これからの僕の非日常な生活

喜望の岬

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9. ペア

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「そういえばさ」
 昼休み、机で本を読んでいると、前の席に座っていた茜が俺に話しかけてきた。
「おお、どうした?」
 本に栞を挟み、俺はそう聞き返した。
「あのー、ちょっと前に野外活動に行くことが決まっただろ?ほら、朝のHRにあったやつ」
「ほうほう、あったな。なんだかんだ言って野外活動まで後約1週間だな。早いもんだ」
 黒板の右側に書かれている日付を見て、俺はそう言った。
「だよねー、で、その野外活動のことなんだけどさ」 
「おお」
「あのー、キャンプファイヤーの周りを男女ペアで踊るフォークダンスってあっただろ?あのペアとかまだ発表されてなかったよな?」
 ああ確かに。と、心の中で思った。野外活動の報告があったのは多分2、3日くらい前。だから、まだちょっとペアを決めきれていないんだろうか…?
「うーん、流石にそろそろ発表とかしてもいいよな?」
「うん、僕は誰となるのかドキドキだよぉ…。喋りやすい人ならいいけどね…」
 少し心配気に茜はそうつぶやいた。
「へぇ、珍しい。お前がそういうのに不安だとか」
「いやいや、僕だってそりゃ不安になるよ!3組の男子とかほぼ知らないし…。喋れる男子、佑と棚橋くんくらいだし…」
 不安になることに意外性を感じ、喋れる男子が俺と棚橋の2人だけというのにも意外性を感じた。 
 …驚いてばっかりだ。
「ふーん、そーなんだねぇ」
 と、俺が相槌を打った刹那、ドアがガラッと開いた。
「あー、昼休み中だが、前言ってた野外活動のフォークダンスのペアが決まったので、前に張り出しておく。ここにいない人とかにも見るように言っておいてな。あーあと、曲とかは担任の先生に聞いてくれ。そして、ダンスは体育の時間とかに何回か練習として取り扱うが、時間がある人は各自練習しておいてくれ」
 入ってきた先生はそう言い、前の黒板に何やら表みたいなものを貼った。そして、先生はすぐに出て行った。
「い、今ちょうど話してたばっかりだからびっくりした…」
「確かに……。とりあえず茜、見にいこうぜ」
 既に何人かがその表を見ている中、ちょっと後ろの方から俺と茜はその表を確認する。
「えーっと俺はっと……」
 上から順に見て行く、まあ正直知ってる人ではないからどーだっていーんだけど……
「お、あった……。って、ん!?!?」
「ん?佑、どーしたんだ?」
 少しの異変を感じた茜が俺に尋ねる。
「茜、お前誰とだった?」
 とりあえずこれとは関係はないが、茜のペアを聞いておく。
「僕?えーっとね、佐川智則(さがわとものり)って人。まあ当然ながら知らないです」
 茜と同じ知らない人ならどれほどよかったことか……。と、心の中で思う。
「で、佑は誰とだったんだ?」
「お、俺は…」
 と、俺は自分の名前のところを指差しながら言った。
「し、雫とだ…」
「えぇーっ!佑、お姉ちゃんとペアになったのか!?」 
 そう、俺のペアは雫だった。そういえば、こいつらの名字って『佐伯』で、ちょっと前に茜が言っていた。雫は3組だったって。すっかり忘れてたー!
「だ、大丈夫かな…」
 急にとてつもない不安に駆られて行く俺。やばい未来しか見えないぞ……。
「ま、まあ大丈夫だろ!なんとかなるなる!」
「お前楽観的だなぁ…」
 人の苦労ってもんを知らないのかよ…。
「でもさ、さっき先生言ってたぞ?各自練習してろって。体育に何回か練習する機会はあるかもしれないけど、各自ってなると家とか近い方が有利だぞ?だから、家が隣の佑はお姉ちゃんといつでも練習できるって訳じゃん?これが、お姉ちゃんと組んだことによっておきる、メリットなんじゃないか!?」
 意気揚々と説明した茜。まあ、確かにいつでもは練習できる。そう考えた俺は席に戻る。茜もつられて席に戻った。
「でも、放課後とかは無理なんだよなぁ」
「あー、部活ってこと?」
 茜の質問に俺は首を縦に振った。
「そうそう」
 学校が始まってから1週間程度で部活動などほぼみんな決まっていった。俺は茜にも言ったと思うが、卓球部に入った。
「で、どうなんだ?卓球部は」
「いや、普通に楽しいぞ。軽く喋れる奴も出来たし、先輩とかも優しいし」
 と言った時、茜はあからさまにニヤっとして言った。
「あー、星本先輩だな!あの先輩のこと言ってんだろ佑~‼︎」 
「いやぁそれがな?」
 ニヤニヤする茜と対照的に、結構真面目な顔をしていたであろう俺は茜に説明する。
「なんかよくわからないけど、部活にはきてないんだよな。そもそもとして学校に来てるのかもわからないんだが…」
「あ、そーなのか?あれは?見学とかは?」
「いや、見学にも来てないな。…どんな人なんだろうな…」
 俺はその先輩に会ったことがない。卓球部に入った時の挨拶とかにも星本先輩という人はいなかった。同じ卓球部の3年の先輩が言うには部長らしいんだが…。
「あのね、すっごい美人だぞ!」
 ニヤニヤした表情から一転。パァっという表現が似合う笑顔で茜は言った。
「ほう?茜、知ってるのか?」
「うん!僕、前中庭で見たぞー!髪型は僕と同じショートヘアー、スタイルも抜群だった!」
 スタイルも抜群か…。そりゃすごい。
「しかもしかも、とってもモテるんだって!噂だと3人に同時告白されたとか!」
「え……、スッゲーー!」
 素直にすごいと思った。所詮ただの噂だから100%本当とは限らないが、それほどまでにモテているからそういう噂とかも出るんだろう。
「で、どーだったんだ?それ」
「佑、めっちゃ食い気味じゃーん!何何?気になるのか??」
「そりゃー、気になるだろ…。で、どーだったんだよ!」
 開き直って茜に尋ねると、茜はうーんと腕を組み言った。
「それが、分からないんだよなぁ。僕が知ってるのはここまでで、その時誰かの告白をOKしたのか、それとも全部断ったのか。そして、今はどうなのかとか全く知らないんだよなぁ」
「はぁ!?マジかよ…。今あれだ、好きな漫画読んでて、めっちゃ気になるとこで終わったというか、そんなむず痒さを感じてるわ」
 普通に気になっていた俺は、嘆きと共に、自分でも何言ってるか分からないことを発した。
「ま、まあ…。星本先輩戻ってきたら分かるだろ。そん時に聞きな!」
「おう」
 ここまで進んでようやく話が脱線していることに気づいた俺は、茜に尋ねる。
「な、なあ俺たちなんか違う話題で話してたよな?」
「あ、そーだな。なんだったっけ?」
 10秒ほど考えて思い出した俺は言う。
「あ、あれだ放課後ダンスの練習できないーってやつだ」
「そうそう!で、佑は卓球部のオフの日とかないのか?」
「一応水曜がオフだけど…」
「お!じゃあ僕たち姉妹が入ってるテニス部とオフの日被ってるじゃん!その時に練習しなよ!」
 茜と雫ってテニス部だったんだな…と思いつつ、俺は1つ引っかかってる点を茜に言った。
「いや、練習はいいんだけどさ、雫が付き合ってくれるかなんだよな」
 そう、最大の壁はそこなのだ。ダンスが上手い下手以前に雫とその練習ができないと話にならない。そこがとてつもなく不安なのだ。
「ま、まあ確かに。佑はまだお姉ちゃんと打ち解けられていないからなぁ…。でも逆に言えばさ、これを機に仲良くなれるんじゃないか!?」
「絶対練習の時気まずくなるよ…。ああ、踊るなら茜とが良かったわ」
「……え?」
 刹那、茜が顔を少し赤らめた。え?俺さっき何を言ったんだ?なんで、こんなにこいつは照れてるんだ?
「どーした?茜」 
「嘘でしょ!?さっきすごいこと言ったぞ佑!」
 さっき……?……あっ…。
「いや違う!そう言う意味じゃない!」
 胸の前で両手を広げ、必死に否定する。
「いやあの、雫と組むんだったら、茜と組んだ方が…みたいなこと!」
 体が熱くなって行くのを感じる。やばいやばい…、なんてこと言ってんだ俺…。
「で、できれば僕も…」
 右下を向きながら何やらボソボソ言っている茜。
「え…?茜…?」
 な、なんだ?何をそんなーー
「よーお!佑!お前は誰とペアやったんや??」 
 そんな声が真後ろから聞こえたと思った瞬間、肩に手を回された感覚。そして、この喋り方は…。
「た、棚橋…」
「ん?あ、すまん!今イチャイチャしてたんやな!邪魔してもーてすまん!」
 わざとらしく、棚橋は謝った。
「し、してねえよ!」
「し、ししししししてないし…!」
 目の前にはめちゃくちゃ目を泳がし、なんとか誤魔化そうとする茜の姿があった。人差し指を胸の前に当ててすごくモジモジしていた。
「……!」
 この時、俺は初めてふと、ほんの一瞬だけ…いいな、と思ってしまった。
「周り見てみ?」
 棚橋にそう言われ周りを見ると、何やらこのクラス中の視線が俺と棚橋、そして茜に向けられているように感じた。その事実を知り、余計に顔が赤くなる。
「は、恥ず…。いや、違うからな!イチャついてないからな!」
 周りにそう言うが、先程までのあの会話を聞いていたんなら説得力はないだろう。ただ、恥ずかしいだけだった…。
「あ、あうあうあぅ…」
「ありゃ、茜恥ずかしすぎてマナーモード入ってしもた」
「俺も心境そんな感じだよ……」
 なんだかハプニング満載の昼休みだったと思う。というか、俺は雫とこれから組まなきゃ行けないから、気持ちを切り替えていかないと…。
 と、心中で俺はそう考えるのだった。そして同時に茜を初めてかわいい、と思う瞬間が来た今日の昼休みだったとさ。
 ……恥ずかしかったー…。プチ黒歴史爆誕である。
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