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完結編 月の獅子の目は彼の者に
十五話 見つめ直し、斜め下に迷走
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時間は昼をとっくに過ぎて、やや夕日に差し掛かるかもしれない時間、まだエウァルドさんたちは帰ってきてない。
遠くからの騒がしさもそのまま。
「はーいこっち向いてー! 」
「むん」
「くるっと回ってー! 」
「むんむん! 」
「はい、日光を背にポーズ決めて! 」
「むふん! 」
「腕の中に優しくバラを抱くイメージで! 」
「んん? む、む! 」
こうぽわんぽわんぽわんと想像力を働かせて……働かせてぇ……!!
「そのバラを思い切りぶちまけてそう! 全体に広げるように! 」
「え、ん? む、むん! 」
「さいっこうですニッキー様!! 人を導く才能あります! 」
「いやそれはないでしょ」
想像力が……尽きた。
「いいえこの神々しさは一級品です! メルディアが保証します! 」
「それ導いちゃだめなタイプの一級品! ノーノー! 」
「いえいえいえ!! このお姿を絵に収めたい! くー、私に絵の才能はないのが悔しい! 」
「えー……、そろそろ良いです? 」
「いえ! もう三パターンほど! 」
「えぇー」
何をしているかって?
なにしてるんだろうね、記念?
メルディアさんに負い目を感じているのは確かにそう、メソメソしてたのもそう、そして着飾られて宝石もキラキラして。
はて、見せる相手いませんねーなんて会話をしたような、頭使ってない会話だから既に覚えちゃない。
ただ“ 私! 私います! “ てメルデ ィアさんが言ってから、今だねえ。
「いやにしても……」
「どうされました? 」
「いや、すんごいなーと、アクセサリー」
「当たり前です! 全部つけましたからね! 」
「あぁー……重たーい」
髪の結び目に緑色の宝石のついたリボンが巻かれて、前や横には日の光で色が変わる花びらの重なりあった髪飾りを五個もつけて。
更に更に王冠のような、ティアラのような飾り物も頭にのって、結構重たい。
首に花を彩った緑の宝石のネックレス。
耳に花弁のイヤリング。
服も真っ白なひらひらとしたものに変えて、さあここまできて靴も変えましょうとなんか高そうなのに履き替えて。
もうこれ踊るしかないなーなんて思ってたらメルディアさんが壊れちゃった。
自分的には満更でもないかも。
綺麗なものを身に着けて嫌な気分をするほど捻くれてないニッキーとしては……偉い人の気分になってたのしいねこれ、重いけど。
頭重いしバランス崩して転んだらどうしようねこれ、座ろうか。
おや? 我が愛する椅子になんかいる。
「よう、邪魔するぜ」
「おや」
「え!? あ! 宝物庫の人! 」
全身甲冑着込んで暑くないかと思い始めたあの人がカシャンと音を立てて椅子に座って足を組んでいる、なにしとんねん。
「おう久しぶりだなメイド、」
「なぜこちらに!? ダン様から何か言われたり?! 」
「そんな感じだ、茶を頼む」
「は、はいただいま……! 」
テーブルに肘をつきながら言葉を投げてメルディアさんが慌てて部屋から出ていく、あっという間のこと。
ほんとうに、あっという間だった。
「……ほう」
……見られてる。
「……」
扉に消えたメルディアさんの姿を目で追って、戻したら鎧の人の顔が向いてる、はず。
僕はどうすればいいねん、と思ってはいるが動けない。
だってこの人? とはあったことあるようなないような感じだし、初対面の人と会話する技能持ってないし、なにより服重いし疲れたし。
「座ったらどうだ、ニッキークロトゥラン」
「えー……どちらに? 」
「そこにあるだろ、見えないのか」
「いや見えますけども」
この人が指一つ動かすごとに甲冑が擦れる音がすんごい。
そんな人が指さしたのは今その人が座っている椅子のテーブルを挟んだ先、すぐ近くの椅子。
気まずい、実に気まずい。
「なにもとって食おうなんて思っちゃいない」
「じゃあなんで姿を見せたんです? わざわざメルディアさんを遠ざけて……なにをしたいので? 」
「ほうほう、いっぱしに警戒心を持つようになったじゃあないか、いいことだ、ククッ」
「質問に答えていただいても? 」
おや、自分たらビリビリしてる、なんでだろ。
「なに単に、クロトゥランがここの宝飾品で着飾るってのを耳にいれてな、記憶に収めにきた」
「はぁ……」
楽しそうに喉を鳴らす甲冑の人を理解するにはいささか……僕は疲れてる。
「よくわかりませんが隣失礼します」
「楽にしろ」
このままピリピリしてこの人と見つめ合って重たい服のまま立ってるか、素直に座るかと並べた天秤は、まあ物理的にきついから座る方を選ぶ。
とはいえ、気まずいことには変わらない。
「……ふむ」
そして甲冑の人の視線が大分強い。
「何してるんです……? 」
「言っただろう、着飾ったクロトゥランをこの目で見て、記憶に収めに来た」
「それは、またどうして」
「決まってるだろう、今君がつけている宝飾品のほとんどは俺が用意したものなんだぜ? 」
「……え“ 」
マジで?
ドレッサーを見つめる視線を思わず横の人に向ける。
多分、視線が合う。
「改めて名乗ろう、アスラン王国初代ディウエクチア家当主、グレイブだ」
「……おん」
静かな部屋に、グレイブさんの甲冑の音が響く。
どう、反応すればいいんだい、これ。
遠くからの騒がしさもそのまま。
「はーいこっち向いてー! 」
「むん」
「くるっと回ってー! 」
「むんむん! 」
「はい、日光を背にポーズ決めて! 」
「むふん! 」
「腕の中に優しくバラを抱くイメージで! 」
「んん? む、む! 」
こうぽわんぽわんぽわんと想像力を働かせて……働かせてぇ……!!
「そのバラを思い切りぶちまけてそう! 全体に広げるように! 」
「え、ん? む、むん! 」
「さいっこうですニッキー様!! 人を導く才能あります! 」
「いやそれはないでしょ」
想像力が……尽きた。
「いいえこの神々しさは一級品です! メルディアが保証します! 」
「それ導いちゃだめなタイプの一級品! ノーノー! 」
「いえいえいえ!! このお姿を絵に収めたい! くー、私に絵の才能はないのが悔しい! 」
「えー……、そろそろ良いです? 」
「いえ! もう三パターンほど! 」
「えぇー」
何をしているかって?
なにしてるんだろうね、記念?
メルディアさんに負い目を感じているのは確かにそう、メソメソしてたのもそう、そして着飾られて宝石もキラキラして。
はて、見せる相手いませんねーなんて会話をしたような、頭使ってない会話だから既に覚えちゃない。
ただ“ 私! 私います! “ てメルデ ィアさんが言ってから、今だねえ。
「いやにしても……」
「どうされました? 」
「いや、すんごいなーと、アクセサリー」
「当たり前です! 全部つけましたからね! 」
「あぁー……重たーい」
髪の結び目に緑色の宝石のついたリボンが巻かれて、前や横には日の光で色が変わる花びらの重なりあった髪飾りを五個もつけて。
更に更に王冠のような、ティアラのような飾り物も頭にのって、結構重たい。
首に花を彩った緑の宝石のネックレス。
耳に花弁のイヤリング。
服も真っ白なひらひらとしたものに変えて、さあここまできて靴も変えましょうとなんか高そうなのに履き替えて。
もうこれ踊るしかないなーなんて思ってたらメルディアさんが壊れちゃった。
自分的には満更でもないかも。
綺麗なものを身に着けて嫌な気分をするほど捻くれてないニッキーとしては……偉い人の気分になってたのしいねこれ、重いけど。
頭重いしバランス崩して転んだらどうしようねこれ、座ろうか。
おや? 我が愛する椅子になんかいる。
「よう、邪魔するぜ」
「おや」
「え!? あ! 宝物庫の人! 」
全身甲冑着込んで暑くないかと思い始めたあの人がカシャンと音を立てて椅子に座って足を組んでいる、なにしとんねん。
「おう久しぶりだなメイド、」
「なぜこちらに!? ダン様から何か言われたり?! 」
「そんな感じだ、茶を頼む」
「は、はいただいま……! 」
テーブルに肘をつきながら言葉を投げてメルディアさんが慌てて部屋から出ていく、あっという間のこと。
ほんとうに、あっという間だった。
「……ほう」
……見られてる。
「……」
扉に消えたメルディアさんの姿を目で追って、戻したら鎧の人の顔が向いてる、はず。
僕はどうすればいいねん、と思ってはいるが動けない。
だってこの人? とはあったことあるようなないような感じだし、初対面の人と会話する技能持ってないし、なにより服重いし疲れたし。
「座ったらどうだ、ニッキークロトゥラン」
「えー……どちらに? 」
「そこにあるだろ、見えないのか」
「いや見えますけども」
この人が指一つ動かすごとに甲冑が擦れる音がすんごい。
そんな人が指さしたのは今その人が座っている椅子のテーブルを挟んだ先、すぐ近くの椅子。
気まずい、実に気まずい。
「なにもとって食おうなんて思っちゃいない」
「じゃあなんで姿を見せたんです? わざわざメルディアさんを遠ざけて……なにをしたいので? 」
「ほうほう、いっぱしに警戒心を持つようになったじゃあないか、いいことだ、ククッ」
「質問に答えていただいても? 」
おや、自分たらビリビリしてる、なんでだろ。
「なに単に、クロトゥランがここの宝飾品で着飾るってのを耳にいれてな、記憶に収めにきた」
「はぁ……」
楽しそうに喉を鳴らす甲冑の人を理解するにはいささか……僕は疲れてる。
「よくわかりませんが隣失礼します」
「楽にしろ」
このままピリピリしてこの人と見つめ合って重たい服のまま立ってるか、素直に座るかと並べた天秤は、まあ物理的にきついから座る方を選ぶ。
とはいえ、気まずいことには変わらない。
「……ふむ」
そして甲冑の人の視線が大分強い。
「何してるんです……? 」
「言っただろう、着飾ったクロトゥランをこの目で見て、記憶に収めに来た」
「それは、またどうして」
「決まってるだろう、今君がつけている宝飾品のほとんどは俺が用意したものなんだぜ? 」
「……え“ 」
マジで?
ドレッサーを見つめる視線を思わず横の人に向ける。
多分、視線が合う。
「改めて名乗ろう、アスラン王国初代ディウエクチア家当主、グレイブだ」
「……おん」
静かな部屋に、グレイブさんの甲冑の音が響く。
どう、反応すればいいんだい、これ。
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