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1. 町との別れ

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 俺の名は佐野佑。先程父親から驚きのカミングアウトをされた高校2年生。
「まさか引っ越しとはなぁ。いつもジョギングしてるこの景色ともサヨナラか」
 そう、佐野家は明日引っ越しするのだ。今頃家では最後の片付けや荷物整理をしているだろう。俺もこのジョギングが終わったら手伝う予定だ。
 なので、いつも何となく走っていた、そして見ていたこの景色が明日から見れなくなる。そう考えるとなんとなく、寂しいなという気持ちが押し上げてきた。
「ふぅ~~」
 帰りの道で。信号が赤になったので体を軽く休める。吐く息が、白く青空へ舞っていく。もう3月だが、この地区は寒いので俺はまあまあな厚着をしている。まぁ、ジョギングの途中でいつも半袖になって、ジョギングの邪魔になるのがテンプレなんだけどな…。
「…お、変わった」
 信号が青になったのを確認した俺は止まっていた足を再び動かし始めた。しっかりと景色を目に焼き付ける。そして、いつもとは違うコースに俺は足を踏み入れた。
「最後だし……行くか」
 そう小さくつぶやいた俺は、目の前にある石段を駆け足で登るのだった。



「はぁ……はぁ…」
 息を切らしながら俺はたどり着いた。俺の育った町、八十口(やそぐち)町が一望できる山の山頂に。
この町は小さい。なのでそこそこ標高のある、この山に登れば全部が見える。
 そこには、相変わらずの美しい景色があった。
「やっぱり綺麗だ…」
 優しく吹くそよ風の中、ぽつりひとりでそう呟く。そして、俺は心の中で一言。
 
     さようなら、俺の育った町………

 そして、その景色に微笑みをこぼし俺は、八十口町での思い出を振り返りながら、山頂を後にするのだった。



 夜。俺は車に乗っていた。後部座席では母さんがうとうとしている。
「てか、肝心のどこに引っ越すか聞いてないんですが…」
 助手席に座った俺は隣で運転している父さんに尋ねた。どこに引っ越すのかを引越し当日の車の中になってまで言わないって…。どこまで抜けてんだうちの親は…。と、そう思いながら。
 するとそんな"抜けている"と俺に心の中で皮肉られてるとは知るはずもない父さんは答えた。
「あー、長山町だよ。ほら、小学生くらいの時に家族旅行って形でそこの水族館行ったろ?ここからじゃ、車で約3時間ほどだと思うな」
「覚えてねぇ…。でも長山町は覚えてるぞ。結構遠くに引っ越すんだな」
「そーだな。長山町はそこそこ都会だから、俺たちにはちょっと馴染みがないのかもしれんな」
 そーなんだ、と思いながら高速道路に乗ろうとする父さんに俺は、俺自身が1番聞いておきたかったことを聞く。
「俺の通ってた赤丸学園から、転校先ってどこなんだ??」
 少しズレたメガネをかけ直し、父さんは言った。
「中浜高校だ」
 うん……ワカラナイ………。どこやねんそれ…。高速道路の変わり映えのしない景色の中、俺はそう心の中で愚痴るのだった。
 そして3時間後…。
「佑、着いたぞ」
「ん?おおまじか…」
 すっかり寝てしまっていた俺はまぶたをこすり、車を出た。やはり少し肌寒いな、と感じた俺の目の前には……。
「…おお、これが俺らが住む家か」
 立派な一軒家がそびえたっていた。暗くて少し見ずらいが、おそらく壁はベージュ。見たところ、ベランダもある。そして屋根は…、黒、か?
 今までアパートに住んでいたからか、恐らく普通であろう一軒家が少し豪華に見える。
 軽く伸びをした父さんは言った。
「さ、じゃあまずは荷物を下ろすか…。ほら、佑も手伝ってくれよ?」
「わーったよ…」
 まだ眠いが、俺は父さんと一緒に荷物を出すのだった。ちなみに母さんは先に家に入ってた。いや、手伝ってくれよ……。
「…まあいいか…。というかそれより…」
 そう軽くつぶやいて、澄んだ夜空を見上げながら俺は言った。

  ここから、俺の新しい生活が始まるんだな!

…と。
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