これからの僕の非日常な生活

喜望の岬

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13. 関係の変化

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 5月上旬の最近、少しずつ暑く感じるようになってきた。俺自身、もう半袖でもいいんじゃないかと思うほどだ。太陽はなかなか地平線に潜らないし、また暑い夏がやってくるのかと思うとうんざりする。
 さて、只今の時刻は6時手前。先程家に入る前に茜に6時になったら俺の方に電話をするように言った。
 まあ…何で電話をするとか向こうからかけてくるのかとかは俺自身に聞いたら分かるのだが………。
「ああもう……、これって俺が悪いのかよ……!?」
 今日の事柄を思い出しながら俺はベットの上で嘆いた。部屋の窓を開けてもなお、夕方の空気は暑く感じるが、正直電話の件でそれどころでは無い。
「な、何を話せば良いんだ……?というか……」
 俺は茜と約束をした後、自分の部屋に入ってから一つ気づいたことがある。
「…。向こうから電話がかかってくる分にはいい。だけど、茜から雫に電話を変わる際、俺って知った途端に電話を切られたら意味ないぞ……」
 そうだ。もしこういうようなことが起きてしまったら、謝罪どころか余計に俺と雫の間の関係が悪化というか、気まずくなっていくのが目に見える。そして、こういうことになるという可能性が1番高いというのも事実だ。
「うーん……。でもとりあえずは待つしか無いよな…」
 まだ沈む様子もない太陽の光が差し込むこの狭い部屋で、俺は6時になるのをじっと待っていた。
 そして、数分後……。
「あ、きた!」
 手に持つスマホが震えた。おそらく、電話だ。確認しなくとも誰からかかってきたのかは分かる。時計の針は6時を少し過ぎていた。
「よし、出るか…」
 出ている画面を右にスライドし、3回目のコールが終わる頃にその電話に出た。そして、忘れずに電話をかけてきてくれた、そいつから喋り始めた。
『も、もしもし?佑?えっと……、今でよかったんだよな??』
「ああ、ありがとうな茜。雫は今いるか??」
『いるぞ、でも電話のことは伝えてないから、ワンチャン出ないかも……』
 まあ、そうだよな……。と、俺は心の中でそう思った。でも、俺が謝るしかないんだ。
 少しだけあたりが暗くなってきた外を窓から見ながら俺は茜に言う。
「そうだよな……。でも、一応声かけてみてくれないか?雫にはこの電話のこと言ってないんだろ?」
『そうだな、佑もさっき言ってたと思うけどそれじゃ最初から出ないと思うし…』
「だよな、んーまあとりあえず雫を呼んでもらえるか?正直ちょっと怖いが……」
 そして俺は雫に代わってもらえるよう茜に促した。電話に出てもらえるかは分からないが、出てくれたなら必死の弁明をしよう。
『OK!ちょっと待っててな』
「おう」
 と、ここで向こうのかすかに聞こえていたテレビ音やノイズ音が聞こえなくなった。恐らく、茜のスマホのミュートを切り、雫のところに持っていってくれてるのだろう。
 俺は一度スマホを耳から離し、一呼吸置いた。そして数十秒後……。
『……もしもし』
 茜とは違う少しだけ低い声。間違いない、雫の声だ。少しぶっきらぼうなそんな声が聞こえた。
「も、もしもし」
 何動揺してんだ俺!平常心、平常心……。
「とりあえずありがとな、電話にまず出てくれて」
『…別に。後から茜に事情聞いたら私の方が悪いって分かったしね』
 やべぇ、そういえば電話越しとはいえ、まともに雫と会話したの初めてだぞ……?今までは本当にまともに取り繕ってくれなかったからな……。
『んで、話って??茜からあんたから話があるって言われて、変わったんだけど……』
「ああ、そーだな。話ってのは……」
 と、ひと段落置いて、俺は今回の件を謝り始める。
「まあ今日な、なんだ…、体育の時……。その、すまんかった」
 するとはぁ…と向こうから一つのため息が聞こえた後、する声がひとつ。
『あのねぇ……。さっきも言ったけど、あれは悪いの私なの。あんたは悪くないわ』
「し……雫」
 俺は雫の人間性に少し感銘を受けた。第一印象はとにかくとっつきにくく、言うなれば茜とはほぼ真逆の性格、と言ってもいいくらい。でも少なくとも今は少しだけ、こいつのことを……。
『あー、あと言い忘れたけど、名前で呼ばないで』
 前言撤回。やっぱりまだこいつのことは好きにはなれないみたいだ。上げて落とすタイプだなこいつ…。
「えぇ…。じゃあなんだ?佐伯って呼べばいいのか?茜とごっちゃにならないか?」
『あんた茜のことは茜って呼んでるじゃない。なら、私のことを佐伯って呼んでも区別はできるでしょ』
 つらつらと、そんな正論を俺に述べてきた雫。まあ、そんなに言うならこれからは苗字呼びだな…。
『ま、私のことを名前で呼んでる人自体少ないから、苗字呼びの方が自然だと思っただけよ。安心して、私はあんたのこと佐野って呼ぶようにするから』
 と、言うことで雫の提案でお互い苗字呼びになることになった。うーん、なんかちょっと距離が空いた感じでちょっとだけ悲しいな…。ま、しょーがないか。
「りょ、了解」
 そう俺はつまりつまった返事をした。 
「ま、まあとりあえず体育の件はすまんかったな」
『いいわよ……。あ、あとそれと』
「ん?」
 するとその時、雫が何かを思い出したような声を出した。
『あのー、私たちって一応野活のペアダンじゃない?だから連絡とか練習する時とか連絡がいると思うの』
「ほ、ほう」
『まあそういうことで、茜にあんたの連絡先、貰っておくわね。じゃあ今日はこの辺で、佐野っち』
「え?さっき何ーー」
 と、ここで電話は切れた。まずいくつか整理したいことがある。
「連絡先を交換??だと?あとなんだ"佐野っち"って……」
 先ほどまでは佐野と呼ぶと言っていた雫だったが、電話を切る際、佐野っちと、いわばあだ名のようなもので呼ばれた。俺自身もちろんだがそう呼んでくれと頼んだ覚えはない。じ、じゃあなぜだ?
「……」
 あと、なぜあそこまで嫌われている様子だったのに連絡先は交換するんだ?
「あー!!!もう、わっかんねえ!」
 頭をくしゃくしゃっとかきむしりながら俺は先程の雫の言動、そして行動についてあれやこれや考えるのだった。…まあとりあえず、許してもらえたってことでよかったのかな……。でもやっぱりよく分からないや、佐伯雫って少女のことは…。

    

「はい茜、返しに来たわよ」
 リビングのソファーでぐでーーっとしていると、お姉ちゃんが僕にスマホを返しに来ていた。
「ああ、ありがとう。…うまく和解できた?」
「ええ、当たり前じゃない。私よ?」
 そういつものような態度をとるお姉ちゃんに対して、私はニヤッとしながら言った。
「そうだねぇ、楽しかったんじゃないか??」
「…別にあいつとの会話なんて楽しくはなかったけどね??…でまあ、そこで一つ茜に頼みたいことがあるのよ」
 と、ギリギリその真顔(?)を保ちながらお姉ちゃんは僕にそう言った。
「あー、連絡先だろ?」
「……!?!?!?!?」
 僕がそう言った瞬間、お姉ちゃんは隠し切れないほど動揺していた。
「なななななななななんで知ってるの?え、聞いてたの?」
「動揺しすぎだろお姉ちゃん……。てゆーか、元々そのことについて相談する気でいたんなら、その反応になるのもちょっとおかしいと思うぞ……?」
 もう真顔を隠し切れないほど動揺、顔が赤くなっていくお姉ちゃん。
「ま、まあそうね…」
「あと何?苗字呼びにしたくせに佐野っちって……」
「い、いやそれは……。ほら、佐野っちがそう言えって」
「嘘つきなよーー。最後自分で呼んでただろ」
「うぐっ……」
 正論をかまされて何も言い返せなくなったお姉ちゃん。なんだろう…、お姉ちゃんをイジるの面白いな。
「んーまあ、仲直りできたみたいでよかった」
 僕は軽く微笑みながらお姉ちゃんにそう言った。
「ま、まあようやく私と対等になったってところかしらね」
「はいはい、じゃあ晩御飯にするぞ~」
「ちょ、ちょっと、流さないでよ!あ、あと連絡先とかも送っといてよーー??」
 お姉ちゃんのそんな言葉を背に僕は台所へ向かった。…でも対等と言うよりかはむしろ関係は良くなってるんじゃないか??
 …さっきの連絡先欲しがってる時もあれだったし…。そして何より電話してる時のお姉ちゃんの顔、僕と話してる時くらい笑顔だったような…?
「素直になったらいいのに……もうっ」
 と、少し辺りが暗くなってきた外をふと見ながら、自分自身にか聞こえないようなそんな声で僕は小さく軽く、愚痴るのだった。
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