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5. 再会

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 俺はその後、茜と自転車を駐輪場に止め、玄関の方にあるクラス替えの紙を見ていた。今どき、こういう感じの張り出しは珍しいと個人的に思った俺の下に、1つの奇跡は舞い降りた。
「え!おい茜」
「ん?どーした」
 気づいた俺はそのことを茜に伝えるべく、指を指す。
「ほら、クラス」
「え?」
 俺の指の先には「14.佐伯茜 15.佐野佑」と書かれたクラス替えの紙。………つまりだ。俺たちは…。
「俺ら同じクラスだ!」
「ほんとじゃん!やったね!」
 よっしゃーと小さくガッツポーズをする茜。俺もそれに釣られて茜にバレぬよう小さくガッツポーズをした。
 すると聞こえてくる1つの声があった。
「あれ?茜??」
 茜?と聞く誰か。あれ、なんだろう。耳が痛いぞ?そう思った俺と茜はそっちに首を動かした。
「あ、おねーちゃん!!」
 すると、そこには小柄な少女がいた。茜が「おねえちゃん」と呼ぶその少女には、俺は何か見覚えがあった……。
 この何かツンツンしてる感じ…。もしかして…。
「あれ、アンタは」
 と、その少女は俺に気づき、話しかけてきた。
 ……間違いない。こいつは、あの交差点で、歩行者専用ボタンを押すときに話しかけてきた女だ……!
 あ、姉だったのか……!
「ひ、久しぶり」
 こ、こいつやっぱり妹と違ってとっつきにくすぎる……!
 そう考えながらぎこちない笑顔を浮かべ、茜の姉らしい人に話しかける。すると、
「えっと……誰だったっけ」 
 顔ひとつも変えずにそう言ってきた。いや覚えてないんかいと心の中でツッコミを入れる。
「あれ?てか佑、お姉ちゃんと知り合い?お姉ちゃん佑のこと知らないらしいんだけど…?」
 そこの点について疑問に思ったであろう茜は俺にそう尋ねた。俺は軽く説明する。
「いやー、あの、お前と初めて会った自販機あったろ? あのちょっと前にショッピングモールとかが見える交差点があるんだが、そこで、な」
「でも覚えてないみたいだけど」
「んーまあ会話という会話してなかったし……」
 あの時のことを思い出しながら俺は苦笑した。
「ちょっと何コソコソ話してんのよ」
 コソコソと茜と話していると、それを察し、茜の姉が俺たちに話しかけてきた。
「別にー。……そうだ佑、一応紹介しとく。僕の双子の姉の雫(しずく)。今はこんな感じでツンツンしてるけど、家では──」
「ちょっと!茜、いらないことまで話さなくていいから!」
「……何だこれ」
 目の前で何を見せつけられてるのか分からなくなった俺はポツリとそうつぶやいた。
「えー、し、雫。取り敢えずよろしく…」
 いくらとっつきにくくても仲良くはした方がいいと思った俺は、彼女の名を呼び、手を差し伸べた。

 ………しかし。

 彼女は手を握らなかった。それどころか、曇った表情で俺にトドメを刺すように雫は言う。
「なれなれしくしないで。私、あんたと仲良くなる気ないから」
「え、えぇ…」
 戸惑う俺の横を素通りし、校舎へ入っていく雫。俺はゆっくりと差し伸べた右手を下げた…。
「ちょ、ちょっと!お姉ちゃん!」
 雫の後を追う茜。クラス替えの結果云々で同級生であろう人たちがざわざわしている中俺はクラス発表の紙の前で1人、取り残されてしまった。 
 …俺は、始まる新しい学校生活が楽しいものだと思っていた。でも、彼女のような自分を拒絶する存在がいては、居心地が悪く感じる。
「はぁ……」
 やや上がっていたテンションがさっきの出来事のせいで、一気に下がってしまった。俺は重い足取りで校舎へと向かう。
 するとそこに、
「ごめん!佑!お姉ちゃんいつもあんな感じなんだ…。気を落としたのならごめん、僕が代わりに謝る…」
 昇降口から走って戻ってきた茜が俺にそう言った。
「大丈夫だよ…」
 暗く、重くそう返した俺は、先ほどまで晴天だった中浜高校の上空に、灰色の屋根ができていくのに気づいた。
 そんな俺の様子を見て、茜は俺の目を見つめながら告げる。
「……お姉ちゃんが悪いことしたのは分かってるし、佑がそれで落ち込むのは分かる…。だけど…」
 一拍おいて茜は言った。

 ……どうか、お姉ちゃんを嫌いにならないであげて。

 と、1つの懇願のように。
「え……?」
「お姉ちゃんは、あんな性格をしてるのにはちょっとした理由があるの。そして今、お姉ちゃんは佑を拒絶した。でもね、佑からお姉ちゃんを拒絶しないでほしいの…。とっつきにくいのは分かる。抵抗があるのも分かる。けど、見切らないで欲しい…」
 途中から下を向いた茜はそう続けた。
「そうか…」
 俺はついさっきまで思っていた。あの女は無理だと。関われば関わるだけ無駄だと。…でも先程の茜の言葉を聞き、雫とは関わった方がいいのだと、自分で気づいた。 
 きっと、これは俺のただの推測になるが…、雫は過去に何か…あったのだろうか。…いや、今それを知る権利は俺にはないか。
「分かった。関わってみるよ。見切らない。俺、頑張ってみる」
 茜の言葉を理解した俺は優しくそう彼女に言った。
「ありがとう、佑」
「ああ」
 何だろう、少し気持ちが楽になった。自分を必要としてくれる茜に俺は心の中で感謝をした。先ほどまで太陽を覆っていた雲も、すっと晴れていった。
「さ!行こ!佑!」
「えーテンションバグってるやん…」
 急にいつものテンションに戻った茜。…きっと、俺が引きずらないようにしてくれてるんだな。…ありがとう。
「ほら!」
「うぉい!腕を絡ませるな!」
 彼女の優しさを心で感じていると急に腕に絡んできた茜。違った。こいつ、ただノー天気だっただけだった…。俺に気をつかってくれたと考えた時間を返して欲しい。
「さ、行くぞー!」
「いいから離れろよ!」
 茜の腕を振り解こうとしたが、力が強く全然振り解けない。どんだけの馬鹿力なんだよこいつ……。
「うるさいなぁ、だからお姉ちゃんに嫌がられるんだぞー?」
「うっ」
「冗談だって冗談!行くぞ!僕たちの新しいクラスに!!」
 にぱっと、笑顔な茜に引っ張られ俺はこの昇降口を後にするのだった。1つ言っておこう。周りの視線がすっごく痛かった……。
 ……でも、とクラスに向かう途中の俺は思った。今日はすごく気持ちを落とされる出来事があった。でも恐らく目的はそうではないと思うが、茜のフォローがあり、俺の気持ちは再び戻った。
 そうだ、茜のお陰で。
 こうして俺の最悪な転校初日は最高とまでは行かないが、少しマシになったのでした。
 これからどうなるのやら……。茜に腕を引っ張られながら俺はそんなことを考えるのだった。
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