだあったからさ。待ってたんだー僕」
「あーそーなの?」
俺はそう言って大きなあくびをした。寝れてないからいつもの時間という感覚がバグったのかな…。
「眠そうだなぁ。ほら、時間ちょっとヤバいんだから行くぞ!早く自転車にまたがれ!」
「はいはい、れっつらごー」
相変わらずのテンションだなぁと思いつつ、俺は茜と共に自転車を進めるのだった。
眠気が少しづつ無くなってきた頃、俺はこいつに尋ねることがあったのを思い出した。
「あ、そうだ茜」
「ん?どうした佑?というかまだ顔がぐでーっとしてるぞ?学校ついたら1回顔洗えよ?」
「ああすまんな…。でさ、1つお前に聞きたいことあるんだけど…」
「うん、何ー?」
俺は昨日の出来事を思い出しながら茜に尋ねた。
「星本先輩についてなんだけど…」
「ん?星本先輩?佑卓球部で一緒だろ?僕自身も前佑にいい先輩がいるみたいな感じで言ったじゃないか、そんな星本先輩がどうしたんだ?」
コクっと首を傾げながら俺にそう言った茜。星本"先輩"…?こいつと星本先輩には関わりがあったんじゃないのか…?
茜が俺に先輩のことを紹介まがいなことをした時も、確か星本"先輩"と言っていたような…?
「あ、ああ。実は昨日部活に復帰したんだよ」
多少の疑問点を抱えつつ、俺は会話を続ける。
「おおー!先輩's復活かぁ!僕の言った通り、可愛い人だっただろ??」
「まあ、そう言われてても不思議ではないほどにはな」
「何ちょっとカッコつけてんの…。まだ寝ぼけてるーー??おーーい!」
「だーもううるせえよ!起きてる、起きてるって!」
自転車に乗っているというのに、俺の頬をつんつんしてくる茜。やっぱり朝からのこのテンションはついて行けねぇよ…。
はぁ…、と小さいため息をついたあと、俺は話を続ける。
「…でな、その昨日に俺先輩から呼び出されたんだ」
「ええ!?なにそれ、自慢ー?しかも佑って先輩と昨日が初対面だよね?あれ、違ったっけ?」
「別に自慢でもないし、事実を言ってるだけだよ…。でも昨日が初対面であることはあってるな」
「ふーん。で、なんで呼び出されたのさ」
ジトーっとした目でそう尋ねてくる茜。何?めちゃ怖いんですが…。
「…そこで聞きたいことがあるんだよ茜」
「あ、今までのは建前ってこと?ここから本題?」
こくりと俺は首肯した。
「もー分かりずらいってー。佑、話の構成の仕方下手くそだぞー?僕が教えてあげよっか?」
「…何?今日は毒舌茜の日なの??」
いつも登校してる時よりも1つ1つの言葉がトゲトゲしい気がするが…。なんだろう、機嫌が悪いのかな。なんでなんだ…、女子って難しい…。
「別に?僕はいつも通りだけど?…で、聞きたいことって?」
「お、おお…。あのさ、茜と星本先輩って昔何か関わりあったか??」
茜の謎の圧に押されながらも俺は昨日から残る疑問について茜に尋ねた。
「僕とあの先輩の関わり…?いや、記憶にないけどなぁ」
「あれ、そうなのか?星本葵衣先輩だぞ?」
特に意味はないと思うが、フルネームで茜に先輩の名を再び伝えてみた。すると、まさかの意味があったようで…?
「葵衣先輩…?あおい…。ん、あおちゃん!?」
「ちょおい、危ないって!?」
あおちゃん、と言って目を見開く茜はあまりの衝撃だったのか、自転車から少しバランスを崩しかけた。それは必然的に隣を走っていた俺にも影響が及ぶわけで、自転車同士がかなり激しく当たり合う。
「…ぐっ」
なんとか、持ちこたえることができた…。危ない、こけていたらどうなっていたことか…。
「おい、危ないだろ茜。もう少しで怪我するとこだったぞ…。大丈夫か?」
「う、うん…。大丈夫、ありがとう佑。そしてごめん…。ちょっと衝撃的すぎてな…」
危機一髪すぎてさっきまであった眠気がどこかにすっ飛んでしまったかのように感じる。本当に怖かったぜ…。
「でもその反応…、やっぱり知ってたのか…?」
ゆっくりと自転車を再び走らせながら俺は茜に聞いた。
「名字だけじゃ分からなかったけど…。星本先輩って、名前"葵衣"だったんだな…。初耳でした、僕」
「あおちゃん、って言ってたな?」
「うん、小学生くらいの時に知り合ってから、中学生の時くらいまでは遊んでたかな。向こうの高校受験をきっかけに全く連絡とかとらなくなっちゃったんだけど…。中浜高校に進学していたとはなぁ…。顔とかめちゃくちゃ女子高生、って感じの顔になってたし…」
どこか感慨深そうにそう喋る茜。やっぱり昔から関わりがあったんだな。しかも小学生の時からという結構の昔から。
「…で、なんでまた急にあおちゃんについて聞いてきたんだ?部活に戻ってきて、呼び出されたってだけでこんなに聞いてこないでしょ普通。僕とあおちゃんの関係を急に探ってきたりしてさ?」
「まあ、そうだな。でもこんなことを聞いた理由としては茜自身も大体分かってるんじゃないのか?」
「質問を質問で返さないでよ…。でもなんとなく予想はつくけどさぁ」
そして茜は俺の方を見て言った。
「呼び出された時に聞かれたんだろ?僕と、あおちゃん自身のことについてさ。なんでまた急に僕のことを佑に聞いたのかはよく分からないけど…」
「うんまあ、半分正解だな。先輩には、『佐伯茜さんって知ってるかな?』みたいな感じで尋ねられたよ。で、俺に茜のことを訪ねたのは単純に、先輩自身が3年生になってから俺と茜が登校しているのを見て、茜の存在に気づいたかららしい」
「えーじゃあ佑じゃなくて僕に直接話しかけてくれたらよかったのに」
「まあそこら辺は俺の方が都合がよかったんだと」
「なるほどねぇ」
その後も茜のあおちゃん、もとい星本先輩のことについての話し合いみたいなものが続いた。途中で、茜は先輩と久し振りに話したいと言い出したが、先輩のことについて分かっているのは学年だけなのでクラスが何組だとかいうものは教えることができなかった。
ただ、茜は行動力があるから、俺が自分でリサーチしなくとも、自分で勝手に見つけ出して勝手に話しかけにいくことだろう。俺はそう思った。
気がつけば桜はほぼ散ってしまった長い一本道に出た。その話の名残で俺は茜に尋ねた。
「なあ、先輩と関わりがあったのは茜だけじゃないよな?雫とも俺的には関わりがあると思うんだが…。その小学生ら辺から3人でずっと遊んでいたのか?雫と星本先輩には昔、どのような関わりがあったんだ?」
すると少しの間の後、茜の肩が一瞬ピクッと動き、途端に茜の自転車が左に大きく傾いた。
「え、ちょまっ」
本日2度目のことに驚嘆しつつ、俺は咄嗟に左手を出し、茜の右腕を掴んだ。そして全体の重心を右に引っ張り出す。なんとか転倒は免れた。いや、何気に俺すごいな。
「おい、茜?大丈夫か、おい」
自分に感心してる場合じゃない、茜がなにか心配だ、そう思った俺はすぐさま茜に問いかけた。
「佑…」
すると、さっきまでの表情とは明らかに違う表情をした茜がそこにはいた。しかも先程俺に危機一髪、助けられたあとだというのに、感謝を伝えるような表情ではなかった。
「え?茜?あ、ごめん、腕掴んじまったから…」
「違う、違うんだ…。…ごめん佑、心配させて」
「え…?」
「ほんとになんでもないんだ…。単純に、寝不足でクラッとなっただけ!大丈夫大丈夫!」
誰から見ても作り笑顔だ、と分かるような表情をする茜。明らかに、そうではないことが見て取れる。その笑顔にはどこか悲しげな表情も汲み取れた。
そして、茜がこうなってしまったのもきっと先ほどの質問に関係しているのだろう。こうなる直前までは茜と先輩のことで話し合ってたのだから。
「でも、ごめん。俺が余計なことを…」
「大丈夫だから…。大丈夫大丈夫」
大丈夫ではない顔でそういう茜。
「…とりあえず保健室に行こう。どこかすりむいてるかもしれないし…」
大事故は防いだが、肘や膝などを擦りむいているかもしれない。そう思った俺は茜に提案した。
「いや、ケガはしてない…。あとごめん佑、ちょっと……、先に学校入っててくれるか…?」
ゆっくりとそう言った茜。その提案を断り、無理にでも保健室に連れて行こうと俺は一瞬考えたが…。
「…ああ、なんというか…。本当にごめんな。ゆっくりでいいから、校門くぐるんだぞ。先生には俺が言っておくから」
彼女の様子を見るに、何か1人でいたい気分なんだろうと、そう思った俺は茜の願いに従った。
「うん、ごめんな、ありがとう」
その言葉を聞いた俺はゆっくりと茜に背を向け、学校に自転車を進めるのだった。
"あの質問"をしてからだ。茜の様子が明らかに変化したのは。そして、原因は俺にある…。茜のあの様子の変わりようから考えるに、昔何かあったのは茜と先輩ではなくて、雫と先輩なのかな…。でも今それを茜に聞くほど俺はサイコパスではない。今の茜の体調、様子が心配な以上、彼女の助言に素直に従っていよう。先輩に聞いてみるのも手だが、昨日のあまり深くまで探ってこない様子を思い出すと、おそらく何も情報は得れないだろうなぁ。でもいつか、その事が聞ける日が来るのかな…。分からないけど…。
佑が自転車にまたがり、蛇のように長いこの一本道を抜けていく。僕はそんな彼の背中を見ながら呟く。
「なぁ佑、君は……」
"戻せる"のかな、お姉ちゃんを…。
…と。
制服に着替えながら俺はそう呟いた。なぜか昨日はあまり眠れなかったのだ。高2でも睡眠時間4時間は短い気がする。
「佑、大丈夫か?なんか眠そうだが…?」
すると、多少心配そうに父さんが話しかけてきた。
「ああ、父さん。まあ、大丈夫さ…。多分」
目を擦りながら俺はそう返した。
「とりあえず…、行ってくる」
「おう、体調には気をつけろよー?」
父さんのそんな言葉を背に、俺は玄関のドアをゆっくりと開けた。
「あ、佑!おはよー!」
すると、いつもはいないはずの茜が自転車にまたがりながら玄関の前にいた。
「え?いつも俺の方が早いじゃねーか、どーした茜」
そう言いながら俺は自転車をだす。
「いやいや、今日は佑の方が遅いぞ?僕はいつも通りの時間に家を出たんだけど、佑の自転車がまだあったからさ。待ってたんだー僕」
「あーそーなの?」
俺はそう言って大きなあくびをした。寝れてないからいつもの時間という感覚がバグったのかな…。
「眠そうだなぁ。ほら、時間ちょっとヤバいんだから行くぞ!早く自転車にまたがれ!」
「はいはい、れっつらごー」
相変わらずのテンションだなぁと思いつつ、俺は茜と共に自転車を進めるのだった。
眠気が少しづつ無くなってきた頃、俺はこいつに尋ねることがあったのを思い出した。
「あ、そうだ茜」
「ん?どうした佑?というかまだ顔がぐでーっとしてるぞ?学校ついたら1回顔洗えよ?」
「ああすまんな…。でさ、1つお前に聞きたいことあるんだけど…」
「うん、何ー?」
俺は昨日の出来事を思い出しながら茜に尋ねた。
「星本先輩についてなんだけど…」
「ん?星本先輩?佑卓球部で一緒だろ?僕自身も前佑にいい先輩がいるみたいな感じで言ったじゃないか、そんな星本先輩がどうしたんだ?」
コクっと首を傾げながら俺にそう言った茜。星本"先輩"…?こいつと星本先輩には関わりがあったんじゃないのか…?
茜が俺に先輩のことを紹介まがいなことをした時も、確か星本"先輩"と言っていたような…?
「あ、ああ。実は昨日部活に復帰したんだよ」
多少の疑問点を抱えつつ、俺は会話を続ける。
「おおー!先輩's復活かぁ!僕の言った通り、可愛い人だっただろ??」
「まあ、そう言われてても不思議ではないほどにはな」
「何ちょっとカッコつけてんの…。まだ寝ぼけてるーー??おーーい!」
「だーもううるせえよ!起きてる、起きてるって!」
自転車に乗っているというのに、俺の頬をつんつんしてくる茜。やっぱり朝からのこのテンションはついて行けねぇよ…。
はぁ…、と小さいため息をついたあと、俺は話を続ける。
「…でな、その昨日に俺先輩から呼び出されたんだ」
「ええ!?なにそれ、自慢ー?しかも佑って先輩と昨日が初対面だよね?あれ、違ったっけ?」
「別に自慢でもないし、事実を言ってるだけだよ…。でも昨日が初対面であることはあってるな」
「ふーん。で、なんで呼び出されたのさ」
ジトーっとした目でそう尋ねてくる茜。何?めちゃ怖いんですが…。
「…そこで聞きたいことがあるんだよ茜」
「あ、今までのは建前ってこと?ここから本題?」
こくりと俺は首肯した。
「もー分かりずらいってー。佑、話の構成の仕方下手くそだぞー?僕が教えてあげよっか?」
「…何?今日は毒舌茜の日なの??」
いつも登校してる時よりも1つ1つの言葉がトゲトゲしい気がするが…。なんだろう、機嫌が悪いのかな。なんでなんだ…、女子って難しい…。
「別に?僕はいつも通りだけど?…で、聞きたいことって?」
「お、おお…。あのさ、茜と星本先輩って昔何か関わりあったか??」
茜の謎の圧に押されながらも俺は昨日から残る疑問について茜に尋ねた。
「僕とあの先輩の関わり…?いや、記憶にないけどなぁ」
「あれ、そうなのか?星本葵衣先輩だぞ?」
特に意味はないと思うが、フルネームで茜に先輩の名を再び伝えてみた。すると、まさかの意味があったようで…?
「葵衣先輩…?あおい…。ん、あおちゃん!?」
「ちょおい、危ないって!?」
あおちゃん、と言って目を見開く茜はあまりの衝撃だったのか、自転車から少しバランスを崩しかけた。それは必然的に隣を走っていた俺にも影響が及ぶわけで、自転車同士がかなり激しく当たり合う。
「…ぐっ」
なんとか、持ちこたえることができた…。危ない、こけていたらどうなっていたことか…。
「おい、危ないだろ茜。もう少しで怪我するとこだったぞ…。大丈夫か?」
「う、うん…。大丈夫、ありがとう佑。そしてごめん…。ちょっと衝撃的すぎてな…」
危機一髪すぎてさっきまであった眠気がどこかにすっ飛んでしまったかのように感じる。本当に怖かったぜ…。
「でもその反応…、やっぱり知ってたのか…?」
ゆっくりと自転車を再び走らせながら俺は茜に聞いた。
「名字だけじゃ分からなかったけど…。星本先輩って、名前"葵衣"だったんだな…。初耳でした、僕」
「あおちゃん、って言ってたな?」
「うん、小学生くらいの時に知り合ってから、中学生の時くらいまでは遊んでたかな。向こうの高校受験をきっかけに全く連絡とかとらなくなっちゃったんだけど…。中浜高校に進学していたとはなぁ…。顔とかめちゃくちゃ女子高生、って感じの顔になってたし…」
どこか感慨深そうにそう喋る茜。やっぱり昔から関わりがあったんだな。しかも小学生の時からという結構の昔から。
「…で、なんでまた急にあおちゃんについて聞いてきたんだ?部活に戻ってきて、呼び出されたってだけでこんなに聞いてこないでしょ普通。僕とあおちゃんの関係を急に探ってきたりしてさ?」
「まあ、そうだな。でもこんなことを聞いた理由としては茜自身も大体分かってるんじゃないのか?」
「質問を質問で返さないでよ…。でもなんとなく予想はつくけどさぁ」
そして茜は俺の方を見て言った。
「呼び出された時に聞かれたんだろ?僕と、あおちゃん自身のことについてさ。なんでまた急に僕のことを佑に聞いたのかはよく分からないけど…」
「うんまあ、半分正解だな。先輩には、『佐伯茜さんって知ってるかな?』みたいな感じで尋ねられたよ。で、俺に茜のことを訪ねたのは単純に、先輩自身が3年生になってから俺と茜が登校しているのを見て、茜の存在に気づいたかららしい」
「えーじゃあ佑じゃなくて僕に直接話しかけてくれたらよかったのに」
「まあそこら辺は俺の方が都合がよかったんだと」
「なるほどねぇ」
その後も茜のあおちゃん、もとい星本先輩のことについての話し合いみたいなものが続いた。途中で、茜は先輩と久し振りに話したいと言い出したが、先輩のことについて分かっているのは学年だけなのでクラスが何組だとかいうものは教えることができなかった。
ただ、茜は行動力があるから、俺が自分でリサーチしなくとも、自分で勝手に見つけ出して勝手に話しかけにいくことだろう。俺はそう思った。
気がつけば桜はほぼ散ってしまった長い一本道に出た。その話の名残で俺は茜に尋ねた。
「なあ、先輩と関わりがあったのは茜だけじゃないよな?雫とも俺的には関わりがあると思うんだが…。その小学生ら辺から3人でずっと遊んでいたのか?雫と星本先輩には昔、どのような関わりがあったんだ?」
すると少しの間の後、茜の肩が一瞬ピクッと動き、途端に茜の自転車が左に大きく傾いた。
「え、ちょまっ」
本日2度目のことに驚嘆しつつ、俺は咄嗟に左手を出し、茜の右腕を掴んだ。そして全体の重心を右に引っ張り出す。なんとか転倒は免れた。いや、何気に俺すごいな。
「おい、茜?大丈夫か、おい」
自分に感心してる場合じゃない、茜がなにか心配だ、そう思った俺はすぐさま茜に問いかけた。
「佑…」
すると、さっきまでの表情とは明らかに違う表情をした茜がそこにはいた。しかも先程俺に危機一髪、助けられたあとだというのに、感謝を伝えるような表情ではなかった。
「え?茜?あ、ごめん、腕掴んじまったから…」
「違う、違うんだ…。…ごめん佑、心配させて」
「え…?」
「ほんとになんでもないんだ…。単純に、寝不足でクラッとなっただけ!大丈夫大丈夫!」
誰から見ても作り笑顔だ、と分かるような表情をする茜。明らかに、そうではないことが見て取れる。その笑顔にはどこか悲しげな表情も汲み取れた。
そして、茜がこうなってしまったのもきっと先ほどの質問に関係しているのだろう。こうなる直前までは茜と先輩のことで話し合ってたのだから。
「でも、ごめん。俺が余計なことを…」
「大丈夫だから…。大丈夫大丈夫」
大丈夫ではない顔でそういう茜。
「…とりあえず保健室に行こう。どこかすりむいてるかもしれないし…」
大事故は防いだが、肘や膝などを擦りむいているかもしれない。そう思った俺は茜に提案した。
「いや、ケガはしてない…。あとごめん佑、ちょっと……、先に学校入っててくれるか…?」
ゆっくりとそう言った茜。その提案を断り、無理にでも保健室に連れて行こうと俺は一瞬考えたが…。
「…ああ、なんというか…。本当にごめんな。ゆっくりでいいから、校門くぐるんだぞ。先生には俺が言っておくから」
彼女の様子を見るに、何か1人でいたい気分なんだろうと、そう思った俺は茜の願いに従った。
「うん、ごめんな、ありがとう」
その言葉を聞いた俺はゆっくりと茜に背を向け、学校に自転車を進めるのだった。
"あの質問"をしてからだ。茜の様子が明らかに変化したのは。そして、原因は俺にある…。茜のあの様子の変わりようから考えるに、昔何かあったのは茜と先輩ではなくて、雫と先輩なのかな…。でも今それを茜に聞くほど俺はサイコパスではない。今の茜の体調、様子が心配な以上、彼女の助言に素直に従っていよう。先輩に聞いてみるのも手だが、昨日のあまり深くまで探ってこない様子を思い出すと、おそらく何も情報は得れないだろうなぁ。でもいつか、その事が聞ける日が来るのかな…。分からないけど…。
佑が自転車にまたがり、蛇のように長いこの一本道を抜けていく。僕はそんな彼の背中を見ながら呟く。
「なぁ佑、君は……」
"戻せる"のかな、お姉ちゃんを…。
…と。
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