これからの僕の非日常な生活

喜望の岬

文字の大きさ
上 下
12 / 81

11. 沈黙

しおりを挟む
 体育館シューズを持って、俺と棚橋はその場にやってきた。言わなくてもわかると思うが、体育館だ。
「そういえば、棚橋ってペア誰とだったんだ?」
 シューズに履き替えながら俺は棚橋に聞いた。
「俺か?田坂(たさか)や」
「その言い方からするに、知ってるやつなのか?」
「おお、1年の時クラス一緒でよく喋ってたわ。喋れるやつが少ない1年の時の、数少ない友人的な存在のやつやな」 
「すげー語るなお前…」
 よっぽど、嬉しい存在だったのだろうと俺は心の中で思った。
「なら、もう好きな人なんじゃねーの!?」
 6限目が始まる前の教室で言われたことのお返しのようにすごくわざとらしい口調で棚橋にそう言った。
 すると、棚橋は軽く微笑して
「いや、あいつはそういうんやないんよなぁ」
 と、頭を掻きながら言った。
「そーなのか。いわゆる、男女同士の友情みたいなやつか」
「そうそう!あいつと俺はそんな感じや!」
「ほぅ、恋愛には絶対派生しないと??」
「せや!俺とあいつはそんな関係や!」
 バーン!という効果音が似合いそうな勢いで棚橋はそう言った。
「んーでもよ、その田坂って人から告られたらどーするよ」
 俺がそう問うと、一瞬棚橋は固まって…。
「あ、アホかお前!そんなことなるわけないやろ!」
「一瞬考えたよね?男女の友情の先に行こうとしてたよね棚橋くん??」
 わかりやすい奴だなぁと、俺は心中思った。
 さて、そんなことがあった数分後、6時限目の体育の授業が始まった。今日の昼休み、教室に入ってきた先生からは自分のクラスの担任からダンスの曲を発表すると聞いたが、俺たちの授業を担当する体育の先生が曲などの詳細を発表した。
 そして、それからまずは個人ダンスからするらしく、全体で広がって練習をした。先生曰く、個人ダンスは本当に少ししかせず、フォークダンス(通称ペアダン)の割合の方が多いらしい。
「ここは…、こんな感じで、こうか」
 俺にしか聞こえないような声量でボソボソ言いながら自分のダンスを磨いていく。すると、授業開始から約20分。個人ダンスが終わってしまった。いやマジか。そんなすぐにこれって終わるもんなの??
「なんか、本当にすぐだったな…」
 本当にこれだけなんだろうか、と思いながら先生の指示を待っていると
「えー、今日は個人ダンスはここまでだ。明日以降、またカテゴリーごとに分けていくので、今日したものを忘れないようにな。それではメインのペアダンの練習に移ろうか」
 と、先生が説明をした。授業残り時間は…っと、
「…あと25分か…」
 まあ、今日は初日だし軽く確かめる程度で終わるんだろうか。と、俺が考えていると、
「あー、この学校、そしてこの学年はなんせ人数が多いから、名前だけ言われても分からないよな。よし、俺が誰と誰がペアなのか呼ぶから、呼ばれた人は呼んだ方に集まってくれ」
 おお、今からペアダンが始まるのね。と、俺は心中思った。そして先生が名前を呼んでいく。すごい、本当に男女なんだな…。
 ただ単にダンスのペアだけだというのに、俺の目には、カップルが何組も座っているなかなかにカオスな現場に見えてきた。いやいや!失礼だろ俺!!自分の恋愛経験の少なさに改めて痛感するぜ…。
「えー、そして3組の佐川と4組の佐伯」
 おっ、茜が呼ばれたってことは俺が次だな。それにしてもあの佐川ってやつ…。普通にかっこいいぞ。いいなぁ、俺もああいう風に産まれたかった。
 見ると、茜が3組の方に移動していた。なので、俺が呼ばれた時もあっちに移動すればいいだろう。
「で、次が…。3組の佐伯と…って…ああ、双子なのかびっくりした」
 何やら1人でボソボソ言っている体育教師。大丈夫か?あんた去年の1年間こいつら見てきたんだろ?まあ、俺はいなかったから見てたのかは知らんが…。
「…と、4組の佐野だな」
 名前を呼ばれた俺は立ち上がり雫の元へと行った。
まあ正直顔は知ってるので別に名前は呼ばれなくても分かったんだが…。別にいいか。
 そして俺は雫の隣へと腰を下ろした。
 それから数分後、最後のやつの名前が呼ばれ、この体育館にはあまりなしできれいに男女ペアが振り分けられた。
 自分の名を呼ばれ、座った後周りをキョロキョロしてみたが、喋ってるやつもいれば喋らずにただ無言のペアもいた。ちなみに、前にいる茜と佐川ってやつは初対面のはずなのにすごく楽しそうに会話を弾ませていた。茜は俺的にコミュ力はある方だとは思うが、恐らく隣で喋っているこいつもコミュ力はすごいんだろう。初対面だとは思えないほどに仲良くなってるように見える。
 一方の俺はというと……。
「……………」
「……………」
 THE・沈黙である。ヤベェ、周りがちょっとザワザワしてるからまだマシだが普通に気まずいぞこれ…。改めてコミュ力ない人間だなぁ…と自分自身で思った。
 そして、先生から指示が入った。まあ、指示ってよりはちょっと声の大きい独り言みたいに俺は捉えたが…。
「うーん、ちょっともたついたなぁ。あと20分かぁ。体育は5分前に終わらないと行けないから…。あと15だな。でも15分じゃ何もできないしなぁ…」
 腕を組みながら先生は悩んでいた。お、もしかしてこのままダンスは終了、ただの自由時間になるか!?
 しかし先生はそんな俺の期待とは程遠い答えを出した。
「よし、今いるペアとは初対面とかのやつも多いだろ。これからって言ってもあと1週間しかないが、とりあえずそのペアと話す時間にしようか!」
「へ?」
 そんな言葉に俺は思わず素っ頓狂な声が出た。マジで言うてんのか先公。陰キャが1番困る選択肢選ぶなやぁ…。こんなめちゃ喋りにくいやつと15分間話せだと…!やばい未来しか見えん…。
 と、俺が心の中で愚痴?をこぼしていると、周りが少しずつザワザワし始めた。前にいる茜も先ほどの会話の続きであろうことを話し始めていた。
 どうする…。どうする佐野佑!
 でも、話さないと埒が明かないし…。茜にも仲良くする様に言われたし…。向こうからも来ないし…。
 ええい、このまま終わったらなんか嫌だ!話しかけるぞ!
「な、なぁ雫…」
 視線をゆっくりと左に移しながら俺は雫に話しかけた。が、返答はない。……あれ、おかしいな。いくら周りがガヤガヤしてるからって、少なくとも隣にいる雫には聞こえる声で話しかけたんだけどな。
「おい、雫??」
 もう一度話しかける。しかし返答はない。なんでだ?俺、もしかしたらそんなに嫌われてた!?……確かにずっと辛辣な態度を俺にとってたもんなぁ…!
 と、俺が心の中で少し焦っていると、急に左腕に感触があった。……なんだ??これは。
「…………」 
 相変わらず雫は黙ったままだ。でも感触があった左腕を見ると……。腕を組まれてた。

 ………腕を組まれてた!?!?!?!?!?

「えっちょおい雫?????」
 なんでなんでだ??と、思いながら三度雫に話しかける。すると、三度目にして俺の声が聞こえたのかは知らないが、雫が何やらもごもご言っている。な、なんだ??
「?????」
 少し雫との距離を詰める。すると、聞こえた。
「ん~。茜ぇぇ。だいしゅきぃぃぃぃぃ……」
 とてつもなく甘い声で、そしてその瞬間俺は理解した。
「あ、寝てんだこれ……。んで寝ぼけてんだ……。確かにちょうどいい温度だけどさ今…」
 寝てるというよりも居眠りしている雫。俺は…どうすればいいんだ…?
「ど、どうしよう…」
 というか、こいつっていつも茜といる時ってこんな感じなのか??俺の時との態度が全然、もう雲泥の差と言っていいほど違うんだが…。
「う、うーん。でも今は話し合う時間だし……。雫には気の毒だが、起こすしかないよな…」 
 最終的に起こすという決断に定まった俺は、未だ腕に捕まっている雫の腕を軽くゆさゆさと揺らした。
「んん~~。ん??」
 ここでようやく気づいた様子を見せた雫。俺は少しホッとした。
「よう、なんかめっちゃ寝てたなお前」
「んゆ?………!!!」
 その瞬間、雫は自分が俺の腕に捕まっているということに気づき……?
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
 と、ものすごい悲鳴とともに俺から離れた。
 その声は体育館中を網羅し、その体育館は一瞬にして静まり返った。
「お、おぃぃ、うるせえよお前…」
 周りの視線が痛い。まるで俺が何かしたみたいじゃないか…。
「あ、あんた。寝てた私の体に何触れてんのよ!最低!!変態!!このクズ男!!」
 顔を真っ赤にしながらそう俺に訴えかけてくる雫。
「えぇ……。触れてきたんお前やん……」
 周りが少しずつザワついてきた。やばい、みんな俺が何かしたと思い込んでるぞ…。
 そ、そうだ、茜、茜ならいつも雫といるし、この状況、わかってもらえるよな???
 そう期待をしながら視線を前に向けると
「……………」
 ゴミを見るような目で見られた。
「茜ェェェェェェ!?!?」
「名前を呼ばないで、変態」
 目に光が入ってなかった茜は淡々と俺にそう告げた。
 なんだろう、高校に入学してからマジで黒歴史しか誕生してない気がする。というかそこまで拒否られると流石にちょっとは傷つくんだが…雫。
 と、そんな事件が起きてしまったので、残り15分間、俺と雫は一言も喋ることができないのだった。
 完全に周りに誤解を生んでしまった…。あとで説得しないと…。特に茜だよな…………。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件

マサタカ
青春
 俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。 あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。   そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。 「久しぶりですね、兄さん」 義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。  ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。 「矯正します」 「それがなにか関係あります? 今のあなたと」  冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。    今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人? ノベルアッププラスでも公開。

執事👨一人声劇台本

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
執事台本を今まで書いた事がなかったのですが、機会があって書いてみました。 一作だけではなく、これから色々書いてみようと思います。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

浦島子(うらしまこ)

wawabubu
青春
大阪の淀川べりで、女の人が暴漢に襲われそうになっていることを助けたことから、いい関係に。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...